ワルフラーン ~廃れし神話
変わらない二人
揺れる船は心地良く。揺蕩う心は泡沫に。溶ける意識は流れゆく。どれくらい時間が経ったのだろうか。あまりにも長い間眠っていた気がする。どうして自分がここに居るかを忘れてしまうくらいには。
起き上がって、周囲を確認する。誰も居ない。扉も開いていない。人が居るような音も感じない。部屋から顔を出して左右の様子を窺うが、やはり誰も居ない。確か自分は、奴隷という身分から解放された後、アジェンタ大陸を放浪していて、暫く経ったら騎士の人達に捕まって……
「カシルマ・コースト……」
脳内にフッと浮かんできた言葉を口に出す。それは騎士達の船を襲った海賊の船長の名前だ。という事は自分は海賊達に拉致されて―――
いや違う。自分から乗った筈だ。そもそも騎士が自分を船に乗せた目的は何らかの儀式の生贄にする……とか何とか。扉越しに聞いただけなので詳細は分からないが、少なくとも奴隷になる以上に最悪な目に遭わされる事だけは分かったので、海賊に助けを求めたのだ。
「…………」
しかし、音が聞こえないのはおかしな話だ。自分が乗った海賊船には男性が数百人は居た筈だ。この部屋には居なくても、廊下や別の階に居るのは別段おかしな事ではない。部屋を出て階段を上ってみるが、やはり人の気配は感じられなかった。どうなっているのだろうか。自分が船に居る以上、一連の流れが全て夢だという事は考えられないのだが。
もう一度耳を澄まして 周囲の音を聞き分ける。今度は周りとは言わない。波の音から甲板の足音に至るまで、その全てを聞き取る気概で―――
足、音?
気づけば足が動いていた。どうしてかなんて自分でも分からない。もしかしたら寂しかったのかもしれない。あれだけ賑やかだった船が一瞬にして静まって、不安だったのかもしれない。或いは、その先に求めていたモノがあると予感したからかもしれない。
自分が甲板に躍り出ると、甲板では二人の男が剣を交えていた。
己の死生観を語るのは好きではない。どう捻っても暗い話にしか発展しないし、これを聞かせた所で誰にも何の得が無いからだ。それを聞かせる人物が自らの弟子であるというのなら猶更。師たるモノ、何のタメにもならない事柄は教えるべきではない。その後の雰囲気を気まずいモノにしない為にも、それは徹底するべきだった。何を喋って良いか分からない。
「…………」
「……………………」
いや、本当に何を喋れば良いのだろうか。何処まで見ても海、海、海。アジェンタまでは後三日もあるのに、この状況が続くのは非常に不味い。気まずさに耐えかねてツェートから振ってきた話とはいえ、それを上手い事締めなかったのは自分である。責任はどう考えてもこちらにあり、尋ねるような形で話を締めた事を今更後悔した。ツェートには答えられる訳が無いのに。
「ツェータ。久しぶりに剣を交えないか?」
手すりに凭れる背中を離して、アルドは甲板の中心へと歩き出す。
「……別にいいけど、どうしたんだ? 急に」
「以前戦った時は両腕があっただろう? それにそんな剣では無かった。私をいつか超えたいと宣言したのであれば、隻腕でありながらも人の業を越えなければならない。ある意味では私よりも辛く、苦難な道のりとなるだろう。で、あるならば。お前はここで戦っておくべきだ。二代目『勝利』である私とな」
死ぬ訳には行かないが、弟子が自分を超えてくれるというのであれば本望だ。ナイツは悲しむかもしれないが、それでもアルドが育てた弟子が師匠を超えてくれたという事実は何物にも代えがたい喜び。
もしもそれがツェートであっても、喜びは変わらない。
「しかし強制はしないぞ。もう以前の様に手加減はしないし、あんまり成長していないようならば死ぬかもしれないからな。お前が過ごしてきた数年間に何の意味も無いというのであれば、拒絶しても―――」
直後に放たれた一閃を、アルドは見もせずに指で挟むように止めた。
「俺はいつか必ず師匠を超えて見せる。受けるに決まってるだろ? 自分が今、師匠にどれくらい追いついているのか―――理解する為にもな!」
剣が動かせないと悟るや、ツェートは後方に飛んだ。以前は視界の外に飛ぶ能力だったが、何かしらの魔術を使って、その制限を無くしているようだ。それに応えるようにアルドもまた死剣を取り出して、構える。
「死に物狂いで勝利を願えば、或いはその刃は届くのかもしれないな……来い、ツェート・ロッタ! 二代目『勝利』を冠りしこの力、如何程のモノかを見せてやろう!」
