初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

19話、接吻

――――エルドラン王国、王城地下2階――――


「ブヒィブヒィーーーー」
 「うぐっぐあぁぁぁぁぁぁー」
 「ブヒヒブヒー」
 「いやぁ~も、うやめてぇ~」


 「オドリー様、この様な場所に……如何なさいましたか?」
 「うむ、勇者対策の進捗状況を確かめにな――」
 「1人には逃げられましたが、17人は全て予定通りで御座います。一度、出産した娘達も再度、苗床にしていますので……このまま行けば50人~100人を越えるオークの子供が生まれる事でしょう。更に時間を頂ければ、娘達が壊れるまで、何匹のオークが生まれるか――」
 「で、この化け物共はちゃんと制御出来るのであろうな?」
 「はい、それは実験済みで御座います」


 「オドリー~てめぇぐざげんなよ!」
 「おやおや、誰かと思えば五味岡では無いか!豚の子供を妊娠した気分は如何ですかな?貴女の様な卑しい者にお似合いの末路ではないですか。ふぉふぉふぉ――」
 「てめぇぜ……ぐたいにゆるさねぇ……あぁぁー」


  ここでは、生存者の18名の内、五十鈴環を外した全員がオークの苗床にされていた。
そう、最初に自殺したと言われていた7人も既に出産済みであり、さらなるオークの子種を飢え付けられていたのであった。
 何故、自殺を装ったのか?
それは、オークの出産が早そうな者だったからに他ならない。
 最初に生徒達がこの王城に連れてこられ、最弱勇者の烙印を押された時から、この女子生徒達の運命は決っていたのだった。


 「それで、いつから戦闘に出せる様になるのだ?」
 「はい、出産後1週間足らずで可能と考えます」
 「では、手始めにアルドバーン王国にでも進軍させるとしよう」
 「では、その様に調整いたします」


こうして、エルドラン王国が動き出したのである。






















 「今日はお疲れさんどした」
 「お疲れ~」
 「本当に――疲れました」


 流石に、初日だけあって環はヘトヘトであった。
それにしても、驚いたわね。秋人君がこんなに強いなんて……。


それは当然である。学校で、森で――魔獣を倒しまくったのだから。


 3人はダンジョンから出て、
 城の秋人達の部屋へ戻ってきていた。


 「初日から勇者の能力が覚醒出来て良かったではおまへんか」
 「お陰様で……でも力の使い方が難しいですね」
 「それは最初だから仕方無いよ」


  環は弓が出せる様になったが、近接ではからきしであった。
 近接戦闘とか覚えないと不安だなぁ……。
 今回行った7階層までは、弱い魔獣ばかりだが、
この先――。
 魔獣が強くなると、確かに不安になるのも仕方が無い。
 秋人やアオイが、常に守ってくれる訳では無いのだ。
そこで近接用の武器が無いかアオイに聞いて見た。


 「そやねぇ~ある事にはあるんやけど……小太刀なんよ」
 「でも、無いよりはいいですよね?」
 「そら当然、あった方がええに決っています」


 後で、部屋に届けさせますね。
そう言って、アオイは天守閣へと戻っていった。


さて、汗もかいたし風呂でも入ってこようか?


 「そ、そうね」
 「じゃ、環ちゃんから先にどうぞ」
 「ありがとう、お先に頂くわね」


  何ともぎこちない二人である。
 秋人達の滞在している階には、風呂は1つしか無い為に、交代で入る様になっているのだが……別に一緒でも……と思わなくも無い環であった。
 秋人の方は未だに、岬を殺した罪悪感から抜け出せずに居たのだが……。


  3畳ほどの大きさの、檜風の浴槽に胸まで漬かりながら、
 環は今後について考えていた。
 秋人君は、エルドラン王国に復讐するって言っていたけど……。
そんな事出来るんだろうか?
 1人で国を相手取るとか出来るんだろうか?
そんな危ない事しなくても――。


  岬さんを殺したってダンジョンで言っていたけど……。
そう、秋人はダンジョンでこれまで起こった事を話していたのである。
オークと間違って岬を殺し。
その後で、襲っている方のオークだけ狙って殺し。
エルドラン王国の人間の会話を聞いてから、
 森を抜け、村に辿り着き、牢屋に入れられた事。
その後、ワニの生息する川から北東に向っていた事。
 道に迷い、また森に入って――先輩達と戦った事まで。
その話を聞いて、なんで秋人君がそこまで戦うのか?
 環はずっと考えていた。


