竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

24.思いがけない出会い

 朝の眩しい日差しが寝ていたソファーに照りかかり、
目を瞑っていても瞼が明るい。


昨晩はあれから再度、馬車を取り出し。
食事の後片付けを手伝い早々に就寝した。


 昨晩は本当に考えさせられた晩だった……。
確かに最初クロに乗って村へ直行すればすぐじゃん!
とか一瞬思ったけどさ……。
まさかそれをクロが受け入れてくれるなんて思わなかったんだよね。


 だって確かに俺とクロは元ペットとご主人?の関係だけど……。
こっちの世界に来てからはクロって神だよ?


 竜神様だよ?


そんな雲の上の存在に……。
俺の都合でホイホイ振り回したり出来ないって思うじゃん!


 俺、両親を亡くしてから――。
人生に絶望して誰かに甘えるって事忘れちゃっていた?


自分自身の力で、
やっていかなくちゃって片意地張っていたのかな……。


俺の傍にはちゃんとクロが付いていてくれているのに。


 周りを見渡すと、既に皆、起きて外で朝食の支度を始めていた
クロはと言うと、何やらフロストの頭の上に乗りおしゃべりをしている。
あの様子だけ見ていればフロストの子分にしか見えないんだけどな。


だが本来の姿は――巨大なこの世界の神にも匹敵する古竜だ。
はっきり測った訳じゃないけど、
あくまでも俺の目測では全長100m全幅50mはあると思われる。


 確か昔読んだ図鑑では、大型旅客機でも全長70m全幅60m位だったと思ったから――。


それよりも大きい事になる。


 そんな事を寝起きのぼけーっとした頭で考えていたら、
馬車の扉がノックされて真っ白で可愛い耳が顔を出した。


「コータさん、昨晩はごめんなさいだに……」


 昨晩のタマちゃんの話で、周囲の雰囲気が暗くなった事を言っているらしい。
「ううん、こっちこそ。最初からクロに頼めば、もしかしたら昨日のうちに村に着いていたかも知れないのに――。俺が頭でっかちだったばかりに無駄に時間を過ごしちゃったね」
「そんな事は無いだに!コータさんが教えてくれなかったら――。タマが生きている事すら私には判らなかっただに。本当にコータさんには感謝しているだに!」


嬉しい事を、言ってくれる。


「いよいよ今日は村に到着だ!さくっとタマちゃんを見つけて一緒に楽しい旅に戻ろう!」


「はいだに!」


 ポチからご飯が出来たと教えられ、みんなが囲んでいる焚き火に向う。
最近の朝食の定番、硬くなったパンに――。
日干しにした乾燥肉を水で柔らかく戻し野草と一緒に焼いただけの、
簡単な料理と紅茶だ。


 俺のポシェット形の魔法のバックでは時間が進んでしまう。
新鮮な料理じゃなくても文句は言えない。


そーいえば俺の虚空の倉庫はどうなのだろう?


今度試してみよう。


朝食を食べながら、昨晩気になった事をクロに聞いてみた。


「そーいえばクロに乗って村まで行くのはいいとして……。フロストはどうなるの?」
「む?当然一緒に決っておろう?」


何を馬鹿な事を……と、呆れられた。


「だって小型じゃ人間5人がやっとでしょ?まさかずっと中型で行くの?」
「そのつもりで、今朝もフロストに話しておった所だぞ!」


あーそれで朝から、フロストの頭の上に乗って喋っていたのか。


 「我に乗れる貴重な機会じゃ楽しみにしておれと言ったら、フロストの奴め最初は畏れ多い。竜神様を足蹴にするなんて――。それなら自力で付いていきます――と恐縮しておったが。そんな事では、村に今日中に着かぬからのぉ無理やり背に乗るよう下知を出した所じゃ!」
「じゃぁ安心だね、全員揃って行けるじゃん!」


