竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

40.全ての線は一本に繋がった

俺達は、いくら考えてもなんの為に犯人はこんな真似を仕出かしたのか?


何故、犯人にとって討伐したらまずいのか?
考えれば、考える程、分らなくなっていた。


「僕達には分らないけど、違う目で見たら、分る事とか有るかも知れないね」


そんな都合のいい事、ある訳がない。
誰に聞くって言うんだ?


「母上とメテオラ、ローラ、オルバーン、オーガストにも意見を聞いてみよう」


 最初の3人は何となく分ったけど、後ろの二人は誰だ?聞いてみよ。


「第一王女様は、メテオラさんって言うんですね」
「あれ、名前は言ってなかったっけ?」


いや、聞いてないし!あれ?聞いてないよね?
謁見の間でしか会ってないし……。


「確か、謁見の間でお顔を拝見しただけですよ」
「そうだったか……メテオラは体調が最近ずっと優れないからね、そのせいだね」


晩餐会の席でも、そんな事言っていたな。でも元からって言ってなかったか?


「じゃ後の二人は?」
「あれ?オルバーンとオーガストもかい?」
「多分、個別にも話した事ないんじゃ?」
「オルバーンはうちの執政大臣だよ、オーガストは軍務大臣ね」


へぇ、やっぱり記憶に無いな……俺の記憶力が低いのか?


「多分、顔は見たけど名前は初めて聞いたと思うよ」
「そっか。そのメンバーに聞けば何か分かるかもね」


だといいけどね……俺の問題じゃなく、そっちが原因なんだからさ。


王子が、執事のセバスを呼び、先程のメンバーを集めてくれるように指示を出した。
俺は、足りない頭で必死に考えながら、その様子を見つめていた。
クロだったらどうやって人探し、犯人探しするんだろう?


「我は、近しいものの魔素を感じて、所在を確定出来る。犯人も何も、我にそんな企てを労する輩などおらん!」


はいはい、そうですか……くそっ。


しばらくすると、それぞれの王族が、お付の執事を連れやってきた。
当然大臣二人は先に着いていたが、俺達の様子からただならぬものを感じたのか口を噤んでいた。


「アレフ何事ですか!」


王妃が腹立ち紛れに声を荒げる。


あれ?なんでだ?


「コータ殿のお仲間が何者かに浚われました。それでこの様な文が……」
「なっ、何ですこれは!」
「私達にもさっぱり。それで母上、妹達、大臣を集めて心当たりを伺いたかったのです」
「病弱な、メテオラまで呼び出すから何事かと思えば……ならメテオラはこの場には必要ありませんね。この子が世情に疎いのは、皆よく知っておる事でしょうから」


その時、何気なく第一王女は病弱なのか……何故だろう?体力低いのかな?と思いステータスを使っていた。目に飛び込んできたそれを見て俺は仰天する。


「ち、ちょっとまったぁぁ!」
「今度は何事です!」


再び、王妃が怒気を露わにする。


「メテオラ王女の病気の事です!」


そう言うと皆、何を言っている?という様な視線を此方に向ける。
一歩間違ったら城から摘み出されそうだ……。


「病弱な、わが子が何だというのです!」
「第一王女は毒に侵されています!」


周囲の視線は一気に驚きに変わり、それは次第に胡散臭いペテン師を見る目に変わる。


「今回で、2度会ったばかりの貴方に何が分ると言うのです!」


仕方ない、手の内を晒すようだが、納得してもらうしかない。


「私は他人の生命力、魔力、状態、家族構成などを見る事が出来る魔法が使えます!」


それで?と言う様に、先を続けろと視線を飛ばされた。


「今、何気なくですが、メテオラ王女の体力が気になって拝見しました所、ジギタリスの毒に蝕まれている事が発覚しました。メテオラ王女の症状は頭痛、めまい、吐き気、嘔吐、他に呼吸が苦しくなったり、目で見るものが黄色く見えたりするのではありませんか?」


そう指摘されたメテオラ王女は、掠れた声でなぜわかるの?と……言った様に見えた。


「それこそが、この毒の症状だからです。一刻も早く治療しなければ命に関わります!」
「「「「「なっ!」」」」」


俺の発言を受け、今度こそ皆が絶句する。
だてに図鑑を読み漁ってないんだよ!
俺は!


