ワルフラーン ~廃れし神話
時廻の神と虚空の魔女 前編
殺し合いを経て知り合った仲という事もあり、ギルゾードから感じられたのは好意ではなく殺意だった。しかし嫉妬や敵意と言った負の感情はなく、そこには愉しそうな殺意とも言うべき、何とも明るい感情があった。複雑な感情ではないものの、一見して矛盾した感情には、ドロシアも困惑を隠す事が出来なかった。友情をお互いに感じている訳ではないが、さりとて赤の他人とも言えぬ感じ。あらゆる世界を見てきたが、こんな感情は初めてである。単に世界をまだ回り切れていないのもあるだろうが、中々稀有な感情ではあると思う。
善神とは言い難い雰囲気なので、一応警戒は怠らず、ドロシアは師匠に頼まれた言葉を彼に伝えた。古今東西、神様はあらゆる願いを叶えてきたが、一人の女の子を探して欲しいなどと果たして何回頼まれたのだろうか。加えて自分は偶像を利用した頼みではなく、崇拝されるべき神に対して直接頼んでいる。ともすれば不敬ともされる様な行為だが、ここまで直接的な方が話はいっそ進みやすい。こちらの話をギルゾードは暫く黙って聞いていたが、話が終わると、不意にこちらの喉元に刀を突きつけてきた。
「……話は分かった。だが、それを無償で我にやらせるのか?」
「何が望み、なんですか?」
「ふむ……」
そうは言いつつも、こちらの発言が分かっていた様にギルゾードは考え込み、やがて答えの代わりに―――こちらへ向けて、鋭い一閃を放った。
「……ッ!」
殺意に敏感になっていたのが功を制した。どうにか杖の防御が間に合い、鈍色の刀身が防がれる。ドロシアの所有する杖は異世界の宝物であり、アルドよろしく世界救済をした後、宝物としてこっそり貰っておいたものだ。現在は異世界秩序からも外れており、完全にどの世界のものでもない文字通りの異物と化しているが、だからこそ神威を纏った一撃にも耐えられる。しかしこれ程の神威ともなると、終位の中でも上位の代物を使わなければ一撃で破壊されてしまうだろう。
「ほう……流石に奴の弟子というだけはあるようだな」
「戦いたいんですか?」
実力的には明らかに場数を踏んでいないこちらの不利だが、その代わりこちらは圧倒的に特異体質の面で有利を取っている。基本的に只の人間は神に対抗する事は出来ないが、ドロシアはそもそもこの世界の人間としてみなされていない。神の権能にひれ伏す事も、あり得ない。
ドロシアもまた短杖をギルゾードの喉元に突き付ける。少しでも動けば魔導砲でもぶち込んで吹き飛ばすつもりだ。
「……お前に、我が倒せるのか?」
「先生の為だったら、私は誰であっても倒すよ。祈った所で目も向けてくれない存在より、私にとっては何十万年と一緒に居てくれた先生の方が、大切ですから」
「そうか。なら見せてもらおう。奴に対する愛の強さというのを―――」
先手を取ったのはドロシアだった。刃の振動を魔力からいち早く感知し、予定通り魔導砲を叩き込む。魔導砲などと格好つけてはいるが、やっている事は只魔力の塊を固めて放っているだけだ。粗の塊と言っても間違っていないが、だからこそ純粋な威力は下手な魔術よりも上である。ただし、異界秩序を用いた裏技なので、使用者が居るとすればそれは執行者か自分に類似した存在くらいしか居ない。ここまで荒々しい魔術がある世界は無いので、魔導砲をやりたい人間が居るのならば、まず世界を移動する事をお勧めする。
詠唱も予兆も無い攻撃は確かにギルゾードの頭部を吹き飛ばしたが、流石は神様、と言った所か。魔力の塊を直に浴びたのにも拘らず、ちっとも傷を負っていない。これ以上の硬直は不味いので、ドロシアは素早く背後へ退避。その瞬間、先程まで立っていた位置に何重もの斬撃が重なった。あまりにも素早く歪みの無い斬撃の数々は、その素早さのあまり、閃光が瞬いた様にしか見えない。
「やるな」
