ワルフラーン ~廃れし神話
仲間か咎人か 鬼
「あああやっちまったよ! 嵌められたんだ俺様は! なあディナントッ!」
「…………げ、せヌ」
「何がって……決まってんだろ!」
如何にユーヴァンが只ならぬ様子を見せても、話してくれないのでは事情の理解は出来ない。余程大変な事があったとしても、それを言葉にしてくれない事には、『大変な事があった』以上の事は相手に伝わらないのだ。
ただしフェリーテは除く。
「マズ……は、状況、メイし、ロ」
「おうさ! しかし……まずは二人にして欲しいな!」
「ふた…………リ? アア」
ディナントが視線を横に向けると、ウェローンが訳が分からぬ様子で立ち尽くしていた。意図しなかった行為とはいえ、父親に向かって突撃してきた魔人を彼女は快く思っていない様だった。腰には愛用の刀である『重鳴』を携え、ユーヴァンに殺意を向けている。
―――実力差は痛い程理解しているだろうに。
まがりなりにもカテドラル・ナイツに勧誘された男だ、その実力は、ウェローンの遥か上に位置する。それは銀城閣にて短いながらも手合わせしたディナントが良く分かっている。考慮する余地もない事だ。戦えば死ぬ。
文字通り次元が違うのだ、二人では。
彼女の愛用する刀は広義的に言えば名刀だが、それも異名持ち武器の多くが位置する『極位』や『終位』には遠く及ばない。その時点で、彼女には勝ち目がない。鋼鉄は斬れても、鋼鉄よりも硬い彼の鱗を斬る事は出来ないのである。
「……ヤメロ」
久しぶりにちゃんと言えた。父に制された事をウェローンは不服に思ったらしいが、かといって反抗する道理もなく、殺意を向けるのをやめた。一連の流れにユーヴァンは気付いていない。というより興味がないらしかった。
ここからでも分かるだろう。ディナントの娘はユーヴァンにとって取るに足らぬ存在であるという事が。その気になれば彼は欠伸をしながらでも彼女を殺す事が出来る。だからこその余裕。
「離れ、いロ。ウェローン」
「お父さん……良いんですか? その魔人はお父さんを襲ったんですよッ?」
「ブつカ……だ、ケだ」
「それに血の臭いも……」
「オレ、ニ、も……ア、る」
ある意味でディナントは嘘を吐いた。ウェローンの言う通り、ユーヴァンからは新しい血の臭いがするのである。だが彼が悪事を働いてそれを付けてきたとは思えない。それはアルドに迷惑を掛ける事になる。恩義を感じる様な性格だから自分も含め、彼等/彼女達はカテドラル・ナイツに居る。そんなナイツが軽率な行動を取ろう筈もない。
「……二人に、シテくれ」
「…………何かあったら、助太刀します」
最後にユーヴァンを一瞥してから、ウェローンは座敷の方へと戻ってしまった。頃合いを見てディナントは上体を起こし、単刀直入に尋ねた。
「状況、ハ?」
「気遣い感謝するぜ! お前も知っていて損はないかもしれない事だ。そしてこの問題を放置すると、俺様とアル―――!」
知らないので無理も無いが、だからと言って発言していい権利はない。ディナントは素早く彼の口を抑え込んで、静かに耳打ちした。
間違って伝わるのは困るので、喉を酷使してでも、正確に。
「アルド様ノ名前ハ、ここでは禁句だ。事情がアル」
「お、おう……そりゃあ、悪かったな」
ユーヴァンは改めて説明を試みた。
「俺様とその関連者が大いに困る。お前、知ってるか? チロチンが何か厄介事に巻き込まれたそうだぜ?」
「……チロチン、ガ?」
「おうさ! で、まあ、何で急にそんな話をしたって言うとな―――」
彼の説明は聞くに堪えないものがあったが、説明慣れしていない者に無理強いをしてはいけない。最終的には言いたい事も分かったので、この件は敢えて流す事にする。
「…………まあ、俺様の推測も混じってるが、チロチンに続いて俺様も変なのに絡まれた。これらの共通点は全て、カテドラル・ナイツであるという事だ。まあ、他の奴とはあれ以来一度も会ってないから、もしかしたら他の奴も被害に遭ってるかもな! お前は被害に遭ってないそうだが、遭わない可能性はゼロじゃない。下手すりゃ家を出たその瞬間に襲われる」
「…………ナル、ほど。ソレ、マエはドうすル?」
