ワルフラーン ~廃れし神話
その先を知らずに 視点1
『では、改めて。実は騎士団の方でな、少しばかり妙な動きがある訳よ』
『妙な動き……ですか?』
『ああ。取り敢えず表向きは偵察任務としておくから、お前は勝利―――クリヌスを尾行するといい。ひょっとすれば、リスド大陸にも行けるかもしれない』
『……何だか回りくどくないですか?』
『何度も言うが、用も無いのにリスドに行ける訳がないだろ。俺の案が呑めないならこの話は無しだ、帰った帰った』
ラフォルからの提案で、私―――フィネア・ウールランドはクリヌスを尾行していた。無論気づかれるはずもない。この手の任務は何度も請け負ってきたのだから。
クリヌスはサヤカなる女性と共に、レギ大陸に向かった。理由は特に話していなかったが……ほどなくしてその理由は判明した(飽くまで状況から見て、だが)。
クリヌスは尾行に気づいたのだ。だから何かを漏らすような発言もする事無く、レギ大陸へと向かった。それもサヤカに不自然さすら感じさせない程自然に。
こちらとしてもそれは予想外だったが、直ぐに船に乗って後を追った。もう見失うつもりは更々無かったのだが、どうやら状況を読む思考に関しては、クリヌスに三歩程譲ってしまうようだ。
詰まる所、レギに居た群衆共に邪魔されて、クリヌスを見失ったのだ。自分が他の大陸に行けば騒ぎになる―――本来は邪魔でしかないその要素。だが追跡を撒く為に利用すれば、それは十分すぎる壁となる。
クリヌス・トナティウ。強さだけの男と思っていたが、存外に聡明である。だてに『勝利』を冠ってはいないという事か。
それからは、どんなに探しても結局会えず―――次にクリヌスを見つけたのは、深夜を過ぎた辺りだ……、いや、少々語弊がある。正確にはクリヌスに見つけられたのだ。
『先程から少々耳障りなのですが……私に何か用でしょうか』
殺意は感じなかったが、明らかな敵意を感じた。『勝利』程、暴走した際に手の付けられない奴はいない。発言をまちがえればこちらの首が落とされるだろう。
だが。何も言う事は出来なかった。リスドに行ってくださいとは言えないし、何より立場が違う。自分が物言いをしていいのかすらどうか、疑わしく思えた。
『用が無いなら帰ってもらいたいところですね。私は少しやる事があるので』
尾行は、対象者に気づかれたその時点で中止しなければならない。
諦めざるを得なかった。自分のような末端の存在如きが、勝利を尾行しようだ何て早すぎたのだ。
だがそれでもフィネアは諦めなかった。フルシュガイドに帰還してからも、一体どうすればリスド大陸に行くことが出来るのか。どうすればクリヌスに気付かれずに尾行出来るのか。多少目的がズレてきた気がしなくもないが、それでも考えつづけた。
そんなときだ、クリヌスがこちらに帰還したのは。それは己が苦悩に対する救済か、はたまたなんらかの運命か。
いずれにしても、クリヌスは帰ってきた。この機は逃さない―――!
「順を追って話すと言いましたよね。ではどうして、それがクリヌスさんが死ぬって案件に繋がるんですか?」
何だ? 一体何の話をしているんだ?
  クリヌスの行先を知る為に盗聴しようとしたまでは良いのだが、聞こえた内容はあまりにも物騒で、そして重大だった。
クリヌス・トナティウ。地上最強を表すに等しい称号、『勝利(ワルフラーン』を冠り、魔人及び他大陸への抑止力として機能している男。彼に敵う人物はこの世におらず、もしそんな人物が現れる時があるとするならば、それこそ世界終焉の時が近いという事だ。
そんな彼が……死ぬと?
「ああ、そう言えばそういう話題でしたね。では改めて―――その件についてですが、少し言い直しましょう。『勝利』を二人も手放すのは不味い、というのは語弊で、正確には『勝利』を冠れるほどの強さを持つモノを手放すのは不味い、というのが正確です」
『勝利』が二人? クリヌスの前の勝利―――誰だ? エイン・ランドが初代で、二代目が―――で、三代目がクリヌス。二代目は―――二代目は―――
二代目は誰だ? 思い出せない。何も思い出せない。思い出せ―――
「実はクウィンツさんが逃げた事は想定外だったんですよ。本来、フルシュガイドはある目的―――まあ、ありふれた目的だとは思いますが―――の為に、クウィンツさんの死体を利用するつもりでした。王がクウィンツさんを殺そうとしていたのも、おそらくはこの為でもあったのでしょう。ですが結果としてクウィンツさんに逃げられた。それだけならばまだ良かった。アジェンタ大陸の方に代替品が居ましたから―――確か、名前はダルノアと言いましたか。半神の彼女さえいれば、その霊格の高さから、とりあえず安心だったんですが……何と不幸な事に、ダルノアは輸送中に海賊に襲われて、居なくなったらしいです」
クウィンツ……クウィンツ……
―――クウィンツッ?
