初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

7話、二人の行動

  さてこれからどうしたものか……。
 どちらかと言うと騙し討ちに近いよね。
 あんまり聞いた事が無いが、俺が知らないだけか――とか言っていたよね?
  それがどうしてこんな事になっているのやら……。
 牢屋の中で体育座りをしながら一人でぶつくさ言っていると、


「クウゥーン」
「あれ、シルバーも捕まったのか?それは災難だったな!」


  しかしシルバーも気づかなかったって薬でも盛られたのか?
 そう考えたら、どんどんこの村が胡散臭い村に見えてくるね。
  それにしても何時になったら取り調べだか何だかするんですか?
 俺としては一宿一飯の義理はあるのだけど、いつまでもこれじゃぁね。


「ちょっと!牢屋の番人さん!何時になったら出してくれるんですかね?」


  この腕っ節は強そうだが、実は強そうでは無い番人に問いかけるが、
 この番人は今朝からずっと黙ったままだ。
 悪い事とかまだしていないんだけど、これからするかも知れないけどね!
 いきなり異世界に召還された挙句にこれじゃ文句の一つも言いたくなる。


 ガシャっと音がして牢屋の中に今朝の老人と、ガーナッシュが入ってきた。


「どうじゃ何か話す気になったかな?」


  ――これって尋問の代わりだったの?


「話すも何も、何も疚しい所が無いので……」
「嘘を付いておいて後ろ暗い所が無いとはこれいかに!」
「迷って森へ入り、ここまで来たのも本当ですよ?」
「どうです?」
「うむ、嘘は付いてないようじゃのぉ」


 この人達もあまりこういう事はしたくは無いけど、立場上仕方なくか?


「そもそも、俺はここがどこの国かすら知らないのですよ!」
「この国はエルドラン王国じゃ」


 エルドラン王国と。
 王都が東って事は国王にも東に行けば会えるか。
 ここから出られたらね。
 モンスターを倒して魔石を取り出せば金になる事も聞いたし。


  結局その日は牢屋から出してもらえなかった。
 翌日の早朝にガーナッシュだけやってきて、釈放だ――。
 という話になり、そのまま村から追い出された。




「それにしても酷い目にあったな!」
「クウゥーン」


  牢屋から出されてそのまま俺が持っていた槍と完全に乾いた服を返され、
 他には一応、お情けなのか?パン2個を持たせてくれた。
  学校で盗み聞きした時に勇者がどうとか言っていたな……。
 という事は魔法とかあるのかな?
 試しに何かやってみるか!
 俺は目の前の石に向ってファイアと唱えて見た。
 ――――――何も起こらなかった。
 やり方が間違っているのか……。
 今度はイメージを頭の中に浮かべ、再度――。


「ファイア」
『ボウッ』っと青白い炎が石に当たった。


 出来た!でも青白い炎ね……。
 もう一度、今度はちゃんと色を赤でイメージして――。


「ファイア」
『ボウッ』今度はちゃんと赤い色の炎が出た。


  なるほど、イメージが大切な訳ね。チョロイな。
 歩きながら魔法の練習をして秋人は、ストリーム、ブリザード、インフェルノ
 他にも多数の魔法が使えるようになっていた。
  えっ?なにそんなに簡単に使えるようになっているの?って?
 勿論、作者の都合です!


  秋人は以前日本で読んだ、竜神の加護を持つ少年の犬獣人の少女の技、
 氷結を試しに使ってみると、目の前にあった小さな木が真っ白く凍りついた。


「おぉーやってみるもんだね!」
「クウゥーン!」


 シルバーも喜んでくれている様だ。
 そんな感じで魔法の練習をしていると前方にゴブリンが3体現れた。


「さっそく魔法で倒してみるか!」
「ファイア」
  ゴブリンは突然目の前に現れた赤い炎に包まれた。


 他の2体は二手に分かれ、左右から挟みこむ様に秋人へ襲い掛かった。
 だが、一昨日散々無手でゴブリンを屠った秋人をどうにか出来る訳も無く。
  秋人の間合いに入る前に、2体とも槍の餌食になった。


「さて、村で聞いた魔石とやらを取り出してみようか!」
「クウゥーン!」


  だがどこの場所にあるか分らない――。
 せっかく一昨日、洗ったのにまた汚れるな……。
 だがやるしかない。槍で刺した箇所の傷を広げ、手を突っ込み探ると――。
 丁度、胸の中心にそれはあった。


「シルバー、あったよ!」
「クウゥーン!」


 取り出した丸い物体はまだ血が付着していて色とかは良く分らないが、
  まさか貴重な服で拭取る訳にもいかない。
 近くで生えていた葉っぱを千切って、それで拭いた。


「おぉ、なんか色が薄い赤なんだな」
「クウゥーン?」


  アニメや小説の知識では確か、くすんだ色の魔石は安かった。
 逆に色が鮮やかで大きい方が高価だったな――。
 そう思い至り、綺麗に拭取られた魔石をズボンのポケットに仕舞い込んだ。
 秋人は今、東へ向け歩いている。
  モンスターを狩り、魔石を集めながら食糧が買える街を探して――。
 村を出たのが朝で、太陽はまだ頭の天辺にある。


「そろそろ腹が空いたな」
「クウゥーン」


  一応、村では朝食をご馳走になった。貧相な食事ではあったが……。
 それでも育ち盛りで年頃の秋人には足りなかった。


「さてどこで食べるか……もらったパンは2個しかない」
「クウゥーン」


 それに、水も飲みたい。
 辺りを見渡せば、右が森、左は小麦畑がまだ広がっていた。


「3時間は歩いたはずだけど――。まだ畑が広がっているんだな」
「クウゥーン」


  聞いていたこの国の穀物倉庫というのは本当だったらしい。
 いっそこれに火でも放てば食糧不足に陥ってこの国を貶められるのでは?
  そう思ったが、民にも被害が出るのは秋人も望まない。
 それからしばらく森に沿って東の方へと歩くと漸く川が見えてきた。


