は、魔王? そんなのうちのブラコン妹の方が100倍危ないんだが

プチパン

プロローグ2 待て待て俺の意見は!?

 お、終わった⋯⋯。
 父さんに報告されるなんて。
 せっかく自由に生活できていたのに。
  ハクヤは起きてからの事を振り返り、ため息をつき天をあお⋯⋯げなくて、もう一度大きくため息をついた。

「ごめんなさい⋯⋯」

 クレアが深く頭を下げて、ハクヤに謝る。

「私が変なことしなければこんな事には⋯⋯」

 そう言って啜り泣くクレアを見て、「こうゆう所は可愛いんだよな」なんて事をハクヤは思ってしまう。

「大丈夫、心配すんな! いざとなったら父さんには俺からどうにか言ってやるし、それでもダメな時は二人で逃げる覚悟だってあるんだからな」

 ハクヤは励まそうと右手の親指を立てて、軽く冗談のつもりでクレアに返す。

「うん⋯⋯私のお兄ちゃんは最強だもんね!」

 真に受けてしまったらしい妹の反応に、ハクヤは苦笑を浮かべるが、こんな事で元気になってくれるのであれば嬉しいものだ。
 クレアは涙を拭うと、ようやく笑顔を見せる。
 ハクヤはドクンッと、心臓が高鳴るのを感じた。
 これは何なのだろうか?
 時々ハクヤは、クレアを見るとこんな感覚に陥る時がある。
 
「それより、これ外してくれない?」

「しょうがないなぁ、キスはお預けね! ちゃんと初めてはとっておいてよね。まぁ、お兄ちゃんの事だから、したくても相手がいないんだったね」

 テンションが復活したクレアに、精神的な鋭い攻撃を受けて、ハクヤは多少不愉快になりつつも、いつもの事だから特に気にはしない。

 拘束が解かれた。
 ハクヤが背伸びをしていると電話が掛かってきた。

 〜〜〜♪〜〜♪

「て、これもこの曲かい!!」

 ついついハクヤは叫んでしまう。
 ハクヤが睨むと、クレアは、ペロッと舌を出して笑った。

「はぁー⋯⋯」

 ハクヤは多少イラつきつつも、妹の可愛さに許してしまう自分に更にため息を一つ。
 電話は、予想通り父親からだった。

「何かあったみたいだな」

 いつも通りの物凄くごつい父の声が聞こえ、二人はびくっと肩を跳ね上げ、クレアはハクヤの腕に抱きつく様にしがみついた。
 さっきまでの元気は何処へやら、小動物の様に若干震えていて優しく頭を撫でてやる。
 気持ちよさそうに身をよじった後こちらを見上げてきた。

「二人はそういう関係だったのか?」
「な訳ないっ──」
「そうそう付き合ってるの!」

 ハクヤはすぐさま訂正しようするが、即座に口元を手で押さえられて言葉を出せない、それどころかクレアが訳の分からない事を言いだす始末。

「そうか⋯⋯まぁ良いんじゃないか?」

 (付き合ってもいいか⋯⋯やっぱりその反応が普通だよな)

 ハクヤは予想どうりの言葉が返ってきたと思い、うんうんと頷き、父の言った事を頭の中で数回反復させ、そこでおかしい事をようやく理解した。

(うんうん⋯⋯え、は? はぁぁぁあぁぁあ!!)

「いいのかよ! 父さん!」

「まぁな。 でも流石に日本ではダメだ」

「日本では? て、そういう関係じゃないって!」

 ハクヤは必死にアピールするのだがもう遅い。

「そうかそうか付き合ってるのか⋯⋯それならちょうど良かった。いやぁそれがな二人に俺達の子供としてやってもらいたい事があったんだよ」

 突然今までと変わり、フレンドリーっぽささえ感じられる口調にハクヤとクレアは顔を見合わせた。

「「な、何⋯⋯?」」

 ハクヤとクレアは珍しい父態度と頼みに、何か⋯⋯と耳を傾けた。

「その名も異世界生活だ!」

 父が先程までとは打って変わって、ハイなテンションでそんな突拍子も無い事を言いだしてくる。

「は? 異世界生活? あぁ、酒飲んでるのか」

 ハクヤとクレアは揃って「何言ってんだよこのアホは」とため息をつく。

「何!? まぁ、とりあえず俺の説明を聞け!」

「は、はぁ⋯⋯」

 そして、父は童話を語るように、一言ずつゆっくりと話を始めた。

「おしまいおしまい」

「て、おとぎ話かい!」

 ハクヤは思わず癖でツッコミを入れてしまう。
 これも若干問題のある妹と過ごしてきた賜物だろう。

「いや、本当に別世界で起きている事実だよ」

 語られた内容はこんなものだった。
 その世界では魔王の勢力がその支配を強めていたという。
 みんなが怯えて暮らしていたところへ勇者が現れ、魔王軍の幹部を次々と倒していった。
 だが魔王との決戦の直前、勇者は不治の病に倒れ、死んでしまった。

