ワルフラーン ~廃れし神話
いつか見るべき平和
好奇の目で見られてはいないだろうが、それでもこんな感じで人と歩くのは凄く恥ずかしい。人か魔人かはこの際問題では無い。只腕を組んで歩くことがこの上なく恥ずかしいのだ。顔が燃えてるのではと錯覚する程に、恥ずかしい。表情は上手く誤魔化せてはいるモノの、フェリーテにでも見られたら大変だ。
「……」
こんな事、ナイツの誰ともやった事が無い。腕を組むなんてそんな大それた事、出来る訳が……している事自体が奇跡だ。
「城って、後どれくらいなんですか?」
「え。ああ、あそこに見える城だよ。目測でおおよそ十五分と言った所か」
「……? そう……ですか?」
腕を組んでいる事に動揺して質問がまるで頭に入っていなかった。御蔭で動揺がばれそうだったが、誤魔化せたらしい。ワドフが阿呆で良かった。
遠ざかる港の活気。翔ける風と二人の足音のみが聞こえる平和な世界。魔人と人間の争い何て無ければ、こんな平和な世界も……見れたのだろうか。
いや、そんな世界を想像するだけ無駄だ。自分は人を害する魔王となったのだ。キリーヤのような思想を持ってはいけないし、想像もしてはいけない。自分は第三を選ばなくてはならないのだ。選ばなくては。選ばなくては―――駄目なんだ。
「アルドさん、思いつめた顔してどうしたんですか?」
「……思いつめてなんかないさ」
「嘘です。思いつめてます。心に貯めるのはいけません。私で良かったら相談に乗りますよ?」
……どうしてここ最近の奴らは人の心を読むのが上手いのだろうか。何かの異常現象で自分の周りに『覚』が散布されたとしか思えない。心を読んでくるのはフェリーテだけで十分だ。こんなに心を読まれてはプライベートも何もあったもんではない―――
なんて現象は起こっていないだろう。真面目に言えば、おそらく感情が出やすくなっている事に問題があるのだろう。感情が出やすくなっているから読まれやすく、読まれやすいから動揺しやすく、だからこうなっている。悪循環、負の連鎖だ。全く持って良い方向とは言い難い。本当に困ったモノだ。
「アルド様、お待ちください」
背後で声が聞こえた気がした。というか、聞こえた。こんな脈絡も唐突も無い現われ方をするモノなど、アルドはナイツでは二人しか知らなかった。
「チロチンか」
振り返って、彼を見据える。チロチンは軽く頭を下げた後、警告とばかりに用件を告げた。
「その女性が新たな仲間と理解はしております。受け入れ態勢も万全であり、その女性を連れる事に問題は無いのですが……どうかその体勢で城に入る事は、お止めください。後生です」
後生ッ? どれだけ必死なんだお前は。
「……との事だが、ワドフ」
「え、あ、はい。分かりました」
思いのほか素直に離れてくれた事、間違っているかもしれないが、感謝申し上げたい。チロチンの必死さから分かるが、彼は本気で忠告、否、警告をしているのだ。彼は確かにファーカやメグナの茶番に乗っかる。それくらいの軽さは持ち合わせているのだ。
だが大抵の彼の役は滑稽な台詞回し……或いは間抜けなセリフ回しを常とした良く分からない感じのキャラが常で、決して警告役なんてモノはしない。これは本気の忠告。然らば従うは道理であろう。
「一体何が起きると言うんだ?」
「私からそれを申し上げる事は……一応は協力しておりますので、ご容赦を」
どうやらまた何かに巻き込まれているらしい。おそらく自分関連の事だろうが、誠に気の毒である。むしろ休日が必要なのは自分や他のナイツでは無く、彼なのではないかとすら思う程だ。チロチンは自分がファーカとデートをしている間も、実は休みなく働いていた。その顔からは判然としないが、フェリーテ曰く、『心身ともに疲れ切っている』そうな。ナイツの体調も分からない王様で情けないが、それ程までにチロチンの空元気は完璧なのだ。ナイツや自分に心配を掛けたくないという気遣いからだろうか、それがむしろ気を使わせている事には気づかないらしい。
