初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

12話、絶体絶命!

 私の名前は、五十鈴たまき


 高校1年生です。
あのおぞましい事件から、今日で3日目。
教室中に醜悪な顔の豚が湧いた時、私の体は凍り付いた。
部活は弓道をしており、
クラスでは委員長もしていました。
勉強は、廊下に張られる成績順位で常に上から3番には入ります。
所謂、文武両道を地で行く優等生です。


 そんな私でもあの時――。
あの瞬間だけは身動きが取れない程、怖かった。
周りで豚によって殺されていく同級生を見て――。
足が竦みました。


 女子と思われる子達は襲われ悲鳴を上げていました。
もっとも『ブモーブモー』としか聞こえませんでしたが。
そしてその魔の手は、
立ち尽くしていた私にも襲い掛かりました。
私は必死にしゃがみ込むのですが、
体が恐怖で硬直していた私には――。
抵抗出来ませんでした。
クラスの中には中学でHを経験した子も居ましたが。
私は部活と勉強に必死でそんな余裕は有りませんでした。
そんな私の初めてが……。
こんな醜悪な豚に。


助けて。
誰か助けて。
私も他の子と一緒です。
『ブモーブモー』としか言えませんでした。
服を剥ぎ取られ、
もう終わった……。
と諦めかけた時に、それは起きました。


 私の体に乗り掛かっていたオークの背中に槍が刺さり。
私の制服に緑の液体が飛び散ってきました。
私は腕の力で重しを取り払い。
必死に……。這って教室の隅に逃げました。
しゃがみ込んで見ていると1体のオークだけが槍を持ち、次から次へと。
女生徒らしきオークに襲い掛かっているオークを刺し殺していました。


 どうやって見分けているのか?
しばらく様子を見ていれば分りました。
襲われているオークでは無く。
襲っているオークに狙いを付けていました。
しばらくすると――教室の中には彼だけが立っていました。


 彼が教室を飛び出して行った後に、
エルドラン王国のオドリー氏が部下と共にやって来て。
最初はこれで助かったと思いました。
でも謁見の間で、国王陛下とアヴューレ王女の私達を見る視線を見てから。
何か嫌な予感が私の中に生まれました。


 あの国王の虫けらを見る目。
あのアヴューレ王女の侮蔑の混ざった目。
3年の男子二人には笑顔で謁見していました。
この時から。
私はこの国はおかしい。
何かがおかしい。
そう感じる様になりました。
あの大惨事から生き残った女子生徒は私を含め18名。
その内、オークに射精までされた生徒は15名。
アヴューレ王女の話ではオークの生殖機能は凄まじく、
恐らく、15人はオークの子を身篭るだろう。
そう見下した視線を向け言い放ちました。
普通の高校生なのに。
何故そんな目に?
アヴューレ王女のその話を聞いた15名の内、既に7名が自殺しました。
死体は見ていません。


 オドリー氏からの報告だけです。
朝、御付のメイドが見に行くと既に自害した後だったそうです。
残りの8名もベッドから出て来ないので、顔も見ていません。
射精をされなかった私以外の2名の内、
1名は池澤菜摘さんで、ショックで精神状態が幼児化しました。
何を言っても『バブバブ』しか言いません。
もう1名は五味岡珠江さん。彼女は辛うじて彼に助けられましたが……。
部屋に閉じ篭って出てきません。
中学の時から、異性関係が激しいと噂のあった子ですらこうなのです。
私は本当に運が良かった。


1人談話室で紅茶を飲んでいると、
やっと部屋から出てきた五味岡さんから嫌味を言われました。


 「あんたは挿入もされず、汚れてないから暢気でいいわね!」
「そんなつもりじゃ……」
「他の子を見なさい!あんたクラス委員でしょ?」
「早い子だともうお腹の中で動くのが分るほど大きく成っているのに」
「えっ、まだ3日目でしょ?」
「あたしに言われても知らねぇよ、オドリーさんの話ではこれが魔獣では当然なんだとよ」
「信じられるかい!3日前まで普通の子がお母さんだってよ」
「それも化け物の子の!」
「っつ……」
「あんたはあの恐怖を味わって居ないから暢気に紅茶なんて飲めるんだ」
「あの硬いバットを、濡れても居ないのに、無理矢理入れられたあたし等の気持をあんたなんかに分る筈ないよね」
「……………………」
「田辺なんか、あれだけ学校のアイドルだとか持て囃されていたのに、後2、3日で化け物の母だとよ」
「笑っちゃうだろ?」
「笑えよ!」
「1人だけ助かりやがって!」
「……………………」
「さっき斉藤美里の様子を見てきたけどな、あれも、もう死ぬぞ」
「そ、そんな……」
「いいじゃねぇか!死なせてやれよ」
「学校では真面目で、本好きな大人しい子だったのに……」
「初めてが化け物だぞ!」
「死んで楽に成りたいって気持ち」
「あんたにはわからねぇよな!」
「1人で優雅に紅茶飲める余裕がおありなんだからよ!」


