ワルフラーン ~廃れし神話
リスド防衛戦 後編 死双銃(プリュンデラ)
ファーカの鎌の特性。それはあまりにも恐ろしく、敵に回ったその時は厄介な事この上ない力である。彼女がナイツにおける最も危険な人物というのも納得だ。なにせこの武具。いずれ行くことになる『魔境』と呼ばれる場所から、ファーカが奪ってきたものなのだから。
その名は死鎌『落葉』。この世の地獄より生まれし劫火の亡骸。聖なる焔を解き放ちしこの鎌からは、かつての地獄の権能は失われている。
故にこそ、この鎌は恐ろしい。焔無きこの鎌に宿るのは、慈悲亡き鉄槌。
即ち、滅び。
この鎌は滅びの概念そのもの。接触した万象を滅ぼす能力。それがこの鎌の特性だ。ある程度は融通も利くため、接触した空間を片っ端から滅ぼしていくなんて事は無いが、だとしてもこの鎌の特性の絶対性は上位に位置する為、強力も強力。ちなみに、船に投げ込んだのは、船を周りから消し去る為である。この海賊団は―――というより、全ての海賊団は船の型が同一である。やはり団結性というのを表したいのだろうが、今回はそれが裏目に出てしまっている。
この鎌の特性を行使して、一隻の船を消滅させたとしよう。すると……滅びの概念を持つこの鎌の能力で、『ある型の船を滅した』という結果が出来上がる為、その同一の型である船船も、軒並み消滅するという現象が起きるのである。その絶対性は実に覆しがたく、アルドを完全に殺しうる手段その一でもある。ただし死剣や王剣には通じない。あの二振りは少し事情と出生と、絶対性が違う。あの二振りの絶対性はあの鎌以上である……という事は、出生を知れば誰が見てもそう思う事だ。これ以上は余裕が無いのでやめておくが、またいずれ、語るとしよう。
アルド達が外に出た時、既に船は一隻残らず消えていた。鎌の特性が発動したのだろう。今頃は、大聖堂の棺に戻っている筈だ。大聖堂はかなり遠いので、後回しなのは言うまでもない。
アルドが最初に行った事は、フェリーテを介して、即戦力になり得ていた魔人を呼び戻す事だ、実力不足が如何ともし難いらしい……とは言え、貴重な戦力である事に変わりはない。これにはトゥイーニーも含まれているが、要は使い方で、こちらの裁量によっては化ける事もありえる。エヌメラの事だから、どうせ警戒しているのはナイツと自分だけの筈だ。エインに関しても、警戒するは自分だけの筈。この最悪の戦いにおいて、アルド達にとっては、そこが勝負の分かれ目である。
そうは言っても分かれ目というのは飽くまで防衛戦ないしはエイン戦であって、エヌメラに関しては勝機も何も無い。自分の執念が勝つか、相手の強さが勝つか。それだけである。
正直、エヌメラが生きているのではアルドは地上最強では無い。勝った、とはいえ、それは執念によるもの。もっと言えば、勝ちだけにこだわった故の勝利。違う。違うのだ。そんな汚い戦い方は英雄アルドが許さない。だからあれは、厳密には勝利では無い。だからといって、今度は正々堂々と―――という訳にも行かない。そんな事をすれば、負ける。
当面の目標は取り敢えずエインを斃す事だ。そして願わくば―――エヌメラにはそのまま撤退してほしい。フィージェントとの戦いは、安全考慮無しでまだ大陸が蒸発するくらいだからいい。だが、奴と安全考慮なしで戦った場合は……大陸処の話では無い。生命、大海。それらに危機的な状況が起こる事は、戦わずとも分かる。戦いが終わった頃には終焉の地が無限に広がっていた……なんて事にはなりたくない。故に……来ないでほしい。
では考慮をすればいいのかと言ってもそうはいかない。まずあちらが乗ってこない。何よりそんな余裕が無い。フェリーテならばできなくはないが、その時こそ覚悟の決め時だろうか。
そろそろ魔人達が集まってくる筈だ。猶予はある。新たな船の再出動(再生、蘇生は不可能になるのもファーカの鎌の特性の一つ)には時間が掛かる筈だ。その間に、布石を何個も敷く。そうする事で初めて、上陸だけには対処する事が出来る―――!
