初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

26話、解決

秋人と環が王城まで到達するのは簡単だった。
まるで二人を化け物でも見る様な目で市民はドアの隙間からただ眺めているだけで、他の兵達も、こんな化け物と戦闘をするなど全く思わず――ただ遠くから様子だけを窺っていたからである。


「ここが王城かぁ?」
「ええ、この先に通用口があって、そこから皆が滞在している部屋へ行ける筈よ!」


その部屋は既に誰も住んでは居ないのだが……。


秋人達が歩みを止めて城壁の上を見上げると、そこには……顔を張らして、見る影も無くなった秋人と環のクラスメイトが8人居た。


「うぐ~、助けで~。いだい、いだいのぉ~」


口々に何か言っているのだが、最早、声にならずに、うめき声にしか聞こえなかった。


「な、なんだあれ?」
「なっ、なんて事を……」


秋人は元々、岬にしか興味が無かった為に、誰が誰だか分っていなかったが――。環にはあれが何なのか分った様で。


「美里さん、池澤さん!里美さん!五味岡さんまで……」


そう、環の知っている4人が居たのである。
斉藤美里は真面目な図書委員で大人しい生徒であったが、クラス委員の仕事を手伝ってもらったりした事があった。
また、池澤菜摘は五味岡珠江と二人、唯一オークの子を妊娠しなかったが精神が幼児化して引き篭もった子であった。
田辺里美は学園のアイドルとして知らない者が居ない有名人であった。
そして、環に嫌味を言っていた五味岡珠江もその中にいたのである。
その8人は全て素っ裸で、皆、臨月か?と言う位にお腹が大きくなっていた。


「酷い……妊娠していなかった子にまで、こんな事を同じ人間が出来るなんて……」
「あの8人って同じクラスの子なのかよ?」


8人の隣には黒尽くめの格好のオドリーが立っていて言い放つ。


「この8人を助けたければ、我が国に従うのだ!万一妙な真似をすれば、わかっておろうな?」
「糞!人質って訳かい」
「そんな……保護してくれたのもやっぱり嘘だったんですね!」
「保護だと?そんなものは最初から無い。我等が欲するのはこの大陸を支配する武力のみ!」


そんな事の為に、岬を俺の手で殺したのか――。そんなものの為に……。
秋人の怒りが高まり、全身に赤いオーラが纏わり出した。


「おっと、それ以上近づくとこの女達の命はないぞ!」
「秋人君、抑えて!お願い……」


環の言葉で秋人のオーラが霧散した瞬間――何かがオドリーの背後からオドリーへと襲いかかった。何が起きたのか分らないままオドリーは城壁から下の堀へと真っ逆さまに落ちていった。


「シルバー!」
「クウゥーン!」


秋人達が困っているのを見兼ねてシルバーが城壁を見つからないように駆け上がり、オドリーの背後から襲い掛かったのである。


「良くやった!シルバー」
「クウゥーン!」


偉い?私偉い?そう言いたげに満足そうに秋人の隣へ戻ってくる。


「さて、じゃぁ助けようか!」
「はい!」


そう言って城壁に上ろうとした所で、城壁の上から詠唱が聞こえた。
『メテオライトレイン』
突然の事で、環が対応出来て居なかった。
秋人は環へ『ハイガード』をかけ庇うように環を押し倒した。
空からは隕石が――まるでこの城を標的にした様に。
降り注いだ。
詠唱したのは環が五味岡と呼んだ女だったが、8人の女達は結界も張らずに、自らまねいた魔法攻撃に押し潰されていった。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴドガーーン』


恐らく五味岡の勇者の能力が開花し、最後の力を振り絞ってこの国に一死報いたのであろう。自らの命をも代償として――。


もうその場には、形のあった物は何も残って居なかった。
栄華を極めた王都も王城も……全ての生物が死に絶えたかの様に見えた。






「なんだこりゃぁぁぁぁぁ!」


正人達がエルドラン王都へ着くと、そこには瓦礫なんて言葉は生温い。
以前の形はすっかり分からない程に破壊しつくされた跡だけが残っていた。
岬も恐るおそる、その中を覚束無い足取りで歩いていく。


「んーここはエルドラン王国の王都に間違いないぞ!」


こんな時だけまともな発言をするレミエルであった。


街の中は、押しつぶされた果物、酒、水、血で湿っており。所々から異臭も湧き出していた。
こんな中に生きている人が居るのだろうか?
岬は尚も用心しながら、進む。
やがて、瓦礫の中でも一際森に囲まれた場所。恐らく王城のあった場所らしき場所へと辿り着く。
かつては森だった場所も隕石の影響で潰され木の形は残っていなかったが、ここは確かに森だった。緑の葉が岩の塊の間から数多く見る事が出来たからである。


「秋人君?」


彼の名前を呼んでみる。
だが、声は一切しない。
ただ風の吹く音だけが聞こえる。
市壁も、城壁も消え去ったのだ、風の通りがよくなったのであろう。
ビュウビュウと風の音が煩いくらいに岬の耳に聞こえている。
すると――どこから現れたのだろうか?
目の前に小さなまだ両手で抱えあげる事が出来そうな狐の子?が居た。
その子供は岬を見つめ、少し首を傾げる。


「ねぇ、あなた秋人君を知らない?」


岬は何気なく聞いてみた。
こんな子狐が知っているとは思えなかったが、誰かに聞かずには居られなかった。
すると子狐はもう一度岬を見て、首を縦に振った。


「クウゥーン!」


岬の足に纏わりついて来たかと思ったら、小さな体の何処にそんな力があるのか?岬を右の瓦礫の方へと押し出した。
岬は不思議な事もあるものだ……と思いながらも、その子狐に押されるまま
先へと進む。
しばらく歩くと、少し盛り上がっている瓦礫の山があった。
子狐がその山に近づくと、足でそこを叩き出した。