  復讐って死んだ生徒達の?それとも――。
まさか、殺してしまった岬さんの為?
 復讐って言っていたから、仲の良かった生徒の?
でも秋人君、クラスではあまり他の生徒とは話しているのを見た事ないし。
やっぱり、岬さんの事が……。
 後で聞いて見よう。
そう思いたち、Cカップの胸を揺らせて風呂から上がったのである。


  一方で秋人は、テーブルの上に用意されたお茶を飲みながら、
どうやって、エルドラン王国に復讐するかを考えていたのだが、
こちらも、考えが纏まってなかった。
 今の自分の実力では、先輩達をどうにか出来る訳が無い。
 何かいい方法は――。
やっぱりアオイさんに魔法とか教えてもらった方が早いかな……。
 手数でも、威力でも、現時点では負けているのだから――。


  そんな事を考えていたら、環が風呂から上がってきた。
 秋人君も入ってきたら?そう言われたので、
 秋人も風呂に入る。
 勿論シルバーも一緒であったが、
シルバーも今日は疲れたのか?
 大人しい。


  風呂でのぼせたシルバーを両手で持ちながらリビングへ戻ってくると、
てっきりもう部屋に戻っていると思っていた、環がいた。
 何やら話があるらしく――。
テーブルを挟んで対面に座ろうとしたら、
 自分の横に座れと、隣に用意された座布団を掌で叩いていた。
 風呂上りでその距離は……とも思ったが……。
 岬を亡くして寂しかったからか?
それとも欲情したのか?
 大人しく隣に座った。


 「秋人君に、聞きたい事があってね……」


 秋人はちょっとドキドキしながら答えた。


 「え、な、なんでしょう?」
 「何でそんなに緊張してるわけ?」
 「えっ、そりゃ風呂上りの女性の隣に座れば……ね?」


ひぇ?もしかして、私の隣に居るだけでドキドキしちゃってるの?
あ……私も意識したらドキドキしてきた。
 「そ、そうよね?私も……緊張してきちゃったじゃないのよ!」
 「あ、ごめん」


もしかして、岬さんの事は気のせいだったのかな?
 環は、決心して話し出した。


 「あのね、秋人君が復讐にこだわる訳が知りたいの」
 「それは、ダンジョンで言った通りで……」
 「じゃなくて、秋人君。岬さんの為に、復讐をするのかなって?」


――思ったんだけど。と環は漸く話せたのだが、
 秋人の強張った表情を見ていたら……納得出来た。


  そっか。秋人君は岬さんをね――。
 好きだった子を自分で殺しちゃったから……今も苦しんでいるんだね。
 同情だったのか、愛おしさからかは分らない。
でも、そんな秋人君を黙って見ている事が出来ず――。


  隣に座る秋人君を、抱き締めた。
 抱き締めたまでは、良かったのだが……そのまま押し倒す形になる。
 秋人君が驚いて目を見開いている。
やば、なんか顔が熱い。
 私……今。顔真っ赤かも!
 男の子を押し倒したのも初めてだけど、お風呂上がりで浴衣姿だったので。
お互いの浴衣がはだけてしまっている……。
どうしよう。
 何か言おうと思うのだが声が出ない。
 私は、ええいままよ!と……。
 目を見開いて固まっている秋人君の唇に、自分の唇を重ねた。
 秋人君が、何か言おうと唇をモグモグしているのだけれど……。
それが余計に、情熱的なキスになっている。
ここまでくると、二人共、顔は真っ赤だ。
 小鳥がついばむようなキスを、どれ位していただろうか?
 秋人君は諦めたのか?
 目を閉じている。
 何か目を開けて見つめている私だけ馬鹿みたいじゃない!
 私も目を閉じ様としたら――。


