ワルフラーン ~廃れし神話
取り戻すべき刻
自分が十歳。ひたすらに棒切れを振っていた時の事。この時は命がけで戦えばようやく下位の魔物を一人仕留められるレベルであり、やはりというべきか、同年代と比べると一歩遅れている―――などというモノでは無かった。しかしそれでも、いつかは超えて見せるという絶望的な希望を抱えた自分が、森の中に入っていった時……だったか。
そこには少女が居た。容姿を見るに、自分と同じくらいの年齢。その左腕には複雑な文様が白色に煌きながら刻まれており、まず人間でない事は直感的に理解できる。だがその特徴は左腕だけで、それ以外は紛れも無い人間。
彼女の足は痛々しい切り傷が残っており、どうやらそれで身動きが取れなくなっているようだ。助けようとも思ったが、自分は人間で彼女は魔人。
魔人は恩を仇で返す最悪の種と教えられていた事もあり、見るや否や直ぐに、という訳には行かず、代わりに自分が取った行動は、草陰に隠れ、様子を見るという行動だった。
暫くすると、彼女の下に、騎士団の一員であろう男が二人現われた。その男達は少女に何かを語り掛けた後、徐に背中を突き刺した。少女が喘ぐ。それでも尚自分は踏み出せずにいた。
勝てるはずが無いと、そう思っていたから。曲がりなりにもあの二人は騎士団だ。まだ見習の境地にすら至っていない自分が出て、一体何が出来ると言うのか。それにあれは魔人だ。助ける義理など無い。今思えば自分の想いを必死で誤魔化していたのだろうと分かるが、その時はまだ、その感情に気づいてはいなかった。
二回、三回。
少女の背中、に何度も剣が突き立てられ、その度に少女が喘ぎ、男達が笑う。出る事は出来なかった。
十五分。それでも死なぬ少女に対し、男達は鎧を脱ぎ、下半身を露出しだした。……ああ、そう言えば。
魔人は身体だけ上質と国で言われていたが、そういう事らしい。次に行われる行為は予想できる。だが、それでも自分は飛び出す事が出来なかった―――あの言葉を聞くまでは。
『助……けて―――』
その言葉を聞いたのに、躊躇わなければいけない理由が何処にある?
無我夢中と表せばいいのだろうか、とにかく自分は彼女を助ける為に何も躊躇う事は無かった。人間の首を刎ねた感触は、今でもこの手に残っている。気持ちの悪いものだったが……しかし、彼女を助ける為にはああする他無かった。
同族を殺した罪悪感が後からこみ上げてきたが、その少女の言葉によって、自分は救われた。
『あり……がとう……』
思えばこの時から、自分は何かが壊れたのかもしれない。罪悪感などどうでも良くなった。その言葉を聞いただけで、何の悲しみも抱かなくなった。
だがこのままここに居続ける訳にもいかないので、自分は足早に立ち去ろうとした筈だ。
『ね、貴方の名前は?』
その少女が呼び止めるまでは。
騎士道に反した戦いで勝利し、魔人を救った。そんな自分に、彼女は名前を聞いてきたのだ。人間である自分に。本来ならば敵対するはずの自分に。
……嬉しかった。だから、答えた。
『俺の名前は―――』
教えると、彼女はお返しのつもりで自分の名前を教えてくれたか。
『じゃあお返しね。私の名前は―――』
思い出した。自分が何者で、今まで何をしていたか。どうして彼女の名前が思い出せないのか。全てが分かった。
「―――アルド。それが私の名前」
今まで忘れていた事は恥じるべきだろうか。いや、自身の名前の有無などどうでも良い。最も恥じるべきは、生涯忘れないと誓っていたナイツの存在を、今日この瞬間まで忘れていた事だ。魔王として処か、まず生物として最低の所業であり、そんな自分を果たして皆は魔王と認めてくれるのか。本来奇跡であるはずの記憶の復活は、そんな不安を同時に抱かせた。
アルドが呑気に二年も過ごしている間に、ナイツは果たしてどうなったのか。新たな主を見つけ、世界奪還に励んでいるのか、或いは既に滅んでしまったか。後者は考えたくも無い可能性だが、ゼロでは無い。ルセルドラグを救出しに行こうとしたら背後からクリヌスに―――なんて事は、十分にあり得るからだ。
