ワルフラーン ~廃れし神話
再会 2
世界が認めぬ特異体質を持つ男。彼の名はフライダル・フィージェント。革命主導者であり、また―――かつて地上最強と呼ばれた男、アルド・クウィンツの弟子だった男だ。国が勢力を上げてやっと捕らえた初めての特異体質者であり、皆、彼の体を解剖しようと画策していた。しかし、特異体質の性質が性質であり(もっともその詳細に気づいたのは自分一人だが)彼はいとも容易く脱獄。脱獄者ゼロ人の監獄国に、その名を刻んだ男。
まさかあの少女と面識があるとは思わなかったが、しかし、逆に好都合だ。あの少女を捕らえれば、フィージェントの事も分かる筈―――
そんな事より、クリヌスには気になる事があった。それは、フィージェントに、『彼女達に協力しろ』と依頼をした人物の事だった。
あの少女の知名度は皆無。それは分かり切っているが、だからこそ繋がりが歪なのだ。犯罪者として世界的に知名度を誇るフィージェントと、良く分からない少女一人。繋がりなど本来は在ってはならないのだ。
少女とフィージェントをつなげる者、そして何故か出てきた先生。つまりはクウィンツ。関係性は……無いような気もする。
先生、つまりクウィンツに会っていないのなら、わざわざあんな事を言うだろうか。一度も会っていないならば、弟子になっていたのはかなり前であり、ここで出すのは不自然なのだが……フィージェントの発言はいつも唐突。今更の事である。
だが、無関係ではなさそうだ。
頭の中でそう結論付けた後、クリヌスは再びそれを見、フィリアスの正体がフィージェントである事を確信していた。
サヤカが全ての殺気を乗せた剣をフィリアスへと放った瞬間、フィリアスの手から大斧が消えた。次の瞬間フィリアスの手に、皮手袋が出現した。瞬間疑問に思うサヤカだが、一度動き出したが故に止まる事はない。サヤカは渾身の一撃を放った。
「ハアアアアッ!」
サヤカが振るったその一撃に、フィリアスはまるで腫物にでも触るように優しく、その刃を撫で―――
今しかないか。
その刹那、間に飛び込んだクリヌスの右半身を、『サヤカの大剣』が切り裂いた。いつかの時のように篭手が破砕し、素肌がむき出しになる。
無属性魔術終位。
「昏命ッ」
詠唱完了後、クリヌスの右手から虚無空間が射出。目標は―――フィージェント。
こちらに肉迫する虚無に対し、フィージェントは特に詠唱もなくその一言を呟いた。
「嶽鳴陣」
即席とは言い難いほどの魔力を備えた結界が、虚無と衝突。結界魔術は虚無のような無属性に弱いので、この手は悪手と言わざるを得ない…………それが普通の結界だったのなら。
衝突からまずか数秒。結界と共に虚無は消滅した。いともたやすくやってのけたその芸当の凄さを、この場に居る全員が理解していた。
「あ……フィリアスさん、今のは一体……」
フィリアスはキリーヤの頭をポンポンと叩いたが、それでも警戒を解いているようには見えなかった。
「トナティウ……あの結界は」
「嶽命陣。一回限りの強力な結界。あらゆる魔術を相殺という形で防ぐ結界ですよ。本来は七十八の詠唱句と特別な魔方陣が必要なんですが……彼だからこその芸当という奴ですよ」
ほぼ全ての魔術を行使出来るクリヌスも、あの結界魔術には舌を巻かざるを得ない。一体何をどうしたらあんなに早く構築が行えるのか。あれこそが天賦の才が引き起こす力とでもいうのか。
「フィージェントッ。貴方は仲間まで騙して何がしたいのですか?」
「騙す? 先生だってしょっちゅう名前変えてただろ。それに俺は頼まれてるだけだし、目的は特にないよ」
また先生。やはり無関係に出てるとは思えない。もう少し、探るべきだろうか。
「サヤカ。貴方には勇者の抑止という重大な使命が在る筈ですよ。奴はフィージェントといって、貴方じゃ足元にも及びません。貴方が死ねば、そこの勇者様も死んでしまうのだから、無茶はよしてください」
