ワルフラーン ~廃れし神話
過ぎし日の得たモノは
他のナイツ達は眠っているという事で、城内に入っても出迎えてくれる者は誰一人として居なかった。ジバルではいつもの事だったが、これ程に早いと侍女すら起きていない。こんな状態に遭遇したのは一体いつぶりだろうか。もしかしたら初めての事かもしれない。大抵、時間が来るまではアルドも自室で暇を潰していたし。
「妾はディナントを呼んでくる故、失礼する」
そう言って姿を消すフェリーテを一瞥してから、アルドはかつて自分が座っていた玉座まで近づいて、何となく触ってみる。今まで真面目に見た事は無かったが、この玉座には全ての魔人の想いが籠っているように見える。必ず全ての大陸を奪還してほしいとの願いを込めて作られた、そんな風に見えて仕方がない。その想いを委ねられたのは勿論アルドで、だからこそそんな願いを蔑ろにしかけたアルドは一旦玉座を降りた訳だが。
……座る権利は、あるのかな。
許されたとはいえ、もう一度この座に座る事は少々気が引ける。あの時は何でも無かったのに、一度玉座を降りてから改めて見つめてみると、この椅子に座る事の何と責任の重い事か。今まで何となくで座っていた自分が酷く間抜けに思える。
「アル、様」
「……ディナントか」
振り返ると、背後には既に跪いた状態で待機している魔人、ディナントが居た。フェリーテと違って瞬間移動等している訳が無いのに、全く気付けなかった。どうやら椅子に少し集中しすぎたらしい。
「ナガき時、お待ち……して、おリマシタ」
「ああ、待たせてしまって申し訳なかった。フェリーテには既に言ったとして、改めてお前にも言わせてもらおうか―――ディナント。ただいま」
ゆっくりと息を吐いてから、玉座へと腰を掛ける。そして跪くディナントを見据えてから、目を瞑った。
―――こんな光景が、いつものようにあったなんて。
平和を尊ぶ訳では無いが、自分はこの光景を、この状態を、そして彼等を愛していたのだ。だからどんな苦難が待ち受けていようとも、再びここに戻って来られるのならと思えば、何でも無かった。かつては地上最強の英雄と呼ばれた英雄にしては何と遅い発見だが、仲間というモノはとても大切な存在なんだと改めて思い知る。一人では超えられないような苦難も、仲間が居るから超えられる。この死にそうな体が動くのも、全ては仲間が……愛するべき人が居るから超えられる。
勘違いされやすいが、愛というモノは何も女性にのみ向けられるモノでは無い。愛というモノはそもそもが男女平等、男にだって女にだって向けても良いモノだ。だからアルドはナイツを愛していると、胸を張って言い続けよう。
「他の者は起こさないのか」
「…………いずレ、起、る」
「確かに、ジバルで一時を過ごした私とお前達が早すぎるだけか。それに時間も早朝で、人々は殆ど起きていなかった。本当は一刻も早く帰ってきた事を伝えてやりたいが、お前達との時間を過ごすのも……まあ悪くないな」
程なくしてフェリーテがディナントの傍らに現れる。ここに『皇』を入れれば、ジバルにて苦楽を共にしたパーティーの完成なのだが……ああ、王剣があったか。彼女の代理を務めるには申し分ない。虚空から王剣を取り出して、何となしに玉座の傍らに立て掛ける。これで全員揃った。
「お前達には予め言っておこう。次に狙う大陸はレギだ。アジェンタに漏れず私の頃と王様は変わって居ないだろうが、今度こそは余程の問題が起きない限り侵攻は止めない。その辺りは安心してほしい」
「……奴がまた来たらどうするおつもり何じゃ?」
彼女の言う奴とは詳しく語るまでも無い、アルドに不老と限定的不死の呪いを与えて、更にこの城を滅茶苦茶に壊してくれて、挙句の果てには自分からナイツまで取ろうとしていた大馬鹿者のエヌメラの事だ。彼の云々については若干の不安は否めないが、実は心配しなくても良い。もう一年も前の事なのでどうなっているかは分からないが、エヌメラについては第二の天敵が現れてしまったからだ。
