幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

24話目 森の支配者(笑)

「ただのトカゲですな」


 魔法でドラ助とシャルの動向を確認していた俺は、ドラ助が一通り顔合わせを終えたのを見届けるとそう呟いた。


 なんというかね、もうね、ドラ助の意図が見え見えなの。俺がいないのをいいことに、シャルに自分のことをかっこよく見せようって必死になってやがんの。


 普段だったら絶対やらないのに、わざわざ地面に降りて祝福なんてしてるし、そのくせ肝心のシャルからは祝福じゃなくて子供を食べようとしてると思われてやがるあたりにドラ助のポンコツっぷりが窺える。


 あとはまあ、やっぱり懸念してた通り、キラーエイプがシャルのことを殺したがってたことかなあ。しかし何であいつらあそこまで馬鹿なんだ? 普通に考えればシャルを殺せば俺が殺しに行くことくらいわかりそうなものなのに。


 あそこまで頭が悪いと俺が手を下すまでもなくとっくに絶滅しているはずだと思うのだが、何で生き延びてんだろ?


 ただ、まさか本当にキラーエイプが騒ぐとは思ってなかったのか、ドラ助が滅茶苦茶慌ててやがったのだけは笑えた。


『マジでやめろって! お前らがそんなことしたらわれがマジで危ないんだって! ふざけんな馬鹿!』


 あの絶叫は絶対こんな意味だな。あそこまで必死に吠えて、しかもそれでシャルにいじめてると思われてるのもヤツの人徳のなせる技と言えようか。


『ふふん、われに任せておけば全て上手くいくから安心しろ』


 とか最初に大口叩いてたくせにこの始末である。大体はまあ上手くいったけど、なんというか本当に残念な奴だな。


 そのようにシャルとドラ助の珍道中を評価し終えた頃、上空からわっさわっさと羽ばたいている音が聞こえてくる。


「ししょー! ただいまー!」
「グアァァ」
「おう、おかえり」




 ドラ助が庭へと降り立ち、その背に乗ったままのシャルが俺に帰還を告げる。


 それに続いて何故か誇らしげな様子でドラ助も吠えているが、お前色々と駄目駄目だったからな? なんで君が『ふう、一仕事終えたぜ』みたいな雰囲気を醸し出しているのか俺には理解不能なんですけど。


 ただまあ、一応最低限の仕事はこなしたからステーキの材料にするのは勘弁してやろう。ただし美味い飯を食わせる程の仕事ぶりではなかったのでドッグフードを模したドラゴンフードぐらいしかやらんがな。






 そんなわけで夕飯タイムである。普段であれば用が終わったらすぐ帰るドラ助を留まらせ、共に夕食を食べることにする。俺が食卓の準備をしている間、ドラ助は俺とシャルの分を食べたそうにしていたが無視した。ふん、貴様の食い物なぞ、そのドラゴンフードで十分よ!


「頂きます」
「いただきまーす!」


 本日の夕飯は分厚い牛肉を使ったステーキとチキンソテー、その他諸々の付け合わせと新鮮な野菜を用いたサラダでございます。ドラゴンステーキのかわりだからね、ガッツリといかないと。


 それと、誰かに見せつける意図があるわけではないが庭で食事をとることにする。こういうガッツリした料理は解放感もまたスパイスになるし、断じて他意など無い。


 ただ、俺とシャルが食事を始めたというのに食前の挨拶もせず、自分の分に手を出そうともしない奴が一匹いた。『どらすけ』と書かれた餌入れに山盛りのドラゴンフードを用意してやったというのに、何故かドラ助は不満げにこちらを見つめている。


 じーっとこちらを見てくるので俺が段々とイライラしてきた頃、シャルが自分の分の料理を持って席を立ち、ドラ助の方へと向かっていった。それに対してドラ助は即座に反応を示して目を輝かせ、心なしか尻尾も振っている。わかりやすいやつだなー。


 シャルはドラ助の口の前にステーキの乗った皿を持っていき、食べるようにドラ助に促している。そしてドラ助はシャルに確認を取ることもせず、舌を使って器用にステーキをその口へと運び、その味を大いに楽しんでいるようである。自分の分を渡したというのにシャルは悲しむ様子も見せず、喜んでいるドラ助の頭を撫でているのであった。


