ワルフラーン ~廃れし神話
英雄の崩壊
「ねえ、アルド。貴方、地上最強の英雄らしかったじゃない」
「それが……どうかしたか」
「貴方はよく頑張ったと思うわ。たった一本の剣で私を惚れさせるくらいに頑張るなんて。数の暴力に身を任せて貴方を捕えちゃったけど、私が一人だけだったら、恐らく私は貴方に負けている」
レイナスはアルドの頬を優しく撫でながら、その心へと滑り込むように言った。
「でも貴方は捕らえられた。この事実を貴方が守っている魔人が知ったらどんな反応をするのかしらね」
邪魔が入ったのは気に食わないが、第二の作戦というモノは当然用意してある。この世界に入ってアルドを捕えてから、レイナスは彼の過去を調べられる限り調べた(何故か閲覧できなかった情報もある)。そしてその結果、彼が唯一言われたくない言葉というモノを見つけてしまった。その言葉こそがアルドを自分の夫に相応しい存在へ育て上げた訳だが、だからこそ今の彼は、この言葉を言われたくない。
「きっと魔人達はこう言うでしょうね。自分達の王は何て弱いんだ―――女性に負けるなんて、きっと今まで戦うのをサボっていたんだ。『努力が足りないんだ』……って」
「…………何」
「私だって傍から見れば只の女性ですもの。見るだけで強さを計れない魔人はまず間違いなくそう思う筈よ。そして気付くの。貴方が一年間大陸の安定化に努めていたように見えていたのは、単純にそう見えていただけ。貴方の部下はとても優秀だから、実際に安定化を務めていたのは貴方の部下で、貴方は頑張っていたのかもしれないけど『努力が足りなかった』。だから貴方の部下は貴方の名誉を傷つけない為に裏で頑張っていたのだと。勝手な想像で出鱈目なのかもしれないけれど、そう思うでしょうね」
彼は常人には理解出来る筈のない努力によって、才能も無い癖に地上最強を名乗るに相応しい力を手に入れた。魔力の根源を打倒できる力を手に入れた。それ故に。だからこそ。努力が足りないと言われたくない。
「そんな筈はないって顔してるわね。じゃあどうなのかしら。もしも貴方が帰ってきた時、リスド大陸が荒れていて、何処かの誰かがきっと『安定化の努力が足りなかったんだ』と言い出したら、貴方は言い返せる? 本当に強いのなら、自分達を守ってくれるのなら。リスド大陸が襲われた際に魔王として直ぐ戻ってくるべきなのに、戻らなかった。それはきっと『戻ろうとする努力が足りなかった』んだと言われたら、貴方は言い返せる?」
言い返せないだろう。事実として、アルドはここに囚われて、彼の部下も戻れる状況にはない。その隙を突く様にしたのだから、彼の擁護をするのなら『戻れる訳が無い』。だが……これは世界から情報を受け取る上で分かった事だが。
アルドと関りの薄い多数の魔人は、彼に微塵の感謝も抱いていない。それどころかここ最近は、殺すべきだとすら思っているようなのだ。大陸の安定化の際はその努力に免じて思いは伏せていたのかもしれない。けども、もしその直後に国が襲われて、自分達が被害に遭ったのだとしたら。思いを伏せていた国民はどう考える。
言うまでもない事だ。彼等はアルドを憎む。どうして守ってくれなかったんだと責め立てる。所詮は人間なんだと失望する。この際、ナイツに敵意が向けられないのは、ナイツが魔人の集団であるからだ。それにナイツはアルドに従っており、基本的にその命令が無ければ戻ろうとしても戻れないのは当然。つまり、アルドが戻ってこようとしなければ戻れなかったとも考える事が出来る。
「完璧じゃない魔王何て要らない、民を守れない英雄なんて要らない。……ねえ、言い返せるかしら」
この弱点、ついさっきまではアルドに効かなかった。だが少しだけ的確に記憶を溶かした今ならば、彼には十分すぎる程通用する。
「言い返せるかしら……アルド・クウィンツ」
「…………」
彼を守っていた加護は消え去った。今の彼は、直ぐにでも崩れてしまいそうな程に脆い地上最強の英雄でしかない。関わりの薄い大勢ばかり気にしすぎて、本当に近い存在の言葉を聞けなくなってしまった人間でしかない。自分には手に取る様に分かっている。彼の思考が絶え間なく循環している事に。理想と現実の差異に耐えられなくなって、自己崩壊を起こしている事に。
