ワルフラーン ~廃れし神話
嘘のない理想の国
『狐』の国へ向かうまでの三日間に何か面白い事があった訳でも無い。いや、面白いと言える程面倒くさそうな事態が起きてくれても今は困るので、面白い事が無かったのはむしろ喜ぶべき事態だ。問題は『狐』の国へ向かう為に掛けられている橋の通行で、アルド達が橋に到着した頃は既に夜。橋は既に引き上げられており、このままだと朝になるまで待機しなくてはならないという事だ。実質的に四日掛かってしまうその事態は、これからの動きを考えると回避した方が都合が良い。しかしここからあちらへ跳躍して行けるかは非常に微妙な距離なので、強引な突破も、躊躇しなくてはならなかった。
「先生ッ。ここは私に任せてっ」
「え? ……ああ、成程。本当はあまり頼りたくないんだが、今回はお言葉に甘えるとしようかな」
何の為にドロシアを付いてこさせたのかというと、別にこういう事態を想定していた訳ではない。単に彼女から離れる気が無さそうだったのでその意思を尊重したまでの事だ。ドロシアが杖に跨るの見てから、その背後にアルドは腰掛けた。中々の負荷が掛かっている筈だが、杖は一度も悲鳴を上げる事無く浮かび上がり、そのまま高速で分かたれた国境を飛翔する。
「しかし、こうしてみると本当に魔女だな」
「え?」
「いいや、何でもない」
フルシュガイドにて知られている魔女は、ドロシアの様なとんがり帽子(異形の怪物にしか見えないが)に、様々な用途に使う杖が一つ。夜になると眠っている子供達を杖に括りつけて、自分の家まで飛翔するらしい。そうして眠っている内に子供達を大釜の中に放り込んで料理を作るのだそうだが、現在の様子はそれに近いと言えた。ただし、ドロシアには人を食う趣味があるとは思えないし、彼女は飽くまで橋の代わりに飛翔しているだけと大きく違う。魔女ではあるかもしれないが、少なからず彼女には絵に描いた悪性が無かった。
「着いたよ!」
「ん。有難う」
この橋が架かっていたとしても大概長いが、その距離をこんな短時間で移動したドロシアには驚きを隠せなかった。杖から落ちる程では無かったとはいえ、一体どんな速度で飛翔したらここまでの短時間が出せるのか。全くの謎である。ともあれ、ここを超えた時点で自分達は入国した。時間外の入国なので不法入国とも扱われそうだが、そうなったら……そうなったらだ。
あまり自分の地位を利用した強行はしたくないが、今回は話が別だ。慰安目的のナイツと違い、自分は一刻も早く狐との話し合いを済ませなくてはならない。チヒロとの約束をまた破る事になるのは、それこそ男としては許されない行為だ。
ダルノアが攫われた件については、手掛かりもなく探しようもないので、心の中では保留にしてある。『狐』さえ良ければ是非とも協力してもらいたいが、それはこれからの話し合いがどんな風に進むかによる。
『狐』の国は、『徳長』の国と比べると随分異国に染まっており、あちらが飽くまでジバル文化を大切にしているというのならば、こちらは取り込める文化はどんどん取り込んでいると行った感じである。その理由は他でもない、幻の国と呼ばれたジバルも貿易はしており、自分達の知らない国と交流を取っているからだ。他人の国にあまり口出しはしない主義だが、五大陸とジバル以外にも大陸があるというのは驚きだ。別世界があるくらいだから、同じ世界に別の大陸がある事くらいは容易に想像が付くだろうに、アルドにはその想像が出来ていなかった。もしも五大陸の戦争が終わり、自分が生きていたのなら、貿易先を広げる為にも海に出てみようか。ナイツと一緒ならば、特に問題は無い筈だ。
…………生きていたら、か。
死ぬつもりは毛頭無いのに、自分から生きる事を絶望視とはなんの冗談だ。何となく笑ってみるが、何も面白くはない。
エヌメラとの戦いで獲得した呪いがなければ、アルドはとうの昔に死んでいるのだから。
欲しいと望んで手に入れた呪いではないが、これがなければナイツを集める事はおろか、執行者を倒す事も出来なかった。弟子達を救う事も出来なかった。そんな自分が死を感じるのも無理はない。この体には一兆を超える死が疲労として蓄積されている。果たしてそれが人に耐えられるものなのか。アルドに言わせれば不可能に近い。
自分が耐えられているのは、何もこちらの気合だけが要因ではない。身体の半分が執行者という点が、アルドの現在に大きく関わっている。あらゆる秩序を受け入れない身体が半分あり、且つ尋常ならざる気合が入って初めて今の状態は成立している。
どちらかが欠けた瞬間が死ぬ時だ。死期を悟るという言葉もあれば、死が迎えに来たという言葉もあるが、アルドの場合は当の昔に死んでいるのだ。振り返ればそこには死が自分の手を引っ張る光景が見えている。単に踏ん張っているだけで、実際はこの手に引かれて地獄へ行っているのだろう。
