ダークフォビア  ~世界終焉奇譚

氷雨ユータ

道楽的殺人

 良く分からない書類を適正な時間帯に出したら冒険者として歓迎してくれるらしいが、別に今日の終わらぬ内に出せとは言われていないので、時間を掛けて考えるという事にしておく。今夜は冒険者ではない『闇衲』として最後の殺人を楽しんでおきたいのだ。冒険者になればまた偽名を考えないといけなかったり、適当な過去を捏造しないといけなかったりと色々面倒になるので、それくらいはする権利がある筈だ。無いと言われてもするが。
「ふーん。これが冒険者の書類かー。字が難しくって読めない! パパ読んで」
「うるせえ。後あんまり触るな。また受け取りに行くの面倒だろうが」
 面倒と言うのは物理的な手間の他にも、恥とか体裁とか、そういう諸々を含めている。あんな受け取り方をしてまた受け取りに行くのは流石にバツが悪い。じゃあ最初からするなと言われても、自分にはあれしか思いつかなかった。あれぐらいしないと良い印象が残せないと思ったのだ。悔いはない。そんなくだらない事を一々やっていたら自分はとうの昔に……ああ、人はそれを、壊れたと言うだろう。
 書類を手に取って、『闇衲』は適当に文章を解釈。脳内でまとめたモノを読み上げる。
「何々……あー要するにだな、この書類は俺が冒険者になる事を確約するモノで、提出次第直ぐにでも受理されるって事だよ。こんなモノを一々渡してる訳が無いから、特殊な書類なんだろうな」
「へえ。そんな特殊な書類をどうしてパパに渡してきたの?」
「俺が脅迫気味に突っ込んだから、だと思われる」
「……自覚はあるのね」
「無かったらしないと思うんだよ」
 机を挟んで夜食を食べるリアは、呆れている様な正気を疑うような、何にしてもこちらに好意的とは思えない複雑な表情を浮かべていた。隣に居るシルビアは、どうしていいか分からないから苦笑いをしてこの場を取り繕おうと試みている。そんな微妙な空間を打ち破ったのは、豹変した『赤ずきん』だった。
「お兄ちゃんは冒険者になるの?」
「…………ああ」
「じゃあ私もな―――」
「刻むぞクソ妹」
 ああもう、聞いているだけで寒気がしてくる。『吸血姫』の技術を習得、及びそれを口外しない約束の保持能力は称賛に値するが、それ以外はハッキリ言ってクソだ。自分の事を兄貴と思い込んでいる精神異常者の相手はするだけで極度の疲労を溜める。彼女と一緒の際は彼女が相手をしてくれるから別に構わないが、そうでない時はこうなってしまう。いつかは慣れるだろうと楽観視していたのはいつの事だったか。結局、半年経ってもこの呼び方に慣れる事は無かった。ただし、順応はしつつある。
「何でえッ?」
「何でもお兄ちゃんに付いてくるな。俺とお前は兄妹かもしれないが…………ああー、そう。兄妹かもしれないが、だからって一緒に来る事は間違ってる。考えてもみろ、俺が難しい依頼を受けた時、お前を守れると思うか?」
「お兄ちゃんを信じてる!」
「信じるな!」
 あの買い物自体に後悔はしていない。人間馬車を一度でも娘に見せた事実は彼女にとって貴重な経験となった。問題があるとしたらフィーだ。恨むべきもフィーだ。全てはあの男から始まった。あの男が訳の分からない魔術をしてくれたせいで『赤ずきん』がこうなってしまったのだ。妙な視線を感じたのでリア達の方を見ると、二人は揃って堪え切れない笑いを漏らしており、こちらの視線に気づくと直ぐに笑うのをやめたが、隠したその時点でそれは本心である。後でこの二人にはたっぷりとお仕置きを加えてやらねばいけないだろう。父親の苦しむ姿を笑いものにするなんて、自分はそんな人間に彼女達を育てた覚えはない。シルビアは娘じゃないが、事情を知らない者が見る限りでは彼女の方が娘らしいから娘という事にしておく。
