ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

王の凱旋 前編

「ガ……ハッ!」
 リューゼイは僅かに上体を浮き上がらせた後、そのまま後方へとよろめいて、倒れた。半毛半骨の仮面を被った男は首を軽く鳴らして、肩を銃で叩き始める。
「ふーん……。ちょっと年齢を戻したとか言ってたけど……あれだな。戻し過ぎだ。魔力も身体能力もこれじゃ生前じゃねえか。あー嫌になっちまうよ、クソが」
 一体この男は何者だ。自分がまるで相手にならない。素手でこの様子では、剣を使われていれば抵抗の暇すらなく殺されていただろう。そうしないのは自分と彼の間に圧倒的実力差があるから。これを言ってしまうと弱さを認めてしまうようで悔しいが、この男は―――弱者は殺さない主義だ。
「ま、別にいいけどな。……さて、お前等。俺は……まあ、そうだな。『黄昏を追う者ダスクチェイサー』、『死双銃ブリュンデラ』。色々名前はあるが……正体が分からなくて困ってるようなら、こう言わせてもらおう」
 男はその奇妙な仮面に手を掛けて、ゆっくりと取り外した。仮面の奥に浮かんでいたのは、笑っているような怒っているような曖昧な表情。多少顔は若いし、鼻筋に沿った逆さ十字もないが、間違いない。
「―――初代『勝利』とな」
 まさかとは思っていたが……銃をああも使いこなす人間などやはり一人しか居なかった。
「エイン……………!」
「んーんーんー。お前の言いたい事はよーく分かってるよ。よーくな。だが安心しろ。別に俺は魔人に使役されている訳じゃない。縁のあった人物にお願いされてね。本当は死にたくて死にたくて仕方なくて、この世の中から永遠にご退場したかったんだが……まあ、そう上手くは行かないのが人生だ。俺の場合、いい加減夢を見させてくれてもいいと思うが……これも至らぬ後輩の尻拭いの為。かっこよく退場したかった先輩はカッコ悪く再登場して、再び尻拭いをするんですよ」
 先程から体内に魔力を集中させて傷を治癒しようとしているのに、この左胸に空いた風穴は一向に閉じる気配を見せなかった。それを知ってか知らずか、エインは仰々しく手を広げて、芝居がかった口調で語りを始める。
「さて、こいつがダウンしたみたいだけど、まだ戦うか? くどいくらいに言ってやるが、俺は虫の居所が悪い。たとえ不死でも勝てるとは思わない事だ。不死は死なないだけだからな、殺す手段何て幾らでもある。何が言いたいかというと―――大人しく国に帰れという事だ」
 エインは上空に銃を向けて、発砲。空砲ではない事は、この場所に居る全員が良く分かっていた。一発無駄にさせたと前向きに考えるのもいいだろう。だが銃の構造的に何連発も撃てる事自体がそもそもおかしい事に気付いている人は、こう考える。
 一発撃たせたところで意味はない。エインの思う使い道以上の意味を持たないと。
「……それにしても、随分騎士団も弱くなったな。アイツの居た頃とかは知らないし、俺の居た頃を基準として言わせてもらうが、どいつもこいつも腰抜けばっかりだ。女にばかり強く出て、死には逃げ腰。駄目だな、駄目だよお前等。落第点も良い所だ。アンタも随分と見る目が腐ったな、団長様」
「……貴様らが現れなければ、人間は永遠の平和を築けていた! アルドと魔人と……貴様が居なければなあ!」
「種族間の闘争に勝手に俺を入れないでほしいね。それにアルドが魔人側についたのはお前らのせい、自業自得だこの野郎が。てめえらのミスを認めずに不都合だけを取り上げて、だからてめえらはクズだって言ってんだ。王様も、それを良しとするお前等騎士団全員も……皆皆みーんなクズばっかりだ」
 エインは荒れていた。逆さ十字が無い事を考えると、今の年齢は初代『勝利』として動いていた頃のエイン。そしてその頃は丁度、王がエイン消失の原因を作ったころだ。流石に精神は戻っていないようだが、それを抜きにしても、その頃の体に戻るだけでかつての憎悪が蘇ってくるのは、さして不自然な事ではない。
 ―――さて、どうするか。
 無理をしないのであれば暫く動かないに越した事は無いのだが、今動かないという判断はありえない。そんな事をしてしまえば団長としての面目は丸つぶれ、そしてその評価はやがて国にも影響を与える。
『たった一人の男に為すすべもなくやられた男が団長の国、フルシュガイド』
   その一人の詳細など明らかになる訳がない。その手のものは大概こちらが不利になるようになっているのだから。
  エインは反応を見せない騎士達を相手に苛つく事もなく、ただじっと返事を待っていた。紳士的なのではない、慢心していないのだ。隙を突かれれば殺されることを分かっているから。リューゼイの持つ剣の特性を知っているから。
「……あーあ、つまらねえな。せっかく俺が恩を売ってやろうと思ったのに、来ちまったじゃねえか」
 エインは上を見上げて悔しそうな表情を浮かべる。仰向けに倒れているリューゼイからも、その姿はハッキリと見えた。
「アルド…!」





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