ワルフラーン ~廃れし神話
背中合わせの神と人
アルドが動き出したのは、ナイツ達が散開したのを見届けてからの事だった。とは言ってもチロチンはリーナを背負っているので動けない。彼女に付き纏っているらしい男がこの混乱に乗じて近づいてこないとも限らないので、アルドには彼を連れて歩くより他は無かった。
……フィージェントと一緒に。
「お前はキリーヤ達に協力しなくていいのか? 仮にも御守りだろう?」
ナイツの行動を全て抑え込むのならば、フィージェントの協力は必要不可欠である。彼の体質『帛原』と、それを助けている記憶複影病の組み合わせによって実現されるあらゆる道具の作成、そしてその応用によって生まれる神の権能。これら二つを用いれば、如何にナイツと言えど反撃不可の制約がある以上はどうしようもないだろう。
「いや、協力はするんだけど、先生も殺すんだろう? 先生の部下さん止めるのは簡単かもしれないが、先生を止める事は容易じゃねえ。だから俺はこの選抜とやらが終わるまで、先生専属で監視させてもらう」
「過大評価だよ。殺しの早さで言えばアイツ等の方がずっと早いさ」
「だからこそ、だ。俺からすれば人間から離れれば離れる程容易な相手となるが、先生みたいに人間から逸脱しながらも人間のままで居るような相手は一番面倒だ。権能も制限されるしな。な、別に構わないだろう? 久々に会ったんだから先生とは色々話してたいし、人間以外の殺戮だったら俺も協力するからさ」
言いつつフィージェントは『想藍』に矢を番えて、前方の『住人』に発射。『住人』は何をされたかも理解出来ないまま、頭部を貫かれて傍らの噴水へと沈む。あらゆる矢を必中へと変化させる弓とはいえ、何処に当たるかまでは本人の技量に依る。それでいて距離はおよそ弓が当たるような距離では無いので、フィージェントの技量が如何に高いかが窺える。
こんな存在が隣に居ては一人も人間を殺せなさそうだ。しかしながらリーナへと近づこうとする悪意ある人間にいち早く気付けるのも彼。そういう意味では、隣に置いていても悪くないかもしれない。
「……ま、そうだな。私もお前とは話したかった。その前に一つ尋ねたいが、お前は私との約束を守っているか?」
「勿論だよ先生。俺がアンタとの約束を破るなんて、天地がひっくり返ろうが世界が滅ぼうがあり得ない。信じられないんなら、ここで改めて言ってみようか」
フィージェントは『鞘』から角笛のようなモノを取り出して、闘技街全体に響き渡る様に、言った。
「ひとおおおおおおおおおおおおおおおおおおつ! 死者を蘇らせてはいけない!」
そんな大声を上げたら当然『住人』も反応する訳で、この街全体に響き渡る音の変動から推測するに、何人かはナイツとの戦いを離れてこっちに向かってきているようだった。
「ふたああああああああああああつ! 特別な力だからと言って、驕ってはいけない!」
直ぐに数十人程度の『住人』が自分達を取り囲むように集まってきたが、こちらはともかくとして、フィージェントは一向に角笛を手放そうともしないし、避けようともしない。それでは攻撃を喰らいっぱなしなのかと言えば違う。『住人』達の攻撃の方が、何故かフィージェントを躱しているのだ。
「みいいいいいいいいいいいいいいいいつ! 人である事を弁えろ! ……な、先生。俺はきっちり覚えてるよ。アンタとの約束をな」
得意げになって自らを指さすフィージェントに、アルドは頭を抱えながら、襲い来る『住人』を苦も無く葬っていく。
「……うん。それはいいんだがな、何で大声で言ったんだ?」
「え、だってこうした方がもっと『住人』が来るだろ。『住人』が集まる所に人間は来ない。俺と『住人』、この二重の壁によって、俺は何としてでも先生に人間を殺させない」
