幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

22話目 仕事してこい

 その後俺がドラ助に対して真摯に説得を行った結果、数分してからようやくドラ助は地上へと降りてきた。決してイラついた俺が『早く降りて来ねえと魔法をぶっぱなすぞ!』と怒鳴ったからではない。


 そんなわけで今俺の目の前にはシャルとドラ助がいる。シャルは特にこれと言った表情を浮かべていないのに対して、ドラ助はこれから死刑宣告を受ける囚人かのような絶望を体現した表情をしている。


 いやまあ、キラーエイプが異常に大きい群れを作ってたり、そいつらが俺に襲い掛かって来たり、ドラ助自身が我が家のペット枠として十分な癒しをシャルに与えていなかったことを怒っているわけではないよ? ただ俺の中でドラ助の株が紙くずと同じ価値になっているというだけの話だ。


 そんな風に怯えきっているドラ助を落ち着かせるために、俺は改めて猫なで声でドラ助へと語り掛ける。


「そんな怖がるなって。今日は無茶なことを頼むわけじゃないんだからさあ」
「グアア」


 ドラ助は『本当か?』とでも言いたげな声をあげる。その表情も疑念に満ちた物であり、俺の言葉を一切信用していないことがわかる。ほう、ドラ助のくせに生意気じゃないか。


 ドラ助の反抗的な態度に俺の堪忍袋の緒がはちきれそうになるが、話が進まないのでこめかみに青筋を浮かべつつも我慢してやり、シャルの方へと向き直ると本日二人にやってもらうことを告げた。


「今日はドラ助と一緒に他の魔物との顔合わせに行ってくれ」
「顔合わせ?」


 ドラ助の背に乗って森の様々な場所へと向かい、そこにいる主な化け物にシャルの顔を覚えさせたいのだ。


 何故そのようなことをする必要があるのかと言えば、非常に簡単に言えば化け物どもは馬鹿だからだ。確かに俺の姿やにおいを感じ取った場合大抵は即座にその場を離れて逃げ出すのだが、多少俺のにおいがついている程度ではそうもいかないかもしれない。


 特に最近の馬鹿代表たるキラーエイプなどは、俺のにおいがついているからこそ逆に嬉々としてシャルに襲い掛かる危険さえあるように思えてきたため考えを改めたのだ。


 そこでシャルをドラ助の背に乗せ、そういった輩のもとFへ直々に行ってもらい言い聞かせようというわけである。


 俺にとっては単なるトカゲにすぎないドラ助だが、化け物どもにとってはこの森の支配者のドラゴンである。そんな奴から『こいつを決して襲うな』と念押しされればいくら馬鹿でもなんとか言い聞かせられるのではないかな、と。うん、そうだといいなあ。でも、あいつら本当に頭悪いからなあ。


「まあとにかくそんなわけでドラ助、シャルをよろしく頼むぞ」
「え?! 師匠は来ないの?」


 俺が一緒に来ないのだとわかりシャルが驚きの声をあげる。本当だったらドラ助なんかに任せっきりにするのは心配だからやりたくないんだけどねー、仕方ないのよー。


「俺が一緒に行くと魔物たちが一目散に逃げちまうんだよ」
「グアア」


 ドラ助が『そうだそうだ』とばかりに頷き、こんな時だけ同意してくる。もしもこいつが人間体だったら腕を組んで深くうなずいていることだろう。殺すぞ。


 お前、俺のこと怖がってる割には俺のこと煽ってくるよね? 天敵を煽っていくスタイルなの? 俺のこめかみの青筋はさっきよりもくっきりはっきりになっちゃってるんですけど。


「シャルも訓練したし、装備の使い方も大体わかってきただろうからな。仮にドラ助がヘマしてピンチになっても、生き延びてここまで戻ってこれると思ったからな」


 もしもそうなったらシャルが無事帰って来たお祝いに夕飯はドラゴンステーキにしよう。ドラゴンステーキとか滋養たっぷりで疲れたシャルを癒すには丁度いいだろうし、味は魔法でなんとか誤魔化そう。そんな事態を招いたおバカも食材になれて贖罪を済ませることが出来る。


「で、でも顔合わせって何をしたらいいのか……」
「あー、全部ドラ助に任せていいよ。飛んだままのこいつと地面にいる魔物がギャースカ騒いでるのをこいつの背中で眺めてりゃいいから」
「う、うん……」


 顔合わせなんてそんなもんだから大丈夫だって。それにこいつの背中に乗ってれば遠距離攻撃くらいしか飛んでこないだろうし、それにしたってドラ助が勝手に避けるだろう。


 いや、うん、ほんと、こいつが何かまかり間違って地上に墜落したりとかしなけりゃ危険なんてマジで無いはずなんだよ。もしそんなことになったら本当にただのでかいトカゲだぞ、お前。


 そんな感じでシャルへの説明も終わり、二人が出発するのを見送る。いつかのようにドラ助はシャルを乗せてふわりと浮かび、その姿をどんどんと小さくしていく。


「夕飯前には帰ってくるんだぞー!」
「わかったー!」
「グアアアア!」


 俺の言葉に二人が元気よく返事する。いや、ドラ助よ、お前の分の夕食なんて無いからな? ハッ! もしや自分が夕飯の食材になるかもしれないことを理解した上での返事なのかもしれない!


 俺が心の中でドラ助に夕飯を作ってやるべきか、それともドラ助で夕飯を作ってやるべきか迷っている内にもその姿は更に小さくなっていき、やがてその姿は見えなくなるのであった。

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