ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

王である為には

「貴様、何故目覚め―――!」
 王剣の刃が悪魔の額に突き立てられると同時に、『あらゆる束縛を解放する』特性が発動。悪魔の内側から金色の光が差し込み、刹那。アルドともう一人が悪魔の内側から排出される。と同時に、チロチンは『刻の調』を発動させて、二人を回収。
 悪魔の額からは、血の代わりに魔力が漏れ出ていた。
「師匠!」
「アルド様……ご無事ですか」
 悪魔の言葉に偽りなし。アルドの全身には何かに突き刺されたような痕が数十以上も存在していた。穴の大きさも考慮すれば、アルドの体は四割以上欠損しているのだが、どうして動けているのかが分からない。
「無事……だよ、勿論。この程度で私は死なない。それよりこいつ……チロチン、頼む」
「……仰せのままに」
 アルドよりかは彼の方が守れるだろう。切り札の関係もあるが、最悪空間外に逃走する事も出来るから。気を失っている彼女を引き渡すと、アルドはゆっくりと立ち上がって彼女の隣に歩みを寄せる。
―――少しの間だけ、俺に話させてくれ。
 そう思考で伝えると、フェリーテは身を翻し、チロチンの元へと歩みだした。
「悪魔。お前は、元々こうするつもりだったのか?」
 エルアを利用した悪魔は許すべき存在ではない。だがアルドには聞きたい事があった。そしてアルドの予想が当たっているのであれば、この事件の犯人は……信じたくないが。
 悪魔は王剣に付けられた傷によって暫し呆然としていたが、やがて諦めたように語りだした。
「……いや。元々ではなかったぞ。結果論で言えば確かに大成功だったが、元々はお前を永久に閉じ込めるだけだったからな」
 悪魔が無気力になっている理由は、王剣によって突き刺された瞬間、悪魔が行使できていたとじこめていた権能が全て解放されてしまったからだろう。その瞬間に権能の食い合いは決着、この世界の主導権はフェリーテに渡ってしまったのだ。現に、全身を押し潰していたような感覚が今は消えている。
「俺は宿主の願いに乗ったのさ。お前と離れたくないという願いにな。だから俺はこうしてやった。宿主の感情によって世界を構築。お前が宿主の好意を拒絶するだろうって事は本人もよく分かっていたからな。何せお前は魔王だ。宿主一人の為に生きている訳じゃない。そして本来なら、それを引き金にお前の記憶を徐々に改ざんしていき、他の奴らの事など忘れさせるつもりだった。この時の止まった世界で永遠に……宿主と一緒に居させるつもりだった。そして幾星霜もの時間を掛けてお前を取り込み、俺は力を取り戻す。そういう算段だった……んだな。勿論この辺りの計画は宿主の関知するところではない。飽くまで俺が裏でやろうとしていた事だ」
 悪魔と共存する事。それはメリットだらけにも思えるかもしれないが、ただ一つだけ確実なデメリットがある。
 それは悪魔に乗っ取られる危険性だ。幾ら力を削いで強引な手段では乗っ取れなくなったとしても、悪魔の本分は人を惑わす話術。やり方次第では幾ら力を削いでも悪魔は宿主を乗っ取る事が出来る。
 言い換えれば、宿主からは悪魔を抑え込むこと、嘘を吐く事は出来ないが、悪魔はいつでも宿主を乗っ取る事が出来る、または騙す事が出来るのだ……アルドを乗っ取るつもりだった事を宿主が知らないという話は本当だろう。確かめるまでもない。嘘を吐くメリットが無いから。
 結局、効果の例外とは何だったのだろうか。以前中断した思考と繋ぎ合わせてみるが―――


『先程から変わっていない事があるとすれば、反転という性質だけ。動けない筈のエルアが自由に動けるようになり、『在った』筈の家が消えて、無い筈の草原が現れて。もう何処から現実で何処からが亜現実なのかが分からない。
 景色が変わった時に亜現実に捕らわれたと考えるのが普通だが、それを証明できる根拠は何一つない。それに捕らわれたとは言うが、自分達は効果の例外の筈だ。少なくともゼノン以外の同行者と別れた時点で何かしらの分類には入っている。この場合は『効果の例外』という分類に入っている訳だが、本当に例外なのだろうか。意識を失う事も操られることも無かったが、何かしらの影響を受けている時点で、それは果たして『効果の例外』と言えるのだろうか。
 言えるのであれば、自分達は一体何の効果の例外なのだ? 少なくとも何かを受けているからこんな事が起きている。この亜現実の効果の例外という訳ではあるまい』