なのでこの場合、生きていたらという表現は正確じゃない。死んでいなかったらという方が正しいだろう。
「それで先生。この国では何処に行くの?」
「銀城閣。ここの頭が住んでる場所だ。今から挨拶に行く。元々その為に来たんだからな」
『徳長』の時とは違い、やはりこの国は落ち着いている。愚かにもかつては顔を晒しながら街を歩いていたから、『邂逅の森』の効果によって忘れていない限り、道行く人々は自分に気づいている筈である。
あの森の効力は対象者、この場合はアルドだが、対象者に強い思い入れがあった場合効果を打ち破る事が出来る。弟子達でそれは証明されているから、この国の人々が忘れているはずは無いのだ。
あっちでは忘れられていなかったし。そもそも交流は若干魔人寄りだった。にも拘らずあっちが覚えていたという事は、この国の住民が忘れている筈はないことの証明である。その上で考えると、本当に落ち着いている。きっと、自分が遊び目的で来たわけでは無い事を察したのだろう。だとするならば聡明な国民だ。
「ナイツの人達と合流するの?」
「やる事が無くなったら、一緒に楽しむさ。今はダルノアと言い、話し合いといい、する事が多すぎる」
三日もこの城に滞在している筈はない。居るとしても恐らくそれは数人で、その理由はというと単に別行動を取っているからに違いない。フェリーテを介せばこの場からでも全員に集合を掛ける事は出来るが、今の自分にその気はなかった。これはアルドが起こしてしまった問題。自分が救国の英雄だったがばかりに起こった面倒だ。一々ナイツを呼んでいたら、それこそ尻拭いをさせているみたいで気分が悪い。
「ああそうだ。ドロシア、一つだけ言っておきたいんだが」
「何?」
「『狐』は少々高慢な所がある。人の性格に口を出したりはしないが、もしかしたらお前の気に障る事だって言うかもしれないが、その時はどうか抑えてくれ」
出来るだけ優しい口調で言ったつもりだが、ドロシアが暴走するといよいよ洒落にならない。またあの世界に銀城閣ごと転移なんて自分は嫌である。あそこで何年過ごしたと思っているのだ。それも平和な年月ではなく、ひっきりなしに敵が来て、その度に斬り殺すだけ。『狐』が居れば幾らか楽かもしれないが、未だにあの世界を抜け出せた原因を知らない以上、もう一度入ったとしても、出る自信が無かった。下手すると二度と戻れないかもしれない。せっかく五大陸攻略も終わりかけているというのに、そんな災厄には遭いたくないのだ。
アルドの想いが通じたのか、ドロシアは口を軽く引き締めて、頷いた。それを見届けてから、アルドは銀城閣の囲いを飛び越えて、堂々と入り口から足を踏み入れる。
「お待ちしておりました、霧代様」
自分がこの時間帯に来る事は予想されていたらしく、恭しいお辞儀と共に、何人かの魔人が自分達を出迎えた。彼女の匂いを微かに纏っているので、傍付きと思われる。
「初めまして、こんばんは。こんな時間帯に来訪して申し訳ないが、クルナに会わせて欲しい」
「承知いたしました。それでは、私達に付いてきてください」
大して城の内装が変わっている訳でもないので案内は要らないが、これも形式上は必要な事だ。自分が勝手に動けば彼女に怒られるのはこの子供達。大人しく歩幅を合わせて、彼らを超えない様に注意する。階段は上に長いので、速度だけに気を付ければそうそう超える事はない。最上階である『月闇の間』まではまだまだ時間があるので、周りを観察して、以前との変化でも探してみる―――っと、手遊びにも満たないくだらない遊びに興じようとした瞬間。早速目に付いた事がある。
『闘神の間』が焼け焦げていた。
この城は木製ではあるものの、妖術によって火にかなりの耐性を持っていた筈だ。それを意にも介さず黒焦げにする火力……思い当たる限り一人しか居ないが、まさかそんな。何だって彼があそこだけ燃やすというのか。彼は大概愉快な道化を演じているが、幾ら何でも脈絡なく部屋を焼く様な事はしない。しかしあれだけの火力を出せるのは彼くらいしか思い当たらないので―――後で聞いてみよう。
むしろその部屋以外は何の変哲もないので、何があったかは本当に気になる。階段が半分を過ぎた頃、階段に接した廊下を歩く女性二人が、何やら楽しそうに会話していた。
「ねえあれ見た?」
「見た見た! すっごい仲良かったよね~私もあんな友達が欲しいなあ!」
「ねー。『烏』の人、見た目はすっごい堅物な感じなのに、あんなにノリが良いんだから! ああいう男の人が友人だったら、きっとすっごく楽しいんだろうねー」
……『烏』の人?