だがそれは自分がこの生活の間に聞いた情報によって否定する事が出来る。おそらく北部の村が全滅と言うのは、ナイツ全員ではないにしろ誰かしらの仕業である事は想像できるため、少なくとも、全滅している訳では無いらしい。
レギ大陸に関してはナイツとなんら関係ないが、キリーヤの仕業だろう。二年もの間に随分と活躍しているようで、送り出した者としては、嬉しい限りだ。この二つの情報はまだ良い。発生源が誰かが分かりやすく、簡単に思い当るからだ。
問題はフェイリ―港付近にて、凄腕の剣士が居るとの情報。この港は、ツェートの村へ行く際に船を停めた場所で、それ以外はこれと言った思い出は無い筈だ。凄腕の剣士……ツェートが村の近くに居るとは考えにくいので、彼は除外していいだろう。
二年の間にその実力をメキメキと上昇させ、尚且つあの近くに居る剣士―――駄目だ、思いつかない。
まさか船が奪われている訳が無いだろうし、リスド大陸に帰還する際に、真相を確かめてもいいかもしれない。
善は急げ。アルドは直ぐに立ち上がり、牢獄を脱そうとした―――が
アルドは、笑顔で眠る少女を見遣る。隣に自分が居ない事も知らずに、その顔は非常に幸せそうであった。奴隷であるという立場を考えれば、その表情は分不相応。どうして不幸そうな顔をしていないのかとすら聞く者も居そうだ。それくらい、彼女の顏は明るかった。
―――分かっている。彼女はこちらの世界に連れてくるべきでは無い。彼女がどんな理由で子供ながら奴隷にまで堕ちたかは分からないが、それでも、彼女を見るだけで直感的に分かる。彼女は殺人強姦が横行する闇世界に生きるような人間では無い。それらを取り締まるような騎士でもない。そんな彼女をこちらに連れてくるような事は、それこそ誘拐に等しいだろう。彼女にだって親は要る筈。ならば親元に帰すか、ここに残すか―――
アルドは鉄格子の千切れ目をくぐり、地上へと姿を消した。この選択がどうなろうと、知った事では無い。明らかに自分に付いて来れば不幸になると思わせるように配慮はした。もう二度と会う事は無いだろう。
楽しかった時間は過ぎ去り、空虚なる時は再び刻まれる。これが最善。彼女の為を想えばこその手段だった。
地上に出れば何かしら騒ぎが起きるのかと思ったが、地上はむしろ、音が消えたかのようにひっそりとしていた。民も奴隷も誰一人として居ない。ここはアジェンタ大陸の中心都市、フルノワ大帝国。少し様子を見て回ったが、どうやらここに残っている人物は、自分達のような無意味に労働させられている者達だけの様だ。
大帝国を出て、北部を見据えると、夥しい数の人、人、人。人で構成された線が広がっていた。
軍隊だ。国民がいないのを考えるに、どうやら国家を総動員して戦争中らしい。誰が相手、なんて細かい事はきにしない。二年も何もしていなかった故に、自身の能力が衰えているのは自覚しているので、もし帝国内部で戦闘になった場合、敗北の可能性が高いのは分かっていたからだ。
だが、誰かが北部で引きつけてくれたおかげで、戦いを避ける事が出来た。こんな幸運、一度巡り合えるかどうか。
全盛期の半分以下にまで落ち込んだ体を動かし、アルドはフェイリ―港へと向かった。十数秒でたどり着けたはずのその距離を、アルドは何と四十五分も掛け、ようやく到着した。
北部での戦闘の影響か、港の人々は業務も放棄して家に閉じこもっていた。窓からちらつく目線が、度々自分に向けられるような気がした。気のせいでは無いだろう。あの戦いを恐れずに港へと突き進む男は、きっと実力者に違いない。そんな目線を受け取る事は慣れていたが、久々に向けられる故に、少し恥ずかしかった。直慣れるだろう事も分かっているので、こういう気持ちは逆に新鮮さを感じた。
それにしても……
殆ど真反対にある港にまで轟く咆哮。ああ、やはりか。確かにアイツ以外の適任はそう居ないだろう。誰が指揮を執っているかは知らないが、的確な判断だ。
港を進んでいくと、二年前より放置されていた船が、そこにはあった。無人である筈なのに、どういう訳か手入れが行き届いていて、経年の劣化は感じさせない。購入したばかりの船にも見える。