「ああ……何だか吐き気が―――」
「―――大丈夫?」
「……ああ」
 本当に吐き気を催したつもりは無いのだが、言葉の直後に優しくなったリアを見て驚いた。自分は彼女をそんな優しい娘に育てた覚えは無いのだが、以前の親からそう教育されたのだろうか。『殺人鬼と言えど吐きそうになっていたら優しくしろ』とか。
 これ以上彼女と一緒に居るとリアの顔にでも嘔吐してしまいかねないので、『闇衲』は早めに食事を切り上げて夜の町へ。
「どこ行くんですか?」
「空気を吸いにな。暫くしたら戻るから、後はお前達で食べてくれ」
 リアか、または『赤ずきん』が付いてくる可能性を考慮すると足を速める気にはなれなかったが、どれだけ経っても二人ないしはどちらかの足音が聞こえなかったので、広場からは自信を持って歩き出した。空気を吸いに行くと先程は言ったが、ここまで付き合ってきてどうしてそれが本音だと信じられるのだろうか。自分は『吸血姫』へ会いに行くのだ、冒険者となる負担がこれから暫くの間のしかかる事を考えたら、彼女と過ごす一時しか自分には癒しの時間が無い。あったとしても後は……狂犬との一時くらいか。喋れない奴に苛立つ程短気ではないつもりだ。ぶん殴ったり蹴っ飛ばしたり麻袋に閉じ込めたりした事はあるが、怒った事は無い。というか怒っていたら即座に殺している。自分を本当の意味で怒らせたのはミコトくらいだ。あの時はルール無用の殺し合いを……一か月くらいしていたか。結果として無様に敗北し、彼女とのキスを以て(乗り気じゃ無かったが、敗者が勝者の言う事を聞く事になるのはあらゆる世界の常)その戦いは終了したが、あの時以来である。ただし、本気でぶっ殺そうと思ったと言い換えればあのシュタイン・クロイツも中に入ってくる。リアの身体を貪りつくそうだなんて自分が許さない。『闇衲』はリアのモノであり、同時にリアは『闇衲』のモノだ。親子関係を結んだ以上、両者にはそういう関係性が存在する。にも拘らずそこを無視して彼女に酷い事をしようとしたあの腐った精子男は、今でも思い出すと殺意が湧いてくる。もう死んでしまった人物に今更何をとも自分ですら思うが、我儘を言わせてもらうならば。殺したかっただけで死んでほしくなかった。
 心の中で暴れ続ける殺意を抑え込みながら、『闇衲』は高等エリアに向けて歩き続ける。夜にしてはまだ時間も早いせいか、人通りは僅かだがちらほらと見える。敢えて貧民街の方へ回ってみたが同じだ。自分が怪しまれる道理は無い。


「おい、ちょっと待てよ」


 不意にそんな声を掛けられて振り向くと、そいつは既に鈍器を振り下ろしており、間もなく『闇衲』の視界を覆った。硬質な物同士がぶつかり合ったような音に、男は……男達は確かな手応えを感じた様で、こちらと対峙する形になっても不敵な笑みを浮かべていた。
「何だ?」
 男達の顔が驚愕に変化する。頭がかち割れた音だと思っていたのは石で、その石はたった今拾った何の変哲もない石だ。言うまでもない事だが、石と骨では大分殴った時の感触が違う。それに人間は殆どが水で出来た生物だ。一方、石は言うまでも無く鉱物で構成されている訳だが、ここで一つ問い質したい事がある。
 人間を殴った時と石を殴った時の音は全く同じか?
