幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
16話目 味見
魔法生物から特に連絡がくることもないまま一時間ほどが経過した。昼時にはまだ時間があるため、まだシャルが帰ってこなくても不思議ではないのだが心配である。
気を紛らわすために訓練を行っていたがどうにも集中することが出来ない。いつもなら昼食すら忘れて訓練に没頭するというのに、いつまで経っても頭の隅でシャルのことがちらついている。
変な物に触って怪我をしていないだろうか……。化け物に襲われてはいないだろうか……。即興で作ったあの魔法生物はちゃんと働いているだろうか……。道に迷っていやしないだろうか……。
自分一人の問題ならばシャルに森の探索などやらせずに魔法生物を用いるのが手っ取り早い。危険を減らすために周囲の化け物をあらかじめ排除しておくのもいいだろう。だが今回は『極力シャル一人で事を成し遂げる』のが重要なのだ。
シャルは自分自身のことを『リョウ様の邪魔者』だと思い込んでいる。現状では彼女が何か仕事をするにも一々俺の手を借りなくてはならず、加えて新しく教えてもらうばかりで恩を返すどころか恩が増える一方だと感じてしまってそのように考えているのではないだろうか。
それならば今回の探索はなるべく俺に頼らずに行い、この作業は彼女一人で出来る仕事にしなければ意味がない。今後俺に頼らずに済むように専属の護衛を作ったのもそのためだ。
しかし、なんというか、過剰な戦闘力を持たせているのはわかっているんだ。この間キラーエイプの群れを間引いた時にも俺は純粋な剣術しか用いていない。その剣術をあの魔法生物が扱えるということは、あのような群れが襲ってきても彼女に一切の危機は訪れないということを意味している。
頭ではわかっているんだ。しかし、もし万が一のことを考えると……。はあ、まだたった数日しか面倒を見ていないというのに随分と情が移ってしまったようだ。過保護にもほどがあるというものだろう。
仕方ない、訓練は一旦中止して別のことをして暇をつぶそう。それじゃあ昼食の仕込みでも……、ってそれはシャルの仕事だから取っちゃいかんだろ。あれ? 訓練も料理もしないとなると一体どうやって暇を潰せば……、そういえばここ最近はシャルを話し相手にして暇を潰すことも多かったような……。
思えば彼女に何かを教えるというのは中々に良い暇つぶしになっていたし、共に食事をすることでいつもよりも飯が美味かったように思える。ん? そういう意味では彼女がここにいるというだけで既に十分に役に立っているのではないか……?
だからといってそれを彼女に伝えても『君がいるだけで僕は十分幸せなんだ』なんていうプロポーズをしているようにしか聞こえない。八歳児にそんなことを言う1022歳とかどんな変態だよ。
現在の自分の状況に疑問を感じてから更にしばらく経ってシャルが森から戻ってきた。多くの食べ物らしきものを持って帰ってきているので、探索は十分な結果であったと窺える。
「師匠、ただ今戻りました」
「おう、シャル、お帰り」
分かってはいたが彼女に怪我らしいものは無く、戦闘を行った形跡もない。いや、うん、分かってはいたんだよ? それでもやはり安堵せずにはいられず、それを彼女に悟らせないようポーカーフェイスするので精いっぱいである。
そして帰って来たシャルから収集した物を受け取って毒があるものが無いか確かめる。予想はしていたが毒があるものは一つもなく、どれも食べても問題が無い物ばかりだった。
エルフという種族は長年他の種族から隠れて森に住んでいるせいか、森の中でどう動けばよいのか、何が食べられるのかといったことが感覚的にわかるようなのだ。その事を他の種族は『森に親しんでいる』とか『森に愛されている』とか呼んでいる。
まあ彼らが森に愛されているかどうかなど、森の中でも普通にエルフが化け物に襲われている時点でお察しなのだが……。
閑話休題。
念のために確認はしたのでその結果をシャルに伝えると、彼女はやや安堵したように見えた。まあ彼女にしても毒があるか無いかは『なんとなく』でしかわからないので当然だろう。人に食わせようと思って取ってきたものは毒物ばかりでした、とか『どんな嫌がらせだよ』と思われかねない。
「それでは頑張りますね!」
休憩を取ろうともせずに、彼女は帰ってくるとすぐに台所へ向かおうとした。
「あ、シャル、これ使え」
そんな彼女を呼び止めて、作らねば作らねばと思いながらいつも作り忘れていたシャル用のエプロンを彼女に渡す。毎度彼女が丈の合わないエプロンを身に着けるのを見てから思い出すので『今作って渡すのもなあ』となってしまい今まで渡せなかったのだ。
「ありがとうございます」
たかがエプロンを受け取るだけなのにシャルは真剣な表情で俺に礼をする。いや、それ単なるエプロンだからね? 丈が彼女に合うように魔法で仕掛けをしといたけどそれだけだからね? それ以外は単なるエプロンなのよ?