「アルド様ッ。たった今ご帰還しました! 俺です!」
「誰だ」
リスド大帝国の大門より聞こえてきた声。誰かと問われれば、こう言うしかあるまい。アルドが信頼する第二の美女。魅力が無いなんて時々自虐をしては酷く落ち込む姿は愛らしさすら感じるが……転じて戦闘では、かつてのディナントを思い出す狂暴ぶり。
「―――いや、分かっているよ、トゥイーニー」
給仕服と鎧を合わせたような服。カッコいいとも思えるが、女性である彼女からすれば気持ちの良いモノではないだろう。だが―――アルドから言わせれば、彼女にこそ合う服装だ。求められなくとも言わせてもらう。十分に美しいと。
トゥイーニーを先頭に、他の魔人達が隊を成してこちらに歩み寄るのを見据え、アルドは一人笑う。まだまだ至らないとはいえ、魔人達全員の顔は、とても輝いていた。
「では、お前達に今から指示を出す」
船が再出動するまでにやる事は二つ。とにかく上陸をさせないようにする事と、エインの居場所を見つける事だ。特に前者。最悪エインが見つけられなくとも、上陸だけは許す訳には行かない。
魔人達への指示は、特段難しい事では無い、武器を捨て、遠眼鏡を持て。それだけだ。理由も特に珍しい訳では無く、魔人達では相手が悪いというのを考慮した結果。この海賊船は……ナイツが相手をしなくてはいけない。一人一人にそう強さは無い。だが、それでも物量は半端なモノでは無い。今の魔人には無理だ。
北に二十人。東に二十人。西に二十人。南に三十五人。五人は転信石で連絡を受信する係だ。リスド大陸は、南に大きく伸びる形なので、目が届きにくい。そういう訳での配置だが、果たして再出動はいつになるやら。エヌメラが出てきた場合は……陣形も何もあったものではない。自分が全力で相手をするだけだ。そんな事は絶対にありえないのが、唯一の救いか。
「アルド様、南より、船の存在が確認されたそうですッ」
「そうか。ヴァジュラ、北に行くぞ」
「えっ? い、いや、アルド様。ですから南より……」
戸惑う魔人に、アルドはような鋭く、冷たい視線を向けた。それはさながら氷の刃のよう。
「同じ手は何度も喰らった。情報の錯乱こそがあいつの本領だ。南と言えば北、東なら西だ。ほらヴァジュラ、行くぞ」
「……ん」
「いえ! ですが……私は現地の彼等が裏切っているとは」
粘るのは結構だが、アルドの意思は変わらない。ヴァジュラの手を引きながら、男の肩を通り過ぎて城を出てゆく。
「別に裏切っているとは思わん。只裏切りであるかのように誤認させて、内部分裂を起こさせるのが奴の常套手段だ。ならば他人伝いの情報に信用性は皆無。当然の帰結だろう」
南は『ヴァジュラを使って、調べ上げた』。当然と言えば当然か、やはり偽の情報だった。この手を使う辺りは、自分の事もきっと覚えているだろう。というか、この罠は飽くまで腕試し程度。アルドは過去にこの罠を何度も喰らっている。そんなアルドにわざわざこんな罠を向ける事から、そうとしか考えられない。
つまりは本物こそ北に存在する。
「ヴァジュラ、背中に乗るぞ」
「え、分かりました。それでは―――」
ヴァジュラは『地中から腕を引き抜いた』後、アルドの眼前まで歩き、四足の体勢へと移行。彼女は人狼では無い為、完全な狼への切り替えは不可能。よって、四足の女性の背中に、男性が乗るという、何とも言えない光景が出来てしまう訳だが……両者に気にする様子はなかった。
「では、行きましょう」
四足になる代わりに、何処か自信なさげな口調が消えるのも特徴だ。理由は分からない。戦闘能力も、実は人状態と比較すれば、二倍に引きあがっている。心持の問題だろうか。
勘違いしてほしくないが、これは飢狼化ではない。飢狼の彼女は……そう……もっと……死臭がして、皮膚がただれて、目が飛び出て、色々悲惨だ。狼状態だったらまだ良かったが、この現象は人の面影がある彼女に現れる。動かなければ死人にしか見えないその状態。生きているとは思えないその体。理性を失っているため自制も効かない。人狼と比べると狼部分は明らかに大きな差はあるが、それでも人狼の狼部分よりかは数倍強力である。言うまでも無く、取り扱いは難しい。
