ワルフラーン ~廃れし神話
封国天下 影
やはり慰安旅行など自分には合わない。他のナイツ達が存分に楽しんでいるのを尻目に、チロチンはアルドを探し求めていた。ディナントの情報では人間達の国に居たそうだが、『隠世の扉』を使って捜索しても、その姿が見当たらない。堂々と人目に触れた状態で探さないのは、『烏』の魔人は魔物寄りの魔人だから、その状態で彼を探すと色々面倒が起きそうだと思っているからだ。
国を散々探し回ったが、姿はおろか気配すら見えないので、早々に『狐』の国へ引き上げた。国の主にでも聞けば何か分かるかもしれないと思ったが、考えてもみれば彼女はアルド側の人間。もしも彼が口止めを頼んでいたなら、情報が得られる筈もない。自分にとって究極の情報収集手段である『星の眸』は、彼に多大な負担を掛ける事になるので使用しない。ギリギリの所で踏み留まっているだけの彼を、わざわざ突き落とす様な真似をする筈が無いだろう。
となると、最早彼の居場所を探り当てるには、自分の能力しか頼るものがない。フェリーテに協力してもらえれば一番良かったが、どうやら彼女は少し面倒な場所に居るらしいので…………邪魔はしない。暇をしている様ならば巻き込んだが、あれを暇と言えるかどうかは正直怪しい。彼女も楽しんでいる内の一人と言っても不思議はないだろう。
―――子供、か。
ディナントに娘が居るとは知らなかった。そしてその娘が、フェリーテとも面識があるとは知らなかった。同じ出身とはいえ、あれでは服装も相まって夫婦そのものである。真実こそフェリーテはアルドの事が好きで、ディナントは只の幼馴染に過ぎないのだが、もしも彼と出会わずフェリーテに何の事件も起きなかったと考えたら、彼女は彼とくっついていたのだろうか。多分、くっついたのだろう。二人が一緒に居る様など容易に想像出来る。
当てもなく探しているだけなので、思考に余裕が出来る。チロチンは暫くあり得ぬ可能性について考えていた。手遊びの様なモノなので、深い意味は無い。
ユーヴァンとヴァジュラも、想像出来ると言えば想像出来る。彼が底なしに明るいので、ひたすら話し続ける彼の話を楽しそうに聞く彼女の姿が思い浮かぶ。こう考えると、同じ大陸の出身は意外と相性が良いのかもしれない。これを裏付ける証拠ではないが、例えばヴァジュラとディナントは相性が悪いだろう。どちらも口数が少ないので、一緒に居られる事は居られても、さぞ居心地が悪いに違いない。振り返ってみると、ディナントが個人的にヴァジュラへ話しかけている瞬間を見た事が無い。あの二人は誰かを挟まないと会話出来ないのだ。アルドでも良いし、どちらかの同郷が居ても成立する。フェリーテは特に、誰と絡ませても成立するので都合が良い。
メグナとルセルドラグは…………あれは、仲が悪いのには違いないが、どうなのだろう。一口には言い表せない関係性がある気がする。本当に仲が悪いのは議論の余地が無い程正確なのだが、共闘するとなれば相性が良いし、ちゃんと連携も取れる。あれを何と言い表したら良いのか、自分にはよく分からない。組み合わせについては、あれがベストマッチな気がする。ディナントとは言わずもがな相性最悪だし、ユーヴァンは悪くないが、ベストとは言い難い。ルセルドラグは……戦闘の相性で言えばヴァジュラだが、そうでないのならメグナ以外は最悪だろう。
最後に自分とファーカを想像する。自分をも含めて考えると妙な気分だが、もしもアルドと出会わず、何事も無かったのなら、自分は彼女の事を娶る気だった。彼女の事が好きだったとかそういう事ではなく……彼女の峭峻な性格が、自分以外に受け止められないと思ったからだ。それを好きだという感情だとするならば、きっと彼女の事が好きだったのだろう。今は、良き友人だ。アルドと結ばれて、是非幸せになってもらいたいと心から望んでいる。
というよりかは、まるで親の様ではあるが、チロチンはファーカをアルド以外に渡す気は無かった。渡すなどと、まるで所有物の様だが、そのつもりはない。単に、彼がそれくらい信用に足る人物というだけの話だ。なのでこの件に限り相性は考えない。敬愛すべき我が主とファーカがベストマッチ。これだけで良い。
オールワークとトゥイ―二―については、まだ情報が足りていない所があるので何とも言えないが、あの二人は侍女。アルド以外にベストマッチなど存在するのかどうか。そもそも彼を介してでないとあまり会話しないので、当然の話だが。
―――見つからないか。
全く以て不愉快だ。主を探そうと思っても、ここまで見つけられない自分の能力の低さに腹が立って仕方ない。切札を用いなければ主一人も探せぬ無能に等なり下がったつもりはないのだが、どうやら気付かない内になってしまっていたらしい。チロチンは深い絶望に覆われた。もしや死んでいるのではないか、という。最もあり得ない推察までしてしまうくらいには。
「アルド様、何処に居るのですか。何処に、何処に―――!」
『烏』の魔人の利点は宙から国を俯瞰出来る事だろうに、それをしても見つからないのはどう考えてもおかしい。建物の中に居れば見つからないだろうが、だからと言っていつまでも籠っているものか。優に三時間は飛んでいるが一向に姿が見えないのは、きっとこの国には居ない証拠である。
魔人と人間の暮らすあの国に行こうかと思ったその時、視界の端で、何かを捉えた。
―――ん?
独り言を漏らしてしまうくらいには精神に余裕が無かったが、それとこれとは話が別。手近な屋根に下りると、チロチンは身に纏ったマントで体を隠しつつ、それを上から覗き込んだ。このマントこそ『隠世の扉』なのでもしもバレたとしても、自分を捕まえる事は殆ど不可能である。
地上で行われていたのは、武器の取引だった。見覚えの無い服装の男達が様々な武器を運んでいる。剣や弓、斧などは当然として、中には歴史の浅い武器として知られる銃まであった。普及率も小さく、達人には通用しない武器なれど、銃という武器はとても強い。特に鍛えずとも民間人が人を殺せる様になるのだから、それ単体の強さがどうであれ、技術的な面で言わせれば、どんな異名持ちの武器よりも凶悪だ。異名持ちは担い手を選ぶが、銃は撃つ相手を選ばない。あれで一体何をするのかと言われたら、この時代においてやる事は一つしかない。
自分の目撃している光景が、これから先に関わる事になると予感したチロチンは、暫く静観を決め込む事にした。ここで手出しをして取引を壊滅させても良いのだが、それではきっと後続が絶てない。時には様子を見るのも大事であろう。
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