「そ、それは分かってるけど……ねえ、何であの時入ってきたの?」
「あの手袋は魔手『盗布』。触れた物体の引き起こす事象の権利を入れ替える特性を持っています。つまり貴方が剣を振って、フィージェントを斬るという事象の流れが、権利を入れ替える事で、フィージェントが剣を振って、貴方を斬るという事象へと変わってしまうんですよ」
クリヌスは砕けた篭手部分をサヤカへと見せつけた後、再びフィージェントへ向き直る。
ここでは分が悪い。フィージェントが逃がしてくれるわけも無いが……仕切り直しはするべきだ。
さて、ここは一つ機を窺おう。
「……ごめん、エリ。そっちが誰と戦ってるか知らないけど、こっちも交戦中なの。―――クリヌスさんと」
エリからの通信に答えた後、五人を……と言っても、実質は二人だが、それでも一人で守ってくれているフィリアス。
キリーヤには不思議で仕方なかった。
「フィリアスさん。一体どうしてそこまで……」
「話を聞いてもらいたいんだろ。俺が受けた依頼は、お前達を守れではなく、協力しろだからな。どこかおかしい所、あったか?」
おかしい所はない。協力しろという事はつまり、キリーヤの望みを叶えるように動けという事だ。可笑しい所はなにも無い。だが……
「クリヌスさんを引き留める事なんて出来るんですか?」
「もう直ぐ整う。待っててくれ」
その意味が理解できなかったので、キリーヤは急いで懐から簪を取り出して……よし。完了だ。
簪を挿していない時の接触が反映されるかは不安だが、今はこうする他無い。体中に魔力を流し、簪の能力を発動。フィリアスの力が……反映されている! 成功だ。
その状態で改めてフィリアスを見た時、その意味が分かってしまった。フィリアスの体内からあふれ出る魔力とは違う、また別の力。初めて見た訳では無い。この魔力のような何かは……フェリーテと同じだ。
クリヌス達の表情を見るに、あの二人はこの魔力に気が付いていない。という事は……まさか、フィリアスは、フェリーテの国―――ジバルというらしいが、そこに行ったと言うのか。いや、しかし、ジバルに行った事があるモノはアルドと『皇』のみ。しかも、アルドは『皇』の案内があって、初めてジバルに行ったらしいので、実質は『皇』のみが自力で発見したという事になる……つまり先生とは。
「フィリアスさん……まさかあなたは」
「数年前、消息不明だった先生の手掛かりを得た。だとするなら、簡単だ。手掛かりさえ見つければ、俺の体質を使えば追う事なんてたやすい。そしてそこで辿り着いたのが……ジバルだった」
フィリアスは、そこで初めて後ろを向いた。
「会話に混じれてないそこのアンタ」
「お、俺の事か?」
パランナは先程までの戦いに呑まれていたからか、ずっと会話に入れていなかった。それも当然だ。村で一度だけ刃を交えたフィリアスが助けに来て、クリヌス達と互角に渡り合って、キリーヤと何やら訳の分からぬ会話をしている。戦力としても、もはやフィリアス一人で事足りているので、外れている。
パランナには後で謝っておくべきだろうか。
フィリアスは懐から地図を出し、パランナへと渡した。
「これは?」
地図には×印が示されており、そこはここから東の方向だった。
「そっちで女騎士が交戦している。アンタが向かわなきゃ、実質二人は死ぬぞ」
「ここじゃ足手まといってか」
「そうだ」
フィリアスがここまで真っ直ぐだと、キリーヤも擁護は出来そうにない。そもそも、幾ら五人の内、三人が機能していないとはいえ、クリヌスと渡り合えていると言うのがおかしな話なのだ。普通ならばパランナのように、足手まといとなるのが普通。フィリアスが異常なのだ。
「……なあ、アンタ」
「何だ」