「それから十数年の時が流れ、魔王の幹部達も復活を果たしてしまった。今、その世界では魔王軍の侵略により、どんどん生き物の数が減っている。このままでは、その世界が魔王に侵略されてしまうんだ。だからその前に、誰かに魔王を倒してもらうしかないんだ!」

「はぁー⋯⋯信じてはいないけど、なんでその話を俺たちに?」

 ハクヤはこのよくあるパターンとこのお決まり感にこの先を予想する。
 パッパカパーンそんなBGMが流れると、

「それは、お前らが次の勇者だからだ! てことで、ハクヤさんとクレアさんの異世界行きが決定しました! わーい」

「はぁー? わーいじゃねぇよアホオヤジ!」

「おー忘れてた忘れてた、なんでお前らに決めたかというと俺とあいつ・・・・・の子供だからだ」

ハクヤには「あいつ」と言う言葉に、何か父の深い何かがあるような気がした。

「本当に大丈夫か? 本当に壊れたか? まぁ百歩譲って本当だったとしてどうして俺とクレアが勇者なんだよ。それにあいつって母さんだろ? なんで母さんも関係してくるのか分からんぞ」

 クレアが不思議と沈黙を守り続けているのだが、ハクヤは今それどころではなかった。

「もしかして父の話を信じてくれないのか? あぁ母さんだ。俺達は元々その世界に住んでいたんだよ」

 そう言った父の言葉はとても重く感じられた。
 前から父は母親の話をするとどこか思い詰めた表情をする。
 きっと今も、何かを懐かしむような悔いるような、そんな表情をしているのだろう。

「⋯⋯⋯⋯」

 ハクヤは言葉を返す事が出来なかった。
 
「その世界では魔法だって使えるんだぞ! かっこいいだろ!」

 そんなハクヤの心中を察したのか、父は急に明るくバカな事を言い出す。

(確かに呪文は憧れる、だが魔王と戦う? バカじゃないのか? ただの高校生だぞ? そんな事が出来るわけがないだろ)

「かっこいいのは、認めるが死ぬのは嫌だ。だから行く気は無いよ」

「ふーんその世界では実の兄妹でも結婚したり出来るんだけどなぁ」

 クレアがピクリと動く⋯⋯。
 父のニヤッとした顔が頭に浮かびハクヤはしてやられたことに気づく。

(おい⋯⋯妹よお願いだそのまま静かにしていてくれよ⋯⋯⋯⋯)

 そんなハクヤの願いは虚しくクレアは、ばっと顔を上げると、声を張り上げた。

「お父さん! 私たち行くわ!」

(お決まりかよ! やめてくれ⋯⋯)

 ハクヤは予想通りすぎる流れに、今すぐ寝て無かったことにしたい気持ちになった。

「よし分かった! 決まりだな!」
「おい! 俺の意見は?!」
「は? お前ら付き合ってんだろ? なら一心同体だろ」

 父はお前はバカなのか? と言わんばかりの声を出す。

「いや付き合ってないんですけど⋯⋯」
「お兄ちゃんと二人きり〜ふんふんふ〜ん♪」
「こいつ本当に分かってんのか?」
「て事で手続き完了、今から異世界にワープして貰うから」

 父は明らかに上機嫌な声だ。

「は? 今から? が、学校はどうするんだよ!」
「そこら辺はこっちで処理しとくから気にすんなよ」
「後はあっちに行ったらノートを持ってると思うから、とりあえず基本はそれを読んだらわかるぞ。それと、魔王を倒す期限は五年だ。五年すぎたらその世界は終わると思ってくれ」

 急かすかのように普段では考えられない高テンションさで、まくし立てる父さん。

「は? どうゆう事?」
「いずれわかるさ、では健闘を祈ってる」

「おい!ちょっとまって!あっ⋯⋯」

 ハクヤとクレアの足元の地面に魔法陣が現れる。
 これで、ドッキリやサプライズの線も消えた。
 ハクヤの胸の中には、焦りや不安など、様々な物が渦巻いていた。

「お兄ちゃん、一緒に魔王を倒そうね」

 クレアは笑顔でそう言ってハクヤの手を無理やりに繋いできた。

 (本当に分かってんのかなぁ。これから先が心配だよ⋯⋯)

 ハクヤはこれから先の異世界生活で起こるかもしれない事柄に、九割の不安と一割の期待をはせて、今日一番大きなため息をついたのだった。

(それより本物の魔法陣初めて見たわ⋯⋯本当にこれから異世界生活が始まるのか⋯⋯? 可愛い妹とふたりきりの⋯⋯)

 まばゆい光を放ち2人は目を閉じる、次の瞬間ハクヤ達兄妹は知らない場所に立っていた。

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