「ですが、当家の医者、教会のシスターでも治せなかったのですよ?どうすれば――」
「私にお任せ頂けませんか?」
「あなたに、何が出来るというのです!謀るのも大概になさい!」


完璧に王妃が切れた。
俺だってやってみないと分らないけど、何も知らない人に比べたら、この毒に対処する方法を知っている。


「お母様、お願いして下さいませ。この方なら、当家の主治医でも直せないものも、直せる様な気がするんです。だってこの病気の原因と症状を当てる事ができ、古竜様の庇護される方でもあるのですから」


皆がクロを見る。


「我もここは、コータに任せた方が良いと思うぞ!」
「分りました、この子をお願いします」


クロの説得で、なんか釈然としないが……王妃も納得してくれた様だ。
深々と頭を下げながら懇願された。


「では、少し時間がかかるかもしれませんが――僕の隣に座ってもらっていいですか?」


メテオラ王女が、コクリと頷き隣に座る。


「では始めます」


俺は、掌を服の上からメテオラ王女の背中に当て、イメージを浮かべ始める。
治療魔法は前回アルテッザで成功している。


今回は毒だが、体のカリウムが少なくなっているだろうから、それを思い浮かべ補充するイメージを頭の中に浮かべる。
今回は呼吸が苦しくなったりしている様なので、リドカインも注入するイメージを浮かべた。
この世界には化学物質などまだ無いだろうけど――元々イメージの問題ならいける?と思う。


注入、注入、回復、毒素の排出のイメージを繰り返し行っていると――次第に掌から青い光が漏れ出し、メテオラ王女の中に入っていった様に見えた。
最後に、念の為――回復魔法をかけた。


「メテオラ王女、お加減は如何ですか?」
「はい、信じられない程すっきりします。コータ様、有難うございました」


皆、一様に礼を言ってくるが、まだこの件は終わってない。


「このジギタリスの毒は、南方の高温多湿の地方で生息致します。南方から花を輸入したりはしませんでしたか?」
「南方の花なら、陛下のお見舞いといって――海洋国家エジンバラの外務大臣オルドバ殿がお持ちしたことが何度か御座いましたが……まさかその花が?」
「なんですって!それは真か!」


今、説明するから王妃は黙っていて……。


「それは、ラッパの様な薄い赤の花を咲かせ――花の中の模様は丸っぽい斑模様ではなかったですか?」


俺は、以前に図鑑で見た花の模様を詳しく説明した。


「はい、その花に間違い御座いません。今も陛下の寝室に……」


まずい……これ完璧に暗殺を企んでの犯行だ!


「なんですって!すぐに陛下の寝室から、その花を取り除きなさい!」


王妃の命令で執事達が走り出す。


「わらわ達も向かいましょう!」


王妃が、俺にも同行して欲しいと言うので――俺も、王妃、王子、二人の王女と共に陛下の寝室へと向った。


寝室に入ると、陛下のベッドの横の窓際には、ラッパの様な薄く赤い花を咲かせ、花の内側に丸っぽい斑模様の花が活けてあった。


「その花には、直接触れ無いでください!」


その指示で執事は、陛下の寝室に備えられている水がめにタオルを浸し絞ってから花を包み込んだ。


王様に意識は無い。
いつからこの状態なんだ?と言うかこれだけの状態で毒を疑わないとか、もうね……。


「コータ殿、陛下は、陛下も同じなのですか?」


落ち着いてよ。王妃様、ちゃんと今から見るからさ。
俺は、横になっている王様をよく見る。


げっ、重篤だよ……これ直せるのか?


「王妃様、陛下もメテオラ王女と全く同じですが、状態がかなり悪いです」
「コータ殿なら、先程の様に治せるのではないのか?」
「正直申し上げて、五分五分かと……」


流石に、切り傷などの外傷なら生存確率五分五分の状態で――この前アルテッザで成功しているが、これだけ内側から蝕まれた状態の症状は分らないとしか、いい様が無かった。


「それでも頼む。どうか、どうか陛下を救ってたもれ。頼む。頼むのじゃ」


さっきまで、気丈だった王妃とは思えない程に弱々しく、何度も何度も床に頭が着くのでは?という位――懇願された。


「確約は出来かねますが、やってみます!」


先程と同じ要領で、何度も何度も感覚ではもう何十分やったんだろう――。流石に俺にも焦りが見え出した頃に……漸く掌に先程よりも数倍明るい光が宿り、それはすぐさま、王様の体内に吸収されていった。
俺は最後に、回復魔法をかけステータスで確認した。


「王妃様、成功しました。もう大丈夫です」


そう告げると、一気に号泣し崩折れてしまった。
そりゃそうだよね。夫婦なんだもん。
俺もアルテッザだったら……そこで重大な件に気づいた。
これどう見ても犯人は同一犯だよね?
これで、全ての犯人が繋がったな。


「アレフ王子、全ての犯人の線が繋がりましたね」
「信じたくは無いけど、どうやら海洋国家エジンバラに長年踊らされ続けていたみたいだね」
「オーガスト!至急軍を海洋国家エジンバラ大使館へまわせ!外務大臣もろとも蟻の子一匹も逃すな!」


王子の命を受け、軍務大臣が走っていった。
巨体を揺らしながら全力で走っているから、床がドスドス悲鳴を上げている。
待っていろ!アルテッザ今助けに行くから!

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