「キリーヤを死なせたら承知しないぞ」
パランナは禍々しい殺気をフィリアスにぶつけた後、全力で東へと走っていった。確かにこれはエリ達への援護も目的の一つだろうが、それ以上に、知るモノ同士の会話を円滑に進めるためでもあった。
フィリアスは再び、前を向いた。
「フィリアスさん、一つだけいいですか?」
「答えられる限りなら」
「貴方は……アルド様の弟子ですか?」
フィリアスの手に魔力のような力が溜まっていく。もう直ぐ発動なのだろう。それはいい。問題はその後にクリヌスを説得できるかどうかである。その時はクリヌスのみに意識を向けるべきであり、他の何かしらに意識は向けるべきでは無い。
だからこそ、発動するその前に聞いておきたかった。
「我の名はフライダル・フィージェント。最強たる力をその身に宿した男の下で修業を積んだ者なり。顕現せよ、我が力! 引きずりおろせ、神の権能!」
フィリアスことフィージェントは合掌。内部で凝集された魔力が、手を離した直後―――
「嶽鳴奏雷歌成神封天。権能胎動。世界を内包せよ!」
景色が塗り替わり、空間の暖かさが失われていく。次にキリーヤが見た風景は世界全てが頽廃した、終末の風景だった。
「この世界では会話以外の行為は一切禁じられている。俺の魔力が続く限り展開させるから、早い所、クリヌスと話してこい」
その言葉を信じ、キリーヤは前に出た。結界の特性にいち早く気付いたクリヌスも、前に出た。
「どうしてこんなに戦っていながら、人が誰も来ないか分かりますか?」
「フィリアスさんが結界を張っているからではないんですか?」
「惜しいですね。確かに結界は張っていましたが……普通の人間はたとえ結界を張れたとしても数人が掛かりで行うんです。そして数人で発動する結界も、飽くまで只の防護用。特殊効果を付与する程余る魔力などありはしない。分かりますか、その異常さ。私達が対峙した時、既に彼は防護用の結界を張って、人が介入するのを防いでいる上、ここでは大結界まで張っている。二重に結界を張るなんて私でも出来ませんよ。そんな彼の協力があるならば……私の協力など不要では?」
「地上最強じゃなくとも、貴方の協力は絶対に必要なんです。ある人を助ける為にも、絶対に必要なんですッ」
クリヌスはその言葉に僅かに驚いていた。自分を地上最強と呼ぶ人間は少なくない。だが、最初から自分を地上最強でないと言ってから入る者など、初めてだと。そして気づいた。先程の動揺は……こういう事だったのか。
「知っているのですか、あの人を」
「はい。知っています。そしてその御蔭で、フィリアスさんが協力してくれるんです。ですが……お願いします、クリヌス・トナティウさん。この場所だけでもいいんです、協力……してもらえませんか―――もしッ、協力してくれるのであれば。そして、この情報を絶対に人に漏洩しないと約束してくれるのであれば……」
こんな事を教えてもいいものだろうか。それはまるでアルドを裏切るようだが……それでも……リゼルを助ける為には……
長い逡巡の後、キリーヤが続けて言った。
「引き換えに、現在のアルド様の事、私が知る限りでよければお教えしますから」
「…………………………詳細な説明を求めます」
「え」
「その人を助けたいのでしょう? 人助けをするのならば結構。私も喜んで協力しましょう。さあ、詳細な説明を」
クリヌスは仕方ないとばかりに、しかしそこに悪意のような感情は混じっておらず、純粋に助けたいと言うような思いが見えた。
「……ハイッ!」
キリーヤのような願いを馬鹿にする人は多い。しかしながらそれ以上に、その願いを追い続ける彼女を評価する人も多い。クリヌスは勿論彼女の事をまだ何も知らない。だが、元魔人でありながら、人間を助けたいという、悪意の視えぬ純粋な言葉だけは評価せざるを得なかった。人間絶対至上主義のクリヌスだったとしても、その環境と、その奥に見える願い。クリヌスは本能で理解した。