「アイツに関しては心配しなくていい。キリーヤに付いて行かせた私の弟子が、一年前に対等以上に戦っているのを見た事がある。以前の私とは少しだけ装備が違う故、次に戦えばどうなるかは分からないが、最悪はアイツをぶつけて処理するさ。それよりも問題があるとすれば、フルシュガイドに私達の存在がバレた事、何だけどな」
クリヌスはともかくとして、リューゼイにまでバレたとあっては国中に広まっている事は明白。定期的どころか、ひょっとすると早期決着を考えてあちらから全面戦争を仕掛けてくるかもしれない。幸運にも未だ遭遇した事は無いが、フルシュガイドにはそれなりに実力のある者が何人か存在している。前々から言及している『竜殺し』然り、教会騎士団然り。アルドの時代には彼とそれしか居なかったが、年月がそれなりに過ぎ去った今、新たな実力者が生まれている可能性は非常に高い。そして全面戦争ともなれば、当然フルシュガイドは自らの大陸に存在する実力者をかき集めてくる……処か、まだ落としていない大陸と同盟を組んで、三方向から襲ってくる可能性がある。『剣』の執行者さえいればそれも何とかなったかもしれないが、彼には『死』の執行者を追跡及び外界からの干渉の妨害という役割がある以上、下手にこちら側には使えない。そうなれば、こちらはやはりナイツの第三切り札の開帳を許可した上で戦わざるを得ないので……勝てるかもしれないが、確実にナイツの誰かしらは死んでしまうだろう。戦争というモノは得てしてそういうモノかもしれないが、それでもアルドは完全勝利を目指す。誰も死なせないし失わせない。それこそが魔人の求めている大陸奪還であり、その果てにある完全勝利だと言うのなら、二代目『勝利』の名に懸けて、必ずや成功させてみせる。
が、それを目指すのならばまずは同盟を組ませない様にする事が先決だ。
「彼等が攻めてくる可能性も考慮して、ナイツを全員連れて行く訳にはいかない。今回は……そうだな、フェリーテ、ヴァジュラ、メグナに任せる。これについては本人が来てから改めて伝えるが、フェリーテ。異論はあるか?」
「……主様の言葉であれば、妾はそれに従うまでじゃ」
「そうか……話を続けるが、今回の大陸侵攻以降、基本的には皆殺しの体制を取る。余程特殊な事情がある奴以外は子供だろうと女性だろうと皆殺しだ。異論は受け付けるが……まあ、無い様だな」
この手の会話はダルノアやエルアには聞かせられない。彼女達はどうやら自分の事を、良い人と思っているようだから。特にエルアに関しては自分の事を憧れの英雄か何かだと思っているので、やはりこのような話は聞かせられない。それは決して見られたくないという思いによるものではなく、彼女達がそう思っているのなら、自分もそれに合わせるべきだという理由だ。それ故にアルドは決して魔王の姿を彼女達には見せない。そのつもりが無い。彼女達にとって自分は、良い人なのだから。
「それと…………ああ。こんな話はしたくないが、もしも私が死んだら、この城の西にある洞窟に行ってくれ。後継者という訳じゃ無いが、そいつを私の代理にしておく」
ナイツの前でこんな不吉な話はしたくなかったが、しておかなければもしもの時に対応が効かない。先程までは従順な二人だったが、その言葉を聞くや二人は血相を変えて尋ねてきた。
「……それはどんな人物なんじゃ。妾達は主様に忠誠を誓う故に、その者を主様の代理と認める訳にはいかないじゃが」
「俺ノある、ジ…………アルド様、ケ」
このままではこちらまで詰め寄りかねないので、アルドは両手で『下がれ』の意を伝えて、その問いに返す。
「何も忠誠を誓う必要は無い。命令さえ聞いてくれればいいんだ、それだけだ―――と言っても、お前達からすれば凄く不服な命令だろうから、私としても死ぬ気は全くないが、飽くまでもしもだもしも。何、一度行方不明にまでなったんだ。今回はそうはならないさ」