「うはーこれは大きな川だな!」
「クウゥーン」


  そう。北から南へと走る幅100mはありそうな川が秋人の進行を妨げた。
 しかもこの時代の川だ。
 満足に整備されては居ない――。
 川に沿って歩くのにも離れて歩かなければどこまで水が来ているのか分らない。


「これは水が飲めるのはいいけど……困ったな」
「クウゥーン」


 川の流れは緩やかだが、それもおそらく天候によっては濁流と変わるだろう。
 傍の木には川の水を被った跡がくっきり付いていた。


「いい場所を見つけたらそこで休憩しようか?」
「クウゥーン!」


 ちょうど良さそうな場所を見つけ秋人はシルバーと共に食事を取る事にした。


「しかし何も無いのもつまらないな」
「クウゥーン?」
「日本に居れば暇さえあればスマホでなろうの小説を読んだり出来たけど」
「クウゥーン?」


  当然、ここにそんな物はない。
 秋人はズボンの中からスマホを取り出した。
  村では一旦、取り上げられていたが釈放の時に返された。
 電源も入って居なかった事で何か不思議な魔道具と思われていた。
  スマホの電源を入れると充電の残りは30%まで減っていた。


「これも後何日持つ事やら」
「クウゥーン?」


  そう呟きながらスマホの画像フォルダーを開く。
 そこに写っているのは、今はもうこの世に居ない。
  大好きだった初恋の相手、岬の写真だった。
 シルバーは初めて見る写真を見て首を傾げていたが、秋人は――。
  しばらく写真を見つめていたが、次第に目には涙が溜まり。
 ポタッ、ポタッとスマホを握る秋人の掌に落ちた。


「ごめん、ごめん」
「クウゥーン」


  謝っても本人は暢気にゲテモノ鍋を食っていたのだが……。
 それを秋人が知る事は無い。












  岬が、恐る恐るお椀に盛られたゲテモノ鍋を食べている間に――。
 エレンは鍋一杯にあった筈の料理をすでに平らげていた。


「早く食っちまいなよ!あたしだってまだする事が残っているんだからさ」


 急かされても口に入れては鼻を摘みながら噛んでいたので、早くはならない。


「そんなにあたしの料理は不味いかねぇ?」


  それを聞いて岬は首を横に振った。


「それなら早く食いな!」


  薮蛇である。
 普通の女子高生にこんな料理……。
 そう思いはしたが、せっかく作ってくれたのだ。
  無理してでも食べないと……。
 なんとかお椀一杯に盛られた料理を食べきった頃にはエレンは片付けを終え、
  出発の準備を終えていた。


「あんた、こんな所にいたら本当に死ぬぞ?」


  死にたく無いなら付いて来いと言われそれに従った。


「にしても、本当に口が利けないとはねぇ」


  不便だな、と言うエレンに首肯する。
 私だってこんな予定じゃ無かったのよ!
  神様、私の声を返して!
 そう心の中で叫ぶが……。
 それは、無理な相談であった。声を戻し忘れたのはドジっ子女神なのだから。
  何でこんな事に?学校がなんでいきなり異世界とかに飛ばされたのよ!
 エレンの後ろを付いて歩きながら岬はそんな事ばかり考えていた。
 エレンが急に立ち止まる。
  考え事をしていた岬はその背中にぶつかった。


「静かにしてな!」


  エレンがそう言うと、目の前から大きな狼が3体現れた。
 えっ、絶体絶命じゃない?これ!
 エレンが剣を構えた隙に、岬も掌大の石を拾った。
  睨みを利かせていた狼が腰を落としたと思った瞬間――。
 3体同時に飛び掛ってきた。
  エレンは既に抜剣しており先頭の1体に切りかかっている。
 岬も数時間前と同様に石を投げつけた。
『ズッ』という音と共にエレンが振るった剣は狼の首筋を斬り付け切断した。
  一方、岬の投げた石も狼の眉間に見事当り、頭蓋骨に陥没していた。
 もう1体は一度に2体も殺されたのだ。
  不利を悟って逃げ出そうと後ろを向いた瞬間に――。
 再び剣を振り被っていたエレンによって足を切断された。
『キャイン!』狼が嘶き地面へ転がった。
  その隙をエレンは見逃さず、接近して今度も首に狙いを付け斬りつけた。
『ズッ!』先程同様に狼の首が切断された。
  すごい!このガサツ女強いわ!
 飯まで食わせてもらったのにこれである。


「あんた、凄いね!あんな倒し方始めて見たよ」


  がははと豪快に笑いながら褒められた。
 バスケでシュートとパスは得意なんです!
  ちょっと岬も自慢げに笑った。


「多数に襲われなければ、一人でここまで来られたのも納得だね」


  一人でこんな所にいるから不思議だったそうだ。
 普通の人はそんな無謀な事はしないらしい。
  檻の馬車の男達に追われたせいで散々な目に合っているな――。
 だがそんな事を知らないエレンが、


「武器も持ってないから冒険者じゃないし、本当にあんた何者だい?」


  そう言われても……いたって普通の女子高生です!
 なんて言っても通じない。
  と言うか……言葉が通じても声が出ません!


「あたしのノルマは5体だったんだけど、今ので、それも達成出来た」


  行く所が無いならあたしの家に来るかい?と言ってくれた。
 今の私は行きたい場所はあっても、それが何処にあるのか全く分らない。
  エレンの言葉に思わず首肯した。



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