ワルフラーン ~廃れし神話
男子会3/3
嫌な予感は的中してしまった様だ。思考越しに伝えられた事件に、アルドは苦笑いを浮かべるしかなかった。今回は始終何事も無く終わると思っていたのに、全く何をやってしまっているのか。彼はメグナに絡まないと死んでしまう病気にでも罹っているのではないだろうか、そう邪推されてしまっても責められないし、当然だ。
同じ城で、それも同郷の者だから日常生活においてそれなりに関わる事は致し方ないだろう。だが、今回は自分が急遽企画した会合。それも男女に分けられた会合で、そこに接点など存在してはいけないのに―――もういっそ、ルセルドラグは女子会の方に向かわせるべきなのだろうか。その他のナイツに迷惑を掛けるので、思ったとしても絶対にしないのだが。
「アルド様、お待たせしました」
フェリーテの密告の事など知りもしないルセルドラグは、先ほど起こした事件を隠匿するように、何気ない調子で入店してきた。棘童やタケミヤにはその姿は見えないが、しっかりとその存在を認識したようで、彼の座る位置に料理が置かれる。当初の予定通り、彼には自分の隣を使わせた。
「……一応聞こう。何をしていたんだ?」
「大した事ではございません。ちょっとしたお洒落ですよ」
アルドは彼の足元からゆっくりと全身を見つめてから、真面目な調子で突っ込んだ。
「嘘を吐け。大体お前、全裸だろ」
元々骨しかないので裸と言うべきかは分からないが、彼の容姿は一言で表せば長身の骸骨。お洒落も何も、着飾る場所が無い。最早下手糞と言うより、隠す気の無い嘘だ。
「もしかして、メグナと何かやっちまったんじゃねえのか、おいッ?」
彼は冗談のつもりで言ったのだろうが、事実である。
「ユーヴァン、冴えてるな。そうだろルセルドラグ。お前はメグナと喧嘩して遅れた。違うか?」
「……アルド様には、全てがお見えになられていると」
「フェリーテの密告だよ。お前だから大丈夫だと思いつつも、まだ来ないなと心配していたら、まさかそんなしょうもない理由で遅れていたとはな。私はもう呆れてしまったよ」
アジェンタで遭遇した時は仲良くやっていたのに、どうして大陸が変わった瞬間にこんな事が始まってしまうのか。もういっその事拠点もアジェンタに移してしまおうかと考えずには居られない。あちらにはチロチンの知り合いも居るし、もしかしたら本当にそうしてしまってもいいかもしれない。
「……いつまで、それを続けるんだ?」
アルドは言葉選びに配慮しながらも、率直に尋ねる。内容は彼とメグナの過去に関わる事の為、全てを話す事はここでは出来ないが、当人である彼にだけは尋ねられる。どんなに言葉を濁したって、彼だけには伝わる。
「―――アルド様が大陸を奪還するまで、とでも言っておきましょうかん。私はいつまでもメグナに突っかかりますよ。その意思は、かつて他でもない貴方にお伝えしたと思いますが」
忘れる筈も無い。彼の言葉は今でも鮮明に覚えている。それはとても短い言葉だったが、その中にはどんな言葉よりも強い意思が宿っていた。メグナが知る事になるのはきっと随分後の話になるだろうが、その時のルセルドラグの雰囲気と来たら、今では考えられないくらい―――っと、ルセルドラグは無い瞳を光らせてこちらに視線を向けている。これ以上はやめておこうか。
アルドは視線を逸らす為に酒を呷る。
「―――ッはあ。まあいいさ。問題はあったが、これで全員が集合した。引き続き騒いでくれて問題は無いが、ここは改めてお祝いをしようじゃないか」
「オイワ…………い?」
「ああそうだ。お前等は酒を持て。そして私の合図に従って、大きく掲げろ」
彼等の手が各々のマグカップに伸びたのを確認すると、アルドは気分を落ち着けるかのように数回深呼吸を挟んでから、自分でも似合わないと思えるくらいの大きな声で、言った。
「私とお前達が出会い、そしてこのような形で話せる事を喜んで……乾杯ッ!」
「乾杯ッ! /カンパァイッ!」
主にチロチンとユーヴァンの声量に残り二人の声がかき消されたが、その口元が動いていたのは確認できているのでやり直しはしない。勢いに身を任せてアルドは酒を飲み干し、次を注ぎ始める。
「お、アルド様ッ! 俺様とどっちが先に酔い潰れるか勝負してしまいますか?」
「ほう、面白い事を言うじゃないか、ユーヴァン。良いだろう。二代目『勝利』の名に懸けて、俺はお前に圧倒的勝利を果たしてやろうじゃないか」
