初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

21話、アルドバーン王国崩壊

――――アルドバーン国境――――


「おい、あれはなんだ?」
「エルドランの奴隷商じゃないのか?」
「それにしては様子がおかしくないか?」


鋼鉄製の檻に入れられた、女子生徒が産んだオークを乗せた馬車がアルドバーン国境へと運ばれ、国境警備隊の宿舎前で開け放たれた。


中から一斉に飛び出したオーク15匹は、所持していた戦斧で岩で出来た壁と鉄製の扉を叩いて壊していく。
通常、鉄製の戦斧では同じ素材の扉を壊す事が出来ないのだが――。
勇者の能力を兼ね備えたオークの怪力によってあっさりと破壊されていった。
「ぶもぉーぶほぶほ」
奇声を上げ、ただひたすら暴れ出したオークは砦の中へ侵入し、アルドバーン国境警備隊の兵を戦斧で切り裂いていく。


「伝令!王都に緊急事態を告げる狼煙をあげろ!」


伝令が指揮官の命令により、赤い煙の狼煙をあげていった。
相手がオークとはいえ、通常オークはランクで言えばCランクであり、
国境警備隊でも対処出来る筈だったが、このオークは勇者と同等の戦闘力を持っていた。
結果、半日も経たない内に砦は陥落した。
オーク達は何かに操られている様に、砦の兵を皆殺しにした後――。
そのまま、アルドバーンの王都目指して進軍を開始したのであった。
途中の街や村では女子供関係なく、殺戮の限りを尽くした。


オークといえば……女は犯せ!男は殺せ!が普通であるが、
今回のオークは女であっても最初から容赦が無かった。
オークの通る所、全ての生物が死滅していったのである。


これはエルドラン王国で開発された隷属の腕輪をつけて居る為なのだが、
それを知ったからといって、オークの快進撃が止められるかといえば不可能であると言わざるをえない。


このオークに対抗するにはAランクの冒険者か?勇者位であろう。
唯一の対抗手段の勇者もフォルスター王子の迂闊な行動のお陰で、出奔してしまった。


ではAランクの冒険者は?と言えば、そんなものは存在しないのである。
そもそも人類の最高ランクはAランクでAは勇者を指す。
よってBランクはある程度の数はいても、Aランクは現在は0なのである。
その結果、3日でアルドバーン王都まで辿り着かれてしまう。


アルドバーンの王都では市壁の上に弓兵を待機させ門の内側には、
Bランクまでの冒険者を多数配置して防衛にあたっていたのであった。


「オドリー様、市壁が頑丈でオーク共も二の足を踏んでいる様です」
「笛を鳴らせ!」


『ブオォォォーブオォォォォー』


オドリーの指示で部下が笛を鳴らした。
すると、今までは戦斧だけで攻撃していたオークの両手に魔方陣が浮かんだ。
次の瞬間……『ドゴーン』と言う破裂音と共にオークの手からファイアーボールが放たれた。
これに驚いたのは市壁の上に居た弓兵だ。


「オークが魔法を使うなんて……」


市壁の上で、兵達の指揮を取っていたフォルスター王子も、これには驚いた様だ。


オークの放ったファイアーボールは全て門へと当り、次の瞬間には鋼鉄製の門が吹き飛ぶ。
邪魔な門が無くなった事で、オークは一斉に王都へと入り込んだ。
門の内側で待機していた冒険者達は、先程の爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされて重体に陥っている。
弓兵が必死に矢を放つが、矢が当ると思われた瞬間に――結界に防がれそのまま
地面へと落ちた。
矢を放った兵に気づいたオークが門の上に向け、再度ファイアーボールを放った。
その火の玉は兵の集まっている場所へ着弾し、次々と兵達が燃え上がった。


オークに進軍され街の住民は退避を始める。
城へと逃げ出す者、他の門から逃走する者、だが、無情にもオークが城以外の、どの出入り口にも配置されており、逃げ出す前にはファイアーボールと戦斧の刀の錆になっていった。
もはや街の住人は、家の中に引き篭もるしか手は無かった。


逃げ出す者が居なくなった王都の、王城までの道をオーク達が進軍する。
オークの後方には――オドリーとその配下が我が物顔で馬車に乗って進んでくる。
城壁の上に集められた兵達が弓を構えている。
城壁の上には投石機も用意されていた。
オークが近づいた瞬間に、それらを一斉に放つが――。
全てオークの結界に阻まれて、オークの手前で落ちた。


「うわぁー化け物だぁぁぁぁぁぁー」


攻撃が一切通じないオークが相手なのだ。
半狂乱になるのも、分かるというもの。
だが、王城から外に出る道は正面の、オークのいる道だけであった。
隠し通路で王族が、街の外へと脱出を出来る様になってはいるが……。
他の兵や貴族、大臣ですら――これの存在は知らされていなかった。


「国王陛下!もう城壁が持ちません、どうかお逃げ下さい」
「この国の民、部下の兵達を置いて我だけ逃げるなど出来ようか!」


この国王はまともであった。


だが、そんな国王の下に更なる悲劇の報告が……。


「フォルスター様、市壁の上で指揮を執っておりましたが……オークの魔法攻撃により……お亡くなりに。ご遺体は骨すら残らず消失致しました」
「なんと言う事だ……これでこの国は終わった。城を枕に討ち死に致すとしよう」


