ワルフラーン ~廃れし神話
第二の試練
謡の登場に色々疑問はあるが、試練がまだ残っている以上そうも言っていられない。今は取りあえず味方として先に進むとしよう。
ハッキリ言って謡は信用していないが。気にしないでおこう。聖槍を回収した後、エリ達は奥の扉を押し開い―――
「そういえば謠さん。この試練について何か知ってる事ありますか?」
キリーヤの問いに、少しだけ押し開かれた扉が再び閉じる。そういえば、ここの管理人はアルドの事を知っていた。謡がアルドの味方である事は間違いようも無いので、アルドがここにきていたならば謡もここを知っている筈である。
エリは気取られない様に魔術を発動。心音に気を配りつつ、謡を見遣る。
「うーん、そうだなあ……あるっちゃあるが、正直役には立たないぞ?」
「何でもいいんです、お願いします!」
キリーヤのお願いには妙に弱いのか、謡は困ったような表情を浮かべている。彼とは船であった以来の仲で、深く知っているという訳ではないが、それでも彼が純粋に困っている表情を見るのは珍しい気がする。言っては何だが見てると少しだけ……面白い。
「……三つめの試練は口外禁止でな。これ破ると死ぬ。そういう訳で二つ目だけ教えてやろう」
また三つめか。あの管理人も三つめは全然教えようとはしてくれなかったが、一体”鏡”とは何なのだろうか。名前にも意味があるのは既にここ、”満”の試練で判明している。
鏡……か。自分と戦う、とかだろうか。
「二つ目は只の迷路だ。入った瞬間別の地点に飛ばされる。協力しなきゃいけない試練って訳だな。もっとも、どうあがいてもお前達二人は出会えないがな」
「どういう事ですか?」
「お前達二人は絶対に出会えないが、協力しなきゃいけない。つまりエリとキリーヤが居るとして、キリーヤが居る所での一見無意味な行動が、エリの助けになるという訳だ」
……管理人は絶対に協力できないとは言っていたが、何だ、そういう事だったのか。直接的な協力が必要な一つ目の試練……とはいっても今回は謡に助けられたが……とは違って、こちらでは間接的な協力しか出来ない、という訳か。
「後……魔力は回復してやったが、俺は試練を破壊するつもりはない。最後の試練は一番大事だが、今までの試練にもちゃんと意味があるって事を理解しておけよ」
……心音は一切乱れない。嘘を言っている訳ではないようだ。
「ああ、別に俺は嘘を言ってないからな。心音を確認したところで意味はないぞ、エリ?」
「―――ッ!」
謡がその顔をエリに向けた。短気な人が見れば思わず拳が出てしまいそうなほど、最悪なまでに気持ちが悪く、最高なくらい大げさな笑顔を。
「まあ、心音を美人様に覗かれるのも悪い気分じゃないがな!」
「どんな性癖ですか……ドン引きですね」
苦い笑顔を浮かべるエリ。割と真面目に引いている。
「まあまあ、落ち着けって。これから始まる第二の試練。難しくはあるが、何。お前達なら出来るさ」
「そうですね―――って……あれ? 謠さん。ちょっと待って下さい。お前達って言い方が少し引っかかるんです……」
気づけば謡は二人の両肩に手を置いていた。
「さあ行ってこいお前等! 俺は出口で応援してるぜ!」
「え」
「え」
二人の体は扉の奥に押し出され、気づけば二人は虚空の底へと落ちていった。
視界が開く。石畳に横たわる自分を視認すると同時に体を起こした。周囲を見渡すがどうも高い壁に阻まれて何も見えない。天井に至っては高すぎるのかその一部さえ視認する事は出来ない。
石畳を叩いてみる。軽い力で叩いたつもりだったのだが、音は思った以上に大きく響いた。
その直後。
「そろそろ二人ともお目覚めかなッ?」
聞き覚えのある声が周囲に響いた。
―――謡さん?
「まずは既にお気づきだろう特性を説明しよう! 一つ、この迷宮内では喋れない! 一つ、ここでは魔術は使えない! 要するに、何をどうあがいても相手とコンタクトは取れない!」
口を開こうと思っても、まるで猿轡でもされたかのように上手く喋れない。舌が押さえつけられる、と言った方がより正確か。
―――それにしても、どうして謡さんは喋る事が出来るんでしょうか。
「後……ここじゃあらゆる疲労が倍になる。実質体力が半分になったと考えておけ! 以上だ! 制限時間とかないから、ゆっくり攻略してくれ!」
声の響き方から察するに、第二の試練場は相当広いようだ。そういえば第一の試練には距離の概念が無いとか何とか言っていたし、ここも似たような感じなのかもしれない。
キリーヤはそう決心して、立ち上がろうとした―――刹那。
―――え?
