ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

漆断の大鎌

 ディナントの武器が大太刀と呼ばれる獲物ならば、リョウマの持つそれはジバルに普及する和刀。彼の武器と比べるとかなり長さは違うものの、何処から来たのかは知らないが、『住人』を殺さんとしたファーカの鎌を防ぐに至った踏み込みは評価に値する。
 生命力で言えば比べるまでも無いが、技量で言えば、恐らくアルドに僅か劣る程度。見ず知らずの女に最愛の主アルドを夫扱いされてファーカはすっかり頭に血が上り切っているが、そのせいで『虚』が最果ての空虚より姿を現してしまったので、この場合彼女の思考を負担しているのは低俗な感情を持たぬ『虚』。他でもない彼女の身体を負担しているのは理性が失われつつあるファーカ。どちらも同一存在だが、同一人物ではない。そんなややこしい状態が、今のファーカに最大の力を与えている。
 いわば、今の彼女は思考だけは冷静なバーサーカーだった。そして奇しくもその状態は、彼女がアルドに忠誠を誓う前―――彼と本気で殺し合っていた時と全く同じだった。だからと言って目の前の男に惚れる訳では無いが、何にしてもこの状況において、自分には全力を出さないという選択肢はない。アルドに負担を掛けたくないので第三切札を切るつもりは無いが、それでも……
 ファーカは不自然に閉じた左目を開眼。双眸はごく一部の例外を除き左右対称で無ければならないのだが、彼女の眼からは一切の光、そして瞳が消え失せていた。その奥に見えるモノは無く、無限の闇ばかりがリョウマを見据えている。あの時は代償などと言ったが、これは厳密には代償ではない。自分の恥ずかしい姿をチロチンに見せたくなかったから行った嘘に過ぎない。
 しかしその彼は今、本来の世界に残っている。ならば存分に暴れさせようじゃないか。この力を。
 ファーカは踏み込みも無しにリョウマへと肉迫。『落葉』で胴体を寸断せんと須臾の早さで三連撃を放つが、それをリョウマは一歩も動かずに全てを防御。微かな隙に見えたファーカの頬を殴りつけんと拳を放つも、虚空か出現した口とも蕾ともつかぬ何かに腕を丸ごと捕食され、無効化。その喰われ方と来たら爪と皮の間から触手のようなモノが忍び込み、内側から腕をぐちゃぐちゃに食い荒らす方法だったが、痛みに怯む事なくリョウマは更に間合いを詰めていく。
 この闘い、容易に終わらない事は互いに承知していた。お互いの規格外な強さを理解しているのだ。だから油断もしないし、出し惜しみも無い。お互いにそれは敗北という名の死に直結する事を本能で感じ取ったから。
 大鎌という武器の性質上、どうしても少しは距離を取らなくてはならないのだが、その定石を無視してファーカは突撃。一方から肉迫されていただけでも距離は縮まっていたのに、双方が近づこう者なら直ぐに距離はゼロになる。二人の身体が接触する刹那―――甲高い剣戟音がこの場に反響する。
 彼我の懐では、いつ取り出したかファーカの片手鎌シックルとリョウマの刀がぶつかっていた。剣戟音の正体はそれ以外に考えられない。
「鎌……とはの。稲刈りの際にしか見たこたぁねえが、ずっと隠し持っていたか?」
 むしろこれがある事を分かっていたから、ファーカは大鎌の欠点を無視して突っ込んだのだ。不意打ちになるだろうと思って首を狙ったのだが、防がれてしまった。何よりの不幸は相手も同じ事を考えていた様で、いつの間にか再生した腕で小太刀を握りしめていた事だ。今までの速度から言って認識してからでは遅いので、指に力が込められた瞬間、一歩引くと同時に前方へ『落葉』を振り下ろした。刃は地中深くに潜り込んで自分達の足元を含めたあらゆる方向に罅を加えたが、防御と呼ぶには一歩足らなかった。ファーカの首は僅かに吹き飛び、支えていた頭がぐらりと揺れる。
 まともに食らっていたら既に首を穿たれて絶命していただろう。内心冷や汗を掻いていると、丁度ファーカの横で罅が入り『虚』が姿を現した。リョウマの視線は一瞬そちらに傾いたが、『虚』は彼女の首元へ不定形の肉塊を投げ込み、間隙無くその傷を回復させるだけで引っ込む。
 これで元通りだ。僅か一瞬にして全ての行動は、改めて仕切り直される事になる。
「厄介じゃな。その珍妙な物の怪。あしの今の装備じゃあ太刀打ち出来そうもない―――『武光闘気』」
