ワルフラーン ~廃れし神話
その先を知らずに 視点2
クリヌスが騎士団を脱退するというニュースは瞬く間に広まった。国を離れる訳では無い事から、国民の間では大した話題になってはいなかったが、峰城紗耶香からすればそれは衝撃すら通り越して、怒りすらこみ上げてくるニュースだった。
サヤカはこの世界に召喚された異世界人だ。想像するだけでも汚らわしいが、同種の人間は、サヤカの背後に居る廃人三人だけだ。地球人がたった四人なのは悲しいが、まあこうなってしまった以上は仕方ないとも思える。
何より、どうせ現実は酷かった。汚く言えば糞だ。
両親からのプレッシャーに心を歪められながら、サヤカは育った。だけどテレビでよく見る虐待には遭いたくなくて、良い子の仮面を被り続けた。
それでも問題はあった。遺伝子とでも言えばいいのだろうか、或いはそういう体質なのだろうか。サヤカは小学校の頃に出会ったこの三人、三木紫音、刃咲健、二十也宗平の三人に、サヤカは十二年間虐められていたのだ。地味なモノから命の危険があるモノまで。十二年間、ずっと。ずっと。
両親にはなす事なんて出来なかった。両親は才色兼備な淑女のサヤカを望んだ。いじめられっ子でひねくれたサヤカなど望んではいない。虐待されるかと思うと、怖かった。怖くて言えなかった。
そんな時だ。サヤカは突然、この世界に召喚された。フルシュガイドとかいう国の王曰く、事故らしい。
取り敢えずサヤカを元に戻す陣を組むから、それまで国でゆっくりしておいてほしいと言われたので、言われた通り、サヤカは国を放浪する事にした。何でも、サヤカの位置は把握しているから、この大陸から出なければ何処に居ようとも迎えに行けるらしい。この世界に来て動揺は残っていたが、なかなかの文明だと言う事は理解した。
……その辺りだ、彼と出会ったのは。
近くの森でサヤカは魔物に襲われた。死を覚悟した。でも別にいいとも思えた。あの世界に戻るくらいならばここで死んだ方がいいと思えた。
だが、魔物に捕食されるその寸前―――奇跡は起きた。
『やれやれ。死にたいんですか貴方は』
クリヌス・トナティウ。彼との出会いは、サヤカの在り方を少しだけ変えた。自分の人生の中で、初めての友達と言える存在だった。
クリヌスに事情を話した結果、サヤカはこの世界に滞在できるようになった。自分のされてきたいじめがどれ程かは、この世界の人間は実感できないと思っていたが、クリヌスだけは共感を示してくれた。いや、語弊があるか。『気持ちは分かる』と共感してもいない。『それは違う』と反発してもいない。
クリヌスは―――理解してくれたのだ。
『そんな事があったんですか。ええ、それはとてもつらい……事ですね。戻る事を拒絶するのを良く分かります……戻るのが嫌だと言うのであれば、私が王に掛け合ってみましょう。どうぞ、このままこの世界にて、第二の人生を歩んでください―――ああ、安心してください。仮に許可が下りずとも、貴方の望む所に隠遁してください。私もお手伝いしますので』
恋……とは違う。只感じたのだ。クリヌスと……一緒に居たい、と。近い感情は……おそらく、家族。
間違いなく他人であるクリヌスに、可笑しな話ではあるが、サヤカは家族のような安心感を覚えたのだ。
それ以来、サヤカはクリヌスと共に居る。出来れば相部屋が良かったが、流石にクリヌスが拒絶してきたので諦めた。だがそれでも一緒に居た。一緒に居て愉しかったから、一緒に居た。
一緒に居るから強くなれて、今、サヤカはこうして生きている。自分を虐めていた三人を廃人に、こうしてこの世界でこき使っている訳なのだが―――
クリヌスが騎士団をやめる事。それだけは防ぎようも無い現象だった。何でもクリヌスの私情が招いた、自業自得らしいがそれでも―――一緒にいられなくなる事だけは、嫌だった。これからクリヌスの代わりに自分の隣に付く騎士は、きっと自分を救ってくれない。嫌だ。クリヌスの代わりなんぞ寄越されるくらいならば、この国を滅茶苦茶にしてやること吝かでは無い。
ちゃんと話を聞きたい。どういう経緯で、どうして止められなかったのか。それを聞きたい。
サヤカは駆け足でクリヌスの部屋へと向かった。全ては真相を知りたいがための行動。家族と離れたく無い為の、至って普通の行動だ。
だが―――クリヌスは、居なかった。後に残されているモノは一枚の手紙のみ。宛先を見ると、それは自分に宛ててのモノだった。
