ワルフラーン ~廃れし神話
新たなる境地
洞窟へと足を踏み入れると、確かな反響が洞窟を通して伝わってきた。もう戻れない。この洞窟に来た以上は、もう背を向けることは許されない。
自分は一人じゃない。託してくれる仲間がいる。ならばその期待には応えなければいけない。信じられているならば、たとえその信用が一時のモノだったとしても、自分は応えなければならない。
洞窟の中は一本道で、特段暗いという訳ではない。魔術で適当に明かりを灯してやれば、それだけで十分視界を確保できる。足場こそ少々陥没していたりもするが、ここは洞窟。特に不思議はないだろう。
「エリ……出口見えそう?」
自分たちの前方に丸い明かりを灯してくれるのはエリだが、彼女は無言で首を振った。時々周りを見渡して道を探すが、今のところ存在しない。一本道なのはもう間違いはないのだろうが……
「……なんか。終わりがないんじゃないかって気がするんだけど……」
ここは洞窟で、特に特徴のあるモノはない一本道が続くだけ。にも関わらず光すら見えないという事は、確かに終わりはないのかもしれない。
「……エリ?」
「…………」
「エリッ!」
語勢を強めた声にエリは肩を震わせて反応。身を翻したエリの表情は何処か動揺していた。
「どうしたの?」
「……少し、考え事をしてた」
「考え事?」首を傾げつつ尋ねるキリーヤに、エリは少しだけ不安そうな表情で呟く。
「この先に何があるか……キリーヤはわかる?」
「え? 勿論それは―――試練とか?」
現況、自覚できるくらいは今の自分の気は軽くなっている。だがそれは一時的なものに過ぎない。アルド達が帰ってしまえばまたいつもの通り……だからそれを見かねたアルドが、ここへの来訪を提案したのだ。
「ええ、そうね。じゃあその試練ってのは、具体的に分かる?」
「それは……分からないけどさ。でもエリが言ってくれたように、私には皆が居るからさ。頑張りたいんだよね」
キリーヤから言わせれば、自分を励ましてくれたエリがどうしてここまで不安そうな表情を浮かべているのかが分からない。励ましが口先だけのモノだったとは……エリに限ってないだろうし。
「……エリは何でそんな質問をしたの?」
見当もつかないのは事実だ。騎士であったエリがここまで暗い表情をするなんて滅多にあることではない。それこそ国でも滅さない限りは……なんて。勝手な思い込みだと分かってはいるのだが。
それくらいエリは強くて、キリーヤにとっては憧れの女性なのだ。
「……正体の分からないモノほど怖いものはない。キリーヤはそう思わない?」
至極真面目な顔で問われたキリーヤはあっさりと。
「ううん、全然」
…………………二人を覆う沈黙。暫くの後、
「え、え、ええ?」
「? 何か変なこと言ったかな」
あまりにあっさりと答えた精神にエリは驚愕を隠せない。何故か『まずいこと言っちゃった?』とでも言わんばかりの表情は、そこに何の裏も無いことを痛感させる。
そして同時に、自分がどれほど情けないかという事も理解した。自分はキリーヤを守る騎士だ。彼女の仲間数あれど、彼女の騎士となれるは自分だけ。その自分が……本来守るべき対象に劣っているといっては言い方が悪いが……これでは到底守れそうもない。
「え、ちょっとエリッ、どうしたの?」
エリは手を額に当てて、目を瞑る。実に、実に情けない。
「―――別に。因みにどうしてキリーヤは怖くないのかしら?」
「え? エリが言ったんだよ、私は一人じゃないって」
エリは思わず身を翻し、彼女を見据えた。
「私は一人じゃないってエリが言ったんだよ? なら悩む事なんてない。だってきっとエリが、エリ以外の誰かが助けてくれる。私が諦めなければきっと誰か助けてくれる。試練の正体が不明でも、私には挑むことしか出来ないって……そう思えるようになったからさ」
……口先だけで言ったつもりはない。エリは確かにキリーヤを元気づけるために言った。だがまさか、その言葉が自分に返ってくるなんて。
「私が一人じゃないならエリだって一人じゃないよ。私の力じゃエリを守る何てできないかもしれないけど、でも……怖いくらいならほら! 二人で一緒に立ち向かえば少しくらいは……それとも私じゃ頼りないかな?」
……何を当たり前の事を忘れていたんだろうか。キリーヤの隣には自分がいる。であるなら自分も一人ではないのだ。リスド時代のように……実力差の乖離のあまり、一人で何もかも背負っていたあの時とは違うのだ。
「……………………いや、十分すぎる。ありがとねキリーヤ。ちょっとだけ不安だったけど、でも」
―――貴方が一緒に居るから大丈夫ね、とエリは微笑む。キリーヤは何を感謝されたのか分かっていなかったが、それでもエリが立ち直ったのを見て微笑んだ。
キリーヤの事は死んでも守る。それは変わらない。だが同時に、エリはキリーヤに守られているという事実も変わらない。
たとえ少女だったとしても。たとえ『勝利』の如き強さが無かったのだとしても。それでもエリは救われた。なんでもない事と言われればそれまでだったとしても―――それでも。
「……あ、ねえ見てエリ! 光、光だよ、出口はあったんだよ!」
前方を照らす確かな光明。キリーヤはそれ目掛けて、元気に走り出した。
「……色々引っかかることはありますが」
少女の背中を追いかけて、エリもまた走り出す。
