ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

男として取るべきは 前編

 どうしてこんなに恋愛が苦手なのか。たとえ理由が分かっていても、そう考えずには居られない。ファーカの時もそう。メグナの時もそう。いつもいつも自分は一人だけでは何も出来なかった。戦争とは何もかもが違っていた。人類の全てが防戦に立ち回る中、たった一人攻勢に出た男が居た。アルドである。だからこそアルドは魔王を倒し地上最強となった訳だが、どうして恋愛だとこうも弱くなってしまうのか。どうして女性の気持ちが分からないのか。こんな奴が男を名乗っていいのか疑問である。男は常に勇ましくあるべきとは言わないが、仮にも自分は地上最強と呼ばれていた男。弱いままでいい筈がない。なのに……
―――私は、本当に情けないな。
 大陸奪還は最重要解決事項だが、やはりこれからは女性にも少しずつ慣れて……言い方が悪いか。少なからず恋愛に対しての苦手意識を直していった方が良いだろう。自分達の行動がどんな結末を招くにしても、苦手意識がこのままでは碌な事にならない。それに、魔王がこのままでは自分を好いてくれている者達にも失礼である。『魔王は色々な相談に乗ってくれるが、恋愛相談だけは例外だ』等と言われてしまうのも出来れば避けたい。これは最早性分なのでどうしようもないが、やはりアルドは誰かを助けたい。人生相談は流石に責任を取れないので辞めて欲しい(それでもしてくれるというのであれば恐らく引き受ける)が、恋愛相談やちょっとした悩み事、或いは特殊体質故の苦悩等は聞いていきたい。それはきっと様々な人達と出会ってきたアルドしか出来ない事だし、王なる者の務めでもあるから。
 大聖堂の玉座に背を預けながらそんな事を考えていると、正面に聳える大きな扉が音を立てながら開いた。
「いやー流石に疲れたわ! 幾ら俺が自由に飛べたとしてもさあ、流石にあれは酷くないか? なあッ」
「でもツェート君、凄く楽しそうだったよね!」
 楽しそうに話すツェートとエルア。その後ろで頬を膨らませて嫉妬しているレンリーと……ツェートの仲間その二。
 誰か足りないような気がする。
「おうよ! 俺ってば、ついてるもんだから、途中でヴァジュラさんと……ああヴァジュラさんってのは『狼』の魔人でな……あれ、先生。先に帰ってるなんて珍しいな、何かあったのか?」
「それはこちらの台詞だ。エルア、お前いつの間にツェータの事を君付けで呼ぶようになったんだ」
 細かい年齢の話になるが、一応ツェートはエルアよりは年上である。あんな村にずっと閉じ込められていた経歴も考慮すると敬語は仕方ないが、君付けは流石に予想外である。『さん』か呼び捨てか。そのどちらかだと思っていた。
「悪魔さんが教えてくれたの! 男はこう呼ぶと簡単に陥落するってッ」
 そんな事を笑顔で言うエルアを見ていると、多分というか絶対に陥落の意味を分かっていないし、悪魔も悪魔で一体何を言っているのか分からない。君付けするだけで陥落って……何だ。その男はどれだけ女性に免疫が無いのだ。
 そんな男性がこの世にいる筈……もしかして、私か? 
「後で覚えてろよ……」
「どうしたの?」
「いや、何でもない……所でオールワークはどうしたんだ?」
 そう、足りなかったのはオールワークだ。アルドが何をするにしても彼女が居なければ話にならない。彼女は恐らく単独行動をしているので期待はしていなかったが、二人は声を揃えて言った。
「先に帰ってないの/まだ帰ってないのか?」
 玉座から見渡せる範囲を一応見るが、やはり彼女は帰ってきていない。両手を広げて頭を振ってやると、二人は背後の者も交えて不思議そうな表情で何やら話し始めた。流石にこの距離では声は聞こえない。挙動や語調からは、特に何かあった訳でも無さそうだが……んん?
「どうしたんだ?」
 ツェートの体がビクッとはねて、それから驚いたようにこちらを見た。そんなつもりは全くなかったのだが―――実に怪しい挙動である。
「何でもないぜ! そんな事より師匠、そろそろ食事の支度でもしようぜ」
「は? いやだから、オールワークは……」
「オールワークさんは後から来るから! だから支度しようぜ!」
 ここまで強引な話の切り替え方がかつて存在しただろうか。普通話を逸らす時は自然な方向に逸らすべきなのだが、こんな切り替え方には自然さも何もあったものじゃない。真反対どころか話を逸らし過ぎて話を逸らせていない。
「……エルアはどうなんだ? オールワークの姿は見えないが、それでも食事の支度をするべきだと思うか?」
 突然話を振られたエルアは、表情を強張らせて、体を硬直させた。あんな逸らし方をするツェートだが、その表情は意外にも読みにくい。分かりやすい奴の表情はその心理の詳細まで読めるが、彼の場合はどんな感情を抱いているかぐらいしか読み取れない。
 しかしエルアは楽だ。村に隔離されていた影響で心が汚れていない。二人がどんな事を隠しているか知らないが、じっくり見せてもらうと―――
「……教える訳ないだろ、アルド。宿主を利用して見透かそうとするのは勝手だが、こっちは口止めされているのだ。少しは空気を読め」
「―――その声は、悪魔か」
 エルアの愛くるしい顔からは想像もつかない程低い声が聞こえて正直驚いたが、何の事は無い。悪魔は消去していないのだ。こんな風に現れても不思議ではない。
「確かにそこな小僧の言葉は不自然だが、少しくらいの不自然は見逃してやれ。それが師匠の器量というモノではないのか?」
「お前に私の器量に対して口を出されるとは思わなかったが……お前が相手では心が読めないな。分かった、何を考えているのか知らないが、乗ってやろう」
 アルドは腰を持ち上げて、軽く首を鳴らした。
「しかしアイツが居ないのでは支度も時間が掛かる。お前達も厨房に来いよ。命がけの料理クッキングだ、ちゃんと覚悟を決めてから来い」
 言葉が大袈裟? そんなつもりは全くない。アルドの言葉には一切の誇張は無い。只、これから起こる事を暗示しているだけだ。
 自分は出来ない訳ではないが、頻度としては少ない方だ。それにレンリー、エルア、ツェートの三人が―――全く料理をした事が無い者共が加わるとどうなるかなんて想像に難くない。










「え~っと、そもそも何を作ればいいんだ?」
「これなんかどう? 凄く美味しそうだよ!」
「ツェート、これなんかどうかしらッ。これだったら調理も簡単そうだし、見た目も凄く良いと思うんだけど!」




―――やはりこうなったか。










 

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