ワルフラーン ~廃れし神話
壊れた世界の中で
約束をしてしまった以上、守らない訳にも行かない、アルドは今までの経緯を簡単に、出来るだけ揚げ足を取られない様に話した。
まさかあそこまで暴走するとは思わなかった。まさか自分の気遣いが妹にとって負担になっていたとは思わなかった。妹を大切にしていたそのつもりが、実は妹を蔑ろにしていたとは思わなかった。
……全部裏目、か。
「……言い残した事、無いよね?」
「無い。今更嘘なんてつける程俺に度胸なんて無い」
もう諦めるしかないとばかりにため息。これ以上妹を泣かせるのは兄の沽券にかかわるし、そんな姿は見たくない。もう全てをさらけ出す他道はない。
「ふーん。フルシュガイドの騎士が、この子を……」
「心当たりがあると嬉しいんだが」
「ある訳ないよ。騎士の人はみんないい人ばかりだし……お兄ちゃんへの当たりは、きついんだろうけど」
自分の言いたい事を的確に潰していくイティス。ぐうの音も出ません。
「なあ、お前が言ってた変な人って誰なんだ? こう言っては何だが、その事情は俺と街の皆の暗黙の事情というか何というか」
少なくともそのおかしな人とやらが街の人間ではない事は確かだ。事情を知っている時点で外の人間ではないと思うのだが、しかしこの街にいるならばそんな事を聖女に漏らしはしない筈。
おかしな事もあるものだ。
イティスは少し困ったような表情で考えていたが、やがて困惑気味に漏らす。
「うーんそれが説明しづらいんだよねえ。見た事ない顔と言うか、あんな服装存在しないと思うんだけど」
「はあ? 服装が存在しないって言ってる意味が分からないぞ」
「だって……骨で組まれた仮面なんて、お兄ちゃん知ってる? 全身黒い人だよ、分からないよ。教会騎士団の団長さんを歯牙にも掛けないし」
「はあッ?」
仮面の辺りから、既に見当がつかなかったが、それ以上に不明な要素は教会騎士団団長を歯牙にも掛けない、という事だ。それはつまり……団長が相手にもならなかったという事であり、そんな事が知られれば騎士団の信用がはじけ飛ぶ。
そんな人間が『勝利』以外に居るとは信じられない。その勝利も随分前に国を出て行ったし……どういう事だ?
「で、その人が言ってくれたの。『今すぐ家に戻れ』って。それで頷いたらよく分からない魔術を教えてくれて、それで―――」
「今に至る訳か」
あの訳の分からない魔術は訳の分からない奴の仕業だったらしい。瀕死の彼女を助けるなんてそれはそれはさぞ凄い極位魔術……え。
「―――ちょっと待てイティス。お前、魔力が全然無くなってないじゃないか。それ本当に魔術か?」
本人からすれば使ってる感覚だったのだろうか、何にしても一切の魔力を消費しないというのはおかしい。
魔術とは、魔力を詠唱句で紡ぎあげて発現させる魔力の塊。魔力を乱されれば霧散するし、魔力の少ない所では威力も相応に少なくなる。
それを魔力なし、だと? 極位相当と思われる魔術を魔力なしで? ではあの詠唱句は? あれだけ長い詠唱句は一体?
イティスと自分以外の誰も、そんな魔術を知りはしないだろう。後で一応調べてみるが、きっと知っている処か、馬鹿にされるにきまっている。『そんな魔術などない』と。
「……私もこんな魔術は知らない。さっきも教えられたままに唱えただけだから。……悪い人じゃないと思うけど」
その言葉に異議はない。どんな形にせよこの少女とついでに自分の片腕を治してくれたのだ。何故か騎士に狙われている少女と、魔力の無い、落ちこぼれの自分。そんな二人を助けるくらいだ、よほどの善人でなければそんな事はしない。そんな事は分かってる。
「そいつにお礼を言いたいんだが、何処にいるか分からないのか?」
「さあ、何処だろう。団長が一分と拘束できないんだから城に拘禁されている事とかはないと思うけど。……また会えたら、私から言っておくよ」
「……まあ、いい。俺はそいつの正体について少し探ってみる」ついでにあの時感じた奇妙な違和感と意識も。
「そっか。じゃあ取りあえず今日は寝よ。ベッドはこの子が使ってるから少し狭いけど―――」
「俺は外で寝るよ。ベッドはお前らで使え。俺は全然何もつかれてな―――」
じろりとこちらを睨む妹の双眸。アルドは深いため息を吐いて、諦めた様に笑った。
「分かったよ。好きにしろ」
危ない所だったと言わざるを得ない。妹にどうにか知らせたはいいが、後もう一歩遅れていれば『皇』は助かっていなかった。
悪心、背徳、殺戮、暴虐、隠匿。殺されかけていたために如何なる罪も被っていない。隠匿もこちらで潰しておいたので問題はない。もうやり直すのは勘弁。やっとこちらに干渉できたのだ、入り直しは趣味じゃない。
「次はどうするかな……」