ああ……この少女なら、きっとあの人も……
まさかあの少女と面識があるとは思わなかったが、しかし、逆に好都合だ。あの少女を捕らえれば、フィージェントの事も分かる筈―――
そんな事より、クリヌスには気になる事があった。それは、フィージェントに、『彼女達に協力しろ』と依頼をした人物の事だった。
あの少女の知名度は皆無。それは分かり切っているが、だからこそ繋がりが歪なのだ。犯罪者として世界的に知名度を誇るフィージェントと、良く分からない少女一人。繋がりなど本来は在ってはならないのだ。
少女とフィージェントをつなげる者、そして何故か出てきた先生。つまりはクウィンツ。関係性は……無いような気もする。
先生、つまりクウィンツに会っていないのなら、わざわざあんな事を言うだろうか。一度も会っていないならば、弟子になっていたのはかなり前であり、ここで出すのは不自然なのだが……フィージェントの発言はいつも唐突。今更の事である。
だが、無関係ではなさそうだ。
頭の中でそう結論付けた後、クリヌスは再びそれを見、フィリアスの正体がフィージェントである事を確信していた。
サヤカが全ての殺気を乗せた剣をフィリアスへと放った瞬間、フィリアスの手から大斧が消えた。次の瞬間フィリアスの手に、皮手袋が出現した。瞬間疑問に思うサヤカだが、一度動き出したが故に止まる事はない。サヤカは渾身の一撃を放った。
「ハアアアアッ!」
サヤカが振るったその一撃に、フィリアスはまるで腫物にでも触るように優しく、その刃を撫で―――
今しかないか。
その刹那、間に飛び込んだクリヌスの右半身を、『サヤカの大剣』が切り裂いた。いつかの時のように篭手が破砕し、素肌がむき出しになる。
無属性魔術終位。
「昏命ッ」
詠唱完了後、クリヌスの右手から虚無空間が射出。目標は―――フィージェント。
こちらに肉迫する虚無に対し、フィージェントは特に詠唱もなくその一言を呟いた。
「嶽鳴陣」
即席とは言い難いほどの魔力を備えた結界が、虚無と衝突。結界魔術は虚無のような無属性に弱いので、この手は悪手と言わざるを得ない…………それが普通の結界だったのなら。
衝突からまずか数秒。結界と共に虚無は消滅した。いともたやすくやってのけたその芸当の凄さを、この場に居る全員が理解していた。
「あ……フィリアスさん、今のは一体……」
フィリアスはキリーヤの頭をポンポンと叩いたが、それでも警戒を解いているようには見えなかった。
「トナティウ……あの結界は」
「嶽命陣。一回限りの強力な結界。あらゆる魔術を相殺という形で防ぐ結界ですよ。本来は七十八の詠唱句と特別な魔方陣が必要なんですが……彼だからこその芸当という奴ですよ」
ほぼ全ての魔術を行使出来るクリヌスも、あの結界魔術には舌を巻かざるを得ない。一体何をどうしたらあんなに早く構築が行えるのか。あれこそが天賦の才が引き起こす力とでもいうのか。
「フィージェントッ。貴方は仲間まで騙して何がしたいのですか?」
「騙す? 先生だってしょっちゅう名前変えてただろ。それに俺は頼まれてるだけだし、目的は特にないよ」
また先生。やはり無関係に出てるとは思えない。もう少し、探るべきだろうか。
「サヤカ。貴方には勇者の抑止という重大な使命が在る筈ですよ。奴はフィージェントといって、貴方じゃ足元にも及びません。貴方が死ねば、そこの勇者様も死んでしまうのだから、無茶はよしてください」
「そ、それは分かってるけど……ねえ、何であの時入ってきたの?」
