ワルフラーン ~廃れし神話
機械仕掛けの世界の中で
魔力の根源、エヌメラ。アルド・クウィンツによって斃された筈の、史上最強の魔王。その圧倒的な強さ故に、魔力を持つものは叶わないとされ、後にも先にも彼を殺す事が出来たのはアルド只一人だった―――
正直な事を言ってしまえば、こういう状況は最悪である。エリ、キリーヤ、フィリアス。確かにこの三人は一般人と比べれば多少は強いのかもしれない。だがそれだけだ。如何に強大な人物とて、エヌメラの前ではそれは只の人間に過ぎない。
数の差など些細どころか意味を成さない。それ程までにエヌメラは強大なのだ。
―――玉聖槍の力は流石に効くだろうが、その前に使わせてくれるかどうか。
「……やれやれ。やっぱりせ……アイツとの交戦は避けてきたか」
「ふむ。あのような男などいつでも……いや、強がりはよそう。アルドとの交戦には少々力を入れなければならない。今の私は復活直後で魔力も全盛期程持ち合わせておらぬのでな。以前の邪魔者は存在せぬが、もしやという事もある」
以前……? まさかアルドは、魔王となったその後に、もう一度エヌメラと戦ったというのか? そして邪魔者とは?
後で問いただしても罰は当たるまい。無論、この場を切り抜ける事が出来れば、だが。
「だが―――たとえその程度の力だとしても。貴様ら三人を潰す事等造作もない。私が弱ってると聞き、わずかにでも希望を持ったというのなら、それは所詮幻想にすぎぬ。直ちに捨てる事を推奨しよう」
どこまでも舐めてかかるエヌメラに、エリは震える声で尋ねた。
「―――エヌメラ。貴方は一体どうして私達を狙うのですか。私達三人を潰す事、造作もないのは事実でしょう。ですが事実だからこそ、そのような雑魚を狙う理由は無い筈です」
その疑問の、なんと愚かな事か。
「なぜ狙うか―――だと?」
エヌメラは愉快そうに口元を歪める。その質問が、エリからすれば何でもないその質問が。エヌメラにとってはひどく愚かで滑稽で。あまりにも哀れだったからだ。
「フッ……ハハハ……フハハハハハ! 女騎士よ、それは本心からの質問か? ならば……フハハ! 貴様もまた愚かな幻想に魅せられた弱者の一人という訳か……はっきり言って失望だ。まだアルドめの方が評価の一つも出来る愚かさよ」
笑う。
その滑稽さに。
嗤う。
存在しない希望に縋る自分達を。
かつて人類の為にたった一人で全てを背負って戦った英雄を知ってるからこそ、エヌメラはその空っぽな理想を嗤う。
キリーヤには英雄のような強さもなく、意志もなく。何が何でも掴み取ろうとする足掻きすらない。
我慢ならないとばかりに憤慨し、何を信じると魔王は問う。
エヌメラはひとしきり言いたい事を言ったのか、次の言葉には冷酷さが戻っていた。
「キリーヤを渡せ」
ただ一言。魔王は告げた。その視線には既に殺気が混じっており、大抵の者がそれと相対した瞬間、反逆の気など悉く破壊され、その要求に従ってしまうだろう。
「いや、言葉が悪かったな。キリーヤ。私と共に来い」
「―――え?」
予期せずして標的となったキリーヤは、反論することも無く戸惑っていた。
「貴様の噂は聞いているぞ。何でも魔人と人間を共存させるべく、数々の人間を騙しているとか……いないとか」
反応したのはエリだった。
「エヌメラ、言葉を選びなさい! キリーヤは世界平和の為に……!」
「私は発言権を与えた覚えはないぞ。『少し黙れ』」
「――――……? ―――――!」
その言葉の瞬間、エリからは文字通り発言権が奪われた。
声が出せないわけではない。だが―――誰にも聞こえない。
