ワルフラーン ~廃れし神話
終わりなき人の破滅
魔人が近くに居るだけで拒否反応を起こす人間も存在する事から、アルド達は早々にこの村を離れた。恩知らずな人間の発言が、ナイツの琴線に触れるとも限らないし、そうなったらそうなったでまたややこしい。勝手に死んでくれる分には結構だが、人間にわざわざ殺して回る程の価値は無いので賢明な判断だと思う。特にファーカやルセルドラグは、十中八九あのまま滞在していたら暴れていた。
「んっんー視線を感じる! 俺様への、熱い視線! これは、これはまさか……俺様への愛を語る視線ッ? 種族を超えた、大いなる恋の始まりかッ?」
「只の嫌悪感ですよ、ユーヴァン。あまりぶっ飛んだ勘違いは控える事ですね」
彼が何とか己を道化として場を盛り上げてくれようとしてくれている事は非常に有難かった。度重なる人間の無礼(特に何かされた訳でも無いが、ずっとこちらに殺意を持って見つめてくる事が気に食わないのだろう)に苛立ちを募らせているファーカが、その矛先を逸らしてくれている。それも結構な割合で逸らしてくれており、村から離れるや直ぐに虚空から『住人』達が無限に湧き出てくるが、ファーカはまるで相手にしていない。
いや、自分も特に気に留めていないので当然なのだが。
「はあッ!」
「ふんッッ!」
「ふぁ~い、弱すぎて欠伸が噛み殺しきれん」
というのは、こちらの進路を妨害すべく現れる「住人』達は、皆キリーヤ達が相手をしてくれるので、その必要性が無いのだ……本来、彼女達には殺せないが、彼女達にはフィージェントが居る。彼から『祝福』を授けてもらえば、あら不思議。今まで殺せなかった『住人』達を、まるで不死性何て存在しないかのように葬る事が出来る。こんな事態になるとは想定していなかったが、彼女達の所にフィージェントを送り付けて正解だったと思う。
「……距離的に、後一時間程歩けば到着する。前方に聳える闘技場からも煙が上がっている事からも分かる通り、まあ人間共は『住人』と戦闘しているのだろう。あそこは全くの無法故に、むしろ治安が保たれている危ない町だが、まさかそんな街すらも混沌に陥ってしまうとはな」
「行動については、先ほどの村と同じようになさるおつもりですか?」
「いや。あの街だけは無差別で構わない。殺したければ殺しても良いし、殺したくないなら殺さなくても良い。ファーカもルセルドラグも、先ほどから私が無理に押さえ付けているようで申し訳なく思っていたが、あっちでは好き勝手に暴れてくれて構わない」
仮にもキリーヤ達の居る近くで、アルドは素っ気ない口調でナイツへの命令を下した。その言葉を聞いたファーカとルセルドラグは、ユーヴァンへの意識を即座にこちらへ傾けた。
「よ、宜しいのですか? それでは停戦が成立しなくなるのでは」
「全く以て同意見です。アルド様、一体どういった考えの下、我らにそのような命令を」
キリーヤ達が会話に飛び込んでこなかったのは、二人の意見が言いたい事の全てを集約していたからだろう。確かに、救う側の英雄と手を組んでおいて、早速皆殺しは筋が通っていない。それはこちら側のみに存在する一方的なメリットでしかないから……本来であれば。
「どういった考えも何も、ストレスを抱え込むのは良くない事だ。今のこんな状態じゃ、私だって手が回らないかもしれない。そんなお前達のちょっとしたストレスが人間の命一つで発散されるというのなら、リターンは非常に大きなモノと考えているが」
「……停戦は、どうなるのですかん」
「無論継続だ。そいつらにだって動いてもらうぞ、この戦いの首謀者探しの為にな。しかしながらそれだけの為に動かすのはあまりに非効率的で、加えて停戦を受諾してくれたお礼も渡せないようでは魔王の名が廃るのでな……考えたんだ。ちょっとした選抜をな」