ジバルには言霊というモノがあるが、果たして今の言葉は言ってしまって良かったのだろうか。もしかしたら……いや、もうこれ以上ナイツに迷惑はかけられない。
それから数時間後。他の者達も目覚めた様で、眼下には既に、見慣れた顔が並んでいた。
「妾はディナントを呼んでくる故、失礼する」
そう言って姿を消すフェリーテを一瞥してから、アルドはかつて自分が座っていた玉座まで近づいて、何となく触ってみる。今まで真面目に見た事は無かったが、この玉座には全ての魔人の想いが籠っているように見える。必ず全ての大陸を奪還してほしいとの願いを込めて作られた、そんな風に見えて仕方がない。その想いを委ねられたのは勿論アルドで、だからこそそんな願いを蔑ろにしかけたアルドは一旦玉座を降りた訳だが。
……座る権利は、あるのかな。
許されたとはいえ、もう一度この座に座る事は少々気が引ける。あの時は何でも無かったのに、一度玉座を降りてから改めて見つめてみると、この椅子に座る事の何と責任の重い事か。今まで何となくで座っていた自分が酷く間抜けに思える。
「アル、様」
「……ディナントか」
振り返ると、背後には既に跪いた状態で待機している魔人、ディナントが居た。フェリーテと違って瞬間移動等している訳が無いのに、全く気付けなかった。どうやら椅子に少し集中しすぎたらしい。
「ナガき時、お待ち……して、おリマシタ」
「ああ、待たせてしまって申し訳なかった。フェリーテには既に言ったとして、改めてお前にも言わせてもらおうか―――ディナント。ただいま」
ゆっくりと息を吐いてから、玉座へと腰を掛ける。そして跪くディナントを見据えてから、目を瞑った。
―――こんな光景が、いつものようにあったなんて。
平和を尊ぶ訳では無いが、自分はこの光景を、この状態を、そして彼等を愛していたのだ。だからどんな苦難が待ち受けていようとも、再びここに戻って来られるのならと思えば、何でも無かった。かつては地上最強の英雄と呼ばれた英雄にしては何と遅い発見だが、仲間というモノはとても大切な存在なんだと改めて思い知る。一人では超えられないような苦難も、仲間が居るから超えられる。この死にそうな体が動くのも、全ては仲間が……愛するべき人が居るから超えられる。
勘違いされやすいが、愛というモノは何も女性にのみ向けられるモノでは無い。愛というモノはそもそもが男女平等、男にだって女にだって向けても良いモノだ。だからアルドはナイツを愛していると、胸を張って言い続けよう。
「他の者は起こさないのか」
「…………いずレ、起、る」
「確かに、ジバルで一時を過ごした私とお前達が早すぎるだけか。それに時間も早朝で、人々は殆ど起きていなかった。本当は一刻も早く帰ってきた事を伝えてやりたいが、お前達との時間を過ごすのも……まあ悪くないな」
程なくしてフェリーテがディナントの傍らに現れる。ここに『皇』を入れれば、ジバルにて苦楽を共にしたパーティーの完成なのだが……ああ、王剣があったか。彼女の代理を務めるには申し分ない。虚空から王剣を取り出して、何となしに玉座の傍らに立て掛ける。これで全員揃った。
「お前達には予め言っておこう。次に狙う大陸はレギだ。アジェンタに漏れず私の頃と王様は変わって居ないだろうが、今度こそは余程の問題が起きない限り侵攻は止めない。その辺りは安心してほしい」
「……奴がまた来たらどうするおつもり何じゃ?」
彼女の言う奴とは詳しく語るまでも無い、アルドに不老と限定的不死の呪いを与えて、更にこの城を滅茶苦茶に壊してくれて、挙句の果てには自分からナイツまで取ろうとしていた大馬鹿者のエヌメラの事だ。彼の云々については若干の不安は否めないが、実は心配しなくても良い。もう一年も前の事なのでどうなっているかは分からないが、エヌメラについては第二の天敵が現れてしまったからだ。
「アイツに関しては心配しなくていい。キリーヤに付いて行かせた私の弟子が、一年前に対等以上に戦っているのを見た事がある。以前の私とは少しだけ装備が違う故、次に戦えばどうなるかは分からないが、最悪はアイツをぶつけて処理するさ。それよりも問題があるとすれば、フルシュガイドに私達の存在がバレた事、何だけどな」
