ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

思考構築 壱

『霊脈に流れる魔力は、大陸に流れる魔力と言っても差し支えない為、当然ではあるが人が許容する事の出来ない魔術でも、霊脈を利用する事さえ出来れば難なく行使する事が出来る』




 つまり、霊脈を利用する事さえ出来れば、実質アルドの保有する魔力と同等の魔力を保有しているような状態になれるという事だ。だから、たとえば国一つを覆うような呪いでも、霊脈を利用すれば発動するのは容易いのである。
「……ふむ」
 しかしそれには条件が幾つかある。まず、霊脈からは通常の手段で魔力を引き出す事は出来ない。霊脈から魔力を引き出すには、自分自身の手で魔力湧出点を作らなければならない。以下は魔力湧出点の描き方であるが、これ以外の陣を組めば、魔力は効率よく排出されない。次項では、湧出点の消し方について説明する…………
 アルドは本を閉じて、適当な場所に本を戻す。大体の内容は理解出来た。そして今度こそ本当に掴む事が出来た。この国を救う糸口がまさか外にあるとは思わなかったが、しかし別に構わない。外であれば待機を命じた二人も動かす事が出来る。
「……ネルレックに、連れてくるように言うべきでは無かったな」
 これでは二度手間になってしまう。何らかの都合があって何だかんだで二人がこちら側に来なければ僥倖だが、そこまでの不幸何だか幸運何だか分からない珍事は早々起こらない。程なくしてネルレックが二人を連れて帰ってくるのは、殆ど確定と見て間違いは無いだろう。こうなる事が分かっていれば止めたのだが、今更な話だ。諦めるしかない。
 取り敢えず、カシルマを探すか。






「武器を持った人? 知らないなあ。大体、それがどうかしたのかい?」
「いえ、何でもないんです。それじゃあもし、何処かで普段武器なんか持ってないのに、不自然に大量に所有している奴が居たら、教えてください」
 これで五十五人目。まだまだ城内には人が居る。ここまで人が密集している場所で五十五人が口を揃えて『知らない』というのだから、十中八九誰も見ていないとは思うのだが、決めつける事は良くない。もしかしたら、誰か一人は目撃情報を持っているかもしれない。
 そう考えたら、ここでこの行動をやめる事は出来なかった。諦めない事が大事だという事は、誰よりも良く分かっていた。そういう師匠を持っていたから、誰よりもその背中を見ていたから、分かっていた。
「お時間大丈夫ですか? ちょっとお尋ねしたい事があるんですけど―――」
「あの……」
 そんな愚かな自分に声を掛けてきたのは、何処かで見かけた顔。しかしながら―――カシルマ・コーストは如何せん人の顔を覚えるのが苦手だ。見かけた事がある事は分かっても、何処で見かけたかは全く覚えていない。
「……誰ですか?」
「あ、どうもッ。『羊』のユラスです。貴方は―――その」
 遠慮している理由は分かっている。彼は自分が人間である事を察しているのだ(人間に近い容姿の魔人が居るのは、魔人達が一番良く分かっている筈)。ではどうしてそれを言おうとしないのかという所で、思い出した。確かアルドと井戸から上った時に、出会った人物だ。では言おうとしないのは、自分がアルドと一緒に来た事を知っているからだろう。だが、今現在そのアルドとは別行動を取っている。ここで自分が人間である事を明言してしまえば、情報も集めづらい上に、最悪集団で嬲り殺しにされかねない。ユラスはきっと、そこまで考えた上で躊躇っているのだろう。
「……僕はカシルマです。それで、何か用でも?」
「いや、用という訳じゃないんですけど、何かお力になれれば、と思いましてッ」
 服装からして、避難した訳では無いのだろう。大方、この国に仕えている者と見た。確かに考えてみれば、この国に仕える為に動いている……つまりこの城の色々な場所を走り回っている者に聞いた方が、情報は手に入りやすいかもしれない。
「では同じ事を尋ねましょう。ここ最近、武器を大量に所有している人を見た事がありますか?」
 期待していなかったと言えば嘘になる。だが、ユラスの表情からその期待は直ぐに裏切られたのだと悟った。やはり誰も見ていないのか? 不自然に武器を持ち歩いている人間なんて居ないのか? 
 いや、まだ全ての人間から聞いた訳じゃない。そうだ、まだ他の人にも……
「―――王様」
「……え?」
「王様が、杖を持っているのは、見た事があります。杖何て使う程弱り切っている人じゃないので、今思えばおかしいのかな、と」
 王様……か。成程、それは盲点だった。色々な権利を自分達にくれたからすっかり外していたが、この国の者であれば誰であっても犯人に成り得る可能性があるのか。そう考えると、もしかしたら自分の尋ねた者の中に犯人が居たのかもしれないと思い始めて、不安になってしまう。いや、もしかしたら眼前に居る『羊』の魔人が犯人なのかもしれない。
「……この情報。役立ちそうですかね?」
「―――とても役立ちますよ。有難うございます。もしまた何か思い出した、または改めて見た事があれば、教えてください」
「はいッ!」
 不安なのは、未だに犯人が誰なのか、見当もついていない事だ。今までの情報を総合しても、論理は結び付かない。非常に微妙な点において掠って、掠って、掠り続ける。
 という事は、もう少し情報を集めないといけなさそうだ。この程度の情報をアルドに渡した所で、事態は何も進展しないだろう。自分が今行うべき事は、自分を救ってくれた師匠を可能な限り助ける事。
 その為にカシルマは、動き続ける。この体が滅びるその時まで。


 





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