「お? 同族殺しの濡れ衣着させられた事についてか?」
ディナントにすれば、むしろそれこそが一番の問題である様な気がした。ジバルにおいて同族殺しは大変な重罪であり、捕まれば極刑は免れない。彼ぐらいの強さになると極刑は嫌でも回避出来るだろうが、民衆全てを敵に回している時点で、色々な所に不利が付くのは自明の理。
この状態を放置するのは、ハッキリ言って自殺行為に等しい。
「全く考えてないと言やあ嘘になるが、俺様は取り敢えずお前に連絡したかっただけだ。この後は他の奴等探して、出来ればチロチンを見つけて話を聞こうとは思ってる! ……そこでお前に、ちょっと頼みたい事がある」
「……タノミ?」
「お前の家に行くまでに、見廻隊に見つかっちまってな。絶賛追跡中だ! 普通に蹴散らしてやっても良いんだが、あっちは濡れ衣を真実と断定して、仕事として動いてる。そんな善良な奴等を摘む程、俺様は酷くない! それに蹴散らしちまったら、それこそ俺様の罪が真実になっちまうからな。そこでお前に頼みたいのは、俺様をこの町から出す手助けをして欲しいって事だ!」
「ぐたい……ニハ?」
「お前の鎧を貸してくれ! 鎧きてりゃバレないかもしれない!」
カテドラル・ナイツとは思えない浅はかな知恵にディナントは溜息を吐きそうになった。鎧というものは万人が着れる様に設計されている訳ではない。まして両翼を持つ魔人に合わせて設計された鎧なんぞ、名工に特注で作ってもらわなくてはある筈がない。
「…………フム」
要は、この町まで、彼をバレずにつれて行けばいいのだ。鎧は必要ない。使ってもどうせバレる。だから鎧を使わず、そして彼の特徴を外に全く見せない様に連れて行く。その方法は、思いつく限り一つしか無かった。
「………………座敷ニ、来い」
ウェローンにも協力してもらう必要性が生まれた。既に敵としてみなされているユーヴァンを助けるなんて良い気持ちはしないだろうが…………彼女の協力が無いと、難しいのだ。如何せん自分は、人望などというものを持ち合わせていないものだから。
「…………げ、せヌ」
「何がって……決まってんだろ!」
如何にユーヴァンが只ならぬ様子を見せても、話してくれないのでは事情の理解は出来ない。余程大変な事があったとしても、それを言葉にしてくれない事には、『大変な事があった』以上の事は相手に伝わらないのだ。
ただしフェリーテは除く。
「マズ……は、状況、メイし、ロ」
「おうさ! しかし……まずは二人にして欲しいな!」
「ふた…………リ? アア」
ディナントが視線を横に向けると、ウェローンが訳が分からぬ様子で立ち尽くしていた。意図しなかった行為とはいえ、父親に向かって突撃してきた魔人を彼女は快く思っていない様だった。腰には愛用の刀である『重鳴』を携え、ユーヴァンに殺意を向けている。
―――実力差は痛い程理解しているだろうに。
まがりなりにもカテドラル・ナイツに勧誘された男だ、その実力は、ウェローンの遥か上に位置する。それは銀城閣にて短いながらも手合わせしたディナントが良く分かっている。考慮する余地もない事だ。戦えば死ぬ。
文字通り次元が違うのだ、二人では。
彼女の愛用する刀は広義的に言えば名刀だが、それも異名持ち武器の多くが位置する『極位』や『終位』には遠く及ばない。その時点で、彼女には勝ち目がない。鋼鉄は斬れても、鋼鉄よりも硬い彼の鱗を斬る事は出来ないのである。
「……ヤメロ」
久しぶりにちゃんと言えた。父に制された事をウェローンは不服に思ったらしいが、かといって反抗する道理もなく、殺意を向けるのをやめた。一連の流れにユーヴァンは気付いていない。というより興味がないらしかった。
ここからでも分かるだろう。ディナントの娘はユーヴァンにとって取るに足らぬ存在であるという事が。その気になれば彼は欠伸をしながらでも彼女を殺す事が出来る。だからこその余裕。
「離れ、いロ。ウェローン」
「お父さん……良いんですか? その魔人はお父さんを襲ったんですよッ?」
「ブつカ……だ、ケだ」
「それに血の臭いも……」
「オレ、ニ、も……ア、る」