発想は無茶苦茶だが、その目的は案外しっかりしていた。『住人』が生きているモノを忌み嫌っている以上、人間がその中に飛び込む事はまずありえない。『住人』を利用してこちらに攻撃する事こそあるかもしれないが、既に自分達を取り囲んでいる『住人』は二百人を優に超えている。この人数を出し抜いてまでこちらに攻撃してくるような人間が居るとは思えないし、そんな人間が居るとしてもきっと何処かに潜伏しているだろう。その方が危険も無いし、ずっと正しい判断だ。
「……どうやら人間を殺す事は諦めた方が良さそうだな。チロチンの負担的にもこれ以上は不味いだろう」
身内話に花を咲かせていた事もあって、チロチンも突然自分に話が及んでくるとは思っていなかったようだ。リーナに配慮しつつ、足元から飛び出してきた『住人』の剣戟をすんでの所で躱して、アルドの背中へと回り込む。
これによって三人(厳密には四人)は、互いの背中を向き合わせる形となった。
「私……ですか? いえ、私は特に」
「背中に女性を背負って二百人を相手にするなんて私でも無理な話だ。謙遜や遠慮はしなくていい。お前は背中に居るそいつを守っていろ。それ以外の負担は全て私と―――」
「俺が」
「負担する」
突発的に言った発言とはいえ、乗ってくれたフィージェントには感謝だ。人間以外の殺戮には手を貸す―――それは言い換えれば、チロチン及びリーナを守る為の戦いにも手を貸すという事。その言葉に従って、彼には全力で仕事してもらおう。本当は適当に殺して回りつつナイツを見かけたらソイツと合流して戦おうと思ったのだが、致し方ない。一時共闘という形で落ち着かせて頂こう。
「思えばお前と共に戦うのは初めてか」
「そうだな。正確には二度目だろうけど、あれは俺が足を引っ張り過ぎてた。今度は足を引っ張らない様に、いやむしろ先生に足を引っ張らせる程度には頑張るとするよ」
自信満々にそう言ってのける弟子に、アルドはかつての記憶を蘇らせて、ニヤリと笑った。
「ほう、よくぞ言った。なら見せてもらおうか。成長したお前の実力が、どれ程のモノかを!」
二刀流などと舐め腐ったスタイルにはしない。異名反転、死剣の柄に手を掛けて、居合を放った。
燦爛たる鮮血が、迷い無き剣閃と共に迸る。
……フィージェントと一緒に。
「お前はキリーヤ達に協力しなくていいのか? 仮にも御守りだろう?」
ナイツの行動を全て抑え込むのならば、フィージェントの協力は必要不可欠である。彼の体質『帛原』と、それを助けている記憶複影病の組み合わせによって実現されるあらゆる道具の作成、そしてその応用によって生まれる神の権能。これら二つを用いれば、如何にナイツと言えど反撃不可の制約がある以上はどうしようもないだろう。
「いや、協力はするんだけど、先生も殺すんだろう? 先生の部下さん止めるのは簡単かもしれないが、先生を止める事は容易じゃねえ。だから俺はこの選抜とやらが終わるまで、先生専属で監視させてもらう」
「過大評価だよ。殺しの早さで言えばアイツ等の方がずっと早いさ」
「だからこそ、だ。俺からすれば人間から離れれば離れる程容易な相手となるが、先生みたいに人間から逸脱しながらも人間のままで居るような相手は一番面倒だ。権能も制限されるしな。な、別に構わないだろう? 久々に会ったんだから先生とは色々話してたいし、人間以外の殺戮だったら俺も協力するからさ」
言いつつフィージェントは『想藍』に矢を番えて、前方の『住人』に発射。『住人』は何をされたかも理解出来ないまま、頭部を貫かれて傍らの噴水へと沈む。あらゆる矢を必中へと変化させる弓とはいえ、何処に当たるかまでは本人の技量に依る。それでいて距離はおよそ弓が当たるような距離では無いので、フィージェントの技量が如何に高いかが窺える。
こんな存在が隣に居ては一人も人間を殺せなさそうだ。しかしながらリーナへと近づこうとする悪意ある人間にいち早く気付けるのも彼。そういう意味では、隣に置いていても悪くないかもしれない。
