ワルフラーン ~廃れし神話
夜明けとともに その2
「あ、アルド様?」
「トゥイーニー。まさかとは思うが、私の侍女ともあろう者が、泣いている何て事は―――」
疾風を上回る勢いでトゥイーニーが立ち上がり、姿勢を正した。
「いえ、ありません。俺は泣いてなどいません……っすん」
どう考えても強がっているだけの彼女に、隣でオールワークが静かに微笑んだ。こんな見え透いた光景、アルドが気づいていない訳ではあるまい。
しかし、以外にもその予想は裏切られた。
「アルド様、もう後遺症は……」
オールワークがそう尋ねると、アルドは少し躊躇ったように顔を背けた―――が、やがて掌で顔を覆い、そして離した。
二人は言葉を失う。
「後遺症はまだ直っていないとも。だが、部屋に籠っているだけというのも中々寂しくてな……瞼を縫い付けて、物理的に視界を封じた」
妖術によって作られた紫炎によって、目蓋を縫い付けられているアルド。見ていて痛々しいが、アルドは何でもないように喋っている。
二人の不快感を感じ取ったのか、直ぐに眼前を掌が通った。顔は依然と同様に、目は縫い付けられていなかった。
「仕方ないだろう。私はお前達の死体など見たくない。だからこうやって、余計な物を見る目を封じるしか、方法は無いんだ」
良く考えてみれば、瞬きの周期も不自然だ。フェリーテの妖術も、完全無欠、正確無比という訳では無い様だ。
「そういえば、フェリーテ達は連れてこなかったのですか?」
何故かアルドの動きが止まった。「アルド様?」
「フェリーテとメグナは―――気絶させた」
「は?」
二回も言葉を失うなど滅多にあるような事ではない。それはつまり、信じられないような出来事が続けて起こったという事なのだから。
お忘れか、二人は魔人であり、またカテドラル・ナイツをも凌ぐ戦闘能力も持っている―――所謂、修羅場を潜り抜けてきた者だ。
そんな二人が絶句する程、アルドはナイツに対して何かをしない。だからこそ、二人は絶句しているのだ。
アルドの事なので、性的接触なんかでは断じてないだろう。それだけは信じられる。
「私としても取りたくなかった行動だ。分かってくれ。彼女を連れだす方法がこれしかなかった―――」
城壁に向かって、アルドが手招きをすると、直後に空間が歪み、それは姿を現した。
明るい印象が見受けられ、美人というより可愛いという言葉が似合う女性。腰に刺さったダガーや剣はないにせよ、個人の証明をするには十分すぎる。
「オールワーク、これはどういうつもりだ? 私はワドフを連れてこいとは言ったが、ベッドの下に収納しておけとは言っていないぞ」
オールワークは少し驚いたが、待っていたとばかりに、言い訳もとい責任転嫁をしだした。
「その件につきましては、確かに私が与った件でございますが……トラブルが起きた故、彼女に任せました」
弾けるような邪悪な笑みを浮かべた後、オールワークは脇に避けた。残ったのは、不自然に量の多い汗を掻く侍女、トゥイーニーがいた。
大体の事情は察したが、だからと言って聞かない訳にも行かない。アルドはゆっくりと近づいた。
「話してくれるか、トゥイーニー」
「……モウシワケアリマセンデシタ、ト、オモッテオリマス、ユエ、ナニトゾ、ゴヨウシャ、ヲ」
「命乞いは理由を話してからにしろ。さあ、早く話せ」
「す―――す―――済みませんでしたッ!」
トゥイーニーは二人の脇をすり抜け、広場へと逃げていった。
「ふむ、あいつには後で処分を下す必要がありそうだな」
「ええ。業務を私にも押し付けましたし、酷い処分を下すべきです」
「酷い処分は冗談としても―――私としてはどうしてベッド下に収納したのかが気になる処だな。私の隣では駄目だったのか? 後はアイツの私室とか」
「―――考えてはいますが、どうも彼女の思考形態は私の遥か上を行くようですね」
皮肉るオールワークを見つめて、アルドは微笑んだ。その光景に、背後のワドフは複雑な表情を浮かべていた。
彼女が何を思っていたか。それは彼女のみぞ知る事であり、神、或いは魔王でも、その想いを知る事が出来るのは、かなり後の事になるだろう。