踏み込み一閃。距離を取った事で腰を落とす余裕が生まれ、こちらが防御するよりも早くギルゾードの剣がドロシアの胴体を薙ぎ払った。僅かな間をおいて彼女の上半身がズレ落ち、大量の血液と共にその場に崩れ落ちる。が、ドロシアは直ぐに再生をかけて、同時に彼の頭上へ転移。力の限り長杖を叩きおろし、その口内に短杖を突き刺した。相打ちで右目が頭蓋と共に貫かれるが、生物としてこの世界に認識されていない少女は、たとえ肉体が欠損しようとも死ぬことはない。構わず口内を爆破すると、同じ様に顔半分が横から切断された。勿論互いに再生するので、決定打の一撃とは成り得ない。そもそもこの戦い自体遊びの様なモノで、殺意を持っているのも彼だけである。
ただ、今の一撃が少し腹に立ったので、殺さない程度にお返しを加える事にする。
顔の再生を中断してドロシアは目の前の神に肉迫。魔力の刃を先端に宿し、彼の心臓を貫いた。と同時にそれを爆破し、魔力の刃を全身に拡散。魔力の流れに沿って流れた刃は全身に行き渡り、その身体を内側からズタズタに切り裂く。
こちらのした事に気が付き、ギルゾードも後退をしつつ肩口から斜めに切り下ろすが、それよりも早くドロシアが長杖で彼の顔を雷撃と共にぶん殴り、本堂の壁を巻き込んで向こう側の谷まで叩き落す。それから前方に魔法陣を展開して飛び込むと、丁度落下している最中の彼を眼前に捉えた。
―――零式魔術、第二の法。電磁奏嶽断!
長杖を放り投げると、それを包み込む形で赤色の魔法陣が展開。変化の無い幽世にも拘らず、忽ちの内に暗雲が杖の頭上に凝集し、膨張し、収束する。終いに短杖をギルゾードへ投擲すると、その直後。積もりに積もった雷雲が長杖目掛けて落雷し、全てのエネルギーを譲渡。こちらの魔力により長杖が方向を変え、奈落へ向けて落下中のギルゾードに先端が向けられる。そして彼の胸元に突き刺さる短杖まで、幾つもの魔法陣が道の様に展開された。
「これは…………!」
放たれる雷は、かつてこの世を焦がした覇極の雷。それすらも断ち切らんと彼は真一文字に刀を薙いだが、断ち切られたのはこちらの雷ではなく、神威を纏いし神聖なる長刀。彼が今の今まで所有していた、愛刀と思わしき武器の方だった―――
大砲の如く射出された雷撃が地面を穿った瞬間、幽世と言えども許容しがたい破壊が、周囲を巻き込んで広がった。
善神とは言い難い雰囲気なので、一応警戒は怠らず、ドロシアは師匠に頼まれた言葉を彼に伝えた。古今東西、神様はあらゆる願いを叶えてきたが、一人の女の子を探して欲しいなどと果たして何回頼まれたのだろうか。加えて自分は偶像を利用した頼みではなく、崇拝されるべき神に対して直接頼んでいる。ともすれば不敬ともされる様な行為だが、ここまで直接的な方が話はいっそ進みやすい。こちらの話をギルゾードは暫く黙って聞いていたが、話が終わると、不意にこちらの喉元に刀を突きつけてきた。
「……話は分かった。だが、それを無償で我にやらせるのか?」
「何が望み、なんですか?」
「ふむ……」
そうは言いつつも、こちらの発言が分かっていた様にギルゾードは考え込み、やがて答えの代わりに―――こちらへ向けて、鋭い一閃を放った。
「……ッ!」
殺意に敏感になっていたのが功を制した。どうにか杖の防御が間に合い、鈍色の刀身が防がれる。ドロシアの所有する杖は異世界の宝物であり、アルドよろしく世界救済をした後、宝物としてこっそり貰っておいたものだ。現在は異世界秩序からも外れており、完全にどの世界のものでもない文字通りの異物と化しているが、だからこそ神威を纏った一撃にも耐えられる。しかしこれ程の神威ともなると、終位の中でも上位の代物を使わなければ一撃で破壊されてしまうだろう。
「ほう……流石に奴の弟子というだけはあるようだな」
「戦いたいんですか?」
実力的には明らかに場数を踏んでいないこちらの不利だが、その代わりこちらは圧倒的に特異体質の面で有利を取っている。基本的に只の人間は神に対抗する事は出来ないが、ドロシアはそもそもこの世界の人間としてみなされていない。神の権能にひれ伏す事も、あり得ない。