仮面を取り、魔術でかき消す。さて、あの人は何時になったら思い出せるのだろうか。
まさかあそこまで暴走するとは思わなかった。まさか自分の気遣いが妹にとって負担になっていたとは思わなかった。妹を大切にしていたそのつもりが、実は妹を蔑ろにしていたとは思わなかった。
……全部裏目、か。
「……言い残した事、無いよね?」
「無い。今更嘘なんてつける程俺に度胸なんて無い」
もう諦めるしかないとばかりにため息。これ以上妹を泣かせるのは兄の沽券にかかわるし、そんな姿は見たくない。もう全てをさらけ出す他道はない。
「ふーん。フルシュガイドの騎士が、この子を……」
「心当たりがあると嬉しいんだが」
「ある訳ないよ。騎士の人はみんないい人ばかりだし……お兄ちゃんへの当たりは、きついんだろうけど」
自分の言いたい事を的確に潰していくイティス。ぐうの音も出ません。
「なあ、お前が言ってた変な人って誰なんだ? こう言っては何だが、その事情は俺と街の皆の暗黙の事情というか何というか」
少なくともそのおかしな人とやらが街の人間ではない事は確かだ。事情を知っている時点で外の人間ではないと思うのだが、しかしこの街にいるならばそんな事を聖女に漏らしはしない筈。
おかしな事もあるものだ。
イティスは少し困ったような表情で考えていたが、やがて困惑気味に漏らす。
「うーんそれが説明しづらいんだよねえ。見た事ない顔と言うか、あんな服装存在しないと思うんだけど」
「はあ? 服装が存在しないって言ってる意味が分からないぞ」
「だって……骨で組まれた仮面なんて、お兄ちゃん知ってる? 全身黒い人だよ、分からないよ。教会騎士団の団長さんを歯牙にも掛けないし」
「はあッ?」
仮面の辺りから、既に見当がつかなかったが、それ以上に不明な要素は教会騎士団団長を歯牙にも掛けない、という事だ。それはつまり……団長が相手にもならなかったという事であり、そんな事が知られれば騎士団の信用がはじけ飛ぶ。
そんな人間が『勝利』以外に居るとは信じられない。その勝利も随分前に国を出て行ったし……どういう事だ?
「で、その人が言ってくれたの。『今すぐ家に戻れ』って。それで頷いたらよく分からない魔術を教えてくれて、それで―――」
「今に至る訳か」
あの訳の分からない魔術は訳の分からない奴の仕業だったらしい。瀕死の彼女を助けるなんてそれはそれはさぞ凄い極位魔術……え。
「―――ちょっと待てイティス。お前、魔力が全然無くなってないじゃないか。それ本当に魔術か?」
本人からすれば使ってる感覚だったのだろうか、何にしても一切の魔力を消費しないというのはおかしい。
魔術とは、魔力を詠唱句で紡ぎあげて発現させる魔力の塊。魔力を乱されれば霧散するし、魔力の少ない所では威力も相応に少なくなる。
それを魔力なし、だと? 極位相当と思われる魔術を魔力なしで? ではあの詠唱句は? あれだけ長い詠唱句は一体?
イティスと自分以外の誰も、そんな魔術を知りはしないだろう。後で一応調べてみるが、きっと知っている処か、馬鹿にされるにきまっている。『そんな魔術などない』と。
「……私もこんな魔術は知らない。さっきも教えられたままに唱えただけだから。……悪い人じゃないと思うけど」
その言葉に異議はない。どんな形にせよこの少女とついでに自分の片腕を治してくれたのだ。何故か騎士に狙われている少女と、魔力の無い、落ちこぼれの自分。そんな二人を助けるくらいだ、よほどの善人でなければそんな事はしない。そんな事は分かってる。
「そいつにお礼を言いたいんだが、何処にいるか分からないのか?」
「さあ、何処だろう。団長が一分と拘束できないんだから城に拘禁されている事とかはないと思うけど。……また会えたら、私から言っておくよ」
「……まあ、いい。俺はそいつの正体について少し探ってみる」ついでにあの時感じた奇妙な違和感と意識も。
「そっか。じゃあ取りあえず今日は寝よ。ベッドはこの子が使ってるから少し狭いけど―――」
「俺は外で寝るよ。ベッドはお前らで使え。俺は全然何もつかれてな―――」
じろりとこちらを睨む妹の双眸。アルドは深いため息を吐いて、諦めた様に笑った。
「分かったよ。好きにしろ」
危ない所だったと言わざるを得ない。妹にどうにか知らせたはいいが、後もう一歩遅れていれば『皇』は助かっていなかった。
悪心、背徳、殺戮、暴虐、隠匿。殺されかけていたために如何なる罪も被っていない。隠匿もこちらで潰しておいたので問題はない。もうやり直すのは勘弁。やっとこちらに干渉できたのだ、入り直しは趣味じゃない。
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