「今回、わざわざこの大陸に訪れたのは、貴様の噂の真偽を確かめる為だ。百聞は一見に如かずとは言うが……いやはや、まさか貴様のような子供が英雄とはな。アルドの時代とは打って変わって、只の一般人すらも英雄になれる時代が来たとでも言うのかな―――なあキリーヤ。私はお前を救いたいのだ。幻想を見、理想ばかり縋り、現実を見えていないお前に、私は現実を教えたい。お前に出来る事は無いのだと。お前なんぞは娼婦にでもなって、その肢体で男の為に働けばいいのだと。―――なあ、キリーヤ」
魔王に見据えられ、キリーヤはその場から一歩も動けずにいた。エリが必死で何かを叫んでいる。フィージェントは何を言うでもなく会話を聞いている。
言葉には―――返せそうもなかった。今のキリーヤには無理だった。
世界の為にと奮起して、最愛の主にも背中を押してもらい、エリやパランナのような仲間も出来た。
だがそれでも……わかっている。万人に共感されるような事はしていないと。それは愚かだと嗤う人も居れば、現実を見ろと促す人も居る。
自分に降り注ぐ言葉の刃。情けない話だが、自分の精神では耐えられそうもない程の苦痛だった。アルドが背負った痛みのその片鱗だとしても―――それは常人の精神を破壊するには十分すぎた。
アルドが魔人側についてくれた事は嬉しかったが、一部の魔人は「裏切られたくらいで寝返るとか人間はやはり弱い」なんて宣っていた時期もあった。
英雄になろうとして分かった事。それは、アルドの心の強靭さだった。
誰に馬鹿にされようとも尚も強さを求め続け、恋に現を抜かす仲間を守る為に、たった一人で戦った男。何年も戦った男。それは酷い重圧だっただろう、耐えられるようなモノでも無かったのだろう。だからこそ―――裏切られたその瞬間、アルドの心は壊れた。
それは仕方ない、いや、必然たる出来事だった。人類はアルドに全てを背負わせすぎたのだ。
そしてそんなアルドと対峙したエヌメラに、自分の正しさを証明する事は出来ない。アルドは万人の認めた……英雄なのだから。
「その者達を捨て、私の元に来るのであれば、その者達の命は見逃そう。だがもし、断るのであれば―――わかっているだろうな?」
ああ。否定しなければ。自分は間違っていないと言わなければ。
なのに……どうして首は、動かない。
エヌメラが一歩、一歩。静かにこちらに歩み寄ってくる。決断の時は迫る。エリ達に迷惑は掛けられない。
自分は―――どうしたら。
「……ハハハ。ハハハハハハハハハハ!」
そんな空気を打ち破るかのように、フィリアスは高らかに笑った。その侮蔑の込められた笑いは、さながらエヌメラに対し、くだらないとでも言っているよう。
「エヌメラ、だったか? 先生と死闘を繰り広げた魔王さんと聞いてたから、どんな御大層な考えをお持ちなのかと思えば……チキンじゃねえかよ」
「―――『黙れ』」
まただ。不可視の魔力がフィリアスを包み、その発言の一切を……
「てめえこそ『黙れ』」
「な―――」
フィージェントは魔力に包まれるその一瞬。エヌメラに対し同じ異能を飛ばした。エヌメラは直ぐに打ち消したが、その表情は驚愕の色に染まっていた。
「てめえは要するに。キリーヤを恐れてんだろ。魔人と人間が手を取り合って生きていく世界に戦争は無いだろうからな。貴様の居場所も当然ない。だからお前は、キリーヤの精神の脆弱性を突いて、その理想を挫こうとした……エリだけだったらその作戦は成功していたんだろうよ。だがな―――」
フィリアスは自らの顔に手を当てて……全身を覆っていた布を焼却した。隠れていた素顔が明らかになる。
エヌメラがわずかに目を見開いた。
「いつかアルド・クウィンツを超える男、フライダル・フィージェントが居る限り、お前の計画は絶対に成功しない」
「―――貴様が……そうか。クリヌスに次ぐ、アルドの教え子だったか」
「そういう事だ。俺は本来犯罪者だからこんな奴等とは一緒に居ないんだが、それもまた先生の頼み、受けない訳にゃ行かないだろう?」