背後で剣が落ちたような金属音。振り返ってみるが……ふざけている訳でも何でもなく、一瞬本当に誰だと思ってしまった。二年は短くも長い年月なのだと悟った瞬間でもある。
「——―あ」
「……よ、ようワドフ。久しぶりだな」
まずい。以前はどんな感じに接していたかすっかり忘れてしまった。御蔭で喋り方が露骨におかしくなっている。
言い直しだ。
「……貴様の事だから既にのたれ死んだと思っていたぞ、ワドフ。人間とは脆弱な生物であるが、まあ貴様のしぶとさだけは評価してやっても―――」
「——――アルドさんッ!」
ワドフはアルドを押し倒すように飛びついた。能力が減退している今、アルドに抗う術は無かった。
「アルドさんッ、アルドさん、アルドさんが生きてたッ! 良かった……」
人は変わる。そうは言うが、彼女程変化した人間もそうは居ないだろう。身体的にも、精神的にも、彼女は大きく成長していた。その体つきは性の暴力としておいて、純粋な強さで言えば、今のアルドには余裕で勝てる程には実力が上がっていた。
凄腕の剣士とは、彼女の事を指していたのだろう
「ワドフ……すまなかったな」
彼女はここまで自分に対して狂気的だったかと疑問に思ったが、その疑問は数秒後に自動消滅した。彼女は『命刻』を交わしている。契約内容は、本人が満足するまで、自分とやりたい事を一緒にやる、だったか。ともかく、この契約にあたって最重要人物であるアルドが二年も不在だったのだ。こうなってしまうのは当然の結果だろう。
しかしながら不安なのが、彼女がこうも変わっているとなると、やはりナイツも変わっているのかもしれない。あそこで敵を引きつけてくれた彼は除いたとしても、何人かが死に、メンバーが変わっているとか。
もし、ナイツ達が新たな王を見つけていたならば。自分はおとなしくその身を退こう。存在意義を失う事は悲しいかもしれないが、ナイツの為を想っての判断だ。そうなれば、アルドはおそらくこの世界の変化をどこかで眺める……いや、ワドフと共に世界を放浪するのもいいかもしれない。或いは……ジバルへと赴き、彼等の下で暮らすか。
ナイツが自分を忘れていないようにという思いは、二年も呑気に過ごしていたアルドが持つ事は許されないだろう。だがそれでも望まずにはいられない。アルドはカテドラル・ナイツの事が、大好きなのだから。
そこには少女が居た。容姿を見るに、自分と同じくらいの年齢。その左腕には複雑な文様が白色に煌きながら刻まれており、まず人間でない事は直感的に理解できる。だがその特徴は左腕だけで、それ以外は紛れも無い人間。
彼女の足は痛々しい切り傷が残っており、どうやらそれで身動きが取れなくなっているようだ。助けようとも思ったが、自分は人間で彼女は魔人。
魔人は恩を仇で返す最悪の種と教えられていた事もあり、見るや否や直ぐに、という訳には行かず、代わりに自分が取った行動は、草陰に隠れ、様子を見るという行動だった。
暫くすると、彼女の下に、騎士団の一員であろう男が二人現われた。その男達は少女に何かを語り掛けた後、徐に背中を突き刺した。少女が喘ぐ。それでも尚自分は踏み出せずにいた。
勝てるはずが無いと、そう思っていたから。曲がりなりにもあの二人は騎士団だ。まだ見習の境地にすら至っていない自分が出て、一体何が出来ると言うのか。それにあれは魔人だ。助ける義理など無い。今思えば自分の想いを必死で誤魔化していたのだろうと分かるが、その時はまだ、その感情に気づいてはいなかった。
二回、三回。
少女の背中、に何度も剣が突き立てられ、その度に少女が喘ぎ、男達が笑う。出る事は出来なかった。
十五分。それでも死なぬ少女に対し、男達は鎧を脱ぎ、下半身を露出しだした。……ああ、そう言えば。
魔人は身体だけ上質と国で言われていたが、そういう事らしい。次に行われる行為は予想できる。だが、それでも自分は飛び出す事が出来なかった―――あの言葉を聞くまでは。
『助……けて―――』
その言葉を聞いたのに、躊躇わなければいけない理由が何処にある?