 俺からの扱いに大いに不満があるからか、そのナデナデに応じるようにドラ助からもシャルの方へとその頭を寄せて撫でやすい位置に持っていく。その時のやつの表情は何故か勝ち誇ったもので、俺のことを見下す感じであった。殺すぞ。


 そうして撫で終わったシャルがドラ助から離れたので自分の席に戻るのかと思いきや、ドラ助から少し離れた所で立ち止まるとドラ助へと向き直った。








「お腹いっぱい食べていいから、もう子供を食べちゃ駄目だし、いじめもしちゃ駄目だよ?」
「グアアアア?!」




 出来の悪い弟を心底心配しているような声音でシャルはドラ助にそう言った。その発言を聞いたドラ助は目を見開いてシャルの方を二度見し、俺はそのやりとりを見て酸欠で死にかける程に腹を抱えて笑ってしまった。


 シャル、恐ろしい子!


 笑い転げ、大いに咽て、ドラ助を思いっきり馬鹿にしてやると顔を真っ赤にしたドラ助は『グラアアア!』と鳴いて飛び立ってしまった。完全に負け犬の遠吠えだな。『憶えてろよ!』といったところか。奴の体は全体的に白色なので赤くなった顔がよく映えて、間抜けっぷりがより一層際立っていた。


 見事に三下を演じきったドラ助に惜しみない嘲笑を送り、奴の姿が見えなくなったことでようやく笑いが収まった。あー、面白かった。


 俺はむくりと起き上がり、食事を再開するためシャルのお代わりを作ろうとしたが、なんとシャルはそれを断ってしまった。


「師匠、ドラ助に勝手にあげちゃったから私の分はもういいの。今日はお野菜だけで大丈夫だよ」
「む、そうか」


 我が家の食事の虜となっているシャルとは思えない言葉である。こんな小さな子からも駄目な子と認定されて食事を与えられ、与えた本人はそれで我慢しているとか、ドラ助の情けなさっぷりが更に際立つな。


 一応シャルの情操教育に一役買っていると言えないこともないので、これからも思う存分その小物っぷりを発揮してほしいところである。いかん、思い出したらまた笑いが……。


 とはいえシャルがお肉を食べないのなら、俺も肉を食べるわけにはいくまい。野菜しか食べていない人の目の前で、分厚いステーキを食べる程俺は無神経ではないのだ。ん? ドラ助? あれはペットだからいいの。


 そんなわけで俺は自分のステーキを亜空間へとしまい込み、二人でサラダをもしゃもしゃと口へ運ぶ。食べている途中に何度か先程のドラ助の姿が思い出され、口の中の物をシャルにぶちまけないようにするのが中々大変でした。






 シャルと一緒に食事の後片付けを終え、シャルと他愛のない会話を楽しんでから寝室へと向かう。なんだか師弟というよりも新婚さんというような……。


 ベッドの上でゴロゴロとしながら眠気が来るのを待っていると、『こんこん』と控えめに扉がノックされた。


「開いてるよー」


 当然そのノックをしたのはシャルであり、あの日と違ってその目的も最初からわかっている。そのため特に動揺することもなく俺はシャルを部屋の中へと招き入れた。


「お邪魔します……」


 シャルはパジャマに着替えており、そのままてくてくと俺の方へと歩いてくるといそいそと俺のベッドに潜り込んだ。


 うん、なんというかね、あの日以来たまにこうしてシャルが一緒に寝ようとしてくるんだ。


 特に師弟関係を宣言した翌日などは凄かった。夜にまたしても彼女が俺の部屋を訪れ、『一緒に寝て?』と目をうるうるさせながらせがんできたのだ。可愛らしい女の子が、そんな風にお願いしてくるんだぞ? 断れるか? 俺は断れなかった。




「今日は師匠のお話をきかせて」
「わかった。どんな話が聞きたい?」
「えっとねー」




 こうして一緒に寝る時にはお互いが自分の話をするようになっていた。前回は彼女が里で生活していた時のことを話してくれたので、今回は俺の番というわけだ。


 目の前には顔をきらきらと輝かせて寝物語をせがみ、わくわくという言葉を体現しているシャルがいる。もうね、滅茶苦茶愛らしい。庇護欲がそそられまくりですわ。


「それじゃあ次は、その昔この森に攻め込んできた愚か者たちの話をするとしようか」

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