は、魔王?そんなのうちのブラコン妹の方が100倍危ないんだが

プチパン

4話 だからあれは違うんだって⋯⋯絶対に結婚なんてしないからな!



「で、これ結局なんなの? 俺達を気持ちよくさせて永遠の眠りにでもつけさせる為のものなのかな? 」
「さぁ、私にはさっぱりです。 それよりお兄ちゃん! もっと重要な事があるじゃないですか!  」
「大事な事?」
「はい! これから話す事は、とーーっても大事な事なので、一言一句聞き逃さないでくださいね」
「あ、あぁ」


 クレアがいつになく真面目な顔をして、言い寄ってくる、余程大切な事なのだろう、ハクヤは聴き逃すまいと聞き耳をたてた。


「私たちは異世界に来ましたね? 」
「あぁ、 」
「これから周りに、誰も知ってる人がいない訳ですよね?」
「まぁそりゃ異世界だからな」
「そんな中で私たちは二人、暮らしていく⋯⋯んです⋯⋯⋯⋯よね」


 クレアが顔を赤くし俯くのを見てハクヤは首を傾げる。
 それは大事な話なのだろうか⋯⋯?


「ま、まぁそうだが、今までと特に変わらないん
じゃないか? 」


 クレアは顔を勢いよく上げると、ハクヤを睨んできた。
 だがそんな睨み顔を見て、改めて美少女だと思ってしまう場違いな自分に悲しくなる。
 こんなだからシスコンやらなんやら言われるのだろう。
 まぁ、確かに違う! とはっきり言えないところが悲しいのだが。


「変わらないわけないじゃないですか! 全っ然違いますよ! どれぐらい違うかと言うと、同じ鳥でも、飛べるツバメと、飛べないにわとりぐらい違うんですよ! 」
「なんだその意味の分かりにくい例えは⋯⋯どこがそこまで違うのか簡潔に分かりやすく教えてくれ」


 クレアの言う大事な事にハクヤは呆れて、溜息をつく。


「いいでしょうお兄ちゃん! 現実世界で私達は、2人暮らしをしていましたね? そう、男女二人で一つ屋根の下暮らしていた訳です。 ですが、そこにはとてもとても高く、回り道さえも許さない大きな壁があったのです。 それはなんだか分かりますか? 」


(絶対これそんな大切な話じゃないよな⋯⋯そんな壁あったか? 俺たち普通? とは言えなくとも、ちゃんと生活は出来ていたよな)


 ハクヤはそんな事を考えながら、妹の熱弁に眉を寄せる。


 ちなみに『普通』の所に『?』が入るのは、普段からクレアのブラコン病のせいで、拘束されたり、変な薬を食べ物に仕込まれたりと、普通とかけ離れた生活をしていたからだ。


「何だろうな⋯⋯ 」
「分からないんですか⋯⋯。それは兄妹という肩書きなんです!」
「はぁ?」
「ですから! 元いた世界では、兄妹というだけで、私とお兄ちゃんの様に、どれだけ愛し合っていても、結婚する事は出来ず、付き合うことさえ許されません。 しかし! この世界では、兄妹でも結婚可能なのです!」


 クレアが頬を赤く染め、どこか真剣味のある表情を浮かべて、そう豪語する。


 どこでそんな副属性身につけてしまったのだろうか⋯⋯ハクヤはそう思わずには居られなかった。


「おい、クレアそれがどうしたんだ? 」


 ハクヤには、この異世界の地で、右も左も分からないこの状況で、こんな発言できるクレアの肝っ玉が恐ろしく思えてきた。


「だーかーらぁー、今この世界では私とお兄ちゃんを妨げるものは無いと言うことです! なんたって兄妹でも結婚が可能なのですから! そう! それはもはや、兄妹の二人暮らしではなく、男女の二人暮らしとも考えられるんですよ! 」


 そんな事を言うクレアは、ニヤニヤして口元からはよだれが垂れている。


「はぁー、クレアが何想像してるか、分かりたくもないが、これだけは言わせてくれ。これまでと関係を変えるつもりは全くない!」


 ガーン⋯⋯とクレアの中で何かが壊れるような音が聞こえ。


「そうですか⋯⋯⋯⋯」


 クレアはそう言うと、崩れる様にして地面に座りこんだ。


「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」


(あれ? いつもだったらこんな事では暴走は止まらないんだけどな⋯⋯)


 ハクヤは、そんな事を思い、クレアをまじまじと見つめる。


「私じゃダメなんですか⋯⋯」
「は?  今何て? 」


 するとキリッとこっちを睨む様に見て、


「なら私のどこがダメなんですか! こんなにお兄ちゃんの事が好きなのに! 顔ですか? ルックスですか? そうでしたね! お兄ちゃんはもっとお姉さん系で、胸の大きな人がタイプでしたもんね! 」


 叫ぶクレアの目には、涙が浮かんでいる。


「だからあれは⋯⋯俺のじゃないっていってるだろ⋯⋯、だから俺は特別胸がでかい人が好きって訳じゃないんだよ! 」


 ハクヤは、泣きそうになりながらそう言うクレアに、何故か物凄い罪悪感がこみ上げてくる。


「ならお兄ちゃんは胸の大きな人は好きではないと?」


 ハクヤは、泣きそうな目で上目遣いに見てくるクレアの可愛さに、つい顔を逸らしてしまう。


「いや、嫌いではないけどな」
「やっぱ好きなんじゃないですか! 」
「極端すぎるわ⋯⋯! それより外見の問題じゃないんだよ! まず前提から俺たちは兄妹だ」
「そうです。 私達は兄妹です」


 クレアは、先程と打って変わって静かに語りかけるよう声を出す。


「あぁ、そうだな」
「ですがさっきも言ったじゃないですか。 ここにそんな壁ないんですって。 もうここは異・世・界なんですから! 前の常識なんていらないんです! そう、お父さんは私達に、この天国の様な世界を与えてくれたんです!」


 クレアは天を仰ぐようにして、またも声を上げた。


「そんな壁って⋯⋯はぁー⋯⋯天国って大袈裟すぎるだろ。 俺からしたら軽く地獄な気がするんだが」
「いやいやここは天国いや、それ以上ですよ!」


 そう叫ぶクレアは、ハクヤと鼻が当たる距離まで近づいていた。


 最初はクレアが近づくとその分ハクヤが離れて距離を取っていたのだが、クレアの迫力に呆気にとられ、立ち止まっていると、気付いた時にはこの距離だった。


(はぁ⋯⋯本当にこいつはなんでそこまで、俺の事ばっかり考えてるんだよ⋯⋯)


 ハクヤは過去を逡巡し諦める。


「まぁ、それでも結婚なんて絶対にしないからな」
「ふふふ⋯⋯絶対にしてみせますよ。 例えどんな手を使ってでもです 」
「いや何する気だよ!  怖いよ! 」


 ハクヤはニコッと不敵な笑みを浮かべるクレアに思わず叫びをあげた。

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