フィージェントは『鞘』に手を突っ込み、一本の長剣を取り出した、否。それは剣と言っていいのかすらわからない、無色の剣。刃と空間の境界すら曖昧で、瞬きの一つでもすれば直ぐに見失ってしまいそうな程に見えない剣。
「エリ。キリーヤ。ここからずっと先。ひたすらに前に走ってれば、そこに洞窟がある。お前達はそこに行き、最奥まで進め。それ以降の事は知らんが、自ずとわかるだろうよ」
フィージェントは完全にエヌメラを視界から外しており、エヌメラもまたそれを見逃す奴ではない。フィージェントの直ぐ背後に紫電が迫っている事、エリやキリーヤだけはそれに気づいていた。だが遅い。たとえ今から警告したとしても、その瞬間にはフィージェントの体は紫電に貫かれて―――
「……何」
紫電はフィージェントに命中する直前。その姿を消失させた。訳が分からぬエリとキリーヤ。驚くエヌメラ。
「この魔王様の相手は俺が引き受けてやる。だから―――いや、これは俺が言わないほうが良いな。早く行け。洞窟の最奥に答えはある筈だ」
フィージェントの指がエリの額に。どうやら『発言権のはく奪』を消してくれたらしい。声もいつも通り出る。
「―――信じて、いいんですね?」
「おうよ。俺に任せておけば万事は解決。俺が本当に仲間なら……信じてほしいね、俺の力を」
「―――キリーヤ、行きましょう」
「…………う、うん」
色々と聞きたいことはあるが、それは後回しだ。今は彼の言う通り、エヌメラを突っ切って行くしかない―――
エリはキリーヤの手を引き走り出した。その直ぐ背後からエヌメラが迫っている事も知っている。だが―――フィージェントを信じて、私は振り返らない。
エヌメラは彼女を逃がす気はない様だ。今も自分が手助けをしなければ彼女はエヌメラに殺されてしまう。それ程までに二人の距離は迫っていた。
「―――我ハ世界ノ法ヲ担ウ者也」
エヌメラの動きが止まる。いや、止まらなければ行けなかった。なぜならばそれが―――世界の意志だから。
「秒針は時を刻む。歯車は噛み合い、軋み、やがては崩れて頽廃す
滅びし運命に抗うモノは無し
今、世界は調和する
大地が、海が、天空が。万象織りなすは星の産物
今、世界は平定する
我に抗うモノは星へと還り、我に服従するモノは世界調和の恩恵を受ける
今、世界は廻りだす
噛み合い、軋み、廻る機械。森羅万象は我が掌中に
従え 抗うな 歯向かうな 壊すな 乱れるな 疑うな 受け入れろ 我を賛美するその一つこそ 汝らが持ち合わせる唯一の権利也
今―――世界は紡がれる」
フィージェントが不敵な笑みを浮かべた、直後。
「俺が使える権能の中でも最上位。全能の神の権能だ。一言一句気を付けろよな? 機械仕掛けの神様は、異端要素に容赦はないからな」
精密に組まれた概念の線。無限分岐する線は世界の一部を二人と共に内包―――ここに舞台は出来上がった。
正直な事を言ってしまえば、こういう状況は最悪である。エリ、キリーヤ、フィリアス。確かにこの三人は一般人と比べれば多少は強いのかもしれない。だがそれだけだ。如何に強大な人物とて、エヌメラの前ではそれは只の人間に過ぎない。
数の差など些細どころか意味を成さない。それ程までにエヌメラは強大なのだ。
―――玉聖槍の力は流石に効くだろうが、その前に使わせてくれるかどうか。
「……やれやれ。やっぱりせ……アイツとの交戦は避けてきたか」
「ふむ。あのような男などいつでも……いや、強がりはよそう。アルドとの交戦には少々力を入れなければならない。今の私は復活直後で魔力も全盛期程持ち合わせておらぬのでな。以前の邪魔者は存在せぬが、もしやという事もある」
以前……? まさかアルドは、魔王となったその後に、もう一度エヌメラと戦ったというのか? そして邪魔者とは?