そんなに大した案では無いのに、どうしてだろうか。その事について考えるだけで、口から笑みが零れてくる。ディナントが見ていようがファーカが「どうしかしましたか?」と尋ねてきても、やはり笑みは消え去らなかった。
「選抜……ですか?」
こちらの言い方に違和感を覚えたらしいチロチンが、背中から落下しつつあったリーナを背負い直してから、会話に割り込んできた。
「ああ。まず―――邪魔だッ」
流石に真上から強襲を仕掛けてくる『住人』は予想外だったが。ツェート戦の経験もあって、有り得ない方向からの攻撃は慣れている。大剣を振り下ろさんと『住人』が構えた瞬間、その両腕を切り落とし、手元を離れた大剣で胴体を潰した。すかさずフィージェントが祝福を授けてくれたので、『住人』が動く事は二度と無い。
「……まず、お前達は好きに暴れろ。『住人』を殺すも、人間を殺すもそれは自由だ。とにかく騒ぎが鎮静化するまでは好きに暴れてくれていい。ただしキリーヤ達は攻撃するな。その一方、キリーヤ達は救いたい奴を選ぶ―――要は、ナイツの攻撃からそいつを守って見せろって事だ。そしてもし守られたら、そいつは一旦は見逃す」
「……一旦?」
「全ての騒動が解決した時、そいつらから魔人に対する偏見と嫌悪が無くなったかどうかを調べる。無ければそのまま見逃すが、あれば殺す。以上だ」
それが自分の与えられる、精一杯の褒美……というより好機。騒動が解決するまでの間にキリーヤが人間達を更生させる事が出来れば、ナイツが何を言ったってアルドはそいつらを殺さない。もっとも、ナイツだって何も言わないだろう。魔人に好意的な人間には短絡的に手出しをしないのは、カシルマの部下の件がそれを物語っている。要は、本当にそうなれればいいだけの話だ。
「勿論、私もそれに参加する。名目こそ事態の鎮静化だが、こんな時にまだ魔人を嫌って殺しに来るような愚かな人間が居たとするならば、思わず斬ってしまうだろう……なあ、ファーカ。お前はどう思う?」
その時の自分はきっとまだ微笑んでいたのだろう。その案についての思考を巡らせるだけで零れてしまうのだから間違いない。
しかし、尋ねられたファーカは、それ以上に壊れていた。
「それはもう、そんな愚かな人間が存在している事自体、私からすれば一分一秒も我慢ならない事態ッ! 加えてそんな人間がアルド様に傷を付けようとする何て無礼千万ッ、最早容易には殺しません。第二切り札を開帳する事になったとしても、その者に知らしめて差し上げましょう。我が最愛の主にして、至高にして最高、地上最強の王に歯向かった事の―――愚かさをッ!」
好きに暴れて良い、と言ってしまったからか、ファーカの感情の枷が外れている様だ。現実離れした美しさを持つ彼女からはおどろおどろしい程の邪気が滲み出ており、こんな表現方法を使うのはちょっとどうかと思うが、目が完全にイッている。あのユーヴァンでさえ、この時のファーカに比べればテンションが低い様に見えた。
自分はそこまで偉大な王様では無いと思うのだが。そんな事を今の彼女に言った所で聞けるとは思えない。一度放っておいて、チロチンへと話を振った。
「チロチンはリーナを背負っている関係上、笛も吹けないだろうから私の傍に居ろ。やけにこっちに接近してくる奴が居たら、十中八九そいつはリーナに付き纏っている奴だ。そいつは見つけ次第私が殺す」
「……リーナ」
チロチンが彼女を軽く揺らすと、微睡み気分で安心していたリーナが背筋を伸ばした。
「は、はい! ……アルド様を、信じます!」
「任せておけ。仮に尋常でない手段の使い手だったとしても……それはむしろ、都合が良いからな」
とはいえ、自分はリーナに付き纏っている人物がここで現れるとは考えていない。まともな思考を有している者なら、普通はもっと自分達が消耗している時に出てくるだろうから、それだけはあり得ないと信じている。だが、離れていても煩いくらいに聞こえるリーナの緊張を解すには、これくらいの事は言ってやらなければ。チロチンを利用してまで頼んできた依頼には、最初からそれくらいの価値があるのだから。