―――すみません。貴方とは一緒に居られなくなりました。
その言葉は、サヤカを再び暗黒の底へと叩き落した。
サヤカはこの世界に召喚された異世界人だ。想像するだけでも汚らわしいが、同種の人間は、サヤカの背後に居る廃人三人だけだ。地球人がたった四人なのは悲しいが、まあこうなってしまった以上は仕方ないとも思える。
何より、どうせ現実は酷かった。汚く言えば糞だ。
両親からのプレッシャーに心を歪められながら、サヤカは育った。だけどテレビでよく見る虐待には遭いたくなくて、良い子の仮面を被り続けた。
それでも問題はあった。遺伝子とでも言えばいいのだろうか、或いはそういう体質なのだろうか。サヤカは小学校の頃に出会ったこの三人、三木紫音、刃咲健、二十也宗平の三人に、サヤカは十二年間虐められていたのだ。地味なモノから命の危険があるモノまで。十二年間、ずっと。ずっと。
両親にはなす事なんて出来なかった。両親は才色兼備な淑女のサヤカを望んだ。いじめられっ子でひねくれたサヤカなど望んではいない。虐待されるかと思うと、怖かった。怖くて言えなかった。
そんな時だ。サヤカは突然、この世界に召喚された。フルシュガイドとかいう国の王曰く、事故らしい。
取り敢えずサヤカを元に戻す陣を組むから、それまで国でゆっくりしておいてほしいと言われたので、言われた通り、サヤカは国を放浪する事にした。何でも、サヤカの位置は把握しているから、この大陸から出なければ何処に居ようとも迎えに行けるらしい。この世界に来て動揺は残っていたが、なかなかの文明だと言う事は理解した。
……その辺りだ、彼と出会ったのは。
近くの森でサヤカは魔物に襲われた。死を覚悟した。でも別にいいとも思えた。あの世界に戻るくらいならばここで死んだ方がいいと思えた。
だが、魔物に捕食されるその寸前―――奇跡は起きた。
『やれやれ。死にたいんですか貴方は』
クリヌス・トナティウ。彼との出会いは、サヤカの在り方を少しだけ変えた。自分の人生の中で、初めての友達と言える存在だった。
クリヌスに事情を話した結果、サヤカはこの世界に滞在できるようになった。自分のされてきたいじめがどれ程かは、この世界の人間は実感できないと思っていたが、クリヌスだけは共感を示してくれた。いや、語弊があるか。『気持ちは分かる』と共感してもいない。『それは違う』と反発してもいない。
クリヌスは―――理解してくれたのだ。
『そんな事があったんですか。ええ、それはとてもつらい……事ですね。戻る事を拒絶するのを良く分かります……戻るのが嫌だと言うのであれば、私が王に掛け合ってみましょう。どうぞ、このままこの世界にて、第二の人生を歩んでください―――ああ、安心してください。仮に許可が下りずとも、貴方の望む所に隠遁してください。私もお手伝いしますので』
恋……とは違う。只感じたのだ。クリヌスと……一緒に居たい、と。近い感情は……おそらく、家族。
間違いなく他人であるクリヌスに、可笑しな話ではあるが、サヤカは家族のような安心感を覚えたのだ。
それ以来、サヤカはクリヌスと共に居る。出来れば相部屋が良かったが、流石にクリヌスが拒絶してきたので諦めた。だがそれでも一緒に居た。一緒に居て愉しかったから、一緒に居た。
一緒に居るから強くなれて、今、サヤカはこうして生きている。自分を虐めていた三人を廃人に、こうしてこの世界でこき使っている訳なのだが―――
クリヌスが騎士団をやめる事。それだけは防ぎようも無い現象だった。何でもクリヌスの私情が招いた、自業自得らしいがそれでも―――一緒にいられなくなる事だけは、嫌だった。これからクリヌスの代わりに自分の隣に付く騎士は、きっと自分を救ってくれない。嫌だ。クリヌスの代わりなんぞ寄越されるくらいならば、この国を滅茶苦茶にしてやること吝かでは無い。
ちゃんと話を聞きたい。どういう経緯で、どうして止められなかったのか。それを聞きたい。
サヤカは駆け足でクリヌスの部屋へと向かった。全ては真相を知りたいがための行動。家族と離れたく無い為の、至って普通の行動だ。
だが―――クリヌスは、居なかった。後に残されているモノは一枚の手紙のみ。宛先を見ると、それは自分に宛ててのモノだった。
―――すみません。貴方とは一緒に居られなくなりました。
その言葉は、サヤカを再び暗黒の底へと叩き落した。
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