「あの手袋は魔手『盗布』。触れた物体の引き起こす事象の権利を入れ替える特性を持っています。つまり貴方が剣を振って、フィージェントを斬るという事象の流れが、権利を入れ替える事で、フィージェントが剣を振って、貴方を斬るという事象へと変わってしまうんですよ」
クリヌスは砕けた篭手部分をサヤカへと見せつけた後、再びフィージェントへ向き直る。
ここでは分が悪い。フィージェントが逃がしてくれるわけも無いが……仕切り直しはするべきだ。
さて、ここは一つ機を窺おう。
「……ごめん、エリ。そっちが誰と戦ってるか知らないけど、こっちも交戦中なの。―――クリヌスさんと」
エリからの通信に答えた後、五人を……と言っても、実質は二人だが、それでも一人で守ってくれているフィリアス。
キリーヤには不思議で仕方なかった。
「フィリアスさん。一体どうしてそこまで……」
「話を聞いてもらいたいんだろ。俺が受けた依頼は、お前達を守れではなく、協力しろだからな。どこかおかしい所、あったか?」
おかしい所はない。協力しろという事はつまり、キリーヤの望みを叶えるように動けという事だ。可笑しい所はなにも無い。だが……
「クリヌスさんを引き留める事なんて出来るんですか?」
「もう直ぐ整う。待っててくれ」
その意味が理解できなかったので、キリーヤは急いで懐から簪を取り出して……よし。完了だ。
簪を挿していない時の接触が反映されるかは不安だが、今はこうする他無い。体中に魔力を流し、簪の能力を発動。フィリアスの力が……反映されている! 成功だ。
その状態で改めてフィリアスを見た時、その意味が分かってしまった。フィリアスの体内からあふれ出る魔力とは違う、また別の力。初めて見た訳では無い。この魔力のような何かは……フェリーテと同じだ。
クリヌス達の表情を見るに、あの二人はこの魔力に気が付いていない。という事は……まさか、フィリアスは、フェリーテの国―――ジバルというらしいが、そこに行ったと言うのか。いや、しかし、ジバルに行った事があるモノはアルドと『皇』のみ。しかも、アルドは『皇』の案内があって、初めてジバルに行ったらしいので、実質は『皇』のみが自力で発見したという事になる……つまり先生とは。
「フィリアスさん……まさかあなたは」
「数年前、消息不明だった先生の手掛かりを得た。だとするなら、簡単だ。手掛かりさえ見つければ、俺の体質を使えば追う事なんてたやすい。そしてそこで辿り着いたのが……ジバルだった」
フィリアスは、そこで初めて後ろを向いた。
「会話に混じれてないそこのアンタ」
「お、俺の事か?」
パランナは先程までの戦いに呑まれていたからか、ずっと会話に入れていなかった。それも当然だ。村で一度だけ刃を交えたフィリアスが助けに来て、クリヌス達と互角に渡り合って、キリーヤと何やら訳の分からぬ会話をしている。戦力としても、もはやフィリアス一人で事足りているので、外れている。
パランナには後で謝っておくべきだろうか。
フィリアスは懐から地図を出し、パランナへと渡した。
「これは?」
地図には×印が示されており、そこはここから東の方向だった。
「そっちで女騎士が交戦している。アンタが向かわなきゃ、実質二人は死ぬぞ」
「ここじゃ足手まといってか」
「そうだ」
フィリアスがここまで真っ直ぐだと、キリーヤも擁護は出来そうにない。そもそも、幾ら五人の内、三人が機能していないとはいえ、クリヌスと渡り合えていると言うのがおかしな話なのだ。普通ならばパランナのように、足手まといとなるのが普通。フィリアスが異常なのだ。
「……なあ、アンタ」
「何だ」
「キリーヤを死なせたら承知しないぞ」
パランナは禍々しい殺気をフィリアスにぶつけた後、全力で東へと走っていった。確かにこれはエリ達への援護も目的の一つだろうが、それ以上に、知るモノ同士の会話を円滑に進めるためでもあった。
フィリアスは再び、前を向いた。