起き上がって、周囲を確認する。誰も居ない。扉も開いていない。人が居るような音も感じない。部屋から顔を出して左右の様子を窺うが、やはり誰も居ない。確か自分は、奴隷という身分から解放された後、アジェンタ大陸を放浪していて、暫く経ったら騎士の人達に捕まって……
「カシルマ・コースト……」
脳内にフッと浮かんできた言葉を口に出す。それは騎士達の船を襲った海賊の船長の名前だ。という事は自分は海賊達に拉致されて―――
いや違う。自分から乗った筈だ。そもそも騎士が自分を船に乗せた目的は何らかの儀式の生贄にする……とか何とか。扉越しに聞いただけなので詳細は分からないが、少なくとも奴隷になる以上に最悪な目に遭わされる事だけは分かったので、海賊に助けを求めたのだ。
「…………」
しかし、音が聞こえないのはおかしな話だ。自分が乗った海賊船には男性が数百人は居た筈だ。この部屋には居なくても、廊下や別の階に居るのは別段おかしな事ではない。部屋を出て階段を上ってみるが、やはり人の気配は感じられなかった。どうなっているのだろうか。自分が船に居る以上、一連の流れが全て夢だという事は考えられないのだが。
もう一度耳を澄まして 周囲の音を聞き分ける。今度は周りとは言わない。波の音から甲板の足音に至るまで、その全てを聞き取る気概で―――
足、音?
気づけば足が動いていた。どうしてかなんて自分でも分からない。もしかしたら寂しかったのかもしれない。あれだけ賑やかだった船が一瞬にして静まって、不安だったのかもしれない。或いは、その先に求めていたモノがあると予感したからかもしれない。
自分が甲板に躍り出ると、甲板では二人の男が剣を交えていた。
己の死生観を語るのは好きではない。どう捻っても暗い話にしか発展しないし、これを聞かせた所で誰にも何の得が無いからだ。それを聞かせる人物が自らの弟子であるというのなら猶更。師たるモノ、何のタメにもならない事柄は教えるべきではない。その後の雰囲気を気まずいモノにしない為にも、それは徹底するべきだった。何を喋って良いか分からない。
「…………」
「……………………」
いや、本当に何を喋れば良いのだろうか。何処まで見ても海、海、海。アジェンタまでは後三日もあるのに、この状況が続くのは非常に不味い。気まずさに耐えかねてツェートから振ってきた話とはいえ、それを上手い事締めなかったのは自分である。責任はどう考えてもこちらにあり、尋ねるような形で話を締めた事を今更後悔した。ツェートには答えられる訳が無いのに。
「ツェータ。久しぶりに剣を交えないか?」
手すりに凭れる背中を離して、アルドは甲板の中心へと歩き出す。
「……別にいいけど、どうしたんだ? 急に」
「以前戦った時は両腕があっただろう? それにそんな剣では無かった。私をいつか超えたいと宣言したのであれば、隻腕でありながらも人の業を越えなければならない。ある意味では私よりも辛く、苦難な道のりとなるだろう。で、あるならば。お前はここで戦っておくべきだ。二代目『勝利』である私とな」
死ぬ訳には行かないが、弟子が自分を超えてくれるというのであれば本望だ。ナイツは悲しむかもしれないが、それでもアルドが育てた弟子が師匠を超えてくれたという事実は何物にも代えがたい喜び。
もしもそれがツェートであっても、喜びは変わらない。
「しかし強制はしないぞ。もう以前の様に手加減はしないし、あんまり成長していないようならば死ぬかもしれないからな。お前が過ごしてきた数年間に何の意味も無いというのであれば、拒絶しても―――」
直後に放たれた一閃を、アルドは見もせずに指で挟むように止めた。
「俺はいつか必ず師匠を超えて見せる。受けるに決まってるだろ? 自分が今、師匠にどれくらい追いついているのか―――理解する為にもな!」
剣が動かせないと悟るや、ツェートは後方に飛んだ。以前は視界の外に飛ぶ能力だったが、何かしらの魔術を使って、その制限を無くしているようだ。それに応えるようにアルドもまた死剣を取り出して、構える。
「死に物狂いで勝利を願えば、或いはその刃は届くのかもしれないな……来い、ツェート・ロッタ! 二代目『勝利』を冠りしこの力、如何程のモノかを見せてやろう!」
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