大臣、兵達が引きとめようとするが、自らの首に短剣を突き刺し――。
国王ヘルスター・アルドバーンは45年の生涯に幕を閉じた。
希望の無い状況に、城の中の兵達の中では殉死が相次いだ。


「ちくしょーこんな所で死んでられないんだよ。あたしは!」


以前、岬を狼の巣から連れ出した、あのゲテモノ鍋が自慢の女、エレンは下水道の中に篭り、逃げ出せる隙を窺っていた。
外の様子が静かになった事で、一旦様子を見に外へ出てみると――歩いている人は1人もおらず、全ての敵も城へと集められていた。


逃げ出すなら今がチャンスかもしれない!
そう思ったエレンは市壁の壊れた場所で、人が通れそうな穴から這い出し、外へと逃げ落ちた。


城の中に居た者はことごとく、オークに殺され――。
永きに渡って続いてきたアルドバーン王国はここに終焉した。
















「そないな事でどうしますん?」


一方、秋人達はアオイの特別訓練を受けていた。
ひたすらグラビティを体で受けて、その魔法を肌で感じるという――。
まさに無謀な教え方であった。
半日浴び続けたお陰で、秋人も環も何とか使える様になっては来ていたが、
体は何度も押し潰された事で悲鳴を上げていた。


「いやぁ~今日も疲れた……」
「本当にね……流石にあれを、延々と受けるのはレベルが上がってもきついわね」


滞在先のリビングで最近の日課になっている……愚痴である。


「でも私達もグラビティを覚えたし……これで先輩達とも互角にはなったんじゃないかな?」
「だといいけどね、向こうもレベル上げをやっている筈だし」


実際は、短期間で強くなり過ぎた為に、現状で満足して滞在先では奴隷の娘達を集めてハーレムを築いているのだが――それを秋人達が知る事は無い。


翌朝もアオイの訓練を受けようと、天守閣へ行くと……。


「ほな状況は、詳しくは分っては居ないんどすな?」
「はい、ただ……周辺の街や村から逃げ出して、この国への亡命を求めてきた民の話では――既にアルドバーン王国は落ちたと……」
「まったく、やってくれはりますなぁ~」


俺達が呼び鈴を叩いて到着を知らせると、ミカゲさんと、黒装束の忍者?とアオイさんで打ち合わせの最中であった。


「悪いんやけど、今日の訓練は中止や、エルドラン王国が動きよったさかいになぁ~」
「それって……」
「心配する事やおまへん。攻め込んだのはお隣のアルドバーン王国やさかい」
「詳しい話は忍びからの情報が集まり次第どす」


俺達は、天守閣からリビングに戻ってきていた。
勇者召還からまだ2週間だ……そんな短期間でいったい何が……。
そう秋人達が心配するのも無理は無い。エルドラン王国には、一緒に転移してきた生き残りの生徒が居るのだから……例えオークの子を身篭っていたとしても。
次の報告を待って秋人と環がリビングで待機していたのだが、
結局その日には続報は無かった。


正確な情報が入ってきたのは2日後の事だった。


アオイから呼び出され、天守閣へと行くと。先日来た時にも居た――黒装束を着た娘が5人、アオイの前で跪いていた。


その5人がもたらした報告に秋人も環も耳を疑った。
その内容は――エルドラン王国に使役された魔法を使う、怪力のオーク15匹がエルドランからアルドバーン王城までの街、村の住人を無差別に殺し、
僅か3日でアルドバーンが落ちたというものだった。
アルドバーン側で生き残った者は、気づかれない様に隠れ潜んで居た者、
他の場所で様子を窺っていた者だけだという。
大勢の王都の住民はというと、後からやってきたエルドラン側の兵によって奴隷として連れ去られたらしい。


恐らく、エルドラン王国の北東にある金の鉱山で働く労働力として、
男手はそこへ送られるのであろうとアオイ王女が教えてくれた。


「なんや聞いていた話と違いますなぁ」


オークの子を身篭った生徒で生存しているのは8人の筈だった。
だが、今回のオークは15人。
その差7人はどうしたのか?とアオイ王女は問いただしているのであった。


それを秋人や環が知る筈も無いのだが……考えられる事は一つだ。


「まさか!最初に自殺したと教えられた生徒が生きていて、産まされた?」


環、正解である。


「生徒さんで死んでいる者が居ないなら、今後もオークを量産されてもおかしくないどすなぁ~」


実際、残りの17人が新たに身篭っているのだから。まさに量産であった。


アルドバーンは他国であるから、ヤマト皇国に被害は無い。
だが、その武力がいつヤマトへと襲い掛かるか分らないのである。
アオイが苛立つのも分る。
この白鷺城の周辺は守れても、他の村や街を全て守る事は出来ないのだから。
もし化け物のオークが量産されているのならば、数を増やされる前に叩く必要がある。
アオイは周辺各国に早馬を飛ばし周辺各国会議の開催を行うよう嘆願した。

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