通り過ぎてしまったので、感覚を研ぎ澄まして会話の続きを聞く。
「『蛇』の人とも一緒に踊ってたし、あの二人、もしかしたら……!」
「それはないでしょー。だってフェリーテさんが連れて来た人でしょ? って事は霧代様の妾に決まってるじゃないッ!」
「ふーん。でも、ジバルの男達ってどうも品が無い感じだから、出来れば私もお近づきになりたいなー! また来ないかなー!」
『蛇』だったり『烏』だったり。こんな順番で出たくらいだから、誰なのかは容易に想像が付いた。そして二人が……正確には『チロチン』がどんな状態になっているのかを。
いや。いやいやいや。そうなるのも無理からぬ事だ。チロチンは『烏』の魔人という事もあり目付きが悪い処の話ではないが、それを入れても彼はかなりの美男子だ。人間にはそう見えないかもしれないが、少なくとも自分よりは美しい。
アイツでアイツで大変だな。
彼が誰と結ばれようと自分に口を出す権利はないが、リーナの事が好きである事実が覆るとも思えない。彼は彼にとってはある種迷惑とも言える好意を受け続けている。恐らくは、今も。
ある意味では嬉しい悲鳴とも言えるが、そういう事を言う存在は大抵真逆の状態だからそんな事を言うのだ。どんな事態であれ、本人が嬉しくないのならばそれは迷惑なのである。嬉しくも何ともない。
「……守ってやってくれよ。メグナ」
仲が良いというのは、何であれ都合が良い話である。アルドは足を止めて脇に避けた魔人達を通り抜けて、『月闇の間』の扉を押し開けた。
「話がある。クルナ」
「先生ッ。ここは私に任せてっ」
「え? ……ああ、成程。本当はあまり頼りたくないんだが、今回はお言葉に甘えるとしようかな」
何の為にドロシアを付いてこさせたのかというと、別にこういう事態を想定していた訳ではない。単に彼女から離れる気が無さそうだったのでその意思を尊重したまでの事だ。ドロシアが杖に跨るの見てから、その背後にアルドは腰掛けた。中々の負荷が掛かっている筈だが、杖は一度も悲鳴を上げる事無く浮かび上がり、そのまま高速で分かたれた国境を飛翔する。
「しかし、こうしてみると本当に魔女だな」
「え?」
「いいや、何でもない」
フルシュガイドにて知られている魔女は、ドロシアの様なとんがり帽子(異形の怪物にしか見えないが)に、様々な用途に使う杖が一つ。夜になると眠っている子供達を杖に括りつけて、自分の家まで飛翔するらしい。そうして眠っている内に子供達を大釜の中に放り込んで料理を作るのだそうだが、現在の様子はそれに近いと言えた。ただし、ドロシアには人を食う趣味があるとは思えないし、彼女は飽くまで橋の代わりに飛翔しているだけと大きく違う。魔女ではあるかもしれないが、少なからず彼女には絵に描いた悪性が無かった。
「着いたよ!」
「ん。有難う」
この橋が架かっていたとしても大概長いが、その距離をこんな短時間で移動したドロシアには驚きを隠せなかった。杖から落ちる程では無かったとはいえ、一体どんな速度で飛翔したらここまでの短時間が出せるのか。全くの謎である。ともあれ、ここを超えた時点で自分達は入国した。時間外の入国なので不法入国とも扱われそうだが、そうなったら……そうなったらだ。
あまり自分の地位を利用した強行はしたくないが、今回は話が別だ。慰安目的のナイツと違い、自分は一刻も早く狐との話し合いを済ませなくてはならない。チヒロとの約束をまた破る事になるのは、それこそ男としては許されない行為だ。
ダルノアが攫われた件については、手掛かりもなく探しようもないので、心の中では保留にしてある。『狐』さえ良ければ是非とも協力してもらいたいが、それはこれからの話し合いがどんな風に進むかによる。