「フィリアスさん、一つだけいいですか?」
「答えられる限りなら」
「貴方は……アルド様の弟子ですか?」
フィリアスの手に魔力のような力が溜まっていく。もう直ぐ発動なのだろう。それはいい。問題はその後にクリヌスを説得できるかどうかである。その時はクリヌスのみに意識を向けるべきであり、他の何かしらに意識は向けるべきでは無い。
だからこそ、発動するその前に聞いておきたかった。
「我の名はフライダル・フィージェント。最強たる力をその身に宿した男の下で修業を積んだ者なり。顕現せよ、我が力! 引きずりおろせ、神の権能!」
フィリアスことフィージェントは合掌。内部で凝集された魔力が、手を離した直後―――
「嶽鳴奏雷歌成神封天。権能胎動。世界を内包せよ!」
景色が塗り替わり、空間の暖かさが失われていく。次にキリーヤが見た風景は世界全てが頽廃した、終末の風景だった。
「この世界では会話以外の行為は一切禁じられている。俺の魔力が続く限り展開させるから、早い所、クリヌスと話してこい」
その言葉を信じ、キリーヤは前に出た。結界の特性にいち早く気付いたクリヌスも、前に出た。
「どうしてこんなに戦っていながら、人が誰も来ないか分かりますか?」
「フィリアスさんが結界を張っているからではないんですか?」
「惜しいですね。確かに結界は張っていましたが……普通の人間はたとえ結界を張れたとしても数人が掛かりで行うんです。そして数人で発動する結界も、飽くまで只の防護用。特殊効果を付与する程余る魔力などありはしない。分かりますか、その異常さ。私達が対峙した時、既に彼は防護用の結界を張って、人が介入するのを防いでいる上、ここでは大結界まで張っている。二重に結界を張るなんて私でも出来ませんよ。そんな彼の協力があるならば……私の協力など不要では?」
「地上最強じゃなくとも、貴方の協力は絶対に必要なんです。ある人を助ける為にも、絶対に必要なんですッ」
クリヌスはその言葉に僅かに驚いていた。自分を地上最強と呼ぶ人間は少なくない。だが、最初から自分を地上最強でないと言ってから入る者など、初めてだと。そして気づいた。先程の動揺は……こういう事だったのか。
「知っているのですか、あの人を」
「はい。知っています。そしてその御蔭で、フィリアスさんが協力してくれるんです。ですが……お願いします、クリヌス・トナティウさん。この場所だけでもいいんです、協力……してもらえませんか―――もしッ、協力してくれるのであれば。そして、この情報を絶対に人に漏洩しないと約束してくれるのであれば……」
こんな事を教えてもいいものだろうか。それはまるでアルドを裏切るようだが……それでも……リゼルを助ける為には……
長い逡巡の後、キリーヤが続けて言った。
「引き換えに、現在のアルド様の事、私が知る限りでよければお教えしますから」
「…………………………詳細な説明を求めます」
「え」
「その人を助けたいのでしょう? 人助けをするのならば結構。私も喜んで協力しましょう。さあ、詳細な説明を」
クリヌスは仕方ないとばかりに、しかしそこに悪意のような感情は混じっておらず、純粋に助けたいと言うような思いが見えた。
「……ハイッ!」
キリーヤのような願いを馬鹿にする人は多い。しかしながらそれ以上に、その願いを追い続ける彼女を評価する人も多い。クリヌスは勿論彼女の事をまだ何も知らない。だが、元魔人でありながら、人間を助けたいという、悪意の視えぬ純粋な言葉だけは評価せざるを得なかった。人間絶対至上主義のクリヌスだったとしても、その環境と、その奥に見える願い。クリヌスは本能で理解した。
ああ……この少女なら、きっとあの人も……
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