さて、台所に到着した彼女はそれらの食材を使って調理する前に味見をすることにしたようだ。彼女が採ってきたのは茸や果実、それに山菜等なのでやろうと思えば生で食えないこともない。
そのため彼女もそれらを口に運んだのだが……。
「…………」
うんともすんとも言わない、圧倒的無言である。茸、果実、山菜、この森に存在する物は例外はあるがどれもこれも栄養価が高い。余談だが化け物たちすらその例外ではないので互いに食い合う彼らはいつでも元気なのだ。
ただそれと同時に恐ろしく不味い。極端に酸っぱかったり苦かったりえぐみが酷かったり食感が最悪だったりととても食えたものではない。
逆に程よい甘さだったり旨味があるようなのは栄養価が低い上に毒性があるものばかりだ。毒があっても食べてもらえるように美味くなったのか、栄養価が無くても食べてもらえるように美味くなったのか、それとも食べてもらわないために毒を獲得したのか、因果関係はわからないがとにかくそんな感じだ。
ともかく今回彼女が採ってきたのは毒が無い物ばかりだったのでその分味の方はお察しなのである。シャルは味見をしている間、しかめっ面をしたまま終始無言であった。
気を紛らわすために訓練を行っていたがどうにも集中することが出来ない。いつもなら昼食すら忘れて訓練に没頭するというのに、いつまで経っても頭の隅でシャルのことがちらついている。
変な物に触って怪我をしていないだろうか……。化け物に襲われてはいないだろうか……。即興で作ったあの魔法生物はちゃんと働いているだろうか……。道に迷っていやしないだろうか……。
自分一人の問題ならばシャルに森の探索などやらせずに魔法生物を用いるのが手っ取り早い。危険を減らすために周囲の化け物をあらかじめ排除しておくのもいいだろう。だが今回は『極力シャル一人で事を成し遂げる』のが重要なのだ。
シャルは自分自身のことを『リョウ様の邪魔者』だと思い込んでいる。現状では彼女が何か仕事をするにも一々俺の手を借りなくてはならず、加えて新しく教えてもらうばかりで恩を返すどころか恩が増える一方だと感じてしまってそのように考えているのではないだろうか。
それならば今回の探索はなるべく俺に頼らずに行い、この作業は彼女一人で出来る仕事にしなければ意味がない。今後俺に頼らずに済むように専属の護衛を作ったのもそのためだ。
しかし、なんというか、過剰な戦闘力を持たせているのはわかっているんだ。この間キラーエイプの群れを間引いた時にも俺は純粋な剣術しか用いていない。その剣術をあの魔法生物が扱えるということは、あのような群れが襲ってきても彼女に一切の危機は訪れないということを意味している。
頭ではわかっているんだ。しかし、もし万が一のことを考えると……。はあ、まだたった数日しか面倒を見ていないというのに随分と情が移ってしまったようだ。過保護にもほどがあるというものだろう。
仕方ない、訓練は一旦中止して別のことをして暇をつぶそう。それじゃあ昼食の仕込みでも……、ってそれはシャルの仕事だから取っちゃいかんだろ。あれ? 訓練も料理もしないとなると一体どうやって暇を潰せば……、そういえばここ最近はシャルを話し相手にして暇を潰すことも多かったような……。
思えば彼女に何かを教えるというのは中々に良い暇つぶしになっていたし、共に食事をすることでいつもよりも飯が美味かったように思える。ん? そういう意味では彼女がここにいるというだけで既に十分に役に立っているのではないか……?
