話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

せめてその先へ

 さて、もうどれくらい時間が経ったのか、キリーヤには分からない。壁伝いにどうにか角を曲がっていくのだが、一向に出口は見えない。一時間ぐらい歩いたかもしれないし二時間ぐらい歩いたのかもしれないが、エリを助ける事になると思われる仕掛けすらも見当たらない。行き止まりにもぶち当たらない。どこをどう言っても終わりは見えない。
―――迷路として、破綻してるよ。
 行き止まりとすら遭遇できないのはどう考えてもおかしい。設計ミスを疑うレベルにおかしい。
 迷路脱出というモノは、行き止まりから全体の地図を作成していくという行為から始まる。突き当りを右が行き止まりなら、その左は……といった具合に、俯瞰視点でもない限りはこうやって地図を作っていくしか方法はない。
 だというのにこの迷路……広すぎるか何だかしらないが、まるで行き止まりが無い。単純に長すぎるだけという事はありえない。そんな迷路だったら前回の挑戦者であるアルドがクリアできる筈はない。彼が幾ら化け物じみた強さだったとしても、この迷路には何ら関係はないから。
―――ダメダメ。一旦常識を捨てなきゃ。
 アルドであれば、きっとここまで慌てない。キリーヤの知るアルドはもっと冷静に、いつものように勝利への道を切り開く筈だ。
 今までの常識が通じないなら、最低限の常識を通用させるしかない。例えば謡が言っていたように……ここには出口がある。突き落とされたとはいえ入口もある。
 入口もあり。出口もあり。それでもって行き止まりが無いのなら……
―――通り道全てが、出口に通じている?
 脳裏に全く全体図が浮かんでこないが、そうとしか考えられない。ここまで歩いて何にも出会わないという事は、つまりそういう事だろう
「あッ!」
 そこまで思い至った所で、片足が何かに引っかかる。頭から流血している状態で意識が散漫していたようだ。受け身すらままならず、キリーヤは派手にずっ転んだ。
―――痛っ。
 目から漏れる涙を拭い、再び立ち上がる。見ると片足はいつのまにか、丁度石畳の抜けた場所に突っ込んでいた。
―――こんなのあったっけ。
 思考に意識を割くあまりに注意力が欠けていたのかもしれない。次からは気を付けなければ……今度こそキリーヤは意識を失ってしまうかもしれないから。






―――全くおかしな真似をしてくれましたね。
 ハッキリ言ってエリの想いは間違ってなかったと言える。謡はやはり信用ならない。悪意は無かったが、だからと言って迷惑な行為をしていい理由にはならない。何故か謡は出口に居るらしいし、後でたっぷりと文句の一つでも……必要に応じて一刺し二刺ししてやるとしよう―――獅辿単体でも能力は十分に凶悪で、人を殺すには十分すぎるが、まああの謡だ。そうそう死にはすまい。
 エリは立ち上がって、差しあたっては行き止まりに当たるまで歩く事にした。如何に巨大な迷路と言えど、所詮は迷路でたかが迷路だ。適当に歩いていればいつかは必ず……とまあ。浅い考えを抱いていたのだが。
――――――
 景色は少しも変わらない。完璧に敷かれた石畳と、見えない天井と、苔むした壁。右に曲がっても左に曲がっても直進しても変わらない。というかそもそも、行き止まりに当たらない。
 謡の説明を信じるならば、自分の行動がキリーヤの助けになるというが、生憎エリは歩いているだけだ。レバーを引くとか、スイッチを押すとか、仕掛けのようなモノには一切触れていない。歩いている事しか出来な―――
――――――こういうのは荒っぽいので控えたかったんだけど。
 エリは獅辿を握りしめ、真横の壁に思い切り突き立てた。壁は少しばかりの抵抗をしたが、極位相当の武器の前では多少の硬度など無意味。壁は勢いよく砕け散り、丁度人が一人通れる分の穴が出来た。
―――今回ばかりは正々堂々とか言ってられる場合じゃないし。
 自分の心は試練の突破だけを考えればいい。この試練を突破する事だけを考えればいい。決して出口にいる謡をぶん殴る為にとか、ついでに一回刺しておくとか、そういう事は全然考えていない。
 そんなこんなで数十分が経過した。壁を壊しては向こうの道に移動する行為を繰り返すが、キリーヤは見つからないし、行き止まりにも当たらないし、出口は見つからないし。どうやらこの迷路は『破壊行為による道の作成』すらも許容しているらしい。ここまで迷路が広大だと、流石に精神の方が疲労してくる。身体よりも先にこの異常なまでの退屈さに精神が傷を負っている。
―――或いはそれが、この試練の目的?
 いや、まさか……ありえないとは、思うのだが。謡のいう事を信じるなら、今までの試練全てには意味があるらしい。最後の試練が一番大事でありながら、今までの試練に意味があるという事は、つまり今までの試練は、最後の試練の為の布石、或いは前準備。そんな所ではないだろうか―――


直後。エリの足元が突然崩落した。


―――え?


回避する間もないままに、エリの体は闇の底へと落ちていった。








 第二の試練における出口の前で、謡は静かに酒を呷っていた。眼前に広がる出口への道。今だどちらかの姿すら見えない。
 ……まあ普通はこんなもんだよな。
 アルドは強引にも程があったので置いといて、あんな手段でも使わない限りはそうそう辿り着けはすまい。
「まさか自分の斬撃の届く範囲で全体像を知るとか……誰もやらねえよな、うんうん」
 謡は立ち上がって、大きく伸びをした。一日か三日か一週間か。さて、あの二人はどれだけ時間を掛けてくるのやら…………














「え?」













「ワルフラーン ~廃れし神話」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く