クリヌスはともかくとして、リューゼイにまでバレたとあっては国中に広まっている事は明白。定期的どころか、ひょっとすると早期決着を考えてあちらから全面戦争を仕掛けてくるかもしれない。幸運にも未だ遭遇した事は無いが、フルシュガイドにはそれなりに実力のある者が何人か存在している。前々から言及している『竜殺し』然り、教会騎士団然り。アルドの時代には彼とそれしか居なかったが、年月がそれなりに過ぎ去った今、新たな実力者が生まれている可能性は非常に高い。そして全面戦争ともなれば、当然フルシュガイドは自らの大陸に存在する実力者をかき集めてくる……処か、まだ落としていない大陸と同盟を組んで、三方向から襲ってくる可能性がある。『剣』の執行者さえいればそれも何とかなったかもしれないが、彼には『死』の執行者を追跡及び外界からの干渉の妨害という役割がある以上、下手にこちら側には使えない。そうなれば、こちらはやはりナイツの第三切り札の開帳を許可した上で戦わざるを得ないので……勝てるかもしれないが、確実にナイツの誰かしらは死んでしまうだろう。戦争というモノは得てしてそういうモノかもしれないが、それでもアルドは完全勝利を目指す。誰も死なせないし失わせない。それこそが魔人の求めている大陸奪還であり、その果てにある完全勝利だと言うのなら、二代目『勝利』の名に懸けて、必ずや成功させてみせる。
が、それを目指すのならばまずは同盟を組ませない様にする事が先決だ。
「彼等が攻めてくる可能性も考慮して、ナイツを全員連れて行く訳にはいかない。今回は……そうだな、フェリーテ、ヴァジュラ、メグナに任せる。これについては本人が来てから改めて伝えるが、フェリーテ。異論はあるか?」
「……主様の言葉であれば、妾はそれに従うまでじゃ」
「そうか……話を続けるが、今回の大陸侵攻以降、基本的には皆殺しの体制を取る。余程特殊な事情がある奴以外は子供だろうと女性だろうと皆殺しだ。異論は受け付けるが……まあ、無い様だな」
この手の会話はダルノアやエルアには聞かせられない。彼女達はどうやら自分の事を、良い人と思っているようだから。特にエルアに関しては自分の事を憧れの英雄か何かだと思っているので、やはりこのような話は聞かせられない。それは決して見られたくないという思いによるものではなく、彼女達がそう思っているのなら、自分もそれに合わせるべきだという理由だ。それ故にアルドは決して魔王の姿を彼女達には見せない。そのつもりが無い。彼女達にとって自分は、良い人なのだから。
「それと…………ああ。こんな話はしたくないが、もしも私が死んだら、この城の西にある洞窟に行ってくれ。後継者という訳じゃ無いが、そいつを私の代理にしておく」
ナイツの前でこんな不吉な話はしたくなかったが、しておかなければもしもの時に対応が効かない。先程までは従順な二人だったが、その言葉を聞くや二人は血相を変えて尋ねてきた。
「……それはどんな人物なんじゃ。妾達は主様に忠誠を誓う故に、その者を主様の代理と認める訳にはいかないじゃが」
「俺ノある、ジ…………アルド様、ケ」
このままではこちらまで詰め寄りかねないので、アルドは両手で『下がれ』の意を伝えて、その問いに返す。
「何も忠誠を誓う必要は無い。命令さえ聞いてくれればいいんだ、それだけだ―――と言っても、お前達からすれば凄く不服な命令だろうから、私としても死ぬ気は全くないが、飽くまでもしもだもしも。何、一度行方不明にまでなったんだ。今回はそうはならないさ」
ジバルには言霊というモノがあるが、果たして今の言葉は言ってしまって良かったのだろうか。もしかしたら……いや、もうこれ以上ナイツに迷惑はかけられない。
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