ワルフラーン ~廃れし神話

氷雨ユータ

英雄編  正義の真贋

 レギ大陸に来たはいいが、どこへ行くかは、それこそ旅人次第。旅人はむしろ、その手探り感を楽しむのだ、とは言うが、実際にそんな状況になった時、楽しめる人間が果たしてどれくらい居るだろうか。
 少なくともキリーヤは、そんな状況を楽しめるような人間では無かった。謡と別れ、エリと共に道沿いに歩いてはいるが、どうも自分が何処にいけばいいのか、それがはっきりしていないと、不安で仕方が無くなるのが自分らしい。
 とはいっても、自分には取り敢えずエリが付いてくれている。胸を張って進むとしよう。
「キリーヤ……ちゃん」
「はい?」
「共存なんて……本気で考えてるんですか?」
 そのエリの声の鋭さと言ったら、さながら馬鹿げた理想を掲げている子供を諭すよう。だが、きっとそんな意味なのだろう。共存等無理であると、エリは親切にも忠告してくれている。本来敵であるはずの自分に、現実を教えてくれているのだ。
 そしてそれは間違っていない。共存が可能なのであるならばそもそも闘争は起きない。小競り合いはあるかもしれないが、それでもいずれは決着する。この魔人と人間の乖離とも称すべき溝は―――即ち、共存は不可能だという事を教えてくれているのではないか。
 しかしそれがどうしたというのだ。現実がそうだからとか、キリーヤが子供であるとか、そんなモノは関係ない。大事なのは、それを成し得ようとする心、そして自分を信じる心だ。理想は理想、夢は夢。なんと言ってもらおうと構わない。理想のない現実などないのだ。自分は理想を抱いたまま、たとえその先が茨の道だとしても、突き進む。絶対に。
 ……なんて、現在戦闘能力の皆無なキリーヤでは到底なしえないのは事実。故にキリーヤが考えた案は二つである。
 エリに戦い方を教えてもらう。
 戦い以外で自分の理想を受け入れてもらう。
 前者はともかくとして、後者は殆ど自殺行為のようなものだ。おそらくこの世界で共存を考えているモノは十人もいない。そんな世界で自分の―――言いたくはないが馬鹿げた理想を力以外で証明し、理解させる方法は……皆無。
 理想に生きるキリーヤでも、夢想を追及したりはしない。彼女が取った行動は―――
「エリさん、私が本気で考えているとして、その……協力はしてくれないんですよね?」
「はい」
「でも、共存じゃなくて、私に訓練をしてくれるっていうのはどうですか?」
「貴方の目的に協力ではなく、貴方を強くする事に協力しろと?」
 エリの表情はとても難しそうだった。先程から微妙な言い回しでエリの協力を取り付けているため、本人としては複雑な気持ちだろう。おそらく自他共にお人よしには気づいている為、それは尚更。
 エリは口を固く引き締めたまま押し黙っている。
「勿論、エリさんの考えが変わらないなら、この件も仲間が出来るまででもいいですが……」
「まるで私の考え方が変わるみたいな言い方ですね」
 言葉の裏に敏感になっている様子のエリ。リスドにいた頃とはうって変わって、とても不機嫌である。
 しかしこの程度で怯んではいけない。この程度で怯んでいては、エリをこちらに招く事などできやしないのだ。
「エリさんなら私の考えを理解してくれると信じていますから」
「……偽善者の考えは理解に苦しみます」
「偽善かどうか、その眼で見てみるといいですよ」
 ここまで仲が険悪な仲間がかつてあっただろうか。現実に歯向かい、理想に溺れているキリーヤと、現実に跪いたエリ。相容れないのは当然だが。
 これはやがて戦乱に舞う英雄グリーズレイヴと呼ばれる少女の物語。その馬鹿げた正義はやがて人を動かし世界を変える。その栄光は神話として語り継がれ、そして人々に刻まれる。彼女の物語は不動となり、廃れる事など決して無いだろう。







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