 私には何も言えなかった。
私は秋人君に助けられたから。
ただ、皆と一緒に居るのは辛い。
これから毎日同じ事できっと責められるだろう。
それならいっそ……。


その晩、私はエルドラン城を抜け出し逃げ出した。
















「かぁーやっぱりここの水は美味いな!」
「クウゥーン!」


今、前に立ち寄った泉で俺とシルバーは休息を取っていた。
流石に歩き通しでは疲れてしまう。
これはチート能力があっても変わらない様だ。


「やっぱり国にバレたか」
「クウゥーン」
「あの村に泊まったのが不味かったんだよな」
「クウゥーン?」


あの村から情報が漏れたのは明らかであった。


「ここならあの荒野から結構、離れているから平気だろう」
「クウゥーン!」


そう言って居ると――。


「あーお前がアキトか?」


日本語で話し掛けられた。
声の方を良く見ると。
そこに立っていたのは、どう見ても2名の上級生。


「えっと、先輩はどなたですか?」


「あー俺か!俺は3年で柔道部主将の鈴木だ」
「俺もか?俺は同じく3年、サッカー部、部長で山田だ」


やっぱり3年かぁ、こんな所でカツアゲも無いよな?
鈴木と名乗った先輩は背が俺が見上げる位あるから180cmって所か?
スポーツ刈りなんて今時、流行らないだろうに……。
山田の方は……背が俺と鈴木先輩の中間の高さか?細い体にショートレイヤーの髪かぁ女にモテそうなイケメンだな。
にしても何で2名とも武器を持っているんだ?
山田は剣を、鈴木は斧を所持していた。


「それでお前は?」
「はい、先輩の前で緊張して挨拶遅れました。鷹山です」
「鷹山……下の名前は?」
「秋人ですが?」


名前を名乗ったらいきなり山田に斬り付けられた。
危ねぇ、もう少し避けるの遅かったら死んでいるぞ!


「行き成り何すんですか?あたっ……」


当ったら死んでいますよと言う前に今度は鈴木が斧で切り掛かってくる。


「まさか!隷属の腕輪か!」


言って2名の腕を見れば、シルバーの模様が掘られた腕輪をしていた。


「何だって?良く聞き取れなかったぞ!」


都合の悪い情報は入らない様になっている様だ。
しかもこの二人……強い!
元の性能差のせいか?
それとも何か秘密でも?


単に秋人は1クラスと廊下、階段、昇降口でのみオークを退治したが、
この二人は2学年のオーク、3学年のオークを二人で倒してきたのである。
強くて当然だった。
やばい、やばい。


「シルバー!逃げるぞ」
「クウゥーン!」
「逃がすかよ!」
『ファイアーボール』
山田が火魔法を放ってきた。


「ちょ、ここ森なんだけど……」


ファイアーボールは秋人の後方に着弾、爆発炎上した。
まずい。退路が……。
完全に山田と鈴木は秋人の上を行っている。
このままではジリ貧だ。
仕方無く秋人も魔法で応戦する。


「アイスランス」


秋人の頭の上に10本の氷の矢が浮かんだ。
下半身に狙いを付け……。


「いけぇー!」


氷の矢は狙い通りに山田と鈴木の足に当る!
と思えた。
しかし、半透明なプリズム結晶が彼等の目の前に現れ……。
矢の方が消滅した。


「なっ!」


なんだよ!あれ!
あれか?防御結界って奴か!


後ろには燃え盛る森、目の前には山田と鈴木。
まさに秋人、絶体絶命のピンチであった。
















朝、いつもの様に目覚めた私は……。
目の前の光景に唖然とした。


何これ?


何で私……全裸。


しかも何か体が……痛い。


隣を見れば大口を空けて熟睡しているフォルスター王子が……。
二人して全裸で……。
しかも二人とも毛布も、
布団も掛けずに……。
ベッドの上で寝ていた?
頭の血液がすっと一気に引いていくのを感じる。


岬はゆっくりと目線を自分の股間に持っていくと。


そこには赤い血が付いていた。


深く調べなくても本で読んだ。


初めての子の殆どが経験する。


処女幕の破れたしるし。


なんで?


どうして?


王子に襲われた?


でもいつ?


食事の後から一切の記憶が無い。


まさか……。


状況を飲み込んだ途端……。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」


大音響の悲鳴を上げた。
当然、寝ていた王子も起きる。


「おはよう、昨晩は凄かったね」


頭の中が真っ白になる。


秋人君。


あき、と。くん。


もう。秋人君に会う資格が無くなった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」


再度、大音響で泣き喚いたと思ったら――。


全裸のまんま茫然自失の状態で後宮の外にフラフラと歩いて行った。


王子も呆然とただ眺めているだけだった。


そして、花壇の前に岬が着くと。


真っ白な繭になった。


文字通り、繭の状態の殻に閉じ篭った。



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