困った男だ。本当に。
「……まあ、わざわざ警告に来てくれたんだ。その点に免じて、先刻の否定は水に流そう」
許す許さない以前にそもそも怒っていないが、チロチンがそう言うのならという事で少しそれっぽく言わせてもらった。あまりに滑稽すぎた芝居だったため、チロチンもそれに気づいているだろうが、敢えて何も言う事は無かった。
「それでは私はこれで」チロチンはその身をマントに隠して去っていった。『外』に出たのだろう。
「……誰なんですか?」
「『烏』の魔人、チロチンだ。中心にして情報収集を主に世界を飛び回っている。アイツが死んだら、こちらの情報力は大いに低下するだろうな」
だからこそ最悪空間の外に逃げると言う選択肢がある訳だ。彼は戦力的な意味合いで言えば最も死んではいけないモノである。そんな位置に居るからこそ彼は絶対回避の道具を持ち合わせている。……っとそんな話をワドフにしても仕方ないか。
「まあいい。アイツとの出会いはおそらく内密なモノだし、出会った事は今すぐ忘れろ、いいな?」
「……分かり、ました……?」
チロチンが体を張ってまで警告に来たのだ、僅かな恐怖を胸に抱き、アルドは声高々に叫ぶ。
「さてッ、もう既に分かっているとは思うが、私達の目の前にあるあの城がそれだ。広いと思うだろうが、本当に広い。私でさえ構造を把握しきれていない程にな」
特に捕虜を入れておく監禁部屋が酷い。一定周期で道が自動生成されるふざけた魔術が掛かっているのだ。だから絶対に行くなよとも伝えておく。
「今日よりお前の家となる場所だ―――忘れるなよ?」
「はいッ!」
城に入ってから、違和感に気づいた。ナイツはいつも通り城内で談笑している。それはいい。不気味なくらい自然に、不自然なくらい不気味な笑みを浮かべている。芝居……とも思えないが、何かが可笑しい。
警戒の必要は無いだろうが。
「今日はお前達に話がある!」
城内全体に響く程の声に、ナイツはすかさず反応。脇に避けて、玉座に向かって跪く。
「こい」
ワドフの手を取って開けられた道を進む。ナイツの表情から様々な事が読み取れるが、それは今は置いておくとしよう。
アルドは玉座の目の前まで来た後、静かに腰を下ろして、背中を預ける。ワドフには傍に居ればいいと言っておいた。
「お前達も知っての通り、今日は新たな仲間を迎えようと思う。名はワドフ。魔人では無いが、信頼に値する人物だ。それを今から実践……実戦しよう」
「え?」
言葉に不穏な香りを感じたワドフは思わずそう言った。だが仕方あるまい。オールワークが説明済みとはいえ、信頼に足るかどうかはナイツ個々の意思による。
何よりこんな時代だ。……信頼を得る方法は一つしかない。フェリーテとディナントならば理解しているだろう、その方法。
「少し外に……いや、危ないな―――」
アルドは少しばかり視線を漂わせた後、名案とばかりに一人頷き、虚空に手を突っ込んだ。
「覚醒せよ、乖槍『解旋』っと」
虚空から引き抜かれたその槍は、一見して普通の鋼の槍だ。パルチザンに酷似した形のその槍は、魔力すら感じさせぬ極々平凡な普通の武器―――にしか見えないのだが、
「蒼穹囲む停滞よ。世界を錬金し、偽りを証明せよ」
アルドは小さく呟いた後、力のままに乖槍を地面に突き立てた。
刹那。平凡で無個性だったその槍が変化。赤と蒼の文様が槍を螺旋で包み込み、槍は隠された魔力を爆発させる。螺旋は光り、捩じれて、拡散す。ナイツの誰しもが見た事のない新たな異名持ちの武具だった。
