竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

78話.ガルラード帝国の大使

 朝だ、今日も宿屋の窓から入る朝日が目に染みる。


 俺のお腹がぐぅぐぅ鳴っている。あれ? 俺、昨日晩ごはん何を食べたっけ?


 思い出せない。


 ま、その内思い出すでしょ。そんな訳で食堂に顔を出すと、もう皆揃っていた。


「コータさん、おはよう御座います」


 いつも爽やかな笑顔をありがとう! アルテッザ。


「コータさん、おはよう御座いますですわ」


 うん、メテオラも今日も髪が輝いているね!


「こーたさん、早くお腹空いたにゃ!」
「コータさん、昨日も大変でしたね」
「コータさんはいつもの事だに!」


 えっ? 玉ちゃんまでは分る。
 分るんだけど……ポチとホロウの大変、いつも? 何の事?


「コータは遂に脳みそで憶えきれ無くなったぞ!」
「ふむ、コータだからのぉ」


 何だか分らないが何か忘れているらしい。


「ところで今日はどうするんじゃ?」
「うん、一応は今回の件を、アーノルド王に報告しに行こうかと思っているんだけど」
「そうか、では我は皆と外で買い物でもしているかのぉ」


 買い物ってクロは買い物とか出来ないでしょうに!


 何か話を誤魔化している?


「あ、それじゃ最近新しく出来た、パン屋さんに行きましょうか?」


 俺もそっちの方が楽しそうだな。


 そんな話をしていると、奥の階段からニョルズ御一行が現れた。流石にこれだけのエルフとドワーフが相席だと周囲の客がざわつくなぁ。


 珍しいから仕方が無いんだけどね。


「いやぁ、お早う! コータくん達も今から朝食かい? 僕達もなんだよ」
あははっ、とか朝から爽やか笑顔満載だな! 誰かに感じが似ていると思ったら、


「やぁ、みんなお揃いで! 僕達もたまには庶民のお店で朝食を食べないとね」
「コータさん、おはよう御座いますわ!ご一緒していいかしら?」


 来たよ、糞美男子と……誰?


 この方?


 なんか化粧濃いし派手な服着ているし。


 あ、良く見たらイアンだ。すげー女ってここまで変われるモノなんですね!


 思い出した。王子とニョルズの雰囲気が凄く似ているんだ!


 どうりでいけ好かない筈だ。




「所で珍しい人達とご一緒しているねぇ、コータ殿」


 なんか目の奥がキラッって光った気がしたよ!


「ええ、実は先日…………説明終了!」


 短っ! めっちゃ手抜きな説明でしたねぇ。もうさっさと先行きたくて仕方が無いって感じ?


「そんな事が……今回は、帝国の兵士と揉めた訳じゃ無いんだよね?」


 なに? いつも揉めて帰って来るみたいな台詞は……。


「いやだなぁ、僕はいつも普通にしているじゃないですか!」


「だよね、普通にしていると国をブッ潰して帰ってくるんだからねぇ?」


 ブッ潰してとか……。
 人聞き悪いなぁ。全く、そんな話何処で聞いてきたんだか。


「そんな話は知りませんよ?」
「そっか。僕と父上の気のせいなのかぁ」


 え・え・き・っ・と・そ・う・で・す・ね。


「コータ君って意外と物騒な事を、平気でやっちゃう子なんだね!」


 あはは!じゃねぇ。にょるず!




「それで今日は父上に話をしにね……丁度、今は帝国の使者が王城に来ているみたいなんで、一緒に来て話を聞いてみては如何かな?」


 何で?帝国の使者が来ているの?


「うーん、どうもガルラード帝国の食料事情が思っていたよりも厳しいらしくてね、それをなんとか融通出来ないか――と懇願しに来たと言う訳さ。これから冬で食物も取れない時期だろう。帝国民を餓死させない為に形振り構わずに各国へ使者を出しているって聞いたよ」


 そんなにあの国、やばいの?


「流石にもう限界なんじゃないかな……国の体制を維持するのも。この所、盗賊が多くなっていただろう。それで調べたら――盗賊の殆どが帝国で食い詰めて困窮した人だったって話だよ」


「俺が討伐してきた盗賊からは、そんな感じ受けなかったけど?」
「トーマズよりも、もう少し北に行くとそんな盗賊ばかりだって報告が上がっているよ」
「俺達が引き返した所よりももっと先かぁ……」
「盗賊は弱かったにゃ!」


 うん、タマちゃん強かったもんね!


「そんな話を聞くと盗賊でも同情しちゃいますわね」


 いやいや。第一王女が同情しちゃ駄目でしょ!