 答えは、受講料の名目で目の前の男に払ってもらおう。こちらの無傷に動揺する男から即座に鈍器を奪い取ると、大きく振りかぶって脳天に一撃。それから気付いたが、彼の持っていた武器は戦槌。片手で振り回すには少々軽すぎる代物だった。指二本で適正力量だと思うが、今更そんな事言っても過ぎた力の加わった一撃は男の頭蓋を呆気なく粉砕させて、中の液体を気持ち良いくらいの速度で飛び散らせた。多少顔に掛かったので、指で拭き取ってから舐め取る。あまり美味しくなかった。
「お前等の音と全然違うだろ。これが人の頭をかち割った時の音だ。あんな単純な小細工に騙されるって事は、常習犯って訳じゃ無さそうだな。何が目的だ」
「ひ―――ひいッ!」
 自分達から仕掛けてきた癖に、一回でも反撃されると途端に弱気になるとは一体どうしたものか。男達は全部で三人いるが、うち一人は即死、もう二人は似たような言葉を並べたてながら恐怖している。その命乞いに少しでも奇を衒おうという気持ちがあれば二秒くらいは考えたのに、それでは全く面白くない。せっかく彼女の所に行こうと思って気持ちを高揚させていたのに、何てつまらない男達が妨害してくれたんだろうか。既に生かす気など無いのだが、上げて落とすのは基本戦術だ。聞きたい事聞き出して、さっさと終わらせよう。
「まあ落ち着けよ。まずはお前らの目的だ。今の時刻は分かってるよな? 貧民街と言えど人目に付くぞ、何がしたい?」
「お、お前の持ってる書類……」
「書類? ………………ああ、そういう事か」
 恐らく彼等は宿屋で泊まっていたモノの一人で、先程の『闇衲』達の会話を聞いていたのだ。それで、この書類が提出次第直ぐにでも受理されると聞いた所で、この書類を強奪する事を決意。通常であれば寝込みを襲うつもりだったのだろうが、予期せず自分が外出したので、三人は外出し、自分を尾行。幸運にも犯罪が見逃されやすい貧民街に入ったから襲撃した……とか、その程度だと思われる。その結果として、一人は痛みすら感じる事もなく絶命したのなら面白い。命を懸けてまで冒険者になりたかった男として、自分が後世まで語り継いでおこう。
 と考えたが、男の名前を聞いていなかったので語り継げない。忘れよう。
「全く仕方ないなあ。書類如きでここまでするか。お蔭で俺の気分はどん底だ、どうしてくれるんだよ。女でも抱かせてくれるのか?」
「……あ、ああ! いい店知ってるんだよ、俺! すげえ女がいてさ、胸なんか手に収まりきらないくらいでかいんだ」
「ほう、そうか。膣の締まり具合はどうだ?」
「さ、最高だよ! 名器だよ名器。俺と一緒に行ったら安くなるし、それで許してくれるなら何度でも……!」
 『闇衲』はそこまで聞くと、突如乾いた笑いをあげた。
「ハハハハハハハハハ。アハハハハハハハハハ。そうかそうか。名器か。アハハハハハハハハ」
 一言一句ハッキリと全て発音するのだから気味が悪い。それでも許してもらえると思ったのか男達が一緒に笑い声をあげると、刹那。男の顔面が頭蓋ごと木っ端微塵に叩き潰された。
「残念ながら俺の周りには不思議と美人が多くてな、だから女には困ってない。それとなあ、名器って言葉をお前が言ってる時点で、もう使用済みなんだろ? お前の様な薄汚い冒険者にすらゴミクズと関係を持つって事は、娼婦なんだろう。その仕事を馬鹿にする訳じゃないが、知ってるか? 使い込めば使い込む程モノってのは劣化していくんだぞ。つまり、お前の様な道端の石ころ以下の存在価値しかない無様で惨めで憐れな子羊君にすら抱かれてるって事は相当劣化しているって事だ。回りくどいって言うんならハッキリ言おう。そんな奴を抱くくらいだったらもっと良い女を知っている。交渉条件としては失格だ」
 一発で死んだ。彼が不死の存在だったら愉しみようもあったのに、何てあっけない終わり方だ。後一人居ると分かっていなければ、もう少しだけ丁重に扱っていただろう。最後の男に視線を投げると、腰の抜けた男は失禁を隠す事もなく、ひたすらに謝り始めた。