 そう言い放った直後、男の周りを赤い魔力のようなモノが包み込んだ。このまま待っているのはわざわざ負けに行くようなモノなので、ファーカは直ぐに『落葉』で薙いだ。狙いは首では無く、銅。大鎌ほど刃が大きければ脇腹を狙ったって十分に即死を狙える。何より、この鎌は滅びの能力を持ち合わせている。一発当たれば死なずの怪物と言えども地獄へ葬り去る事が出来る。湾曲した刃は吸い込まれる様に男の脇腹へと放たれて……空を切った。
 気づいた時にはリョウマの身体は既に懐へ潜り込んでおり、ファーカの口内へ小太刀を突き刺していた。慌てて小太刀を噛み砕いて頭突きをお見舞いすると、最初から手応えがない事に違和を覚えていたリョウマは命中の直前に自ら吹き飛んで威力を減殺。背後に転がって受け身を取ってくれたお蔭で再び距離が開いたが、今のはかなり危なかった。急所と思わしき部分を『虚』に繋げていなければ既にこの体は死体となって朽ちていただろう。
 これ以上防戦が続くと流石に誤魔化せる気がしないので、主導権を握る為にファーカが動き出した。あちらは刀と小太刀の二刀流、こちらは大鎌と片手鎌の二鎌流。威力とリーチでは問題なくこちらが勝っている。大鎌に関しては一発当てるだけでいい、只それだけ。虚空から伸びてきた触手と共に切り込んで、フェイントも挟みつつ攻撃すれば撃破は容易。『虚』の触手を先行させつつ、ファーカは大上段で鎌を振り下ろす。
 それが計画だったのだが、実際は虚空から触手が出てきた瞬間に切り落とされて、先に動いたのは間違いなくファーカであるものの、先制攻撃を仕掛けてきたのはリョウマだった。自分の獲物を見て、彼は距離を取る事を負け筋と見ている。『落葉』が使えないとなるとファーカが使えるのは実質一本だけだから、手数で押し切ろうという作戦なのだろう。実際、妙なモノを纏ってからの彼は、それを纏う前と比べて五倍以上に跳ね上がっている。押し切られるのは時間の問題だが……まだ負けた訳じゃ無い。
 相手が超接近戦を望むというのならこちらもそれに従うまで。ファーカは『落葉』を手放した。あまりにも『落葉』を警戒している為か、リョウマの目線が一瞬だけ上を向く。その隙にファーカは虚空からもう一本の片手鎌を引き抜くと同時に、彼の胸を切り裂いた。甚平を切り裂いて、上半身からは大量の血液が迸る。
 その手応えから一瞬の怯みを感じ取ったファーカは更にもう片方の鎌でリョウマの被る深編笠へと刃を突き立て、乱暴に破壊。その先にあるリョウマの顔が驚きの色で染まるよりも早く、脇腹を抉り取るようにもう一撃。肩にもう一撃。首にもう一撃。
 彼が事態を理解する頃には、その全身はズタズタに切り裂かれていた。ファーカが『落葉』を捨てた時点で、彼我の間で一番大きな武器を持っているのはリョウマ自身だ。そして刀は超接近戦においてはクズ同然の武器。
 先程は『落葉』を使う為にファーカが後退していたから成立していたのであって、こうしてお互いに捨て身覚悟で距離を詰めればこうなるのは当然である。そしてどんなに強力な再生能力があっても、それを凌駕する破壊力の前では意味を為さない。
 負けじとリョウマも剣戟戦に応じるが、肩の筋肉を切り裂かれたせいで上手く力が入らず、ファーカの剣戟にまともに反応する事は出来ない。
 にも拘らず数時間。それでも倒れない男に痺れを切らしたのか、ファーカは先程の攻撃にも劣らぬ八連撃を繰り出した。狙う個所の全てが急所。仮に全てを防いだとしても、彼の力の源である全ての筋肉が切り裂かれている今の状態では、勢いも殺せずに防ぐ事になる。自分の使っている片手鎌は『落葉』には及ばぬまでも極位相当の武器なので、それをまともに防ごうとすれば刃が折れる。リョウマの刀が正にそうなった。
「ガアアアアッ!」
 やぶれかぶれになったか、意味も無く突き飛ばされる。特に痛みは無い。元気よく立ち上がるファーカと相反して、殆どの攻撃を諸に受けたにも拘らず退く事さえしなかった男は、ついに。ようやく片膝を突いた。
「…………一つ尋ねても宜しいですか」
「……なんじゃ」
 見る限り、この男にもう戦う力はない。いつでも首を狩りとれるように『落葉』を回収しつつ尋ねる。
「どうして貴方がたは執行者に肩入れするのですか。殺す前に、それだけは聞かせてください」
 思えば相手がたの目的は全て謎だった。『住人』まで使って自分達の世界を奪うというのは分かる。分かるが、それはどうして? 理由は?