再び頬を撫でる。筋肉の動きも無く、既に抵抗する気力が無くなっている事は明白だ。
これをしたくなかったのは、本人に著しい精神負担を掛けるからであり、暫くは廃人になってしまいかねない事だが。おかしな横槍を喰らって時間を無駄にするくらいなら仕方ない。アルドは何としても自分が手に入れる。
「でも安心して? 私だけは。私だけは貴方の事を見てる。貴方の努力を良く知っている。一人で戦っていたら確実に負けていた事も、多勢に無勢だったとしても勝つ為に戦い、三千万もの私を斬り倒した。それは誇るべき事よ? 貴方の努力が十分だったから成し得た功績。ええ、分かってる。私だけは貴方の事分かってるわ。ねえ、アナタ? アナタは憎いと思わないの? 自分の努力を分かってくれない魔人の事。もうとっくの昔に死んでる筈なのに、なんとか持ちこたえて必死に頑張ってるのに、それを理解しない魔人に怒りは抱かないの? 分からせてやろうと思わない? 私とアナタで、彼らの犯した罪というものを、裁いてやるべきじゃない? 貴方こそは唯一の男。私の夫に相応しい最高の男性。それを蔑ろにされて怒らない妻は居ないわ。ね、アナタ。分からせてやりましょう? 強さを。好き勝手に文句は言う癖に自分から動く事は無い癖に、絶対に安全な場所から罵倒ばかりする奴等に分からせてやりましょう? たまには怒ったっていいのよ? 魔人はどうせロクでもない奴ばかりだから、少しくらい怒ったって貴方は間違ってないわ。だから、ね? 貴方の感情を全部、全部、全部―――吐き出してみて?」
人間には心の拠り所が無ければ生きていく事が出来ない。地上最強の英雄と呼ばれた彼にもそれは必要で、そしてそれは今まで魔人だった。しかしその魔人からも拒絶されるのだと教え込んでやれば、完全に弱り切っている彼は思考する間もなくそれを信じ込み、自ら心の拠り所を捨てる。
そこに自分が入ってやる。そうする事で彼の拠り所はレイナスとなり、レイナスに仇為す者は全て敵となる。これが成功したら、記憶を消す必要なんて無い。彼自身に全てを壊させてやれば、彼の方から記憶を潰し始める。
既にアルドの目からは光が無くなりつつある。その光が完全に消えた時こそ彼の心を従えた証。唯一の拠り所となった自分を、彼は本能のままに貪り喰らうだろうが、それが本来の目的なのだから大歓迎だ。この体も心も、全ては彼のモノ。そして彼の身体も心も、全ては自分のモノ。
……勝利の時は近い。
かなり不味い状況にある。あの女、胃空間でいよいよアルドを懐柔しにかかっている。早い所あの女の腹を掻っ捌いて助け出してやりたいが、そうも行かない。相手が相手だ。
「……貴様、何者だ」
「だから創の執行者だよ。アルドの友達って言えばいいかな。今までは分かれてたんだけど、どうやら緊急事態みたいだからね。剣の執行者に頼まれた形になるけど、俺/私は助けに来たって訳。ああ、切札を使う必要は無いよ。……起源執行」
謠が一言呟くと、二億ものレイナスが凍結。それからはぴくりとも動かなくなって、虚空の焔に溶かされるかのように霧消した。あまりにも呆気ない、それでいて凄まじい規模の能力に、『鬼』と骸』は言葉を失っていた。
「アル……様、ユウ人。まこ……か?」
「まことまこと。それよりも君ら、今がどんな状態か分かってんの。俺/私が時間を巻き戻したからいいけど、君は本来死んでいたし、骸骨な君は何もかもを手遅れにしようとしたんだよ」
表情を見る限り分かっていないようなので、謠は彼女から目を離さないように気を付けつつ話を続ける。
「アルドはね、あの女性の胃の中に居るの。正確には執行者が壊した世界をあの女性が……って、そんな事はどうでもいい。とにかくあの女性を倒さない事にはどうしようもないの。でも君は切札を使おうとしたよね。まんまと挑発に乗ってさ」
「……代償、か?」
「うん。代償。君達とアルドの契約を逆手に取ろうとしたんだよあの女性は。それと、一応バラしておくけど、あの女性は只の女性じゃないよ。あの女性は―――原初の女性。君達の先祖と言うとちょっと違うけど、原初の存在である事に変わりはないよ」
「……?」
中々厄介な話だろうが、理解してもらうしかない。そしてそれを理解してもらった上で戦わなくては、アルドを助け出そうにも助け出せなくなる。
