猫神様のおかげで俺と妹は、結婚できました!

プチパン

六話  登校初日で早くも炎上の予感!? 妹もクラスメイトも先生さえも!!

 俺はその言葉を脳内で何度か反復させようやく意味を理解し⋯⋯恐る恐る手の方へ視線をずらしていく。
 おいおいおいおいおい⋯⋯冗談じゃすまねぇぞ、何してんだよこれ⋯⋯。
 そこには繋がれた手が、しかもあろう事か俗に言う、恋人繋ぎをガッチリと。
 てかこ、これを冷奈に見られたって事⋯⋯? 
 途端に顔が青ざめ、鳥肌が立つのが分かる。


「いやいや、違うから! これはそういうのじゃなくて!」


 直ぐに手を振りほどき弁解を試みる。
 だが興奮状態のみんなには届かず、当の光が照れたような仕草をするものだから火に油状態で更にクラスのテンションが上がっていく。
 その中一人どす黒いオーラを漂わせてこちらに笑顔を見せている生徒一名⋯⋯まじでやばいよ⋯⋯。
 俺は見なかったフリをして先生に助けを求めるように視線を送る。
 先生は見たことが無いので多分今年からこの学校に来たのだろう。
 まだ若そうだから新任かな? 人柄も良さそうでいい先生かそうだ。
 その先生は俺の視線に気づいてかハッと肩を揺らすと手を叩いた。


「はーい、皆さんお静かにぃ。まだホームルーム中ですよぉ!」


 先生の緩やかな静止がかかり、盛り上がっていた皆は渋々ながらも話をやめ出す。
 やっぱり今年の先生は優しそうで、良かっ──。


「この後、そこでイチャイチャしてる二人には、後で遅れた理由聞かせてもらうからねぇ、もちろん二人の関係についてもぉ♡」


 その一言で静まりかけた皆のテンションが再び爆発、「ヒューヒュー」だの「おめでとう」だのが飛び交いだす。
 前言撤回、この先生、超めんどくさくてうざそうだわ。
 本当に今日の運勢最悪じゃないか? せっかく冷奈とほんの少しは打ち解けたかと思ってたのに⋯⋯。


「あぁもう⋯⋯先生俺の席はどこですか?」


 耐えかねて質問すると、先生は「えーっと」と何やら紙を眺めて数秒後、窓側の一番後ろの席を指した。
 すると途端に生徒が静まり返った。
 一番後ろの席か⋯⋯楽だし良かった⋯⋯ておいおい! 


「先生!? それ冷奈の後ろじゃないですか?!」


 いやいや何考えてんの先生、冗談にしては度が過ぎてるよ?!


「はい? そうですけどどうしましたぁ? 冷奈って⋯⋯あぁ榊 冷奈ちゃん? そう言えば兄妹がいるって聞いてたけど貴方達だったんですねぇ」


 あぁ分かった。この先生今年来たから俺らのこと分からないんだ⋯⋯先生それは身を滅ぼしかねませんよ。


「な、なぁ冷奈。お前からも先生に──」
「うるさいです、ゲイ夜。先生が決めたんですから文句言わずに席についてください。不愉快です」
「て、おい! 誰だよゲイ夜って! マジでひっでぇな!」


 俺があんまりな呼び方に思わず叫ぶが、ほかの生徒は揃って口をあんぐりと開き固まっていた。
 な、なんだなんだ?


「あ⋯⋯」


あ、あの冷奈が俺が後ろに座る事をしょしょ承諾した⋯⋯だと?!


「な、なんで皆さんそんな揃いも揃って口を開けているんですか?」


 当の本人は心底不思議そうにそんなことを呟く。
 いやいやそりゃ驚くだろ、お前の異常な程の兄嫌いは学校中、いや町中の人が知ってるからな。
 去年なんて俺が廊下ですれ違うだけで、消臭剤を自分に振りかけ、ほとんどすれ違わないように、いちいち遠回りなんてしてたんだぜ?
 その冷奈がいくら先生の決めた事とは言え承諾するなんてあり得ないはずなのだ。
 あぁ、今朝の事で⋯⋯仕方なく、てやつだな、うんそうだ。


「いや、冷奈ちゃん、輝夜君が後ろだよ?」


 そう問うたのは集会後になかなか酷い言葉を浴びせてくれたら冷奈の友達、確か名前はみなもと⋯⋯下の名前は覚えてない。


「はい、知ってますよ? とてもとても不本意ですが先生が決めた事ですし、仕方ないじゃないですか。この変態が所構わず欲情しないように仕方なくですよ」
「さ、流石冷奈ちゃん、自分を盾にして⋯⋯輝夜君最低」


 おいおい、黙って聞いてると酷い言われようだな! 冷奈さん、最後の一言余計!
 はぁ、まじで俺の立場どんだけ低いんだよ⋯⋯確かに冷奈と比べて全てが劣ってるし、友達居ないし、言われても仕方ないんだろうけどさ。


「早く席に着いてくれない? エロ夜」


 だからさっきからなんやねん! 一文字しか合ってないわ!
 なんて内心叫びながらも俺はため息をつき、


「はい⋯⋯」


 俺は弱々しく返事をして席に着いた。
 冷奈は前を向いていて分からないが尻尾がピンと伸びている。
 機嫌が悪いのか? 猫の事はよく分からないけど。


「ねぇねぇ先生俺はー?」


 そこで光が席を聞くと、先生はまたも紙をいくらか見て教卓目の前席を指差した。


「へ? 冗談ですよね?」
「いえ本当ですよぉ? どうしてかクラス中の女子の希望で⋯⋯こうさせて貰いましたぁ!」


 先生が明るく強く断言する。


「み、みんな⋯⋯俺を売ったのか?!」


 周りから冷めた目が向けられる中、光は愕然とした様子で必死に叫ぶ。


「これじゃ女子の綺麗な太ももや背中が見れないじゃないか!」


 うわ、本当こいつブレねぇよな⋯⋯皆もう、呆れる事しか出来ない。


「あぁ、ようやく分かりましたぁ。はい、光君はここで決定です」


 先生はにっこりと、そして只ならぬ威圧感を漂わせそう言い放つ。


「そんなぁ⋯⋯みんな酷いよ⋯⋯」


 そんな事を言いながら渋々と光が席に着く。
 ふぅ、これで授業は安全だな。去年のあれはマジでごめんだ。
 去年のあれというのは、授業中にクラスの女子一人一人の足の綺麗さについて、感想を俺に伝えてくるというもので、俺はもちろん無視していたのだが俺を含めた二人で指導を受けていたのだ。
 何度も何度も⋯⋯。
 まぁ、光が一番前に座る事で全てが丸く収まってくれるのは非常にありがたいのでここは先生に感謝だ。
 冷奈はこれからどうするつもりなんだろう⋯⋯尻尾は今も生えてるし⋯⋯。
 改めて見るとなんかコスプレみたいでめちゃくちゃかわいいな。
 俺はそんな事を思い、無情にも笑みを浮かべた。

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