 朝食を食べ終わり支度を始める一行……。
とりあえずここの野営場所には他にも数台の馬車が停車しており、
それぞれ出発の支度をしているようだった。


 「まさか今日に限って3台も他の馬車が居るなんて……」
「昨晩遅くに到着した様だったぞ」
「どこかの貴族かな?うちの馬車ほど長くは無いけど、煌びやかな装飾と家紋らしい文様が馬車に取り付けられているよ」
「あの家紋、何処かで見た様な……」


さすが、一時は商会の後継者と目されていただけはある。


 「で、アルテッザあの馬車ってやっぱり貴族なの?」
「貴族と言うか、もっと上の――王都の門にあれと同じ紋章が施されていた様な気がします」


「王都って――」


それってまさか……王家!?


俺の呟きが聞こえたのかアルテッザも半信半疑で言う。


「多分、記憶違いかもしれませんが……」


そんな事を話していたら、丁度支度をしていた豪華な馬車から――。


 輝く様な金色のロングの髪で、細身だけど背が高く、
瞳の色は綺麗なコバルトブルー。
顔はどうみても美形な20歳位の青年と……。
これまた綺麗な金髪で瞳の色も青年と同じコバルトブルーの、
俺達とそう歳のかわら無そうな――。
少女がこちらに歩いてきた。


 すげー!
こんな美青年地球の映画でも見た事ねーよ!
しかも少女の方は髪を後ろでまとめて、
両サイドは耳の上からツインドリルの形に垂れているよ。
ザ!お嬢様!を地で行っている感じ?
あ……多分、正真正銘の若様とお嬢様だわ……。


 俺があまりの衝撃にあっけに取られていると、
青年の方から声をかけられた。


「この馬車は君達の馬車かい?ずいぶん長い馬車だね!昨晩チラッと拝見して興味津々だったんだよ」


 なんて言い返したらいいんだろう。
俺、敬語とかあんま知らないし。
俺がキョドっていたら隣に居たアルテッザが応対してくれた。




 「はい、こちらの馬車は手前どもの馬車で御座います」
「おおーやはりか!中を拝見しても?」
「庶民の馬車ですので、御見苦しい事かと存じますが、それでもよろしければご見聞下さいませ」




どうぞと、アルテッザが案内すると青年と少女が最初扉から覗いた後、
勧められるままに中に入って行った。


 「ほぉ!馬車なのにこのようにソファーまで取り揃えておるのか、これなら――長旅も楽しかろう」
「はい若様、おかげさまで、寒空で寝食をせずに済んでおります」
「お兄様、うちの馬車にも採用なさってみれば如何でしょう?」
「今は節制を敷かねばならぬ時期だからなぁ、それにこの大きさだと族に襲われた時に対応が――後手に回る恐れもある」
「たしかにこれほどの大きさでは引っ張る馬車馬も多く、小回りも利かないから不安ではありますね」
「その辺はどう対処しておるのじゃ?この大きさじゃ馬車馬も5頭は必要だろう?」


アルテッザが困惑しながら返答する。


 「それが……私共は馬車馬を用いてはおりません。ドラゴンライダー1頭で御座います」
「なるほど!その手があったか!だが1頭ではそれほど速度は出まい?」


さすがにここで否とは言えず、一般的な返事を返す。


 「確かに普通の馬車馬に比べれば、遅く御座います」
「そうであろう!そうであろう!やはり大型馬車は見送りだな」


 少し残念そうにしながらも、自分の考えどおりだったかと、
満足そうにしながらお邪魔したと言って。
自分の馬車に戻っていった。


 結局誰だったのだろう?
名前を言うのが礼儀だと思うのだが……。


 「何を言っているんですか?目上のものから自己紹介をするなんてありえませんよ!こちらが自己紹介しなかったから、相手も気を利かせて名を告げ無かったんじゃないですか!」


そんなものか……大人の世界は難しい。


 さてフロストを繋いで出立の準備は出来たのだが――。
さっきの青年の馬車も出立しそうだったので、


 先にやり過ごす為に、こちらの出立を遅らせる事になった。



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