いや、そんな筈は―――ウルグナはフルシュガイド大帝国帝国騎士団副団長兼指導係の筈だ。そんな訳は―――いや待て待て。そんな係は存在しない。では何故自分はあんな妄言を……
「……まさか」
クウィンツ。その名前には聞き覚えが在った。そう……どこで聞いたかと言えば……それは―――
「アルド……クウィンツ」
それは反逆の罪で火刑に処された、かつての大罪人。そして二代目勝利の名前でもあった。
『妙な動き……ですか?』
『ああ。取り敢えず表向きは偵察任務としておくから、お前は勝利―――クリヌスを尾行するといい。ひょっとすれば、リスド大陸にも行けるかもしれない』
『……何だか回りくどくないですか?』
『何度も言うが、用も無いのにリスドに行ける訳がないだろ。俺の案が呑めないならこの話は無しだ、帰った帰った』
ラフォルからの提案で、私―――フィネア・ウールランドはクリヌスを尾行していた。無論気づかれるはずもない。この手の任務は何度も請け負ってきたのだから。
クリヌスはサヤカなる女性と共に、レギ大陸に向かった。理由は特に話していなかったが……ほどなくしてその理由は判明した(飽くまで状況から見て、だが)。
クリヌスは尾行に気づいたのだ。だから何かを漏らすような発言もする事無く、レギ大陸へと向かった。それもサヤカに不自然さすら感じさせない程自然に。
こちらとしてもそれは予想外だったが、直ぐに船に乗って後を追った。もう見失うつもりは更々無かったのだが、どうやら状況を読む思考に関しては、クリヌスに三歩程譲ってしまうようだ。
詰まる所、レギに居た群衆共に邪魔されて、クリヌスを見失ったのだ。自分が他の大陸に行けば騒ぎになる―――本来は邪魔でしかないその要素。だが追跡を撒く為に利用すれば、それは十分すぎる壁となる。
クリヌス・トナティウ。強さだけの男と思っていたが、存外に聡明である。だてに『勝利』を冠ってはいないという事か。
それからは、どんなに探しても結局会えず―――次にクリヌスを見つけたのは、深夜を過ぎた辺りだ……、いや、少々語弊がある。正確にはクリヌスに見つけられたのだ。
『先程から少々耳障りなのですが……私に何か用でしょうか』
殺意は感じなかったが、明らかな敵意を感じた。『勝利』程、暴走した際に手の付けられない奴はいない。発言をまちがえればこちらの首が落とされるだろう。
だが。何も言う事は出来なかった。リスドに行ってくださいとは言えないし、何より立場が違う。自分が物言いをしていいのかすらどうか、疑わしく思えた。
『用が無いなら帰ってもらいたいところですね。私は少しやる事があるので』
尾行は、対象者に気づかれたその時点で中止しなければならない。
諦めざるを得なかった。自分のような末端の存在如きが、勝利を尾行しようだ何て早すぎたのだ。
だがそれでもフィネアは諦めなかった。フルシュガイドに帰還してからも、一体どうすればリスド大陸に行くことが出来るのか。どうすればクリヌスに気付かれずに尾行出来るのか。多少目的がズレてきた気がしなくもないが、それでも考えつづけた。
そんなときだ、クリヌスがこちらに帰還したのは。それは己が苦悩に対する救済か、はたまたなんらかの運命か。
いずれにしても、クリヌスは帰ってきた。この機は逃さない―――!
「順を追って話すと言いましたよね。ではどうして、それがクリヌスさんが死ぬって案件に繋がるんですか?」
何だ? 一体何の話をしているんだ?
  クリヌスの行先を知る為に盗聴しようとしたまでは良いのだが、聞こえた内容はあまりにも物騒で、そして重大だった。
クリヌス・トナティウ。地上最強を表すに等しい称号、『勝利(ワルフラーン』を冠り、魔人及び他大陸への抑止力として機能している男。彼に敵う人物はこの世におらず、もしそんな人物が現れる時があるとするならば、それこそ世界終焉の時が近いという事だ。
そんな彼が……死ぬと?
「ああ、そう言えばそういう話題でしたね。では改めて―――その件についてですが、少し言い直しましょう。『勝利』を二人も手放すのは不味い、というのは語弊で、正確には『勝利』を冠れるほどの強さを持つモノを手放すのは不味い、というのが正確です」
『勝利』が二人? クリヌスの前の勝利―――誰だ? エイン・ランドが初代で、二代目が―――で、三代目がクリヌス。二代目は―――二代目は―――
二代目は誰だ? 思い出せない。何も思い出せない。思い出せ―――
「実はクウィンツさんが逃げた事は想定外だったんですよ。本来、フルシュガイドはある目的―――まあ、ありふれた目的だとは思いますが―――の為に、クウィンツさんの死体を利用するつもりでした。王がクウィンツさんを殺そうとしていたのも、おそらくはこの為でもあったのでしょう。ですが結果としてクウィンツさんに逃げられた。それだけならばまだ良かった。アジェンタ大陸の方に代替品が居ましたから―――確か、名前はダルノアと言いましたか。半神の彼女さえいれば、その霊格の高さから、とりあえず安心だったんですが……何と不幸な事に、ダルノアは輸送中に海賊に襲われて、居なくなったらしいです」
クウィンツ……クウィンツ……
―――クウィンツッ?
いや、そんな筈は―――ウルグナはフルシュガイド大帝国帝国騎士団副団長兼指導係の筈だ。そんな訳は―――いや待て待て。そんな係は存在しない。では何故自分はあんな妄言を……
「……まさか」
クウィンツ。その名前には聞き覚えが在った。そう……どこで聞いたかと言えば……それは―――
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