アルドがヴァジュラの背中へ乗ると同時に、ヴァジュラは北方へと走り出す。速度は優に亜音速。三十分もすればたどり着けるだろうか。
「アルド様」
「何だ」
「僕に乗るより、アルド様が走った方が早いと思うのですが、どうして僕の背中に?」
アルドを知るからこその、至極当然の疑問。理解してもらえるかどうかは不安だが、説明はしなければいけないか。
「ああ、その事か。確かに、私が走った方が、お前より早いかもしれない。だが、お前の走行は無音な上に何故か無臭だ。そして私にはその利が無い。敵が敵でな。私の位置を知られると、出現場所を変えてくる恐れがある。だからお前を頼りにしているんだよ」
ヴァジュラの心拍が一瞬上がったような気がするが、気のせいかもしれない。
三分ほど経って、ヴァジュラが再び口を開いた。
「アルド様、失礼を承知でお聞きしますが、何故にアルド様が出張るのですか? 兵を下がらせ、王自らご出陣なさるなど……」
そう言えば、ナイツにはエインの存在、及び自分との関係を話していなかった。エヌメラに関しても、知ってはいるが、詳細は……という感じだろう。侍女二人は良く知っているので、チロチン辺りは任務が終わった後にでも、彼女達から聞きそうだ。フェリーテは『覚』があるので論外。
「……そうだな。時間はあるし、まずはこの船を指揮する男についてでも話そうか」
エイン・ランド。『死双銃』と呼ばれた天才銃士。まだアルドが魔王で無かったころ、そして前魔王を斃していなかったとき、即ち数十年以上前の話だ。自分の努力が報われ、同僚からも信頼されるようになってきた時……その時の任務こそが、アルドとエインを引き合わせ、十六にも渡る接触を運命づけた日。
思い出したくも無い過去。振り返りたくない過去。もう執着しない過去。それでも、懐かしむ事ならばある。
「十年以上前の話だよ。つまらない話だとは思うが、到着までは話させてもらう―――」
その名は死鎌『落葉』。この世の地獄より生まれし劫火の亡骸。聖なる焔を解き放ちしこの鎌からは、かつての地獄の権能は失われている。
故にこそ、この鎌は恐ろしい。焔無きこの鎌に宿るのは、慈悲亡き鉄槌。
即ち、滅び。
この鎌は滅びの概念そのもの。接触した万象を滅ぼす能力。それがこの鎌の特性だ。ある程度は融通も利くため、接触した空間を片っ端から滅ぼしていくなんて事は無いが、だとしてもこの鎌の特性の絶対性は上位に位置する為、強力も強力。ちなみに、船に投げ込んだのは、船を周りから消し去る為である。この海賊団は―――というより、全ての海賊団は船の型が同一である。やはり団結性というのを表したいのだろうが、今回はそれが裏目に出てしまっている。
この鎌の特性を行使して、一隻の船を消滅させたとしよう。すると……滅びの概念を持つこの鎌の能力で、『ある型の船を滅した』という結果が出来上がる為、その同一の型である船船も、軒並み消滅するという現象が起きるのである。その絶対性は実に覆しがたく、アルドを完全に殺しうる手段その一でもある。ただし死剣や王剣には通じない。あの二振りは少し事情と出生と、絶対性が違う。あの二振りの絶対性はあの鎌以上である……という事は、出生を知れば誰が見てもそう思う事だ。これ以上は余裕が無いのでやめておくが、またいずれ、語るとしよう。
アルド達が外に出た時、既に船は一隻残らず消えていた。鎌の特性が発動したのだろう。今頃は、大聖堂の棺に戻っている筈だ。大聖堂はかなり遠いので、後回しなのは言うまでもない。