無我夢中と表せばいいのだろうか、とにかく自分は彼女を助ける為に何も躊躇う事は無かった。人間の首を刎ねた感触は、今でもこの手に残っている。気持ちの悪いものだったが……しかし、彼女を助ける為にはああする他無かった。
同族を殺した罪悪感が後からこみ上げてきたが、その少女の言葉によって、自分は救われた。
『あり……がとう……』
思えばこの時から、自分は何かが壊れたのかもしれない。罪悪感などどうでも良くなった。その言葉を聞いただけで、何の悲しみも抱かなくなった。
だがこのままここに居続ける訳にもいかないので、自分は足早に立ち去ろうとした筈だ。
『ね、貴方の名前は?』
その少女が呼び止めるまでは。
騎士道に反した戦いで勝利し、魔人を救った。そんな自分に、彼女は名前を聞いてきたのだ。人間である自分に。本来ならば敵対するはずの自分に。
……嬉しかった。だから、答えた。
『俺の名前は―――』
教えると、彼女はお返しのつもりで自分の名前を教えてくれたか。
『じゃあお返しね。私の名前は―――』
思い出した。自分が何者で、今まで何をしていたか。どうして彼女の名前が思い出せないのか。全てが分かった。
「―――アルド。それが私の名前」
今まで忘れていた事は恥じるべきだろうか。いや、自身の名前の有無などどうでも良い。最も恥じるべきは、生涯忘れないと誓っていたナイツの存在を、今日この瞬間まで忘れていた事だ。魔王として処か、まず生物として最低の所業であり、そんな自分を果たして皆は魔王と認めてくれるのか。本来奇跡であるはずの記憶の復活は、そんな不安を同時に抱かせた。
アルドが呑気に二年も過ごしている間に、ナイツは果たしてどうなったのか。新たな主を見つけ、世界奪還に励んでいるのか、或いは既に滅んでしまったか。後者は考えたくも無い可能性だが、ゼロでは無い。ルセルドラグを救出しに行こうとしたら背後からクリヌスに―――なんて事は、十分にあり得るからだ。
だがそれは自分がこの生活の間に聞いた情報によって否定する事が出来る。おそらく北部の村が全滅と言うのは、ナイツ全員ではないにしろ誰かしらの仕業である事は想像できるため、少なくとも、全滅している訳では無いらしい。
レギ大陸に関してはナイツとなんら関係ないが、キリーヤの仕業だろう。二年もの間に随分と活躍しているようで、送り出した者としては、嬉しい限りだ。この二つの情報はまだ良い。発生源が誰かが分かりやすく、簡単に思い当るからだ。
問題はフェイリ―港付近にて、凄腕の剣士が居るとの情報。この港は、ツェートの村へ行く際に船を停めた場所で、それ以外はこれと言った思い出は無い筈だ。凄腕の剣士……ツェートが村の近くに居るとは考えにくいので、彼は除外していいだろう。
二年の間にその実力をメキメキと上昇させ、尚且つあの近くに居る剣士―――駄目だ、思いつかない。
まさか船が奪われている訳が無いだろうし、リスド大陸に帰還する際に、真相を確かめてもいいかもしれない。
善は急げ。アルドは直ぐに立ち上がり、牢獄を脱そうとした―――が
アルドは、笑顔で眠る少女を見遣る。隣に自分が居ない事も知らずに、その顔は非常に幸せそうであった。奴隷であるという立場を考えれば、その表情は分不相応。どうして不幸そうな顔をしていないのかとすら聞く者も居そうだ。それくらい、彼女の顏は明るかった。
―――分かっている。彼女はこちらの世界に連れてくるべきでは無い。彼女がどんな理由で子供ながら奴隷にまで堕ちたかは分からないが、それでも、彼女を見るだけで直感的に分かる。彼女は殺人強姦が横行する闇世界に生きるような人間では無い。それらを取り締まるような騎士でもない。そんな彼女をこちらに連れてくるような事は、それこそ誘拐に等しいだろう。彼女にだって親は要る筈。ならば親元に帰すか、ここに残すか―――
アルドは鉄格子の千切れ目をくぐり、地上へと姿を消した。この選択がどうなろうと、知った事では無い。明らかに自分に付いて来れば不幸になると思わせるように配慮はした。もう二度と会う事は無いだろう。
楽しかった時間は過ぎ去り、空虚なる時は再び刻まれる。これが最善。彼女の為を想えばこその手段だった。