酒には強い方だと思っていたのだが、どうやらアルドも酒にやられてしまっているらしい。普段なら絶対に乗らないような提案にも平気で乗ってしまって、向こう側のユーヴァンの興奮は最高潮に達している。
「ユー、ヴァ。……オレも、さん―――カ」
「お、お? いいぜ、ディナント。お前にはいつだったか敗北したからなあ、今度こそ俺様の実力を見せてやろうじゃないか!」
「おいおい、アルド様は内部の安定化という仕事が……ええい、待て待て。お前達だけだと不安だから私も交ぜろ」
「へえ! お前が参加するとは珍しいなあッ! ルセルドラグは……あ、お前は種族的に無理か。ダハハハハハ!」
そんなユーヴァンの言葉が癪に障ったのか、ルセルドラグは素早く立ち上がって、今にも誰かを殺しそうな殺気を振りまきながら、カップを手に取った。
「ユーヴァン……幾ら貴様と言えども、言っていい事と悪い事があるんぞ。私はこんなくだらない催しに参加する気など無かったが、そこまで言うのであれば致し方ない。貴様を後悔させてやろう」
「面白れえ! じゃあ全員参加で勝負だ勝負ッ! 勝ったら……………………ああー、えー。何でも言う事を一つ聞く!」
酔いが回っているのやら回っていないのやら。言い淀んだのは自分が負けた場合の時の事でも考えて居たのだろうか。結局勢いに負けてとんでもない事を言い始めてしまった訳だが、周りの雰囲気まで考慮すると、これは負ける訳にはいかなそうだ。
「アルド様も、文句はありませんよねえッ?」
「勿論だ。負けたら言う事を何でも一つ聞いてやる。どんな無茶な願いだったとしても聞いてやる」
たとえそれがアルドの苦手分野に通ずるモノだったとしても、男に二言は無い。発言には責任が常に付いて回るのだ。この流れでここまで言った以上、今さら引き返すなんて英雄/魔王の名が廃るというモノ。
「よーし! それじゃあルールはこうだ。合間の食事は勿論オーケー、だが飲み物は酒に関わるモノ以外駄目だ。そしてこれはアルド様に関係の無い事だが、魔術を使って無理やり相手を酔い潰すのも禁止だ。先に酔い潰れた奴が負け、最後まで潰れなかったやつが勝者。単純明快だな!」
「単純すぎるあまり、私は少し退屈過ぎるがな……まあ、アルド様と戦える機会なんてこれ以降は無いだろうし、そのルールであれば小細工のやり様がない。いいぞ、では誰が合図をする?」
全員の視線の方向は、全て共通していた。アルドは苦笑いを浮かべながら息を吐いて―――
「それじゃあ―――開始だ!」
同じ城で、それも同郷の者だから日常生活においてそれなりに関わる事は致し方ないだろう。だが、今回は自分が急遽企画した会合。それも男女に分けられた会合で、そこに接点など存在してはいけないのに―――もういっそ、ルセルドラグは女子会の方に向かわせるべきなのだろうか。その他のナイツに迷惑を掛けるので、思ったとしても絶対にしないのだが。
「アルド様、お待たせしました」
フェリーテの密告の事など知りもしないルセルドラグは、先ほど起こした事件を隠匿するように、何気ない調子で入店してきた。棘童やタケミヤにはその姿は見えないが、しっかりとその存在を認識したようで、彼の座る位置に料理が置かれる。当初の予定通り、彼には自分の隣を使わせた。
「……一応聞こう。何をしていたんだ?」
「大した事ではございません。ちょっとしたお洒落ですよ」
アルドは彼の足元からゆっくりと全身を見つめてから、真面目な調子で突っ込んだ。
「嘘を吐け。大体お前、全裸だろ」
元々骨しかないので裸と言うべきかは分からないが、彼の容姿は一言で表せば長身の骸骨。お洒落も何も、着飾る場所が無い。最早下手糞と言うより、隠す気の無い嘘だ。
「もしかして、メグナと何かやっちまったんじゃねえのか、おいッ?」
彼は冗談のつもりで言ったのだろうが、事実である。
「ユーヴァン、冴えてるな。そうだろルセルドラグ。お前はメグナと喧嘩して遅れた。違うか?」
「……アルド様には、全てがお見えになられていると」
「フェリーテの密告だよ。お前だから大丈夫だと思いつつも、まだ来ないなと心配していたら、まさかそんなしょうもない理由で遅れていたとはな。私はもう呆れてしまったよ」
アジェンタで遭遇した時は仲良くやっていたのに、どうして大陸が変わった瞬間にこんな事が始まってしまうのか。もういっその事拠点もアジェンタに移してしまおうかと考えずには居られない。あちらにはチロチンの知り合いも居るし、もしかしたら本当にそうしてしまってもいいかもしれない。
「……いつまで、それを続けるんだ?」