『狐』の国は、『徳長』の国と比べると随分異国に染まっており、あちらが飽くまでジバル文化を大切にしているというのならば、こちらは取り込める文化はどんどん取り込んでいると行った感じである。その理由は他でもない、幻の国と呼ばれたジバルも貿易はしており、自分達の知らない国と交流を取っているからだ。他人の国にあまり口出しはしない主義だが、五大陸とジバル以外にも大陸があるというのは驚きだ。別世界があるくらいだから、同じ世界に別の大陸がある事くらいは容易に想像が付くだろうに、アルドにはその想像が出来ていなかった。もしも五大陸の戦争が終わり、自分が生きていたのなら、貿易先を広げる為にも海に出てみようか。ナイツと一緒ならば、特に問題は無い筈だ。
…………生きていたら、か。
死ぬつもりは毛頭無いのに、自分から生きる事を絶望視とはなんの冗談だ。何となく笑ってみるが、何も面白くはない。
エヌメラとの戦いで獲得した呪いがなければ、アルドはとうの昔に死んでいるのだから。
欲しいと望んで手に入れた呪いではないが、これがなければナイツを集める事はおろか、執行者を倒す事も出来なかった。弟子達を救う事も出来なかった。そんな自分が死を感じるのも無理はない。この体には一兆を超える死が疲労として蓄積されている。果たしてそれが人に耐えられるものなのか。アルドに言わせれば不可能に近い。
自分が耐えられているのは、何もこちらの気合だけが要因ではない。身体の半分が執行者という点が、アルドの現在に大きく関わっている。あらゆる秩序を受け入れない身体が半分あり、且つ尋常ならざる気合が入って初めて今の状態は成立している。
どちらかが欠けた瞬間が死ぬ時だ。死期を悟るという言葉もあれば、死が迎えに来たという言葉もあるが、アルドの場合は当の昔に死んでいるのだ。振り返ればそこには死が自分の手を引っ張る光景が見えている。単に踏ん張っているだけで、実際はこの手に引かれて地獄へ行っているのだろう。
なのでこの場合、生きていたらという表現は正確じゃない。死んでいなかったらという方が正しいだろう。
「それで先生。この国では何処に行くの?」
「銀城閣。ここの頭が住んでる場所だ。今から挨拶に行く。元々その為に来たんだからな」
『徳長』の時とは違い、やはりこの国は落ち着いている。愚かにもかつては顔を晒しながら街を歩いていたから、『邂逅の森』の効果によって忘れていない限り、道行く人々は自分に気づいている筈である。
あの森の効力は対象者、この場合はアルドだが、対象者に強い思い入れがあった場合効果を打ち破る事が出来る。弟子達でそれは証明されているから、この国の人々が忘れているはずは無いのだ。
あっちでは忘れられていなかったし。そもそも交流は若干魔人寄りだった。にも拘らずあっちが覚えていたという事は、この国の住民が忘れている筈はないことの証明である。その上で考えると、本当に落ち着いている。きっと、自分が遊び目的で来たわけでは無い事を察したのだろう。だとするならば聡明な国民だ。
「ナイツの人達と合流するの?」
「やる事が無くなったら、一緒に楽しむさ。今はダルノアと言い、話し合いといい、する事が多すぎる」
三日もこの城に滞在している筈はない。居るとしても恐らくそれは数人で、その理由はというと単に別行動を取っているからに違いない。フェリーテを介せばこの場からでも全員に集合を掛ける事は出来るが、今の自分にその気はなかった。これはアルドが起こしてしまった問題。自分が救国の英雄だったがばかりに起こった面倒だ。一々ナイツを呼んでいたら、それこそ尻拭いをさせているみたいで気分が悪い。
「ああそうだ。ドロシア、一つだけ言っておきたいんだが」
「何?」
「『狐』は少々高慢な所がある。人の性格に口を出したりはしないが、もしかしたらお前の気に障る事だって言うかもしれないが、その時はどうか抑えてくれ」