 効果の例外とは、結局何なのだろうか。自分を目標とした計画だったのなら、効果の例外どころか効果のど真ん中だ。彼女が言っていた効果の例外とは……一体何なのだ?
「悪魔。お前の作った結界。例外ってあるのか?」
「例外? ……何だそれは」
「良く分からないから聞いているんだ。だが私の侍女と私の弟子、私とゼノンを分けたんだ。何か基準があったんじゃないのか?」
「それはただ単に宿主が知らない人を無意識に拒絶しただけだ―――その他にあるとすれば、俺が愉しめるか否かだな。お前が相手では愉しむ以前の問題だろうし、お前の連れも俺を知っている以上やりにくい事に変わりはない。そこの侍女は愉しめない類ではあったが、連れのガキが丁度良さそうだったし、侍女もお前に比べれば愉しめる方だと思ったから俺の世界に連れてきた。例外、例内の話をするならそれくらいしか思いつかないな」
 要約するとこんな感じか。ファルソ村に入る際、その人物は四つの条件で分けられ二つの結界に振り分けられる。
 悪魔が愉しめるか、否か。
 エルアが知っているか、否か。
 アルドは悪魔にとっては愉しめない存在だが、エルアがその存在を知っている上に、そもそもの標的。だからエルアの感情によって構築された世界に送り込まれた。
 オールワークは愉しめない存在だったが、エルアがその存在を知らなかったので半ば強制的に悪魔の構築した別の結界に振り分けられた。
 ツェートは悪魔が愉しめる存在だったが、エルアが知らなかったので悪魔の条件が優先された。
 ……効果の例外なんてものは無かったという事か? 悪魔の話を聞いている分には例外は『効果の例外』というより『条件の例外』のように聞こえる。そうとしか聞こえない。
「オールワーク、ツェート…………お前達の所に、死んだ魔人、及び攫われた魔人は居たか?」
 二人は暫しの間顔を見合わせて、首を振った。
「いえ」
「変な影はいたけど、魔人ではない……よな、フォーナ」
「解答に困る、と言いたかったが……然り。あの者達は魔人ではない」


『それでねー……私以外の話し相手を欲しがったエルアは、死んだ村の人たちを操って、外から魔人達を攫っているの。攫われた人たちは無理やり村に住まわされて』
『アルド以外には頼めないよッ。今は村の周囲数百メートルに近づくだけで意識を奪われるまでになってる。頻繁に訪れてる私は効果の例外に入ってるみたいだけど……このままじゃリスド大陸があの村に浸食されちゃう!』










………………………………この結論が嘘であると信じて。最後にもう一度今までの流れを振り返ろう。
 アルドは玉座を降りてから、内部の安定化に努める為にファルソ村へと向かった。同行者はゼノン、オールワーク、レンリー、ツェート、そしてフォーナとやら。理由はアルドに会いたくなったエルアを鎮める為。最初こそ全員で固まって歩いていたが、悪魔とエルアの条件振り分けにより分裂。悪魔の愉しみに成り得る上にエルアが知らなかった二人(そしてフォーナ)は悪魔の構築した結界へ。一方でエルアが知っていて悪魔の愉しみになり得なかった二人は、エルアの感情で構築された世界へ。最初こそ、この振り分けられた条件こそが効果の例外だと思っていたが、そもそもこれは『効果の例外』というより『条件の例外』。例外も何も、『効果』なんてそもそも無かったのだ。只宿主エルアと悪魔は、アルドを永久にこの村に閉じ込めるつもりだっただけ。効果の例外だとか、魔人が攫われているだとか。その事に二人は全く関知していない。
 では元凶の目的は何だったのか。その答えは考えても出る事は無い。だってアルドはここへ来る道中に、既にその答えを見つけているのだから。








「…………お前。お前だったんだな―――ゼノン」






 









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