意志とは反対に体は壁に叩きつけられる。何事かと思うよりも先に、キリーヤは自分から滴る血液を見て、理解する。
―――そういえば謡さんに突き落とされたんだっけ。
天井が見えない程高いのに、一体自分達はどれ程の高度から突き落とされたのだろうか。即死しないだけ不思議というか何というか。いや、謡が何かした可能性も無くはないが……それはそれで、どうして自分の傷を治癒してくれなかったのかという疑問が残る。
意識は少しずつ薄くなっていく。身体は徐々にいう事を聞かなくなる。壁伝いに進むしか方法はなさそうだ。
―――エリ。どうか無事でいてね。
ハッキリ言って謡は信用していないが。気にしないでおこう。聖槍を回収した後、エリ達は奥の扉を押し開い―――
「そういえば謠さん。この試練について何か知ってる事ありますか?」
キリーヤの問いに、少しだけ押し開かれた扉が再び閉じる。そういえば、ここの管理人はアルドの事を知っていた。謡がアルドの味方である事は間違いようも無いので、アルドがここにきていたならば謡もここを知っている筈である。
エリは気取られない様に魔術を発動。心音に気を配りつつ、謡を見遣る。
「うーん、そうだなあ……あるっちゃあるが、正直役には立たないぞ?」
「何でもいいんです、お願いします!」
キリーヤのお願いには妙に弱いのか、謡は困ったような表情を浮かべている。彼とは船であった以来の仲で、深く知っているという訳ではないが、それでも彼が純粋に困っている表情を見るのは珍しい気がする。言っては何だが見てると少しだけ……面白い。
「……三つめの試練は口外禁止でな。これ破ると死ぬ。そういう訳で二つ目だけ教えてやろう」
また三つめか。あの管理人も三つめは全然教えようとはしてくれなかったが、一体”鏡”とは何なのだろうか。名前にも意味があるのは既にここ、”満”の試練で判明している。
鏡……か。自分と戦う、とかだろうか。
「二つ目は只の迷路だ。入った瞬間別の地点に飛ばされる。協力しなきゃいけない試練って訳だな。もっとも、どうあがいてもお前達二人は出会えないがな」
「どういう事ですか?」
「お前達二人は絶対に出会えないが、協力しなきゃいけない。つまりエリとキリーヤが居るとして、キリーヤが居る所での一見無意味な行動が、エリの助けになるという訳だ」
……管理人は絶対に協力できないとは言っていたが、何だ、そういう事だったのか。直接的な協力が必要な一つ目の試練……とはいっても今回は謡に助けられたが……とは違って、こちらでは間接的な協力しか出来ない、という訳か。
「後……魔力は回復してやったが、俺は試練を破壊するつもりはない。最後の試練は一番大事だが、今までの試練にもちゃんと意味があるって事を理解しておけよ」
……心音は一切乱れない。嘘を言っている訳ではないようだ。
「ああ、別に俺は嘘を言ってないからな。心音を確認したところで意味はないぞ、エリ?」
「―――ッ!」
謡がその顔をエリに向けた。短気な人が見れば思わず拳が出てしまいそうなほど、最悪なまでに気持ちが悪く、最高なくらい大げさな笑顔を。
「まあ、心音を美人様に覗かれるのも悪い気分じゃないがな!」
「どんな性癖ですか……ドン引きですね」
苦い笑顔を浮かべるエリ。割と真面目に引いている。
「まあまあ、落ち着けって。これから始まる第二の試練。難しくはあるが、何。お前達なら出来るさ」
「そうですね―――って……あれ? 謠さん。ちょっと待って下さい。お前達って言い方が少し引っかかるんです……」
気づけば謡は二人の両肩に手を置いていた。
「さあ行ってこいお前等! 俺は出口で応援してるぜ!」
「え」
「え」
二人の体は扉の奥に押し出され、気づけば二人は虚空の底へと落ちていった。
視界が開く。石畳に横たわる自分を視認すると同時に体を起こした。周囲を見渡すがどうも高い壁に阻まれて何も見えない。天井に至っては高すぎるのかその一部さえ視認する事は出来ない。
石畳を叩いてみる。軽い力で叩いたつもりだったのだが、音は思った以上に大きく響いた。
その直後。
「そろそろ二人ともお目覚めかなッ?」
聞き覚えのある声が周囲に響いた。
―――謡さん?
「まずは既にお気づきだろう特性を説明しよう! 一つ、この迷宮内では喋れない! 一つ、ここでは魔術は使えない! 要するに、何をどうあがいても相手とコンタクトは取れない!」
口を開こうと思っても、まるで猿轡でもされたかのように上手く喋れない。舌が押さえつけられる、と言った方がより正確か。
―――それにしても、どうして謡さんは喋る事が出来るんでしょうか。
「後……ここじゃあらゆる疲労が倍になる。実質体力が半分になったと考えておけ! 以上だ! 制限時間とかないから、ゆっくり攻略してくれ!」
声の響き方から察するに、第二の試練場は相当広いようだ。そういえば第一の試練には距離の概念が無いとか何とか言っていたし、ここも似たような感じなのかもしれない。
キリーヤはそう決心して、立ち上がろうとした―――刹那。
―――え?
意志とは反対に体は壁に叩きつけられる。何事かと思うよりも先に、キリーヤは自分から滴る血液を見て、理解する。
―――そういえば謡さんに突き落とされたんだっけ。
天井が見えない程高いのに、一体自分達はどれ程の高度から突き落とされたのだろうか。即死しないだけ不思議というか何というか。いや、謡が何かした可能性も無くはないが……それはそれで、どうして自分の傷を治癒してくれなかったのかという疑問が残る。
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―――エリ。どうか無事でいてね。
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