 やりにくさを感じていた訳では無いが、相手の正体を理解する事に損はない。正体不明の怪物程恐ろしいモノは無いのだから。
 リョウマは相変わらず緩慢な口調で、しかし敵意だけはこちらに向けたまま語りだした。
「執行者はのう、世界の意思によって動くんじゃ。世界の意思……即ち正義じゃな。執行者はそれを全うする為に、あし等に声を掛けた。その出会いはあまりにも突然じゃったから、信頼関係なんぞは無い。だが、大義がある。それ故にあし……『藏』を含めたオルト・カローナはお主らと戦っておる。皆、自分がしたい事をする為に戦っとるんじゃ」
「……言い方が引っかかりますね。同情して欲しいと?」
 事情を知る前と比べると、彼等にも妙な温かさを感じるようにはなったが、それはそれ。彼等はアルドを拉致した大罪人であり、事情が何であれその行為は万死に値する。ここまで散々自分達の世界にちょっかいを出しておいて、今更許される筈なぞ無い。
 こちらの思いを否定するように、リョウマは首を振った。
「―――いんや。お主は偉いなと思っただけじゃ。あしがわざと隙を見せてるのに動かないなんて、中々どうして勘が鋭い」
 ……何?
 自分の見る目に間違いがあるとは思えない。再生能力がどれだけ強力でも、それを遅らせる為にこっちは無駄な個所も斬りつけておいたのだ。どう少なく見積もっても後一分は満足に動けない筈。それなのにリョウマは……苦も無く立ち上がった。






「『士生ナイトチェンジ』」








 ズタズタに切り裂かれた甚平が剥がれ落ちる。代わりにリョウマの身体を纏ったのは見る事も叶わぬ白銀の鎧。
 それは間違いなくそこに在るだろう、だがそれの全容を掴む事は出来なかった。そこにある事は分かっている。分かっているのにその鎧は、『視えない』。そこに在りながらも、そこに無いかのように認識する事が出来ない。何より異常なのはその光輝。そのせいで全容を掴めないのは勿論あるが、何よりもこの光。一体どんな原理なのかファーカの身体を焼いていた。呑気に装備を変えている彼に近づけないのは、これが大きな割合を占めている。
―――これは一体。
 先程とは比べ物にならない程の魔力―――否、既にそれは神威とも言うべき領域に達していた。これ以上あの鎧を完成させてはならない。本能で直感したファーカは『虚』から数十もの触手を伸ばしてその体を潰さんと囲むが、触手が鎧に触れた瞬間、蒸発音と共に触手が消え去った。あらゆる空間と世界に繋がっている筈の『虚』を拒絶するなんて、どう考えても普通の鎧じゃない。
 その後も数十分以上攻撃を試みたが、ものの見事に全て灼き払われた。ひょっとして完全に回復するまで鎧に閉じ籠るつもりかとも考えたが、リョウマが兜を被った瞬間に、その光輝は一時的に輝きを鈍らせた。
 一応補足しておくが、鎧の無い部分は特に重い攻撃を仕掛けた。だがあの鎧の光輝が全てを打ち消していたせいで、まだ見えていた頭部にも攻撃が届かなかったのだ。
「…………これこそは神の鎧。それを顕現させるは『神光闘気』。執行者がアシを誘ったのは、あらゆる世界で唯一無二、神威を纏う事が出来るから」
 背中に出現した剣は白蒼の奔流を留めて刃を形作っている。その様子から恐らく超高密度の魔力を刃としている可能性が非常に高く、であれば実体のある『落葉』での防御は意味を為さなそうだ。
 幸運なのは、あの鎧を着てくれたお蔭で動きが鈍くなったと思われる事か。彼の装備した鎧は、その外装から推定するに牛数頭分以上の重さがある。片手鎌を見もせずに放り投げて、ファーカは『落葉』を持ち上げ、先手必勝とばかりに刃を突き立てた。
「…………ッ!」
 鎌に宿りしは滅びの概念。どれ程の強度の防具であれ、その概念を覆す事は叶わない。この鎧も例外では無かった。だが、それは飽くまで刃が当たればという話であり、鎧に触れる直前で止められてはどうしようもない。冷静さを保つためにも再び退くと、白銀の兜が擦り合った金属音と共にこちらを向いた。