「とある国にはこんな神話がある。人間の始まりの話だ。神々の楽園で禁断の果実を食べた男性と女性が楽園を追放されて、苦難と共に生きるって神話何だけど。あの女性はね、その神話から逸脱した存在なんだ。具体的に言うと、楽園を追放されるどころか、彼女は楽園を支配したんだよ。神様を追放してね。その果てが彼女って訳。だから厳密には人類の祖になる筈だった存在」
「…………つまり、どういう事だ」
「どういう事もそういう事も無いよ。君達じゃあ戦ったって殺されるって事。さっき君は殺されたでしょ。そういう事だよ。普通に戦えば殺される。だから俺/私が来た。突然横槍を入れた奴が言う台詞じゃないけど。力を貸してもらうよ」
二人は返事の代わりとして、自分の横に立って各々戦闘態勢に入った。ディナントは壊れた事実の無くなった『神尽』を。ルセルドラグは斧槍を。起源を凍結させたのであの妙な分身は二度と使えない。にも拘らず、女性は不敵な笑みを浮かべて尚余裕を保っていた。
「……いいわ。もうすぐ私の目的は果たされる。少しだけ本気で相手をしてあげましょう。邪魔をしてきたお礼に、たっぷりといたぶってあげるわ」
「いたぶられるのはどっちだろうね。俺/私がどうしてこんな事になるまで到着が遅かったか、君は考えたかな」
「何ですって?」
「そもそもどうして死の執行者はこの世界に来たのかな。世界から受けた使命を果たす為だよね。じゃあそれがどんな使命か、それは執行者としての使命を放棄した俺/私達にだって分かる……世界のバランスを崩してしまいかねない『存在』の抹消だよ。どんな方法であれ、その世界から追い出せばいい訳なんだけどね」
「それが?」
「『権能使い』フライダル・フィージェント。三代目『勝利』クリヌス・トナティウ。『魔遮』カシルマ・コースト。君は彼の妻を自称する割に、彼の強さを理解出来ていない様だね。彼の強さは剣の腕前でも無ければ、死に抗う根性でも無い! 彼の本当の強さは―――どんな異常存在であろうとも理解に努める、その甘さなんだよ!」
刹那。
さんざめく光と共に放たれた魔力がレイナスの胴体を吹き飛ばし、中に居たアルドを弾き出した。
「それが……どうかしたか」
「貴方はよく頑張ったと思うわ。たった一本の剣で私を惚れさせるくらいに頑張るなんて。数の暴力に身を任せて貴方を捕えちゃったけど、私が一人だけだったら、恐らく私は貴方に負けている」
レイナスはアルドの頬を優しく撫でながら、その心へと滑り込むように言った。
「でも貴方は捕らえられた。この事実を貴方が守っている魔人が知ったらどんな反応をするのかしらね」
邪魔が入ったのは気に食わないが、第二の作戦というモノは当然用意してある。この世界に入ってアルドを捕えてから、レイナスは彼の過去を調べられる限り調べた(何故か閲覧できなかった情報もある)。そしてその結果、彼が唯一言われたくない言葉というモノを見つけてしまった。その言葉こそがアルドを自分の夫に相応しい存在へ育て上げた訳だが、だからこそ今の彼は、この言葉を言われたくない。
「きっと魔人達はこう言うでしょうね。自分達の王は何て弱いんだ―――女性に負けるなんて、きっと今まで戦うのをサボっていたんだ。『努力が足りないんだ』……って」
「…………何」
「私だって傍から見れば只の女性ですもの。見るだけで強さを計れない魔人はまず間違いなくそう思う筈よ。そして気付くの。貴方が一年間大陸の安定化に努めていたように見えていたのは、単純にそう見えていただけ。貴方の部下はとても優秀だから、実際に安定化を務めていたのは貴方の部下で、貴方は頑張っていたのかもしれないけど『努力が足りなかった』。だから貴方の部下は貴方の名誉を傷つけない為に裏で頑張っていたのだと。勝手な想像で出鱈目なのかもしれないけれど、そう思うでしょうね」
彼は常人には理解出来る筈のない努力によって、才能も無い癖に地上最強を名乗るに相応しい力を手に入れた。魔力の根源を打倒できる力を手に入れた。それ故に。だからこそ。努力が足りないと言われたくない。