アルドが最初に行った事は、フェリーテを介して、即戦力になり得ていた魔人を呼び戻す事だ、実力不足が如何ともし難いらしい……とは言え、貴重な戦力である事に変わりはない。これにはトゥイーニーも含まれているが、要は使い方で、こちらの裁量によっては化ける事もありえる。エヌメラの事だから、どうせ警戒しているのはナイツと自分だけの筈だ。エインに関しても、警戒するは自分だけの筈。この最悪の戦いにおいて、アルド達にとっては、そこが勝負の分かれ目である。
そうは言っても分かれ目というのは飽くまで防衛戦ないしはエイン戦であって、エヌメラに関しては勝機も何も無い。自分の執念が勝つか、相手の強さが勝つか。それだけである。
正直、エヌメラが生きているのではアルドは地上最強では無い。勝った、とはいえ、それは執念によるもの。もっと言えば、勝ちだけにこだわった故の勝利。違う。違うのだ。そんな汚い戦い方は英雄アルドが許さない。だからあれは、厳密には勝利では無い。だからといって、今度は正々堂々と―――という訳にも行かない。そんな事をすれば、負ける。
当面の目標は取り敢えずエインを斃す事だ。そして願わくば―――エヌメラにはそのまま撤退してほしい。フィージェントとの戦いは、安全考慮無しでまだ大陸が蒸発するくらいだからいい。だが、奴と安全考慮なしで戦った場合は……大陸処の話では無い。生命、大海。それらに危機的な状況が起こる事は、戦わずとも分かる。戦いが終わった頃には終焉の地が無限に広がっていた……なんて事にはなりたくない。故に……来ないでほしい。
では考慮をすればいいのかと言ってもそうはいかない。まずあちらが乗ってこない。何よりそんな余裕が無い。フェリーテならばできなくはないが、その時こそ覚悟の決め時だろうか。
そろそろ魔人達が集まってくる筈だ。猶予はある。新たな船の再出動(再生、蘇生は不可能になるのもファーカの鎌の特性の一つ)には時間が掛かる筈だ。その間に、布石を何個も敷く。そうする事で初めて、上陸だけには対処する事が出来る―――!
「アルド様ッ。たった今ご帰還しました! 俺です!」
「誰だ」
リスド大帝国の大門より聞こえてきた声。誰かと問われれば、こう言うしかあるまい。アルドが信頼する第二の美女。魅力が無いなんて時々自虐をしては酷く落ち込む姿は愛らしさすら感じるが……転じて戦闘では、かつてのディナントを思い出す狂暴ぶり。
「―――いや、分かっているよ、トゥイーニー」
給仕服と鎧を合わせたような服。カッコいいとも思えるが、女性である彼女からすれば気持ちの良いモノではないだろう。だが―――アルドから言わせれば、彼女にこそ合う服装だ。求められなくとも言わせてもらう。十分に美しいと。
トゥイーニーを先頭に、他の魔人達が隊を成してこちらに歩み寄るのを見据え、アルドは一人笑う。まだまだ至らないとはいえ、魔人達全員の顔は、とても輝いていた。
「では、お前達に今から指示を出す」
船が再出動するまでにやる事は二つ。とにかく上陸をさせないようにする事と、エインの居場所を見つける事だ。特に前者。最悪エインが見つけられなくとも、上陸だけは許す訳には行かない。
魔人達への指示は、特段難しい事では無い、武器を捨て、遠眼鏡を持て。それだけだ。理由も特に珍しい訳では無く、魔人達では相手が悪いというのを考慮した結果。この海賊船は……ナイツが相手をしなくてはいけない。一人一人にそう強さは無い。だが、それでも物量は半端なモノでは無い。今の魔人には無理だ。
北に二十人。東に二十人。西に二十人。南に三十五人。五人は転信石で連絡を受信する係だ。リスド大陸は、南に大きく伸びる形なので、目が届きにくい。そういう訳での配置だが、果たして再出動はいつになるやら。エヌメラが出てきた場合は……陣形も何もあったものではない。自分が全力で相手をするだけだ。そんな事は絶対にありえないのが、唯一の救いか。
「アルド様、南より、船の存在が確認されたそうですッ」
「そうか。ヴァジュラ、北に行くぞ」
「えっ? い、いや、アルド様。ですから南より……」
戸惑う魔人に、アルドはような鋭く、冷たい視線を向けた。それはさながら氷の刃のよう。