「お前はどうするんだ? 金でも払うか?」
「それで許してもらえるんだったら幾らでも!」
「要らねえよ。他に何か交渉物は?」
「え、え、えーと…………そうだ、娘。娘をやる! 好きなだけ犯して良いから、好きなだけ殴ろうと蹴ろうと何しても良いから! 命だけは……命だけは!」
「……お前、娘が居るのか」
 予想外に好反応を示した『闇衲』に、男は嬉々として顔を上げて過剰なくらい頷いた。
「居る。居るッ。上げるから、どうか命だけは……」
「――――――お前はたった一つ間違えたな」
「え?」
「ありきたりでも良かった。『うちには娘が居る。俺が死んだらアイツは行き場を見失う』くらい言ってくれれば、俺はお前を見逃したよ。お前達からしたら幸運な事に、俺には娘が居る。だから同じく父親の男には、少しだけ甘くなってしまう。だというのにお前と来たら保身に走り、あまつさえ娘を売却しようとした。更に言えば、お前の娘の顔は知らないが、俺の娘の方が美人だと言い切れるくらいの自信がある。二つの理由からその条件は失格。そして禁句を言ったお前は万死に値する。たっぷりと苦痛を味わってもらうから覚悟しろよクソ男。てめえが差し出した娘の分までたっぷり味わってもらう―――」
「待ってパパ!」
 『闇衲』の動きを止める声はおよそ片手で数え切れる程しかない。男の腹を踏んでから視線を外すと、そこには案の定、リアが立っていた。宿屋から全力で走ってきたのか、息が荒い。その手には彼女がトストリス大帝国の頃から愛用しているナイフが握られている。このタイミングで追ってくるとは奇妙な話だが、足元の男は彼女に感謝するべきだ。寿命が数秒伸びて、生の実感を少しでも多く味わえるのだから。
「良くここが分かったな」
「パパの臭い、きついし。鼻で追えば直ぐに分かるわ」
 犬かお前は。
「で、何か用か?」
「……本当はパパが何処に行ってるのか突き止めたかったんだけど、その男の発言を聞いちゃってね。殺意が沸いたの。だから、私に殺させてッ?」
 せっかくこの男が売り出した娘の分まで痛めつけてやろうと思ったのに、同じ娘の立場を持つ彼女が来たら、自分は去るだけだ。この下賤な男を執行する権利は彼女にあ……る…………。
 何気なく足元の男を見ると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。男の股間部分を保護している布が、人体の構造としては不自然なくらい突起しているのである。次に『闇衲』はリアの方を見る。普段着の彼女と言えば死体から剥ぎ取った服を適当に着ているだけの……と言ってもキャミソールワンピースを内側に着ているので、欲情するには何ら問題ない服装だ……少女だが、別に恥部が見えている訳ではない。下着は履いていないが見えていない。見ようとするか彼女がたくし上げない限りはそうならない。
 だが男は、彼女の太腿を見て欲情してしまったようである。その事に遅れて気付いたリアは、額に青筋を浮かべながら男へ詰め寄ろうとする。
「待て。それ以上近づくと中が見える。取り敢えずお前、立て」
 言うと同時に男の首を絞め上げて、確実にリアの恥部が見えない位置まで視線を持ち上げる。そのまま壁に叩きつけると、骨に罅でも入ったような破壊音が聞こえた気がする。自分は力がそこまで強くないので、きっと気のせいだろう。
「お前も不幸だな。見えそうで見えない、そんな状態に興奮するのは分かるが、相手が不味かった。俺の娘じゃなかったら、見逃がしてやったんだが」
「ゆ、赦して……!」
「俺が赦しても、こいつが赦すかどうか。リア、この憐れな子羊を赦してくれるか?」
「は? 赦す訳ねえじゃん、パパったら馬鹿じゃねえの?」
 可憐な少女が突如として口調を荒くして、男はすっかり驚いた。
「残念だけど私の身体は、全部パパのもギャンッ!」