地上に出れば何かしら騒ぎが起きるのかと思ったが、地上はむしろ、音が消えたかのようにひっそりとしていた。民も奴隷も誰一人として居ない。ここはアジェンタ大陸の中心都市、フルノワ大帝国。少し様子を見て回ったが、どうやらここに残っている人物は、自分達のような無意味に労働させられている者達だけの様だ。
大帝国を出て、北部を見据えると、夥しい数の人、人、人。人で構成された線が広がっていた。
軍隊だ。国民がいないのを考えるに、どうやら国家を総動員して戦争中らしい。誰が相手、なんて細かい事はきにしない。二年も何もしていなかった故に、自身の能力が衰えているのは自覚しているので、もし帝国内部で戦闘になった場合、敗北の可能性が高いのは分かっていたからだ。
だが、誰かが北部で引きつけてくれたおかげで、戦いを避ける事が出来た。こんな幸運、一度巡り合えるかどうか。
全盛期の半分以下にまで落ち込んだ体を動かし、アルドはフェイリ―港へと向かった。十数秒でたどり着けたはずのその距離を、アルドは何と四十五分も掛け、ようやく到着した。
北部での戦闘の影響か、港の人々は業務も放棄して家に閉じこもっていた。窓からちらつく目線が、度々自分に向けられるような気がした。気のせいでは無いだろう。あの戦いを恐れずに港へと突き進む男は、きっと実力者に違いない。そんな目線を受け取る事は慣れていたが、久々に向けられる故に、少し恥ずかしかった。直慣れるだろう事も分かっているので、こういう気持ちは逆に新鮮さを感じた。
それにしても……
殆ど真反対にある港にまで轟く咆哮。ああ、やはりか。確かにアイツ以外の適任はそう居ないだろう。誰が指揮を執っているかは知らないが、的確な判断だ。
港を進んでいくと、二年前より放置されていた船が、そこにはあった。無人である筈なのに、どういう訳か手入れが行き届いていて、経年の劣化は感じさせない。購入したばかりの船にも見える。
背後で剣が落ちたような金属音。振り返ってみるが……ふざけている訳でも何でもなく、一瞬本当に誰だと思ってしまった。二年は短くも長い年月なのだと悟った瞬間でもある。
「——―あ」
「……よ、ようワドフ。久しぶりだな」
まずい。以前はどんな感じに接していたかすっかり忘れてしまった。御蔭で喋り方が露骨におかしくなっている。
言い直しだ。
「……貴様の事だから既にのたれ死んだと思っていたぞ、ワドフ。人間とは脆弱な生物であるが、まあ貴様のしぶとさだけは評価してやっても―――」
「——――アルドさんッ!」
ワドフはアルドを押し倒すように飛びついた。能力が減退している今、アルドに抗う術は無かった。
「アルドさんッ、アルドさん、アルドさんが生きてたッ! 良かった……」
人は変わる。そうは言うが、彼女程変化した人間もそうは居ないだろう。身体的にも、精神的にも、彼女は大きく成長していた。その体つきは性の暴力としておいて、純粋な強さで言えば、今のアルドには余裕で勝てる程には実力が上がっていた。
凄腕の剣士とは、彼女の事を指していたのだろう
「ワドフ……すまなかったな」
彼女はここまで自分に対して狂気的だったかと疑問に思ったが、その疑問は数秒後に自動消滅した。彼女は『命刻』を交わしている。契約内容は、本人が満足するまで、自分とやりたい事を一緒にやる、だったか。ともかく、この契約にあたって最重要人物であるアルドが二年も不在だったのだ。こうなってしまうのは当然の結果だろう。
しかしながら不安なのが、彼女がこうも変わっているとなると、やはりナイツも変わっているのかもしれない。あそこで敵を引きつけてくれた彼は除いたとしても、何人かが死に、メンバーが変わっているとか。
もし、ナイツ達が新たな王を見つけていたならば。自分はおとなしくその身を退こう。存在意義を失う事は悲しいかもしれないが、ナイツの為を想っての判断だ。そうなれば、アルドはおそらくこの世界の変化をどこかで眺める……いや、ワドフと共に世界を放浪するのもいいかもしれない。或いは……ジバルへと赴き、彼等の下で暮らすか。
ナイツが自分を忘れていないようにという思いは、二年も呑気に過ごしていたアルドが持つ事は許されないだろう。だがそれでも望まずにはいられない。アルドはカテドラル・ナイツの事が、大好きなのだから。
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