「そんな筈はないって顔してるわね。じゃあどうなのかしら。もしも貴方が帰ってきた時、リスド大陸が荒れていて、何処かの誰かがきっと『安定化の努力が足りなかったんだ』と言い出したら、貴方は言い返せる? 本当に強いのなら、自分達を守ってくれるのなら。リスド大陸が襲われた際に魔王として直ぐ戻ってくるべきなのに、戻らなかった。それはきっと『戻ろうとする努力が足りなかった』んだと言われたら、貴方は言い返せる?」
言い返せないだろう。事実として、アルドはここに囚われて、彼の部下も戻れる状況にはない。その隙を突く様にしたのだから、彼の擁護をするのなら『戻れる訳が無い』。だが……これは世界から情報を受け取る上で分かった事だが。
アルドと関りの薄い多数の魔人は、彼に微塵の感謝も抱いていない。それどころかここ最近は、殺すべきだとすら思っているようなのだ。大陸の安定化の際はその努力に免じて思いは伏せていたのかもしれない。けども、もしその直後に国が襲われて、自分達が被害に遭ったのだとしたら。思いを伏せていた国民はどう考える。
言うまでもない事だ。彼等はアルドを憎む。どうして守ってくれなかったんだと責め立てる。所詮は人間なんだと失望する。この際、ナイツに敵意が向けられないのは、ナイツが魔人の集団であるからだ。それにナイツはアルドに従っており、基本的にその命令が無ければ戻ろうとしても戻れないのは当然。つまり、アルドが戻ってこようとしなければ戻れなかったとも考える事が出来る。
「完璧じゃない魔王何て要らない、民を守れない英雄なんて要らない。……ねえ、言い返せるかしら」
この弱点、ついさっきまではアルドに効かなかった。だが少しだけ的確に記憶を溶かした今ならば、彼には十分すぎる程通用する。
「言い返せるかしら……アルド・クウィンツ」
「…………」
彼を守っていた加護は消え去った。今の彼は、直ぐにでも崩れてしまいそうな程に脆い地上最強の英雄でしかない。関わりの薄い大勢ばかり気にしすぎて、本当に近い存在の言葉を聞けなくなってしまった人間でしかない。自分には手に取る様に分かっている。彼の思考が絶え間なく循環している事に。理想と現実の差異に耐えられなくなって、自己崩壊を起こしている事に。
再び頬を撫でる。筋肉の動きも無く、既に抵抗する気力が無くなっている事は明白だ。
これをしたくなかったのは、本人に著しい精神負担を掛けるからであり、暫くは廃人になってしまいかねない事だが。おかしな横槍を喰らって時間を無駄にするくらいなら仕方ない。アルドは何としても自分が手に入れる。
「でも安心して? 私だけは。私だけは貴方の事を見てる。貴方の努力を良く知っている。一人で戦っていたら確実に負けていた事も、多勢に無勢だったとしても勝つ為に戦い、三千万もの私を斬り倒した。それは誇るべき事よ? 貴方の努力が十分だったから成し得た功績。ええ、分かってる。私だけは貴方の事分かってるわ。ねえ、アナタ? アナタは憎いと思わないの? 自分の努力を分かってくれない魔人の事。もうとっくの昔に死んでる筈なのに、なんとか持ちこたえて必死に頑張ってるのに、それを理解しない魔人に怒りは抱かないの? 分からせてやろうと思わない? 私とアナタで、彼らの犯した罪というものを、裁いてやるべきじゃない? 貴方こそは唯一の男。私の夫に相応しい最高の男性。それを蔑ろにされて怒らない妻は居ないわ。ね、アナタ。分からせてやりましょう? 強さを。好き勝手に文句は言う癖に自分から動く事は無い癖に、絶対に安全な場所から罵倒ばかりする奴等に分からせてやりましょう? たまには怒ったっていいのよ? 魔人はどうせロクでもない奴ばかりだから、少しくらい怒ったって貴方は間違ってないわ。だから、ね? 貴方の感情を全部、全部、全部―――吐き出してみて?」
人間には心の拠り所が無ければ生きていく事が出来ない。地上最強の英雄と呼ばれた彼にもそれは必要で、そしてそれは今まで魔人だった。しかしその魔人からも拒絶されるのだと教え込んでやれば、完全に弱り切っている彼は思考する間もなくそれを信じ込み、自ら心の拠り所を捨てる。
そこに自分が入ってやる。そうする事で彼の拠り所はレイナスとなり、レイナスに仇為す者は全て敵となる。これが成功したら、記憶を消す必要なんて無い。彼自身に全てを壊させてやれば、彼の方から記憶を潰し始める。