 誤解を招く言い方をすると予想し、すかさず彼女の身体も壁に叩き付けた。一見して意味の分からない行動にやはり男は困惑したが、リアが言葉を止める事は無い。
「痛ったぁ~、何すんのよッ!」
「確かに俺達は親子だが、肉体関係を持った覚えはない。疑うなら今すぐにでもその膣にナイフ突っ込んで膜切ってやろうか」
「冗談なのにい……ま、それはそうとして、赦す訳ないだろ。ここで半年過ごしてみて分かったけど、結局男ってクソだからな。女の事を何だと思ってんだか。ただの性処理道具だとでも思ってんだろうな。てめえの娘を見ず知らずの男に差し出すくらいなんだからそうに違いないよなあッ!」
 袖からぬっと飛び出したナイフに、男は懸命に首を引っ込めて、刃から遠ざかろうとする。背後は壁だから無駄な努力なのに、何よりの不幸はリアのツボにはまってしまった事だ。彼女は満面の笑みを浮かべながら刃を少しずつ近づけて、男の恐怖心を煽る。
「パパも同じ思いだったのは驚いたけど、俺もアンタが『娘が困るから命を取らないでくれ』と言ったのなら、仮にパパが殺そうとしても止めてやったよ。でも駄目だ、やっぱてめえは失格だよ。娘を持つべきじゃなかったんだ。てめえの様な碌でもない父親は、どうせ娘の事も都合の良い穴としか考えてねえんだろッ! 使い込んですっかり古びたから、簡単に売却しようと思えるんだろ!」
「そ、そんな事は……!」
「てめえが娘に真っ当な愛情を注いで、真っ当に父親やってんだったら、こんな所で娘を出したりしねえだろうが! パパがそういう風に誘導してきたとしても、本当にてめえが良識ある父親なら、『娘には手を出さないでくれ』とか、『娘の今後を図らってくれ』とか言う筈だろうが! 違えのかよ、なあ。違えんだったら説明してみろよ。殺人鬼の娘である俺に、今までの罵倒を撤回させるくらいの説明をしてみろよ!」
 リアは男への詰問に夢中でこちらの事など眼中にすらない。今の内に『吸血姫』の所へ行こうと思ったが、時間帯が時間帯。彼女の発言を聞いてしまう人間が居ないとも限らないので、『闇衲』は全てが終わるまで離れるつもりは無かった。こんな時間帯に娘一人放置は、父親の視点から言って乗り気じゃないのである。
「言ってみろよ、言えるんだろ。認めないって事は言えるんだろ、言ってみろよ! 俺はいつまでも待ってやる、お前が言うまで待ってやる。さあ、ほら、ほら、ほら、ほら……言えよ!」
「じゅ、じゅヴぃヴぁじぇん……!」
「謝ったって分かんねえだろ言えよ! ほらよ、なあ。なあ。なあ。なあ! ……言えないんだったら、今から私が言う言葉に続けよ、いいか?」
「は、はい」
 男の心情は分かりたくも無いが、今の彼には肉体的拷問の方が些か楽そうに思える。あのように精神的に追い詰められて、なんて顔だ。鼻水や涙を垂れ流しながら、それでも懸命に生きようとするなんて。
「私は」
「私は……」
「自分の娘を娘とも思わぬ扱い方をして、散々その身体を貪りつくして」
「自分の娘を娘とも思わぬ扱い方をして、散々その身体を貪りつくして」
「挙句自分の身を守る為に、あっさり差し出してしまうような最低の父親です」
「挙句……自分の身を守る為に…………あっさり……差し出して、しまう、よう、な、父親―――です!」
 リアが全力で人を殴るのは、きっと初めての事だろう。自分の為ではない、見ず知らずの娘の為に殴るのは。
「……よく言ったクソ野郎。最後の最後まで自分の命しか考えてねえんだな。徹底的に苦しめてやる。パパ、協力しろ」
「随分上から目線な娘だが、今回に限り乗った。いつ人に見られるとも知れぬ緊張感の中行う拷問は、さぞ楽しい様に思えるからな」
 彼女が男の髪を掴んで路地に引きずり込む光景を見届けてから、ゆっくりとした足取りで『闇衲』は後を追う。貧民街だから出来る事とはいえ、また彼女と一緒に殺せる機会に恵まれるとは。普段の善行が実を結んだに違いない。





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