 刃に宿っている滅びの概念は、たとえ魔術であろうとも例外なく殺せる。その刃を受け止めたという事は……つまり。
「……成程。神威を纏う事が出来るとは本当の様ですね。まさかこの一撃を防がれる事になると……」
 自らの名誉の為にも言い訳させてもらいたい。こんな怪物を相手に油断などこれっぽっちもしていなかった。ただいつもの癖で、瞬きをしてしまっただけ。それだけ。
 次に目が開いた時、リョウマは強烈な刺突をファーカの心臓へと放っている処だった。
「うッ!」
 あんな攻撃をまともに受けられるものか。咄嗟に屈んで回避して足を斬り付けるが、手応えを感じなかった。あんな鎧を纏っておきながら機動力は下がる処か上がっているとは冗談じゃない。彼の背後を通り抜けると、ファーカはすかさず反転して隙だらけの背中へ一撃。
―――『戯滅』!
 その拳がぶち当たる寸前、ファーカの拳が夢幻に広がって収束。叩き込まれた一撃は反響と共に得螺旋階段を粉砕し、周囲の壁をも粉砕し、二人の立つ地面すらも粉砕しかけた。常識外れの光輝を持つ鎧すらも病葉同然に吹き飛ばし、壁を破壊する。
「ぬぅッ!」
 『戯滅』は本体を利用した時間同化法。一秒前から生まれた直後までの全力を現在に収束させて加算する一点集中型の第二切札だ。そして吹き飛んだ様子から推察するに、一撃必殺の鎌は効かずとも純粋な打撃は通すらしい。程なくして戻ってきた鎧には、無数の罅が入って……いなかった。
 一秒前の自分から生まれた瞬間までの全力を加算して、それでも届かないのなら。『今』の自分に彼を傷つけられる手段があるとは思えない。五分で終わると思っていたのは、完全な思い違いだったようだ。まあ諦めないが。
 リョウマが再びこちらを剣で薙いだのを躱して足を払う。重すぎて払えない。直ぐにその場を退避すると先程まで居た場所に白蒼の奔流が突き刺さった。あれ程の強さで地面へ突き立てたら中々抜けるモノじゃない。これ好機とばかりにファーカは強烈な一撃を鎧の隙間に突き立てると、突然リョウマの動きが止まった。
「…………………………やりおるな!」
 果たしてそれはファーカを油断させる作戦だったようで、見るモノ全てを眩ませる光輝と共にリョウマが突進。彼女の矮躯には重すぎた一撃が、彼女を無様に壁へ叩き付け、その場で吐瀉物を嘔吐させる。それでもファーカは立ち上がろうとしたが、壁に叩きつけられた際に肩の骨が外れたらしい。余裕の残った笑みから一変、焦燥感に満ちた表情になりながらも、止めのつもりで放たれた追撃を躱した。
 しかし敵も然る者。追撃が躱されると理解するや二連撃を放って彼女の行動を封殺。動きが固まった所でその矮躯を雑に掴み上げ、近くの壁に投げ飛ばした。壁に叩きつけられたファーカはまたも嘔吐したが、その身体が地に落ちぬ内に刺突によって体を縫い留められた事で吐血。それは僅かな量だったが、白蒼の奔流に崩されて壁に縛られた彼女の胴体は既に消し飛んでいたので、不自然な事は何も無い。
 こちらが剣を抜くまでも無いだろう。ファーカの美しい顔と足だけが地面に転がった。そこから再生するかどうかは知らないが、念のためにそれらも消し飛ばしておく。
 後にはもう、何も無い―――
「……なーんてね」
 してやったりとファーカの声。リョウマは直ぐに身を翻そうとしたが、それを手伝ったのは他でもないファーカだった。
「ふんッ!」
 彼の背後にぴったりと張り付いたファーカは彼を持ち上げると同時に上半身を大きく逸らし、お返しの様に背後の壁へ叩きつけた。両者の想像通り、その攻撃はまるで効いていない。効いていないものの、死んだ筈の存在からの反撃は前例がなかった為、リョウマは壁に頭部を埋めたまま少しの間動けなくなった。
鏡生かわれ仰信うつしみよ