後で問いただしても罰は当たるまい。無論、この場を切り抜ける事が出来れば、だが。
「だが―――たとえその程度の力だとしても。貴様ら三人を潰す事等造作もない。私が弱ってると聞き、わずかにでも希望を持ったというのなら、それは所詮幻想にすぎぬ。直ちに捨てる事を推奨しよう」
どこまでも舐めてかかるエヌメラに、エリは震える声で尋ねた。
「―――エヌメラ。貴方は一体どうして私達を狙うのですか。私達三人を潰す事、造作もないのは事実でしょう。ですが事実だからこそ、そのような雑魚を狙う理由は無い筈です」
その疑問の、なんと愚かな事か。
「なぜ狙うか―――だと?」
エヌメラは愉快そうに口元を歪める。その質問が、エリからすれば何でもないその質問が。エヌメラにとってはひどく愚かで滑稽で。あまりにも哀れだったからだ。
「フッ……ハハハ……フハハハハハ! 女騎士よ、それは本心からの質問か? ならば……フハハ! 貴様もまた愚かな幻想に魅せられた弱者の一人という訳か……はっきり言って失望だ。まだアルドめの方が評価の一つも出来る愚かさよ」
笑う。
その滑稽さに。
嗤う。
存在しない希望に縋る自分達を。
かつて人類の為にたった一人で全てを背負って戦った英雄を知ってるからこそ、エヌメラはその空っぽな理想を嗤う。
キリーヤには英雄のような強さもなく、意志もなく。何が何でも掴み取ろうとする足掻きすらない。
我慢ならないとばかりに憤慨し、何を信じると魔王は問う。
エヌメラはひとしきり言いたい事を言ったのか、次の言葉には冷酷さが戻っていた。
「キリーヤを渡せ」
ただ一言。魔王は告げた。その視線には既に殺気が混じっており、大抵の者がそれと相対した瞬間、反逆の気など悉く破壊され、その要求に従ってしまうだろう。
「いや、言葉が悪かったな。キリーヤ。私と共に来い」
「―――え?」
予期せずして標的となったキリーヤは、反論することも無く戸惑っていた。
「貴様の噂は聞いているぞ。何でも魔人と人間を共存させるべく、数々の人間を騙しているとか……いないとか」
反応したのはエリだった。
「エヌメラ、言葉を選びなさい! キリーヤは世界平和の為に……!」
「私は発言権を与えた覚えはないぞ。『少し黙れ』」
「――――……? ―――――!」
その言葉の瞬間、エリからは文字通り発言権が奪われた。
声が出せないわけではない。だが―――誰にも聞こえない。
「今回、わざわざこの大陸に訪れたのは、貴様の噂の真偽を確かめる為だ。百聞は一見に如かずとは言うが……いやはや、まさか貴様のような子供が英雄とはな。アルドの時代とは打って変わって、只の一般人すらも英雄になれる時代が来たとでも言うのかな―――なあキリーヤ。私はお前を救いたいのだ。幻想を見、理想ばかり縋り、現実を見えていないお前に、私は現実を教えたい。お前に出来る事は無いのだと。お前なんぞは娼婦にでもなって、その肢体で男の為に働けばいいのだと。―――なあ、キリーヤ」
魔王に見据えられ、キリーヤはその場から一歩も動けずにいた。エリが必死で何かを叫んでいる。フィージェントは何を言うでもなく会話を聞いている。
言葉には―――返せそうもなかった。今のキリーヤには無理だった。
世界の為にと奮起して、最愛の主にも背中を押してもらい、エリやパランナのような仲間も出来た。
だがそれでも……わかっている。万人に共感されるような事はしていないと。それは愚かだと嗤う人も居れば、現実を見ろと促す人も居る。
自分に降り注ぐ言葉の刃。情けない話だが、自分の精神では耐えられそうもない程の苦痛だった。アルドが背負った痛みのその片鱗だとしても―――それは常人の精神を破壊するには十分すぎた。
アルドが魔人側についてくれた事は嬉しかったが、一部の魔人は「裏切られたくらいで寝返るとか人間はやはり弱い」なんて宣っていた時期もあった。
英雄になろうとして分かった事。それは、アルドの心の強靭さだった。
誰に馬鹿にされようとも尚も強さを求め続け、恋に現を抜かす仲間を守る為に、たった一人で戦った男。何年も戦った男。それは酷い重圧だっただろう、耐えられるようなモノでも無かったのだろう。だからこそ―――裏切られたその瞬間、アルドの心は壊れた。
それは仕方ない、いや、必然たる出来事だった。人類はアルドに全てを背負わせすぎたのだ。
そしてそんなアルドと対峙したエヌメラに、自分の正しさを証明する事は出来ない。アルドは万人の認めた……英雄なのだから。
「その者達を捨て、私の元に来るのであれば、その者達の命は見逃そう。だがもし、断るのであれば―――わかっているだろうな?」
ああ。否定しなければ。自分は間違っていないと言わなければ。