既にアルドの目からは光が無くなりつつある。その光が完全に消えた時こそ彼の心を従えた証。唯一の拠り所となった自分を、彼は本能のままに貪り喰らうだろうが、それが本来の目的なのだから大歓迎だ。この体も心も、全ては彼のモノ。そして彼の身体も心も、全ては自分のモノ。
……勝利の時は近い。
かなり不味い状況にある。あの女、胃空間でいよいよアルドを懐柔しにかかっている。早い所あの女の腹を掻っ捌いて助け出してやりたいが、そうも行かない。相手が相手だ。
「……貴様、何者だ」
「だから創の執行者だよ。アルドの友達って言えばいいかな。今までは分かれてたんだけど、どうやら緊急事態みたいだからね。剣の執行者に頼まれた形になるけど、俺/私は助けに来たって訳。ああ、切札を使う必要は無いよ。……起源執行」
謠が一言呟くと、二億ものレイナスが凍結。それからはぴくりとも動かなくなって、虚空の焔に溶かされるかのように霧消した。あまりにも呆気ない、それでいて凄まじい規模の能力に、『鬼』と骸』は言葉を失っていた。
「アル……様、ユウ人。まこ……か?」
「まことまこと。それよりも君ら、今がどんな状態か分かってんの。俺/私が時間を巻き戻したからいいけど、君は本来死んでいたし、骸骨な君は何もかもを手遅れにしようとしたんだよ」
表情を見る限り分かっていないようなので、謠は彼女から目を離さないように気を付けつつ話を続ける。
「アルドはね、あの女性の胃の中に居るの。正確には執行者が壊した世界をあの女性が……って、そんな事はどうでもいい。とにかくあの女性を倒さない事にはどうしようもないの。でも君は切札を使おうとしたよね。まんまと挑発に乗ってさ」
「……代償、か?」
「うん。代償。君達とアルドの契約を逆手に取ろうとしたんだよあの女性は。それと、一応バラしておくけど、あの女性は只の女性じゃないよ。あの女性は―――原初の女性。君達の先祖と言うとちょっと違うけど、原初の存在である事に変わりはないよ」
「……?」
中々厄介な話だろうが、理解してもらうしかない。そしてそれを理解してもらった上で戦わなくては、アルドを助け出そうにも助け出せなくなる。
「とある国にはこんな神話がある。人間の始まりの話だ。神々の楽園で禁断の果実を食べた男性と女性が楽園を追放されて、苦難と共に生きるって神話何だけど。あの女性はね、その神話から逸脱した存在なんだ。具体的に言うと、楽園を追放されるどころか、彼女は楽園を支配したんだよ。神様を追放してね。その果てが彼女って訳。だから厳密には人類の祖になる筈だった存在」
「…………つまり、どういう事だ」
「どういう事もそういう事も無いよ。君達じゃあ戦ったって殺されるって事。さっき君は殺されたでしょ。そういう事だよ。普通に戦えば殺される。だから俺/私が来た。突然横槍を入れた奴が言う台詞じゃないけど。力を貸してもらうよ」
二人は返事の代わりとして、自分の横に立って各々戦闘態勢に入った。ディナントは壊れた事実の無くなった『神尽』を。ルセルドラグは斧槍を。起源を凍結させたのであの妙な分身は二度と使えない。にも拘らず、女性は不敵な笑みを浮かべて尚余裕を保っていた。
「……いいわ。もうすぐ私の目的は果たされる。少しだけ本気で相手をしてあげましょう。邪魔をしてきたお礼に、たっぷりといたぶってあげるわ」
「いたぶられるのはどっちだろうね。俺/私がどうしてこんな事になるまで到着が遅かったか、君は考えたかな」
「何ですって?」
「そもそもどうして死の執行者はこの世界に来たのかな。世界から受けた使命を果たす為だよね。じゃあそれがどんな使命か、それは執行者としての使命を放棄した俺/私達にだって分かる……世界のバランスを崩してしまいかねない『存在』の抹消だよ。どんな方法であれ、その世界から追い出せばいい訳なんだけどね」
「それが?」
「『権能使い』フライダル・フィージェント。三代目『勝利』クリヌス・トナティウ。『魔遮』カシルマ・コースト。君は彼の妻を自称する割に、彼の強さを理解出来ていない様だね。彼の強さは剣の腕前でも無ければ、死に抗う根性でも無い! 彼の本当の強さは―――どんな異常存在であろうとも理解に努める、その甘さなんだよ!」
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