「同じ手は何度も喰らった。情報の錯乱こそがあいつの本領だ。南と言えば北、東なら西だ。ほらヴァジュラ、行くぞ」
「……ん」
「いえ! ですが……私は現地の彼等が裏切っているとは」
粘るのは結構だが、アルドの意思は変わらない。ヴァジュラの手を引きながら、男の肩を通り過ぎて城を出てゆく。
「別に裏切っているとは思わん。只裏切りであるかのように誤認させて、内部分裂を起こさせるのが奴の常套手段だ。ならば他人伝いの情報に信用性は皆無。当然の帰結だろう」
南は『ヴァジュラを使って、調べ上げた』。当然と言えば当然か、やはり偽の情報だった。この手を使う辺りは、自分の事もきっと覚えているだろう。というか、この罠は飽くまで腕試し程度。アルドは過去にこの罠を何度も喰らっている。そんなアルドにわざわざこんな罠を向ける事から、そうとしか考えられない。
つまりは本物こそ北に存在する。
「ヴァジュラ、背中に乗るぞ」
「え、分かりました。それでは―――」
ヴァジュラは『地中から腕を引き抜いた』後、アルドの眼前まで歩き、四足の体勢へと移行。彼女は人狼では無い為、完全な狼への切り替えは不可能。よって、四足の女性の背中に、男性が乗るという、何とも言えない光景が出来てしまう訳だが……両者に気にする様子はなかった。
「では、行きましょう」
四足になる代わりに、何処か自信なさげな口調が消えるのも特徴だ。理由は分からない。戦闘能力も、実は人状態と比較すれば、二倍に引きあがっている。心持の問題だろうか。
勘違いしてほしくないが、これは飢狼化ではない。飢狼の彼女は……そう……もっと……死臭がして、皮膚がただれて、目が飛び出て、色々悲惨だ。狼状態だったらまだ良かったが、この現象は人の面影がある彼女に現れる。動かなければ死人にしか見えないその状態。生きているとは思えないその体。理性を失っているため自制も効かない。人狼と比べると狼部分は明らかに大きな差はあるが、それでも人狼の狼部分よりかは数倍強力である。言うまでも無く、取り扱いは難しい。
アルドがヴァジュラの背中へ乗ると同時に、ヴァジュラは北方へと走り出す。速度は優に亜音速。三十分もすればたどり着けるだろうか。
「アルド様」
「何だ」
「僕に乗るより、アルド様が走った方が早いと思うのですが、どうして僕の背中に?」
アルドを知るからこその、至極当然の疑問。理解してもらえるかどうかは不安だが、説明はしなければいけないか。
「ああ、その事か。確かに、私が走った方が、お前より早いかもしれない。だが、お前の走行は無音な上に何故か無臭だ。そして私にはその利が無い。敵が敵でな。私の位置を知られると、出現場所を変えてくる恐れがある。だからお前を頼りにしているんだよ」
ヴァジュラの心拍が一瞬上がったような気がするが、気のせいかもしれない。
三分ほど経って、ヴァジュラが再び口を開いた。
「アルド様、失礼を承知でお聞きしますが、何故にアルド様が出張るのですか? 兵を下がらせ、王自らご出陣なさるなど……」
そう言えば、ナイツにはエインの存在、及び自分との関係を話していなかった。エヌメラに関しても、知ってはいるが、詳細は……という感じだろう。侍女二人は良く知っているので、チロチン辺りは任務が終わった後にでも、彼女達から聞きそうだ。フェリーテは『覚』があるので論外。
「……そうだな。時間はあるし、まずはこの船を指揮する男についてでも話そうか」
エイン・ランド。『死双銃』と呼ばれた天才銃士。まだアルドが魔王で無かったころ、そして前魔王を斃していなかったとき、即ち数十年以上前の話だ。自分の努力が報われ、同僚からも信頼されるようになってきた時……その時の任務こそが、アルドとエインを引き合わせ、十六にも渡る接触を運命づけた日。
思い出したくも無い過去。振り返りたくない過去。もう執着しない過去。それでも、懐かしむ事ならばある。
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