ドロシアもまた短杖をギルゾードの喉元に突き付ける。少しでも動けば魔導砲でもぶち込んで吹き飛ばすつもりだ。
「……お前に、我が倒せるのか?」
「先生の為だったら、私は誰であっても倒すよ。祈った所で目も向けてくれない存在より、私にとっては何十万年と一緒に居てくれた先生の方が、大切ですから」
「そうか。なら見せてもらおう。奴に対する愛の強さというのを―――」
先手を取ったのはドロシアだった。刃の振動を魔力からいち早く感知し、予定通り魔導砲を叩き込む。魔導砲などと格好つけてはいるが、やっている事は只魔力の塊を固めて放っているだけだ。粗の塊と言っても間違っていないが、だからこそ純粋な威力は下手な魔術よりも上である。ただし、異界秩序を用いた裏技なので、使用者が居るとすればそれは執行者か自分に類似した存在くらいしか居ない。ここまで荒々しい魔術がある世界は無いので、魔導砲をやりたい人間が居るのならば、まず世界を移動する事をお勧めする。
詠唱も予兆も無い攻撃は確かにギルゾードの頭部を吹き飛ばしたが、流石は神様、と言った所か。魔力の塊を直に浴びたのにも拘らず、ちっとも傷を負っていない。これ以上の硬直は不味いので、ドロシアは素早く背後へ退避。その瞬間、先程まで立っていた位置に何重もの斬撃が重なった。あまりにも素早く歪みの無い斬撃の数々は、その素早さのあまり、閃光が瞬いた様にしか見えない。
「やるな」
踏み込み一閃。距離を取った事で腰を落とす余裕が生まれ、こちらが防御するよりも早くギルゾードの剣がドロシアの胴体を薙ぎ払った。僅かな間をおいて彼女の上半身がズレ落ち、大量の血液と共にその場に崩れ落ちる。が、ドロシアは直ぐに再生をかけて、同時に彼の頭上へ転移。力の限り長杖を叩きおろし、その口内に短杖を突き刺した。相打ちで右目が頭蓋と共に貫かれるが、生物としてこの世界に認識されていない少女は、たとえ肉体が欠損しようとも死ぬことはない。構わず口内を爆破すると、同じ様に顔半分が横から切断された。勿論互いに再生するので、決定打の一撃とは成り得ない。そもそもこの戦い自体遊びの様なモノで、殺意を持っているのも彼だけである。
ただ、今の一撃が少し腹に立ったので、殺さない程度にお返しを加える事にする。
顔の再生を中断してドロシアは目の前の神に肉迫。魔力の刃を先端に宿し、彼の心臓を貫いた。と同時にそれを爆破し、魔力の刃を全身に拡散。魔力の流れに沿って流れた刃は全身に行き渡り、その身体を内側からズタズタに切り裂く。
こちらのした事に気が付き、ギルゾードも後退をしつつ肩口から斜めに切り下ろすが、それよりも早くドロシアが長杖で彼の顔を雷撃と共にぶん殴り、本堂の壁を巻き込んで向こう側の谷まで叩き落す。それから前方に魔法陣を展開して飛び込むと、丁度落下している最中の彼を眼前に捉えた。
―――零式魔術、第二の法。電磁奏嶽断!
長杖を放り投げると、それを包み込む形で赤色の魔法陣が展開。変化の無い幽世にも拘らず、忽ちの内に暗雲が杖の頭上に凝集し、膨張し、収束する。終いに短杖をギルゾードへ投擲すると、その直後。積もりに積もった雷雲が長杖目掛けて落雷し、全てのエネルギーを譲渡。こちらの魔力により長杖が方向を変え、奈落へ向けて落下中のギルゾードに先端が向けられる。そして彼の胸元に突き刺さる短杖まで、幾つもの魔法陣が道の様に展開された。
「これは…………!」
放たれる雷は、かつてこの世を焦がした覇極の雷。それすらも断ち切らんと彼は真一文字に刀を薙いだが、断ち切られたのはこちらの雷ではなく、神威を纏いし神聖なる長刀。彼が今の今まで所有していた、愛刀と思わしき武器の方だった―――
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