出来るだけ優しい口調で言ったつもりだが、ドロシアが暴走するといよいよ洒落にならない。またあの世界に銀城閣ごと転移なんて自分は嫌である。あそこで何年過ごしたと思っているのだ。それも平和な年月ではなく、ひっきりなしに敵が来て、その度に斬り殺すだけ。『狐』が居れば幾らか楽かもしれないが、未だにあの世界を抜け出せた原因を知らない以上、もう一度入ったとしても、出る自信が無かった。下手すると二度と戻れないかもしれない。せっかく五大陸攻略も終わりかけているというのに、そんな災厄には遭いたくないのだ。
アルドの想いが通じたのか、ドロシアは口を軽く引き締めて、頷いた。それを見届けてから、アルドは銀城閣の囲いを飛び越えて、堂々と入り口から足を踏み入れる。
「お待ちしておりました、霧代様」
自分がこの時間帯に来る事は予想されていたらしく、恭しいお辞儀と共に、何人かの魔人が自分達を出迎えた。彼女の匂いを微かに纏っているので、傍付きと思われる。
「初めまして、こんばんは。こんな時間帯に来訪して申し訳ないが、クルナに会わせて欲しい」
「承知いたしました。それでは、私達に付いてきてください」
大して城の内装が変わっている訳でもないので案内は要らないが、これも形式上は必要な事だ。自分が勝手に動けば彼女に怒られるのはこの子供達。大人しく歩幅を合わせて、彼らを超えない様に注意する。階段は上に長いので、速度だけに気を付ければそうそう超える事はない。最上階である『月闇の間』まではまだまだ時間があるので、周りを観察して、以前との変化でも探してみる―――っと、手遊びにも満たないくだらない遊びに興じようとした瞬間。早速目に付いた事がある。
『闘神の間』が焼け焦げていた。
この城は木製ではあるものの、妖術によって火にかなりの耐性を持っていた筈だ。それを意にも介さず黒焦げにする火力……思い当たる限り一人しか居ないが、まさかそんな。何だって彼があそこだけ燃やすというのか。彼は大概愉快な道化を演じているが、幾ら何でも脈絡なく部屋を焼く様な事はしない。しかしあれだけの火力を出せるのは彼くらいしか思い当たらないので―――後で聞いてみよう。
むしろその部屋以外は何の変哲もないので、何があったかは本当に気になる。階段が半分を過ぎた頃、階段に接した廊下を歩く女性二人が、何やら楽しそうに会話していた。
「ねえあれ見た?」
「見た見た! すっごい仲良かったよね~私もあんな友達が欲しいなあ!」
「ねー。『烏』の人、見た目はすっごい堅物な感じなのに、あんなにノリが良いんだから! ああいう男の人が友人だったら、きっとすっごく楽しいんだろうねー」
……『烏』の人?
通り過ぎてしまったので、感覚を研ぎ澄まして会話の続きを聞く。
「『蛇』の人とも一緒に踊ってたし、あの二人、もしかしたら……!」
「それはないでしょー。だってフェリーテさんが連れて来た人でしょ? って事は霧代様の妾に決まってるじゃないッ!」
「ふーん。でも、ジバルの男達ってどうも品が無い感じだから、出来れば私もお近づきになりたいなー! また来ないかなー!」
『蛇』だったり『烏』だったり。こんな順番で出たくらいだから、誰なのかは容易に想像が付いた。そして二人が……正確には『チロチン』がどんな状態になっているのかを。
いや。いやいやいや。そうなるのも無理からぬ事だ。チロチンは『烏』の魔人という事もあり目付きが悪い処の話ではないが、それを入れても彼はかなりの美男子だ。人間にはそう見えないかもしれないが、少なくとも自分よりは美しい。
アイツでアイツで大変だな。
彼が誰と結ばれようと自分に口を出す権利はないが、リーナの事が好きである事実が覆るとも思えない。彼は彼にとってはある種迷惑とも言える好意を受け続けている。恐らくは、今も。
ある意味では嬉しい悲鳴とも言えるが、そういう事を言う存在は大抵真逆の状態だからそんな事を言うのだ。どんな事態であれ、本人が嬉しくないのならばそれは迷惑なのである。嬉しくも何ともない。
「……守ってやってくれよ。メグナ」
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