光は視界を包み込み、世界を書き換えていく―――
次の瞬間、ナイツ及びアルドが見た光景は、永遠に煌く太陽の下に茂る、広い広い草原だった。
「……」
こんな事、ナイツの誰ともやった事が無い。腕を組むなんてそんな大それた事、出来る訳が……している事自体が奇跡だ。
「城って、後どれくらいなんですか?」
「え。ああ、あそこに見える城だよ。目測でおおよそ十五分と言った所か」
「……? そう……ですか?」
腕を組んでいる事に動揺して質問がまるで頭に入っていなかった。御蔭で動揺がばれそうだったが、誤魔化せたらしい。ワドフが阿呆で良かった。
遠ざかる港の活気。翔ける風と二人の足音のみが聞こえる平和な世界。魔人と人間の争い何て無ければ、こんな平和な世界も……見れたのだろうか。
いや、そんな世界を想像するだけ無駄だ。自分は人を害する魔王となったのだ。キリーヤのような思想を持ってはいけないし、想像もしてはいけない。自分は第三を選ばなくてはならないのだ。選ばなくては。選ばなくては―――駄目なんだ。
「アルドさん、思いつめた顔してどうしたんですか?」
「……思いつめてなんかないさ」
「嘘です。思いつめてます。心に貯めるのはいけません。私で良かったら相談に乗りますよ?」
……どうしてここ最近の奴らは人の心を読むのが上手いのだろうか。何かの異常現象で自分の周りに『覚』が散布されたとしか思えない。心を読んでくるのはフェリーテだけで十分だ。こんなに心を読まれてはプライベートも何もあったもんではない―――
なんて現象は起こっていないだろう。真面目に言えば、おそらく感情が出やすくなっている事に問題があるのだろう。感情が出やすくなっているから読まれやすく、読まれやすいから動揺しやすく、だからこうなっている。悪循環、負の連鎖だ。全く持って良い方向とは言い難い。本当に困ったモノだ。
「アルド様、お待ちください」
背後で声が聞こえた気がした。というか、聞こえた。こんな脈絡も唐突も無い現われ方をするモノなど、アルドはナイツでは二人しか知らなかった。
「チロチンか」
振り返って、彼を見据える。チロチンは軽く頭を下げた後、警告とばかりに用件を告げた。
「その女性が新たな仲間と理解はしております。受け入れ態勢も万全であり、その女性を連れる事に問題は無いのですが……どうかその体勢で城に入る事は、お止めください。後生です」
後生ッ? どれだけ必死なんだお前は。
「……との事だが、ワドフ」
「え、あ、はい。分かりました」
思いのほか素直に離れてくれた事、間違っているかもしれないが、感謝申し上げたい。チロチンの必死さから分かるが、彼は本気で忠告、否、警告をしているのだ。彼は確かにファーカやメグナの茶番に乗っかる。それくらいの軽さは持ち合わせているのだ。
だが大抵の彼の役は滑稽な台詞回し……或いは間抜けなセリフ回しを常とした良く分からない感じのキャラが常で、決して警告役なんてモノはしない。これは本気の忠告。然らば従うは道理であろう。
「一体何が起きると言うんだ?」
「私からそれを申し上げる事は……一応は協力しておりますので、ご容赦を」
どうやらまた何かに巻き込まれているらしい。おそらく自分関連の事だろうが、誠に気の毒である。むしろ休日が必要なのは自分や他のナイツでは無く、彼なのではないかとすら思う程だ。チロチンは自分がファーカとデートをしている間も、実は休みなく働いていた。その顔からは判然としないが、フェリーテ曰く、『心身ともに疲れ切っている』そうな。ナイツの体調も分からない王様で情けないが、それ程までにチロチンの空元気は完璧なのだ。ナイツや自分に心配を掛けたくないという気遣いからだろうか、それがむしろ気を使わせている事には気づかないらしい。