だからといってそれを彼女に伝えても『君がいるだけで僕は十分幸せなんだ』なんていうプロポーズをしているようにしか聞こえない。八歳児にそんなことを言う1022歳とかどんな変態だよ。
現在の自分の状況に疑問を感じてから更にしばらく経ってシャルが森から戻ってきた。多くの食べ物らしきものを持って帰ってきているので、探索は十分な結果であったと窺える。
「師匠、ただ今戻りました」
「おう、シャル、お帰り」
分かってはいたが彼女に怪我らしいものは無く、戦闘を行った形跡もない。いや、うん、分かってはいたんだよ? それでもやはり安堵せずにはいられず、それを彼女に悟らせないようポーカーフェイスするので精いっぱいである。
そして帰って来たシャルから収集した物を受け取って毒があるものが無いか確かめる。予想はしていたが毒があるものは一つもなく、どれも食べても問題が無い物ばかりだった。
エルフという種族は長年他の種族から隠れて森に住んでいるせいか、森の中でどう動けばよいのか、何が食べられるのかといったことが感覚的にわかるようなのだ。その事を他の種族は『森に親しんでいる』とか『森に愛されている』とか呼んでいる。
まあ彼らが森に愛されているかどうかなど、森の中でも普通にエルフが化け物に襲われている時点でお察しなのだが……。
閑話休題。
念のために確認はしたのでその結果をシャルに伝えると、彼女はやや安堵したように見えた。まあ彼女にしても毒があるか無いかは『なんとなく』でしかわからないので当然だろう。人に食わせようと思って取ってきたものは毒物ばかりでした、とか『どんな嫌がらせだよ』と思われかねない。
「それでは頑張りますね!」
休憩を取ろうともせずに、彼女は帰ってくるとすぐに台所へ向かおうとした。
「あ、シャル、これ使え」
そんな彼女を呼び止めて、作らねば作らねばと思いながらいつも作り忘れていたシャル用のエプロンを彼女に渡す。毎度彼女が丈の合わないエプロンを身に着けるのを見てから思い出すので『今作って渡すのもなあ』となってしまい今まで渡せなかったのだ。
「ありがとうございます」
たかがエプロンを受け取るだけなのにシャルは真剣な表情で俺に礼をする。いや、それ単なるエプロンだからね? 丈が彼女に合うように魔法で仕掛けをしといたけどそれだけだからね? それ以外は単なるエプロンなのよ?
さて、台所に到着した彼女はそれらの食材を使って調理する前に味見をすることにしたようだ。彼女が採ってきたのは茸や果実、それに山菜等なのでやろうと思えば生で食えないこともない。
そのため彼女もそれらを口に運んだのだが……。
「…………」
うんともすんとも言わない、圧倒的無言である。茸、果実、山菜、この森に存在する物は例外はあるがどれもこれも栄養価が高い。余談だが化け物たちすらその例外ではないので互いに食い合う彼らはいつでも元気なのだ。
ただそれと同時に恐ろしく不味い。極端に酸っぱかったり苦かったりえぐみが酷かったり食感が最悪だったりととても食えたものではない。
逆に程よい甘さだったり旨味があるようなのは栄養価が低い上に毒性があるものばかりだ。毒があっても食べてもらえるように美味くなったのか、栄養価が無くても食べてもらえるように美味くなったのか、それとも食べてもらわないために毒を獲得したのか、因果関係はわからないがとにかくそんな感じだ。
ともかく今回彼女が採ってきたのは毒が無い物ばかりだったのでその分味の方はお察しなのである。シャルは味見をしている間、しかめっ面をしたまま終始無言であった。
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