「……ま、そうだな。私もお前とは話したかった。その前に一つ尋ねたいが、お前は私との約束を守っているか?」
「勿論だよ先生。俺がアンタとの約束を破るなんて、天地がひっくり返ろうが世界が滅ぼうがあり得ない。信じられないんなら、ここで改めて言ってみようか」
フィージェントは『鞘』から角笛のようなモノを取り出して、闘技街全体に響き渡る様に、言った。
「ひとおおおおおおおおおおおおおおおおおおつ! 死者を蘇らせてはいけない!」
そんな大声を上げたら当然『住人』も反応する訳で、この街全体に響き渡る音の変動から推測するに、何人かはナイツとの戦いを離れてこっちに向かってきているようだった。
「ふたああああああああああああつ! 特別な力だからと言って、驕ってはいけない!」
直ぐに数十人程度の『住人』が自分達を取り囲むように集まってきたが、こちらはともかくとして、フィージェントは一向に角笛を手放そうともしないし、避けようともしない。それでは攻撃を喰らいっぱなしなのかと言えば違う。『住人』達の攻撃の方が、何故かフィージェントを躱しているのだ。
「みいいいいいいいいいいいいいいいいつ! 人である事を弁えろ! ……な、先生。俺はきっちり覚えてるよ。アンタとの約束をな」
得意げになって自らを指さすフィージェントに、アルドは頭を抱えながら、襲い来る『住人』を苦も無く葬っていく。
「……うん。それはいいんだがな、何で大声で言ったんだ?」
「え、だってこうした方がもっと『住人』が来るだろ。『住人』が集まる所に人間は来ない。俺と『住人』、この二重の壁によって、俺は何としてでも先生に人間を殺させない」
発想は無茶苦茶だが、その目的は案外しっかりしていた。『住人』が生きているモノを忌み嫌っている以上、人間がその中に飛び込む事はまずありえない。『住人』を利用してこちらに攻撃する事こそあるかもしれないが、既に自分達を取り囲んでいる『住人』は二百人を優に超えている。この人数を出し抜いてまでこちらに攻撃してくるような人間が居るとは思えないし、そんな人間が居るとしてもきっと何処かに潜伏しているだろう。その方が危険も無いし、ずっと正しい判断だ。
「……どうやら人間を殺す事は諦めた方が良さそうだな。チロチンの負担的にもこれ以上は不味いだろう」
身内話に花を咲かせていた事もあって、チロチンも突然自分に話が及んでくるとは思っていなかったようだ。リーナに配慮しつつ、足元から飛び出してきた『住人』の剣戟をすんでの所で躱して、アルドの背中へと回り込む。
これによって三人(厳密には四人)は、互いの背中を向き合わせる形となった。
「私……ですか? いえ、私は特に」
「背中に女性を背負って二百人を相手にするなんて私でも無理な話だ。謙遜や遠慮はしなくていい。お前は背中に居るそいつを守っていろ。それ以外の負担は全て私と―――」
「俺が」
「負担する」
突発的に言った発言とはいえ、乗ってくれたフィージェントには感謝だ。人間以外の殺戮には手を貸す―――それは言い換えれば、チロチン及びリーナを守る為の戦いにも手を貸すという事。その言葉に従って、彼には全力で仕事してもらおう。本当は適当に殺して回りつつナイツを見かけたらソイツと合流して戦おうと思ったのだが、致し方ない。一時共闘という形で落ち着かせて頂こう。
「思えばお前と共に戦うのは初めてか」
「そうだな。正確には二度目だろうけど、あれは俺が足を引っ張り過ぎてた。今度は足を引っ張らない様に、いやむしろ先生に足を引っ張らせる程度には頑張るとするよ」
自信満々にそう言ってのける弟子に、アルドはかつての記憶を蘇らせて、ニヤリと笑った。
「ほう、よくぞ言った。なら見せてもらおうか。成長したお前の実力が、どれ程のモノかを!」
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