闘技街到着まで後四十五分。勝手に相手をしているとはいえ、キリーヤ達にはもう少し頑張ってもらいたいモノだ。
「んっんー視線を感じる! 俺様への、熱い視線! これは、これはまさか……俺様への愛を語る視線ッ? 種族を超えた、大いなる恋の始まりかッ?」
「只の嫌悪感ですよ、ユーヴァン。あまりぶっ飛んだ勘違いは控える事ですね」
彼が何とか己を道化として場を盛り上げてくれようとしてくれている事は非常に有難かった。度重なる人間の無礼(特に何かされた訳でも無いが、ずっとこちらに殺意を持って見つめてくる事が気に食わないのだろう)に苛立ちを募らせているファーカが、その矛先を逸らしてくれている。それも結構な割合で逸らしてくれており、村から離れるや直ぐに虚空から『住人』達が無限に湧き出てくるが、ファーカはまるで相手にしていない。
いや、自分も特に気に留めていないので当然なのだが。
「はあッ!」
「ふんッッ!」
「ふぁ~い、弱すぎて欠伸が噛み殺しきれん」
というのは、こちらの進路を妨害すべく現れる「住人』達は、皆キリーヤ達が相手をしてくれるので、その必要性が無いのだ……本来、彼女達には殺せないが、彼女達にはフィージェントが居る。彼から『祝福』を授けてもらえば、あら不思議。今まで殺せなかった『住人』達を、まるで不死性何て存在しないかのように葬る事が出来る。こんな事態になるとは想定していなかったが、彼女達の所にフィージェントを送り付けて正解だったと思う。
「……距離的に、後一時間程歩けば到着する。前方に聳える闘技場からも煙が上がっている事からも分かる通り、まあ人間共は『住人』と戦闘しているのだろう。あそこは全くの無法故に、むしろ治安が保たれている危ない町だが、まさかそんな街すらも混沌に陥ってしまうとはな」
「行動については、先ほどの村と同じようになさるおつもりですか?」
「いや。あの街だけは無差別で構わない。殺したければ殺しても良いし、殺したくないなら殺さなくても良い。ファーカもルセルドラグも、先ほどから私が無理に押さえ付けているようで申し訳なく思っていたが、あっちでは好き勝手に暴れてくれて構わない」
仮にもキリーヤ達の居る近くで、アルドは素っ気ない口調でナイツへの命令を下した。その言葉を聞いたファーカとルセルドラグは、ユーヴァンへの意識を即座にこちらへ傾けた。
「よ、宜しいのですか? それでは停戦が成立しなくなるのでは」
「全く以て同意見です。アルド様、一体どういった考えの下、我らにそのような命令を」
キリーヤ達が会話に飛び込んでこなかったのは、二人の意見が言いたい事の全てを集約していたからだろう。確かに、救う側の英雄と手を組んでおいて、早速皆殺しは筋が通っていない。それはこちら側のみに存在する一方的なメリットでしかないから……本来であれば。
「どういった考えも何も、ストレスを抱え込むのは良くない事だ。今のこんな状態じゃ、私だって手が回らないかもしれない。そんなお前達のちょっとしたストレスが人間の命一つで発散されるというのなら、リターンは非常に大きなモノと考えているが」
「……停戦は、どうなるのですかん」
「無論継続だ。そいつらにだって動いてもらうぞ、この戦いの首謀者探しの為にな。しかしながらそれだけの為に動かすのはあまりに非効率的で、加えて停戦を受諾してくれたお礼も渡せないようでは魔王の名が廃るのでな……考えたんだ。ちょっとした選抜をな」
そんなに大した案では無いのに、どうしてだろうか。その事について考えるだけで、口から笑みが零れてくる。ディナントが見ていようがファーカが「どうしかしましたか?」と尋ねてきても、やはり笑みは消え去らなかった。
「選抜……ですか?」
