ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

 女子のそれぞれ3

 彼女が連れてきたもう一人の侍女の名は、クローエルという。あまり交流が無いから分からなかったが、もしかしたら城内の何処かで世話になっているのかもしれない。
「補足しておくと、主様のお気に入りじゃ」
「そ、そんな。お気に入り何て……大層なものではッ!」
 オールワークを介してフェリーテも知っている。エヌメラにアルドがやられた時、ずっと彼の部屋で待っていたのはクローエルだった。彼女が居なければアルドはあの時覚醒しなかったし、覚醒しなかったのならばフェリーテ達はきっと……いや、終わった事は考えなくていい。何にしてもクローエルがお気に入りである事に変わりは無いのだから。
「まずは、誘っていただいて感謝しています。フェリーテ」
「―――よくよく考えてみたら、お主を誘わぬのはおかしな話じゃ。妾にしても……というか誰にしても、お主には世話になっておるからの」
「わた、私の名前はクローエルですッ! よ、よよよろ、しくお願いします!」
「……クローエル、何を緊張しているのか知りませんが、貴方だって着飾って来たのでしょう? ならば、もう少し落ち着きなさい」
 そう。今回は彼女達もいつもの給仕服をやめている。オールワークの方は喉元までぴっちりと閉じた白のブラウスと、ズボンの上から上着で作った腰巻を巻いており、とてもスタイリッシュだ。可愛いというよりかは、かっこいい。仮にも同性なのだが、ヴァジュラも一瞬だけ見惚れてしまった。
 一方のクローエルはそれとは真逆で、ネグリジェのような挑発的な恰好と言えば、その意味が分かるだろうか。まだメグナが来ていないとはいえ、現状ダントツの露出度である。
「だ、だってフェリーテ様から誘われたの私だけだし……き、緊張しても仕方ないですよぉ―――」
 まだ何も言っていないのに、クローエルはその場で身を縮こまらせて、隠れるようにオールワークの背中に移動する。恰好こそ毎晩夜遊びでもしているかのようだが、クローエルの実態は恥ずかしがり屋な少女だった。
 では一体どうしてその服を選んできたのか。全くの謎である。クローエルの様子に気を配りつつも、オールワークは彼女の首を掴んで、自らの体から引き剥がす。隠れ処を失った彼女は、顔を真っ赤にしながら胸を抱えて、俯いてしまった。
 いや、本当にどうしてそんな服装で来たのか。先程から彼女の一挙手一投足にファーカが軽い殺意を覚えているのに、全く不思議な話だ。目配せだけでオールワークに伝えると、彼女は軽く頷いて、ファーカの方へと視線を向ける
「彼女にはこれ以外の服が無かったんですよ。どうか、見逃してあげてください」
「……ではお聞きしますが、どうしてそういう服だけ、所有しているのでしょうか」
 彼女が殺意を抱いているのは、何もその格好だけの話ではない。クローエルがファーカには無いモノを持っているから―――言い換えれば、ヴァジュラやメグナに続いて、羨望の対象が増えてしまったから―――殺意を抱いているのだ。加えて本人にその気は全くなく、他の服があるならば迷わずそれにしただろうとまで言うのであれば、猶更性質が悪い。
「そういう服も何も、クローエルは服を買う機会に恵まれなかったモノですから、仕方ありません。これだって彼女の親が彼女に買ってあげたモノですし」
 服を買った事が無い者が多すぎる。フェリーテは厳密には違うのだが、洋服を着てみたいという事であれば殆ど同じだ。まさかアルドに近い女性達にこんな欠点があったとは、意外である。やはり仕えている主が主ならば、従者も従者か。おかしな所が抜けている。
 オールワークの説明を聞いて萎えてしまったファーカは、己の内に殺気をしまってから、帝城の方を見遣る。
「所で、メグナはいつ来るんでしょうね。私は一番に来ると思っていたのだけれど」
「む、ファーカはそう思っていたのか。妾は彼奴あやつを一番時間が掛かると思っているのじゃが」
 この手の集まりで一番気力に満ち溢れているのはユーヴァンだが、彼は男子会の方でその実力を存分に発揮している事から、この中で言えばメグナが一番気力に満ちているだろう。男女混合の会合ではそんな事は無いかもしれないが、今回は男子禁制の女子会。一人でも男性が居ると切り出しづらい話も遠慮なく切り出せるので、野次馬根性の強いメグナであれば強制せずとも話の流れをそういう方向に持っていくだろう。フェリーテは少々苦手だが、そういう話に付き合うのも、また一興だ―――
「…………メグナから、先に向かっておいて欲しいとの事じゃ」
「何かあったんですか?」
「妾達が心配するような事ではない―――が」
 こんな時に何をしているのやら。同郷なのに仲良くも出来ないなんて、メグナにも本当に困ったものだ。
「案内ならば妾の『覚』が使えるし、面倒事も数十分を経れば決着するじゃろう。ここは彼奴の言葉に従って、先に向かうとするかのう」






「やめろん。その服装は貴様には似合わぬ」
 生気を感じない声は、眼前の女性に率直な感想を述べた。
「てめえに指図される覚えはねえんだよッ。墓場に顔突っ込んでから出直してきやがれ出来損ないのポンコツ骸骨!」
 『蛇』の魔人……メグナは、何処までも付き纏ってくるルセルドラグに、いつもの事ながら殺意を覚えていた。せっかくルセルドラグと喧嘩する事もなく過ごせると思ったのに、最悪である。というか待ち合わせの時間はとうに過ぎている筈なのだが、この腐れ骸骨は何しているんだか。
「―――蛇ッチはいつでも口が悪い様だな。私の機嫌が悪かったらこの場で縊り殺していた所だが、アルド様との会合を控えているからそうもいかぬ」
「んだよ、だったらさっさと消えやがれ! こっちはどういう服で行こうか悩んでるんだからッ」
「そういう訳にも行くまいん。貴様の格好次第では私も恥を被る事になるのだからな。あまり淫乱な印象を与えるなよ?」
「どんな服を着ようが勝手だろうがッ! ……はあ、全く。何でユーヴァンみたいな愉快な奴でも無くて、ディナントみたいな無口でも無くて、チロチンみたいな男前でも無くて、アンタみたいなクソ野郎が同郷なのかしら」
「その台詞。そっくりそのまま返してやろう。私も貴様のような売女が友人で悲しい限りだ」
 二人は同時に溜息を吐いてから、同時に扉のノブに手を掛けた。
「良い? ここを出たらもう私に干渉しないでよ。私もアンタには干渉しないから」
「言われずとも分かっているん。それではな、淫乱」
「ええ、じゃあね種無し」












―――ようやく終わったか。それでは案内をするが、準備は良いかの? 


 













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