 「何やお邪魔やったみたいね……」


ひぇぇぇぇぇー。
 慌てて二人して体を起し声の方を見ると……。
 襖が開いたままになっていて――。
 廊下を通りかかったアオイさんに見られていた。


 「別に覗こうとした訳ではおまへん。せやかて……襖あいとったで」


 「「すみません!」」


 二人揃って、アオイさんに土下座していた。


 「そないな関係やったんなら、言うてくれやらんと……」


 部屋一緒の方がええやろ?と言って。
 女官に命令して、環の部屋に秋人の布団を運ばせていた。


………………………………………………。


ちょっと、アオイさん。私まだ心の準備が……。
そんな事を、言える筈も無く。
その日から、二人の寝室は一緒になったのである。


















  岬は、全裸の状態を何とかしようと、代わりに成る物を探したが……。
あたり一面が蜂の巣状の惨状なので草はおろか木すら無い。
 取り敢えず、しゃがみ込んで胸を片手で隠した。
 Bカップの岬のバストは、何とか手で隠れた様だ。
レミエルは全裸でも、それ程気にしていない様だが……。


 大事な部分だけ隠した状態で、正人に右手を当てた。


 「ハイヒール」


 火傷を負っていた正人の体が、正常な状態へ戻っていった。


 「正人さん。こっちは見ないで下さいね、もし見たら――分りますね!」
 「はい、分ります。分りました!」


 岬にお尻を向けた体勢で、頭を上下に振った。
 岬の方からは、ぷらぷら揺れている物が見えていたが……。


 「ぎゃはははは、お前、面白い奴だな!もろ見えてるではないか!ぶはははははははははははー」


ダメ天使……笑いすぎである。
 自身も裸なのに。


  レミエル以外の二人で話し合って、来た道を戻る事にした。
 途中で倒した、狼の死体から皮を剥いで、
 服の代わりにする事になったからである。


 正人が先頭を歩き、その後ろを岬とレミエルが続く。


 「それにしても、さっきの魔法には驚かされたな」
 「まったくじゃ!貸し1つじゃからな!」
 「ごめんなさい――」


 悪いのはレミエルなのだが……。


 「そう言えば、喋れる様になったんだな?」
 「ええ、色々諸事情がありまして……」


 流石に、神様が云々は……言っても信じてもらえまい。


 「んで?名前は何て言うんだ?」
 「はい。望月岬です」
 「岬ちゃんか。じゃやっぱりあの制服は……」
 「はい。東北青葉大付属学園です」
 「俺の記憶力も満更じゃねぇーな!」


マニアの記憶力など、どうでもいいと思った岬であった。


 「それで?何で異世界に来たんだ?」
 「分りません、気づいたら学校の校舎毎、この世界に……」
 「それって――」
 「はい。私を含め、450人位は居たと思います」
 「マジかよ?そんな大量召還なんて聞いた事ねーぞ!」
 「でも、召還されて直ぐに――」


  オークに姿を変えられ、
 乱暴なオークが男子生徒を殺して、
 女子生徒を犯していた。
そして岬だけ何故か?別の場所にその後、飛ばされたと話した。


 「じゃ、岬ちゃんもオークに?」
 「いえ。私は、友達が助けてくれたんで……」


 秋人の事である。
 実際は殺されたのだが……。


 「そっか。それは良かったな」


 良かった?
 何が?
あれだけの生徒が死んだのに?
 良かった?


 「何が良かったって言うんですか!大勢死んだんですよ!」
 「あぁ、ごめん。そうじゃなくてさ……」


 正人は頭を掻きながら説明しだした。


  「オークってのはさ、繁殖力が半端じゃない位強いんだよ。だから、オークに犯された子は確実に――オークの子を身篭る。だから、岬ちゃんが、そうならなくて良かったって意味で言ったんだけど……」
 「そ、そんな――」


――岬は唖然とした。
それもそうだろう……。
あの場では、犯されて居なかった女子生徒の方が圧倒的に少ないのだから。


 「それじゃ、万一助かっても……」
 「あぁ、転移直後に種付けされてりゃ、今頃は出産しててもおかしくねぇ」
 「っつ……」
 「私、学校へ戻らないと……」
 「戻るって言ったって、どこの国が召還したのか、分からねぇんだろう?」


あっ……そういえば。
 岬は何処の国が召還したのか?
未だに知らなかった。


 「レミエルさんなら知っているんじゃないんですか?」
 「わらわは知らんぞ」


 勿論、嘘である。


 「何で知らないんですか?」
 「仕方なかろう?岬を移動させたのはわらわだが――」


 天界へ呼んだのは神様だ。と、レミエルは恍けた。


 結局、口が利ける様になっても岬は何も知らないままであった。



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