困った男だ。本当に。
「……まあ、わざわざ警告に来てくれたんだ。その点に免じて、先刻の否定は水に流そう」
許す許さない以前にそもそも怒っていないが、チロチンがそう言うのならという事で少しそれっぽく言わせてもらった。あまりに滑稽すぎた芝居だったため、チロチンもそれに気づいているだろうが、敢えて何も言う事は無かった。
「それでは私はこれで」チロチンはその身をマントに隠して去っていった。『外』に出たのだろう。
「……誰なんですか?」
「『烏』の魔人、チロチンだ。中心にして情報収集を主に世界を飛び回っている。アイツが死んだら、こちらの情報力は大いに低下するだろうな」
だからこそ最悪空間の外に逃げると言う選択肢がある訳だ。彼は戦力的な意味合いで言えば最も死んではいけないモノである。そんな位置に居るからこそ彼は絶対回避の道具を持ち合わせている。……っとそんな話をワドフにしても仕方ないか。
「まあいい。アイツとの出会いはおそらく内密なモノだし、出会った事は今すぐ忘れろ、いいな?」
「……分かり、ました……?」
チロチンが体を張ってまで警告に来たのだ、僅かな恐怖を胸に抱き、アルドは声高々に叫ぶ。
「さてッ、もう既に分かっているとは思うが、私達の目の前にあるあの城がそれだ。広いと思うだろうが、本当に広い。私でさえ構造を把握しきれていない程にな」
特に捕虜を入れておく監禁部屋が酷い。一定周期で道が自動生成されるふざけた魔術が掛かっているのだ。だから絶対に行くなよとも伝えておく。
「今日よりお前の家となる場所だ―――忘れるなよ?」
「はいッ!」
城に入ってから、違和感に気づいた。ナイツはいつも通り城内で談笑している。それはいい。不気味なくらい自然に、不自然なくらい不気味な笑みを浮かべている。芝居……とも思えないが、何かが可笑しい。
警戒の必要は無いだろうが。
「今日はお前達に話がある!」
城内全体に響く程の声に、ナイツはすかさず反応。脇に避けて、玉座に向かって跪く。
「こい」
ワドフの手を取って開けられた道を進む。ナイツの表情から様々な事が読み取れるが、それは今は置いておくとしよう。
アルドは玉座の目の前まで来た後、静かに腰を下ろして、背中を預ける。ワドフには傍に居ればいいと言っておいた。
「お前達も知っての通り、今日は新たな仲間を迎えようと思う。名はワドフ。魔人では無いが、信頼に値する人物だ。それを今から実践……実戦しよう」
「え?」
言葉に不穏な香りを感じたワドフは思わずそう言った。だが仕方あるまい。オールワークが説明済みとはいえ、信頼に足るかどうかはナイツ個々の意思による。
何よりこんな時代だ。……信頼を得る方法は一つしかない。フェリーテとディナントならば理解しているだろう、その方法。
「少し外に……いや、危ないな―――」
アルドは少しばかり視線を漂わせた後、名案とばかりに一人頷き、虚空に手を突っ込んだ。
「覚醒せよ、乖槍『解旋』っと」
虚空から引き抜かれたその槍は、一見して普通の鋼の槍だ。パルチザンに酷似した形のその槍は、魔力すら感じさせぬ極々平凡な普通の武器―――にしか見えないのだが、
「蒼穹囲む停滞よ。世界を錬金し、偽りを証明せよ」
アルドは小さく呟いた後、力のままに乖槍を地面に突き立てた。
刹那。平凡で無個性だったその槍が変化。赤と蒼の文様が槍を螺旋で包み込み、槍は隠された魔力を爆発させる。螺旋は光り、捩じれて、拡散す。ナイツの誰しもが見た事のない新たな異名持ちの武具だった。
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