なのに……どうして首は、動かない。
エヌメラが一歩、一歩。静かにこちらに歩み寄ってくる。決断の時は迫る。エリ達に迷惑は掛けられない。
自分は―――どうしたら。
「……ハハハ。ハハハハハハハハハハ!」
そんな空気を打ち破るかのように、フィリアスは高らかに笑った。その侮蔑の込められた笑いは、さながらエヌメラに対し、くだらないとでも言っているよう。
「エヌメラ、だったか? 先生と死闘を繰り広げた魔王さんと聞いてたから、どんな御大層な考えをお持ちなのかと思えば……チキンじゃねえかよ」
「―――『黙れ』」
まただ。不可視の魔力がフィリアスを包み、その発言の一切を……
「てめえこそ『黙れ』」
「な―――」
フィージェントは魔力に包まれるその一瞬。エヌメラに対し同じ異能を飛ばした。エヌメラは直ぐに打ち消したが、その表情は驚愕の色に染まっていた。
「てめえは要するに。キリーヤを恐れてんだろ。魔人と人間が手を取り合って生きていく世界に戦争は無いだろうからな。貴様の居場所も当然ない。だからお前は、キリーヤの精神の脆弱性を突いて、その理想を挫こうとした……エリだけだったらその作戦は成功していたんだろうよ。だがな―――」
フィリアスは自らの顔に手を当てて……全身を覆っていた布を焼却した。隠れていた素顔が明らかになる。
エヌメラがわずかに目を見開いた。
「いつかアルド・クウィンツを超える男、フライダル・フィージェントが居る限り、お前の計画は絶対に成功しない」
「―――貴様が……そうか。クリヌスに次ぐ、アルドの教え子だったか」
「そういう事だ。俺は本来犯罪者だからこんな奴等とは一緒に居ないんだが、それもまた先生の頼み、受けない訳にゃ行かないだろう?」
フィージェントは『鞘』に手を突っ込み、一本の長剣を取り出した、否。それは剣と言っていいのかすらわからない、無色の剣。刃と空間の境界すら曖昧で、瞬きの一つでもすれば直ぐに見失ってしまいそうな程に見えない剣。
「エリ。キリーヤ。ここからずっと先。ひたすらに前に走ってれば、そこに洞窟がある。お前達はそこに行き、最奥まで進め。それ以降の事は知らんが、自ずとわかるだろうよ」
フィージェントは完全にエヌメラを視界から外しており、エヌメラもまたそれを見逃す奴ではない。フィージェントの直ぐ背後に紫電が迫っている事、エリやキリーヤだけはそれに気づいていた。だが遅い。たとえ今から警告したとしても、その瞬間にはフィージェントの体は紫電に貫かれて―――
「……何」
紫電はフィージェントに命中する直前。その姿を消失させた。訳が分からぬエリとキリーヤ。驚くエヌメラ。
「この魔王様の相手は俺が引き受けてやる。だから―――いや、これは俺が言わないほうが良いな。早く行け。洞窟の最奥に答えはある筈だ」
フィージェントの指がエリの額に。どうやら『発言権のはく奪』を消してくれたらしい。声もいつも通り出る。
「―――信じて、いいんですね?」
「おうよ。俺に任せておけば万事は解決。俺が本当に仲間なら……信じてほしいね、俺の力を」
「―――キリーヤ、行きましょう」
「…………う、うん」
色々と聞きたいことはあるが、それは後回しだ。今は彼の言う通り、エヌメラを突っ切って行くしかない―――
エリはキリーヤの手を引き走り出した。その直ぐ背後からエヌメラが迫っている事も知っている。だが―――フィージェントを信じて、私は振り返らない。
エヌメラは彼女を逃がす気はない様だ。今も自分が手助けをしなければ彼女はエヌメラに殺されてしまう。それ程までに二人の距離は迫っていた。
「―――我ハ世界ノ法ヲ担ウ者也」
エヌメラの動きが止まる。いや、止まらなければ行けなかった。なぜならばそれが―――世界の意志だから。
「秒針は時を刻む。歯車は噛み合い、軋み、やがては崩れて頽廃す
滅びし運命に抗うモノは無し
今、世界は調和する
大地が、海が、天空が。万象織りなすは星の産物
今、世界は平定する
我に抗うモノは星へと還り、我に服従するモノは世界調和の恩恵を受ける
今、世界は廻りだす
噛み合い、軋み、廻る機械。森羅万象は我が掌中に
従え 抗うな 歯向かうな 壊すな 乱れるな 疑うな 受け入れろ 我を賛美するその一つこそ 汝らが持ち合わせる唯一の権利也
今―――世界は紡がれる」
フィージェントが不敵な笑みを浮かべた、直後。
「俺が使える権能の中でも最上位。全能の神の権能だ。一言一句気を付けろよな? 機械仕掛けの神様は、異端要素に容赦はないからな」
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