―――この少女には人を救う事が出来る。それだけはきっと、確信していいはずだ。
自分は一人じゃない。託してくれる仲間がいる。ならばその期待には応えなければいけない。信じられているならば、たとえその信用が一時のモノだったとしても、自分は応えなければならない。
洞窟の中は一本道で、特段暗いという訳ではない。魔術で適当に明かりを灯してやれば、それだけで十分視界を確保できる。足場こそ少々陥没していたりもするが、ここは洞窟。特に不思議はないだろう。
「エリ……出口見えそう?」
自分たちの前方に丸い明かりを灯してくれるのはエリだが、彼女は無言で首を振った。時々周りを見渡して道を探すが、今のところ存在しない。一本道なのはもう間違いはないのだろうが……
「……なんか。終わりがないんじゃないかって気がするんだけど……」
ここは洞窟で、特に特徴のあるモノはない一本道が続くだけ。にも関わらず光すら見えないという事は、確かに終わりはないのかもしれない。
「……エリ?」
「…………」
「エリッ!」
語勢を強めた声にエリは肩を震わせて反応。身を翻したエリの表情は何処か動揺していた。
「どうしたの?」
「……少し、考え事をしてた」
「考え事?」首を傾げつつ尋ねるキリーヤに、エリは少しだけ不安そうな表情で呟く。
「この先に何があるか……キリーヤはわかる?」
「え? 勿論それは―――試練とか?」
現況、自覚できるくらいは今の自分の気は軽くなっている。だがそれは一時的なものに過ぎない。アルド達が帰ってしまえばまたいつもの通り……だからそれを見かねたアルドが、ここへの来訪を提案したのだ。
「ええ、そうね。じゃあその試練ってのは、具体的に分かる?」
「それは……分からないけどさ。でもエリが言ってくれたように、私には皆が居るからさ。頑張りたいんだよね」
キリーヤから言わせれば、自分を励ましてくれたエリがどうしてここまで不安そうな表情を浮かべているのかが分からない。励ましが口先だけのモノだったとは……エリに限ってないだろうし。
「……エリは何でそんな質問をしたの?」
見当もつかないのは事実だ。騎士であったエリがここまで暗い表情をするなんて滅多にあることではない。それこそ国でも滅さない限りは……なんて。勝手な思い込みだと分かってはいるのだが。
それくらいエリは強くて、キリーヤにとっては憧れの女性なのだ。
「……正体の分からないモノほど怖いものはない。キリーヤはそう思わない?」
至極真面目な顔で問われたキリーヤはあっさりと。
「ううん、全然」
…………………二人を覆う沈黙。暫くの後、
「え、え、ええ?」
「? 何か変なこと言ったかな」
あまりにあっさりと答えた精神にエリは驚愕を隠せない。何故か『まずいこと言っちゃった?』とでも言わんばかりの表情は、そこに何の裏も無いことを痛感させる。
そして同時に、自分がどれほど情けないかという事も理解した。自分はキリーヤを守る騎士だ。彼女の仲間数あれど、彼女の騎士となれるは自分だけ。その自分が……本来守るべき対象に劣っているといっては言い方が悪いが……これでは到底守れそうもない。
「え、ちょっとエリッ、どうしたの?」
エリは手を額に当てて、目を瞑る。実に、実に情けない。
「―――別に。因みにどうしてキリーヤは怖くないのかしら?」
「え? エリが言ったんだよ、私は一人じゃないって」
エリは思わず身を翻し、彼女を見据えた。
「私は一人じゃないってエリが言ったんだよ? なら悩む事なんてない。だってきっとエリが、エリ以外の誰かが助けてくれる。私が諦めなければきっと誰か助けてくれる。試練の正体が不明でも、私には挑むことしか出来ないって……そう思えるようになったからさ」
……口先だけで言ったつもりはない。エリは確かにキリーヤを元気づけるために言った。だがまさか、その言葉が自分に返ってくるなんて。
「私が一人じゃないならエリだって一人じゃないよ。私の力じゃエリを守る何てできないかもしれないけど、でも……怖いくらいならほら! 二人で一緒に立ち向かえば少しくらいは……それとも私じゃ頼りないかな?」
……何を当たり前の事を忘れていたんだろうか。キリーヤの隣には自分がいる。であるなら自分も一人ではないのだ。リスド時代のように……実力差の乖離のあまり、一人で何もかも背負っていたあの時とは違うのだ。
「……………………いや、十分すぎる。ありがとねキリーヤ。ちょっとだけ不安だったけど、でも」
―――貴方が一緒に居るから大丈夫ね、とエリは微笑む。キリーヤは何を感謝されたのか分かっていなかったが、それでもエリが立ち直ったのを見て微笑んだ。
キリーヤの事は死んでも守る。それは変わらない。だが同時に、エリはキリーヤに守られているという事実も変わらない。
たとえ少女だったとしても。たとえ『勝利』の如き強さが無かったのだとしても。それでもエリは救われた。なんでもない事と言われればそれまでだったとしても―――それでも。
「……あ、ねえ見てエリ! 光、光だよ、出口はあったんだよ!」
前方を照らす確かな光明。キリーヤはそれ目掛けて、元気に走り出した。
「……色々引っかかることはありますが」
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