「えっ?ここを掘れって事?」
「クウゥーン!」


まるで岬の言葉が分かるとでも言う様に、その子狐が首肯する。


岬がまさに狐につままれた様な表情をした後、言うとおりに手で瓦礫をどかしてみた。
すると、白いシャツが見えだした。
岬は慌てて、どんどん瓦礫をどかしていく。
体が半分位は出ただろうか?
顔は……うつ伏せに倒れている為に分らない。
まるで何かを守ろうとして、覆い被さった様にも見えるその男の人を、
近づいてきた正人が穴から抱き起こす。
岬も、その顔を確認出来た。
そこには、岬が会いたくても中々会えず、気持を伝えたいとずっと願っていた男の子。秋人だった。


「秋人君!秋人君、秋人君しっかりして」


秋人の体は冷たくなっており、とても生きている様には思えない。
だが、岬は必死に秋人の体を揺すった。
もう動かなくなってしまった彼を抱き締めて岬が号泣する。
いつかとは全く逆の立場になっていた。


すると、それを見ていたレミエルが……おい、お前。神様に教えてもらった魔法、いつになったら使うんだ?
そんな事を言ってきた。岬はそれどころでは無いのに……。
でも。神様から教えてもらった?
頭の中でそれだけが引っ掛った。
あれ?私、何教えてもらったっけ?
思い出せ、思い出せ!
――しばらくして漸く思い出した。
天界へ導かれた日に、
秋人君を死なせない為の『ハイガード』
秋人君が怪我した時の『ハイヒール』
後は……秋人君が死んだ時の!
それを思い出してハッとする。


「思い出しました!やってみます!」


そう言うと、秋人を抱き締めた状態で『リサクテーション!』を唱えた。


すると、死んでいた筈の秋人の体へ周囲から光の粒が集まってきたと思った瞬間、パアァッと青く光り輝いて、止まっていた筈の秋人の心臓が動き出し、胸が上下しだした。
岬は続けて『ハイヒール』を唱えた。
秋人の口元に耳を近づけると、微かに呼吸音が聞こえた。
安心した岬が秋人を再度抱き締めた。
しっかりと、もう離さないとでも言う様に――。


一方、隣にいた正人は、秋人を引っ張りあげた場所の下に眠る女性を見つめていた。その女性には結界魔法がまだ掛かっていて、ショックで眠っているだけの様に見えた。
シルバーが秋人の顔を舐めている。
岬もこの時になって、この子狐は秋人の友達?かペットなのだろうと思い至っていた。


最初に気が付いたのは秋人が先か?環が先か?




秋人は夢を見ていた。中学1年の春に階段から足を踏み外し、保健室へ運びこまれた時の夢を……。
簡易ベッドに寝かされた自分の腕と足に消毒液を拭きかけ、必死にシップと包帯を巻いてくれている少女の夢を――。
結局、彼女とはそれ以降、会話をした事は無かったが、その時からずっと好きだった。
その彼女の顔を思い出しながらふと?誰かに抱き締められているのを感じて
瞳をあけた。
すると、目の前には自分の好きだった岬がいて、秋人を抱き締めてくれていた。あぁ、彼女は死んでから髪の色と目の色が変わってしまったんだな。
そう思い、ここは天国なのだと思っていた。
天国なら俺も死んだと言う事だ。
でもまた彼女に会えたのなら――これで良かったのだ。
そうして秋人は口を開く。


「岬ちゃん、俺、中学1年の春に岬ちゃんに治療してもらってから――ずっとずっと岬ちゃんの事が好きでした」


やっと自分の気持を伝えられた。そう安堵し、これで心残りは無い。そう思っていると……岬からも返事があった。


「私も、あの頃からずっと秋人君の事が好きです。大好きです。秋人君も同じ気持で居てくれて、本当に嬉しい」


嗚咽を漏らしながら、天国の岬ちゃんが泣いていた。彼女の瞳から落ちる温かな雫は秋人の顔に降りかかった。
すると……目の前の岬の髪が元の黒い色に変わり、瞳の色も濃い茶色へと戻っていった。
夢の中だからそんな事もあるのだろう。
そう秋人は思ったのだが……次に、秋人の顔を舐め取る感触を受け、
意識がはっきりと覚醒する。
あれ?シルバー?
シルバーも天国に?
秋人が視線を岬の顔から周囲へと向けると、そこにはニヤ付いた顔の男と、
ガチムキの女、と幼女、そして岬の腕に登って秋人の顔を舐めていたシルバーの姿を捉えた。
あれ?
ここどこ?
岬ちゃんが生きている筈が……。
秋人が混乱していると、秋人が助け出された穴の中にいた環も起き上がった。
「いったい何があったの?」


環は、秋人を抱き締め泣いている少女と、長身でスポーツマンの日本人、ガチムキな大女、幼女?を見て首を傾げていた。


「秋人君、一体何があったの?この人達は……」


秋人の方を見てそう言った環は、振り返り、環の方へと顔を向けた女性を見て驚いた。
「あ、あなた、望月さんじゃないの!」
「はい、望月岬です。五十鈴環さん」
「あなた死んだ筈じゃ?」
「これには色々と訳がありまして……後で話しますね」


二人の会話を聞いて、秋人も夢じゃない事に気づいた。


「本当に岬ちゃんなの?」
「うん、そうですよ。秋人くん」


思わず語尾に、ハートマークが付いてしまいそうな甘い声で岬は言った。



「初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く