  アルド救出の猶予をわざわざ削る事はしたくない故、第三切札は使わない。だが、それ以前の全ての技は使わせてもらう。壁に埋まったままのリョウマが頭部を引き抜くと共に凄まじい踏み込みでファーカの身体を両断したが、斬られたはずのファーカは五体満足で彼の足元へ出現。『落葉』を薙いで彼の両足を弾き飛ばす。この時点でリョウマは驚いた。効かない筈の鎌が自らの身体に触れる不思議に。
 それもその筈、ファーカは『虚』の力を借りて鎌の特性を一時的にだが完全に封じ込めていた。その時点で『落葉』は何の変哲もない大鎌だが、それが通ったと言う事は、彼の着る鎧の特性は『特異性の拒絶』という事が分かる。それを抜きにしても鎧の硬度はすさまじいが、攻撃が通る以上、こちらにも勝ち目はある。『今』の自分に勝ち目はある。
 足を掬われてその場に倒れ込んだリョウマは、心臓めがけて振り下ろされた鎌を『神罰の剣ラグナロク』で防御。鎌の振り下ろされた位置から大体の場所を割り出して、刃として治められていた奔流を解放し大きく薙ぎ払う。実体を持たない武器はこういう時に不意打ちを仕掛けられるから便利だ。素早く立ち上がると、奔流を解き放った方向に脇腹を吹き飛ばされた少女が立っていた。大きく横に薙ぎ払ったのだからあそこが吹き飛んでいるのなら両断されている筈だが。多少驚いたが、装備面から言ってこちらが圧倒的有利。先程から剣戟戦を仕掛けてこないのが証拠だ。彼女の持っている大鎌は接近戦には不向きすぎる。一方でこちらの剣は剣である以上、接近戦は領分の内。その胴体を両断せんと踏み込めば……そう。彼女は必ず避ける。避けて反撃をする。何度も同じ手を食うつもりは無い。ファーカが再び背後に回り込んだタイミングでリョウマは再び奔流を解放。的外れな方向を薙ぎ払うも、介抱された奔流は自分の身体を回り込んで背後のファーカを吹き飛ばす。
「ヴッ!」
 そして直ぐに懐へ潜り込む。すると、先程の奔流で両手を焼かれたファーカは仕方なしに接近戦の申し出に受けて立った。想定通り彼女の大鎌は剣の領分で振り回すには非常に不便で、こちらの連撃を最小の被害で回避する他にやり様は無い。この間、『神罰の剣』は鞭のようにしなって壁や床を破壊して回っているが、それに注意を払っていない時点でこちらの価値は確定したようなモノだ。
 ファーカが彼の狙いに気付いたのは、背後の礫岩にぶつかってから、既に手遅れになってからの事だった。
 そう、彼は無差別に破壊していたのではなく、そう見せていただけ。実際は頃合いを見て背後を礫で止めて、確実に攻撃を当てる為に誘導していたにすぎないのだ。その事に動揺してしまったせいか、斜め下から切りあげられた一撃が命中。反射的に魔力を集中させて両断を防いだが、腹部からは大量の血が魔力と共に迸って消え去った。
「これで……終わりじゃ!」
 肩口に放たれた、恐らくは袈裟斬りが狙いの一撃は、今度こそ誤魔化しようも無くファーカの身体を切り裂いた―――その直前。
「ハアアアアアアアアアアアアアッ!」
 上空から咆哮にも似た叫び声と共に、一人の人物が落下してきた。その事に気付いたリョウマは直ぐに刃を振り抜いて応対しようとしたが、何とファーカが手首を掴んで無理やり斬撃を止めてくれたせいで、それが出来なくなってしまった。
「なッ、お主そんな力を一体何処に!」
 答えない。答える筈もない。仮にその力の所在を言うならばそれは気合いと根性。リョウマが知る由は無いが、それは彼女達の主が得意とする、あらゆる理不尽や無謀を切り抜ける最強の力だった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ラ゛ァ゛!」
 白銀の鎧を、見覚えのある長槍が貫いた。








 


 











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