ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

想いの相違

 何故?
 樹剣『胚逆はいさか』は、地面と接している場合のみ、樹木を自由に発生させて操作する事が出来る。おまけにこの樹木は使用者の―――あらかじめ言っておくが、アルドは担い手ではない。一時的に預かっているだけである―――感覚とリンクしている為、彼女達は直ぐに見つける事が出来た……のだが、どういう訳か現在、二人と交戦状態となってしまった。緊急事態ではあるが、未だ鬼ごっこは続行中。だから捕縛という形で彼女達を保護したかったのだが、一体どうしてこうなってしまったのか。交戦している時点で鬼ごっこでも何でもないし、そんな行動に走ったという事は、彼女達は気づいていないのだろう。その樹木を操作している人物が、自分である事に。そうでなければゼノンまでもが武器を取り出し、こちらに殺意を向けているなんてありえない。樹木となんて戦った経験が無いからか、その殺意は少しだけ揺れている。
 ……そういえば、ゼノンの武器は『短剣』だったか。
 感覚の共有を断ってしまえば、樹木の操作が出来なくなる。その間にまた彼女達に離れられてしまうのは好ましくないし、樹木の操者がアルドだという事に気付いていない以上、その行動を取る事は確実。だが感覚の共有を断たないと、樹木に与えられたダメージまで共有してしまう。
 ……不死性も無い以上、あんなのを喰らったらひとたまりもないが……まあいいか。








 程々の距離を保ちつつ樹木を切り落としていくが、キリがない。切断個所から樹木から再構築されるのでは、切断では分が悪いとしか言いようが無いだろう。このままではジリ貧だ。三方向から襲い掛かってくる枝を最低限に切り落とし、残りは回避。急には曲がってこないので、少しばかり戦いの経験があれば回避は容易だ。エルアはアルドの真似をしているに過ぎないので、経験があるかと言われると少し違うが。
 その一方でゼノンの切り落とした箇所は素早く崩壊。再生の兆候は見えない。
「ねえ、ゼノン? どうしてゼノン……のッ、樹は再生しないの?」
「えッ」
 跳躍。その直後に足元を大木が薙いだ。ほとんど直感だったが、喰らっていれば直ちに身柄を捕縛されていた事だろう。エルアは……切断したようだ。
 だが油断してはいけない、攻撃はそれだけではないのだ。激しくのたうつ大木。それは動くだけで強靭な鞭となる。そもそも鞭は柔軟性を活かした武器であり、どの部分が直撃するのかを読みづらい武器だが、その鞭があらゆる方向から高速で攻めてくるとなると、それら全てを完璧に防御する事など不可能だ。エルアは完璧にやっているが、自分の武器と違って猛毒が仕込まれてない為に、ジリ貧か。
「毒……刃に塗ってるんだよね! ちょ…………はッ!」
 ゼノンの武器はその強さこそ中位程度だが(それでも人を殺すには十分である。こちらから言わせてもらえば、只の戦いに平気で極位や終位を持ち出すアルド達がおかしいのだ)、殺傷力を高める為、刃に猛毒を塗布している。
 これは今は亡きリシャが特別に調合してくれた毒であり、血清はない。掠るだけでも人を殺すには十分。樹木程度の再生能力など一瞬で無力化できる。
 しかし再生は防げても再構築ばかりは防げない。短剣は取り回しの良い武器である為に何とか防戦が成立しているが、一転攻勢にはなり得ない、何せ相手は樹木なのだから。一体何処を狙えばいいのかさっぱり分からない。一番太い樹を崩壊させた所で効果はない。
「ねえこれ……どうするっの……!」
 ゼノンは懐から素早くナイフを投擲。エルアに襲い掛かる枝を的確に崩壊させたのを見届けて、彼女の手を引いたまま背後の通路に駆けこんだ。
「取りあえず、あの太い樹が本体じゃない事は分かった。だからもう根元を狙いに行くしかないと思う」
「根元? でも根元が何処にあるか分かるの?」
 ずっと、疑問だった。どうして防御で精一杯になってしまうのか。それは勿論、数の暴力もあるだろうが、やはり一番の理由は最短距離で常に攻めてきたからだろう。多少攻撃された所で問題ない樹木ならば、たとえ傷を負おうとも常に最短距離で攻撃が出来る。肉すら切らせず骨を断つ。あちらには何のダメージも無い。
「それは分からないけど、樹木が生えてる位置なら把握してる。だから次の大空洞で折り返して、別の入口に飛び込めば、その内根っこの方に辿り着く……筈!」
 最後の一言を言いさえしなければ、エルアも不安な表情を浮かべる事は無かっただろう。苦笑いで誤魔化すが、既に手遅れである……音もなく接近していた細枝を振り返りざまに切り落とす。
 少しの油断もならない。
「ねえ、ずっと気になってたんだけど……この樹って私達だけを追い回してるのかな」
「……どういう事?」
「もしかしてアルドも追い回されてるんじゃないかなあってッ」
 そういえばその可能性を忘れて……いたが。特に問題は無いように感じる。だってアルドは、
「……まあ、アルドだったら何とかなるでしょ。私達でも相手になるような奴がアルドに手傷を与えられるとは思えないし」
「あ、そっか! 確かにあのテンシンナントカ流? みたいな技もあるし、大丈夫か!」
 エルアは特に気にしていない様子だが、『天森白鏡流』なる流派は聞いた事が無い。そもそもアルドは剣技に関しては無手勝流。あんな訳の分からない流派になど所属していない筈だが、出鱈目で言ったのか?
 それにしては随分と動きが型に嵌ったように綺麗だったような……


「ゼノン、目の前から樹が―――!」


 








「ガ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!」
 喉が焼き切れんばかりに叫ぶも、声は虚しく宙で散る。ゼノンの所有している武器は『皇』が作成した毒。解毒方法などある訳がなく、樹木と感覚を共有しているアルドは、その全身が崩れていくような痛みを共に味わわなければならない。
「ヴ゛ヴ゛ル゛ダ゛ガ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ガ゛ア゛ア゛ア゛ギ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ゥ゛ゥ゛!」
 実際に毒に侵されている訳ではない。だがこの痛みは……あまりにも、あまりにも長い! 瞬きをしている余裕はないし、全身に激痛が走っている為に痛みを抑える事も出来ない。こんな殺風景な場所では気を紛らわす事も出来ないし、かといって感覚共有を切る訳にはいかない。五感を断絶すればこの痛みは消えるかもしれないが、どのみち体は動かないので意味がない。
 早く、早くとらえなければ。かのじょたちを、はやくほごシナケレバ―――!























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