 まぁ、どうせ王城へは行くんだし、話だけでも聞いてみるか。


「おお、コータ殿。本日は何か報告があるとか」


 この王様は病もすっかり癒えて絶好調って感じだな。所で、この隣に座っているのがガルラード帝国の大使なのかな?


「おお、そうじゃった。紹介がまだであったな。こちらはガルラード帝国大使のユリウス殿じゃ」
「お初にお目にかかります、お噂は予々承っておりました。ガルラード帝国、南西方面、大使のユリウスと申します。以後良しなに……」


「こちらこそ、始めまして。アイテール領、伯爵のコータ・ミヤギと申します」


「先程、国王陛下から竜の剥製を拝見させて頂きまして、それを単独討伐されたのがコータ殿でいらっしゃると伺いました」
「えぇ、まぁ」
「それで竜を退治されるほどの力をお持ちのコータ殿にも、我々の状況を知って頂きたく、思いまして陛下に同席をお願い致した次第でございます」


 成る程。まさかその武力をエルフに向けろ、とか言い出すんじゃ無いでしょうね?




「ガルラード帝国の現状は、お噂では伺っておりましたが、それほどに厳しいので?」


「はい、既に皇帝陛下も形振り構わず、各国へ使者を出し、食料の確保に全力であたる次第で御座いますれば」


 王子から聞いていたけれど本当にやばいのかぁ……それで俺にどうしろと?


「エルフにもこちらから大使を散々出しておりまして、7人の統括理事の皆様にお話をさせて頂いたのですが……よい返事が貰えず、水脈はどんどん枯れ、畑で作物を耕すことも叶わず。もはや自国で自給自足を行う事も出来ない状況でして」


 如何にもエルフだけが悪いから困っているみたいな言い分だな。
 それに7人じゃなくて6人でしょうよ!


 俺が黙って話を聞いていると、ここが攻め時とばかりに大使が捲くし立てた。


「私どもガルラード帝国は、ここ30年近くずっとエルフに懇願し続けてきたのです。ですがあのエルフ共は数百年も昔、ガルラード帝国の先祖がエルフの里に進軍したと言い張りましてな、それを未だに恨んでおり協力は出来ないと。私どもが何度も何度も頭を下げたのに……うぐっ」


 あーそういうのいいから、お涙頂戴の演技にしか思えないから。


「あの、お話の最中すみませんが、最近街道に盗賊が多く出没しておりまして」


 何、はぁ? いきなり何をって顔してんの?


「それの討伐に出向いて昨日こちらに戻ってきたのですが、その途中でエルフの馬車を襲う兵隊の一団と遭遇いたしましてね。その仲裁に入ったのですが」


 ここまで話してやっと本題に気づいた様だね。


 あ、ヤバイって顔に出ているし。


「エルフの人達が言うには、ガルラード帝国に攫われた仲間を取り戻し、逃げている最中だと言うじゃありませんか。兵隊の方々にも確認しましたが、概ねその通りだと聞きました」


「そ、それはエルフ共が協力しないから仕方なく……」


「いくら協力しないからと言っても武力で収めようとすれば、それはエルフにとっても数百年前に起きた侵略の再来では無いですか?」


「そ、それは……」


 ユリウス大使の表情はみるみる青くなっていく。


「私もエルフの統括理事のお一人に話を伺いました。正直もうしまして、森林伐採による水資源の枯渇を自業自得とは私は言うつもりはありません。ですが、今の貴国の現状にはエルフの力をもってしても、既に手遅れと聞き及んでいます。それで統括理事が出した判断が協力を断るといった理由だったらしいです。その理由も知らずあなた方は先祖と同じ過ちを起した。もうエルフから協力が得られる事は考えられません」


「そ、そんな。そんな話は始めて聞きましたぞ!」


「それだけ信用されて無いというだけでしょ? 私はどうして手を貸せないのか、詳しく訳を聞いて理解出来ましたよ。私が思うに、あと貴国に残された道は、自力で地下水を見つけるか? 他国へ攻め入って安寧の地を一から築くか? それとも、その地で自滅するか! しか無いと思われました」


 顔面蒼白な大使を厳しい目で睨みながら、陛下に確認する。


「陛下、食料の支援物資は渡されるので?」
「うむ、まだどうなるか分らんのでな。ここで貸しを作れば将来的にこの地は平穏であろう?」


 そうだといいけどね。


 俺個人の考えでは、帝国も切羽詰ったらこの国に攻め入ると思っているからさ。


 俺のこの発言が、より問題を大きくするとはこの時は思わなかった。


 だって14歳だもん!


 言いたい事だけ言って、逃げるとかするでしょ?


 ピンポンダッシュみたいにさ!



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