「トゥイーニー。まさかとは思うが、私の侍女ともあろう者が、泣いている何て事は―――」
疾風を上回る勢いでトゥイーニーが立ち上がり、姿勢を正した。
「いえ、ありません。俺は泣いてなどいません……っすん」
どう考えても強がっているだけの彼女に、隣でオールワークが静かに微笑んだ。こんな見え透いた光景、アルドが気づいていない訳ではあるまい。
しかし、以外にもその予想は裏切られた。
「アルド様、もう後遺症は……」
オールワークがそう尋ねると、アルドは少し躊躇ったように顔を背けた―――が、やがて掌で顔を覆い、そして離した。
二人は言葉を失う。
「後遺症はまだ直っていないとも。だが、部屋に籠っているだけというのも中々寂しくてな……瞼を縫い付けて、物理的に視界を封じた」
妖術によって作られた紫炎によって、目蓋を縫い付けられているアルド。見ていて痛々しいが、アルドは何でもないように喋っている。
二人の不快感を感じ取ったのか、直ぐに眼前を掌が通った。顔は依然と同様に、目は縫い付けられていなかった。
「仕方ないだろう。私はお前達の死体など見たくない。だからこうやって、余計な物を見る目を封じるしか、方法は無いんだ」
良く考えてみれば、瞬きの周期も不自然だ。フェリーテの妖術も、完全無欠、正確無比という訳では無い様だ。
「そういえば、フェリーテ達は連れてこなかったのですか?」
何故かアルドの動きが止まった。「アルド様?」
「フェリーテとメグナは―――気絶させた」
「は?」
二回も言葉を失うなど滅多にあるような事ではない。それはつまり、信じられないような出来事が続けて起こったという事なのだから。
お忘れか、二人は魔人であり、またカテドラル・ナイツをも凌ぐ戦闘能力も持っている―――所謂、修羅場を潜り抜けてきた者だ。
そんな二人が絶句する程、アルドはナイツに対して何かをしない。だからこそ、二人は絶句しているのだ。
アルドの事なので、性的接触なんかでは断じてないだろう。それだけは信じられる。
「私としても取りたくなかった行動だ。分かってくれ。彼女を連れだす方法がこれしかなかった―――」
城壁に向かって、アルドが手招きをすると、直後に空間が歪み、それは姿を現した。
明るい印象が見受けられ、美人というより可愛いという言葉が似合う女性。腰に刺さったダガーや剣はないにせよ、個人の証明をするには十分すぎる。
「オールワーク、これはどういうつもりだ? 私はワドフを連れてこいとは言ったが、ベッドの下に収納しておけとは言っていないぞ」
オールワークは少し驚いたが、待っていたとばかりに、言い訳もとい責任転嫁をしだした。
「その件につきましては、確かに私が与った件でございますが……トラブルが起きた故、彼女に任せました」
弾けるような邪悪な笑みを浮かべた後、オールワークは脇に避けた。残ったのは、不自然に量の多い汗を掻く侍女、トゥイーニーがいた。
大体の事情は察したが、だからと言って聞かない訳にも行かない。アルドはゆっくりと近づいた。
「話してくれるか、トゥイーニー」
「……モウシワケアリマセンデシタ、ト、オモッテオリマス、ユエ、ナニトゾ、ゴヨウシャ、ヲ」
「命乞いは理由を話してからにしろ。さあ、早く話せ」
「す―――す―――済みませんでしたッ!」
トゥイーニーは二人の脇をすり抜け、広場へと逃げていった。
「ふむ、あいつには後で処分を下す必要がありそうだな」
「ええ。業務を私にも押し付けましたし、酷い処分を下すべきです」
「酷い処分は冗談としても―――私としてはどうしてベッド下に収納したのかが気になる処だな。私の隣では駄目だったのか? 後はアイツの私室とか」
「―――考えてはいますが、どうも彼女の思考形態は私の遥か上を行くようですね」
皮肉るオールワークを見つめて、アルドは微笑んだ。その光景に、背後のワドフは複雑な表情を浮かべていた。
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