アルドは言葉選びに配慮しながらも、率直に尋ねる。内容は彼とメグナの過去に関わる事の為、全てを話す事はここでは出来ないが、当人である彼にだけは尋ねられる。どんなに言葉を濁したって、彼だけには伝わる。
「―――アルド様が大陸を奪還するまで、とでも言っておきましょうかん。私はいつまでもメグナに突っかかりますよ。その意思は、かつて他でもない貴方にお伝えしたと思いますが」
忘れる筈も無い。彼の言葉は今でも鮮明に覚えている。それはとても短い言葉だったが、その中にはどんな言葉よりも強い意思が宿っていた。メグナが知る事になるのはきっと随分後の話になるだろうが、その時のルセルドラグの雰囲気と来たら、今では考えられないくらい―――っと、ルセルドラグは無い瞳を光らせてこちらに視線を向けている。これ以上はやめておこうか。
アルドは視線を逸らす為に酒を呷る。
「―――ッはあ。まあいいさ。問題はあったが、これで全員が集合した。引き続き騒いでくれて問題は無いが、ここは改めてお祝いをしようじゃないか」
「オイワ…………い?」
「ああそうだ。お前等は酒を持て。そして私の合図に従って、大きく掲げろ」
彼等の手が各々のマグカップに伸びたのを確認すると、アルドは気分を落ち着けるかのように数回深呼吸を挟んでから、自分でも似合わないと思えるくらいの大きな声で、言った。
「私とお前達が出会い、そしてこのような形で話せる事を喜んで……乾杯ッ!」
「乾杯ッ! /カンパァイッ!」
主にチロチンとユーヴァンの声量に残り二人の声がかき消されたが、その口元が動いていたのは確認できているのでやり直しはしない。勢いに身を任せてアルドは酒を飲み干し、次を注ぎ始める。
「お、アルド様ッ! 俺様とどっちが先に酔い潰れるか勝負してしまいますか?」
「ほう、面白い事を言うじゃないか、ユーヴァン。良いだろう。二代目『勝利』の名に懸けて、俺はお前に圧倒的勝利を果たしてやろうじゃないか」
酒には強い方だと思っていたのだが、どうやらアルドも酒にやられてしまっているらしい。普段なら絶対に乗らないような提案にも平気で乗ってしまって、向こう側のユーヴァンの興奮は最高潮に達している。
「ユー、ヴァ。……オレも、さん―――カ」
「お、お? いいぜ、ディナント。お前にはいつだったか敗北したからなあ、今度こそ俺様の実力を見せてやろうじゃないか!」
「おいおい、アルド様は内部の安定化という仕事が……ええい、待て待て。お前達だけだと不安だから私も交ぜろ」
「へえ! お前が参加するとは珍しいなあッ! ルセルドラグは……あ、お前は種族的に無理か。ダハハハハハ!」
そんなユーヴァンの言葉が癪に障ったのか、ルセルドラグは素早く立ち上がって、今にも誰かを殺しそうな殺気を振りまきながら、カップを手に取った。
「ユーヴァン……幾ら貴様と言えども、言っていい事と悪い事があるんぞ。私はこんなくだらない催しに参加する気など無かったが、そこまで言うのであれば致し方ない。貴様を後悔させてやろう」
「面白れえ! じゃあ全員参加で勝負だ勝負ッ! 勝ったら……………………ああー、えー。何でも言う事を一つ聞く!」
酔いが回っているのやら回っていないのやら。言い淀んだのは自分が負けた場合の時の事でも考えて居たのだろうか。結局勢いに負けてとんでもない事を言い始めてしまった訳だが、周りの雰囲気まで考慮すると、これは負ける訳にはいかなそうだ。
「アルド様も、文句はありませんよねえッ?」
「勿論だ。負けたら言う事を何でも一つ聞いてやる。どんな無茶な願いだったとしても聞いてやる」
たとえそれがアルドの苦手分野に通ずるモノだったとしても、男に二言は無い。発言には責任が常に付いて回るのだ。この流れでここまで言った以上、今さら引き返すなんて英雄/魔王の名が廃るというモノ。
「よーし! それじゃあルールはこうだ。合間の食事は勿論オーケー、だが飲み物は酒に関わるモノ以外駄目だ。そしてこれはアルド様に関係の無い事だが、魔術を使って無理やり相手を酔い潰すのも禁止だ。先に酔い潰れた奴が負け、最後まで潰れなかったやつが勝者。単純明快だな!」
「単純すぎるあまり、私は少し退屈過ぎるがな……まあ、アルド様と戦える機会なんてこれ以降は無いだろうし、そのルールであれば小細工のやり様がない。いいぞ、では誰が合図をする?」
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