ある意味でディナントは嘘を吐いた。ウェローンの言う通り、ユーヴァンからは新しい血の臭いがするのである。だが彼が悪事を働いてそれを付けてきたとは思えない。それはアルドに迷惑を掛ける事になる。恩義を感じる様な性格だから自分も含め、彼等/彼女達はカテドラル・ナイツに居る。そんなナイツが軽率な行動を取ろう筈もない。
「……二人に、シテくれ」
「…………何かあったら、助太刀します」
最後にユーヴァンを一瞥してから、ウェローンは座敷の方へと戻ってしまった。頃合いを見てディナントは上体を起こし、単刀直入に尋ねた。
「状況、ハ?」
「気遣い感謝するぜ! お前も知っていて損はないかもしれない事だ。そしてこの問題を放置すると、俺様とアル―――!」
知らないので無理も無いが、だからと言って発言していい権利はない。ディナントは素早く彼の口を抑え込んで、静かに耳打ちした。
間違って伝わるのは困るので、喉を酷使してでも、正確に。
「アルド様ノ名前ハ、ここでは禁句だ。事情がアル」
「お、おう……そりゃあ、悪かったな」
ユーヴァンは改めて説明を試みた。
「俺様とその関連者が大いに困る。お前、知ってるか? チロチンが何か厄介事に巻き込まれたそうだぜ?」
「……チロチン、ガ?」
「おうさ! で、まあ、何で急にそんな話をしたって言うとな―――」
彼の説明は聞くに堪えないものがあったが、説明慣れしていない者に無理強いをしてはいけない。最終的には言いたい事も分かったので、この件は敢えて流す事にする。
「…………まあ、俺様の推測も混じってるが、チロチンに続いて俺様も変なのに絡まれた。これらの共通点は全て、カテドラル・ナイツであるという事だ。まあ、他の奴とはあれ以来一度も会ってないから、もしかしたら他の奴も被害に遭ってるかもな! お前は被害に遭ってないそうだが、遭わない可能性はゼロじゃない。下手すりゃ家を出たその瞬間に襲われる」
「…………ナル、ほど。ソレ、マエはドうすル?」
「お? 同族殺しの濡れ衣着させられた事についてか?」
ディナントにすれば、むしろそれこそが一番の問題である様な気がした。ジバルにおいて同族殺しは大変な重罪であり、捕まれば極刑は免れない。彼ぐらいの強さになると極刑は嫌でも回避出来るだろうが、民衆全てを敵に回している時点で、色々な所に不利が付くのは自明の理。
この状態を放置するのは、ハッキリ言って自殺行為に等しい。
「全く考えてないと言やあ嘘になるが、俺様は取り敢えずお前に連絡したかっただけだ。この後は他の奴等探して、出来ればチロチンを見つけて話を聞こうとは思ってる! ……そこでお前に、ちょっと頼みたい事がある」
「……タノミ?」
「お前の家に行くまでに、見廻隊に見つかっちまってな。絶賛追跡中だ! 普通に蹴散らしてやっても良いんだが、あっちは濡れ衣を真実と断定して、仕事として動いてる。そんな善良な奴等を摘む程、俺様は酷くない! それに蹴散らしちまったら、それこそ俺様の罪が真実になっちまうからな。そこでお前に頼みたいのは、俺様をこの町から出す手助けをして欲しいって事だ!」
「ぐたい……ニハ?」
「お前の鎧を貸してくれ! 鎧きてりゃバレないかもしれない!」
カテドラル・ナイツとは思えない浅はかな知恵にディナントは溜息を吐きそうになった。鎧というものは万人が着れる様に設計されている訳ではない。まして両翼を持つ魔人に合わせて設計された鎧なんぞ、名工に特注で作ってもらわなくてはある筈がない。
「…………フム」
要は、この町まで、彼をバレずにつれて行けばいいのだ。鎧は必要ない。使ってもどうせバレる。だから鎧を使わず、そして彼の特徴を外に全く見せない様に連れて行く。その方法は、思いつく限り一つしか無かった。
「………………座敷ニ、来い」
ウェローンにも協力してもらう必要性が生まれた。既に敵としてみなされているユーヴァンを助けるなんて良い気持ちはしないだろうが…………彼女の協力が無いと、難しいのだ。如何せん自分は、人望などというものを持ち合わせていないものだから。
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