こちらの言い方に違和感を覚えたらしいチロチンが、背中から落下しつつあったリーナを背負い直してから、会話に割り込んできた。
「ああ。まず―――邪魔だッ」
流石に真上から強襲を仕掛けてくる『住人』は予想外だったが。ツェート戦の経験もあって、有り得ない方向からの攻撃は慣れている。大剣を振り下ろさんと『住人』が構えた瞬間、その両腕を切り落とし、手元を離れた大剣で胴体を潰した。すかさずフィージェントが祝福を授けてくれたので、『住人』が動く事は二度と無い。
「……まず、お前達は好きに暴れろ。『住人』を殺すも、人間を殺すもそれは自由だ。とにかく騒ぎが鎮静化するまでは好きに暴れてくれていい。ただしキリーヤ達は攻撃するな。その一方、キリーヤ達は救いたい奴を選ぶ―――要は、ナイツの攻撃からそいつを守って見せろって事だ。そしてもし守られたら、そいつは一旦は見逃す」
「……一旦?」
「全ての騒動が解決した時、そいつらから魔人に対する偏見と嫌悪が無くなったかどうかを調べる。無ければそのまま見逃すが、あれば殺す。以上だ」
それが自分の与えられる、精一杯の褒美……というより好機。騒動が解決するまでの間にキリーヤが人間達を更生させる事が出来れば、ナイツが何を言ったってアルドはそいつらを殺さない。もっとも、ナイツだって何も言わないだろう。魔人に好意的な人間には短絡的に手出しをしないのは、カシルマの部下の件がそれを物語っている。要は、本当にそうなれればいいだけの話だ。
「勿論、私もそれに参加する。名目こそ事態の鎮静化だが、こんな時にまだ魔人を嫌って殺しに来るような愚かな人間が居たとするならば、思わず斬ってしまうだろう……なあ、ファーカ。お前はどう思う?」
その時の自分はきっとまだ微笑んでいたのだろう。その案についての思考を巡らせるだけで零れてしまうのだから間違いない。
しかし、尋ねられたファーカは、それ以上に壊れていた。
「それはもう、そんな愚かな人間が存在している事自体、私からすれば一分一秒も我慢ならない事態ッ! 加えてそんな人間がアルド様に傷を付けようとする何て無礼千万ッ、最早容易には殺しません。第二切り札を開帳する事になったとしても、その者に知らしめて差し上げましょう。我が最愛の主にして、至高にして最高、地上最強の王に歯向かった事の―――愚かさをッ!」
好きに暴れて良い、と言ってしまったからか、ファーカの感情の枷が外れている様だ。現実離れした美しさを持つ彼女からはおどろおどろしい程の邪気が滲み出ており、こんな表現方法を使うのはちょっとどうかと思うが、目が完全にイッている。あのユーヴァンでさえ、この時のファーカに比べればテンションが低い様に見えた。
自分はそこまで偉大な王様では無いと思うのだが。そんな事を今の彼女に言った所で聞けるとは思えない。一度放っておいて、チロチンへと話を振った。
「チロチンはリーナを背負っている関係上、笛も吹けないだろうから私の傍に居ろ。やけにこっちに接近してくる奴が居たら、十中八九そいつはリーナに付き纏っている奴だ。そいつは見つけ次第私が殺す」
「……リーナ」
チロチンが彼女を軽く揺らすと、微睡み気分で安心していたリーナが背筋を伸ばした。
「は、はい! ……アルド様を、信じます!」
「任せておけ。仮に尋常でない手段の使い手だったとしても……それはむしろ、都合が良いからな」
とはいえ、自分はリーナに付き纏っている人物がここで現れるとは考えていない。まともな思考を有している者なら、普通はもっと自分達が消耗している時に出てくるだろうから、それだけはあり得ないと信じている。だが、離れていても煩いくらいに聞こえるリーナの緊張を解すには、これくらいの事は言ってやらなければ。チロチンを利用してまで頼んできた依頼には、最初からそれくらいの価値があるのだから。
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