初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

8話、二人の行動2

   川の傍でスマホのフォルダーに収められている岬の写真を見て――。
 数日前を思い出す。
 体育館への通路を歩いている岬を鞄に隠したスマホで、
 こっそりと撮影した。


  写真の中の岬は笑顔で……。
 いつもは、くっきり二重の瞼も細められ――。
 その隙間から濃い茶色の瞳が覗いていた。


  風が強い日だったからか、黒いセミショートの髪が暴れていた。
 それでも室内での部活をしているだけあって、
 日焼けをして無い美白肌は、とても綺麗に写っていた。
 異性の友人が居ない秋人はこの写真を撮影するのに苦労したものだ。
 しばらく写真を眺めた後――。


  号泣していた秋人はスマホの電源を切った。
 次に電源を入れた時が……。
 恐らく、その写真を見る事が出来る最後の機会になるだろう。


 川の水で顔を洗い、涙の後を消す。


「シルバーいくよ!」
「クウゥーン」


  休憩を終えて歩き始めると……。
 秋人が来た方向から馬が勢い良く駆けてきた――。


「そこの者、止まれ!」


  止まれと言われて、逃げるか迷った秋人だったが……。
 話だけは聞こうと思い、その場で立ち止まった。


「ドルワージュの村から釈放されたアキトとは、お前か?」


 あぁ、やっぱり。村長さんたちが大人しく釈放した後に連絡したのか。


 「そうだけど?何か……」
「ちょっと、領主の館まで同行して欲しいのだが――」
「俺には用は無いので、お断りしたいのですが?」
「一応、怪しい者は領主館で調べる決まりになっているのだが!」
「何をもって怪しいと言われているのか分りませんが?」
「村長から怪しいとは聞いていたが……本当だったか」
「力ずくでも連れて行くぞ!」


  秋人を無理やりにでも連れて行く為に兵士が抜剣したが、
 剣は片刃でどうやら峰打ちで殺す気は無いようだった――。
 だが、秋人はこの国に恨みがある。
 大人しく従う気にはどうしてもなれなかった。
 袈裟懸けに振り下ろされた剣を杖代わりにしていた槍で――。
 横から弾いた。
 それ程、力を入れたつもりは無かったが、
 剣は曲がって明後日の方向へ飛んで行った。


「け、剣が……曲がった、だと――」


 呆気に取られている兵士の懐に飛び込んで思いっきり蹴り上げる。
 蹴り上げられた兵士の体は川の方へ飛んでいく。
『バシャン』と音がして水の中に落ちたようだ――。
 今の内に逃げようと川に背中を向けた瞬間……。


 背後から兵士の悲鳴が上がった。


「うわぁぁぁぁぁーた、たすけぇ」


  声は途中で途切れ――秋人が振り向くとそこには――。
 大きなワニが複数集まっており、
 兵士の全身に噛り付いていた。


「なっ、なんだよ!あれは!」


 ワニ達が狙っていたのは秋人だったのだが……。
 兵士のお陰で命拾いをした。


「シルバー逃げるぞ!」
「クウゥーン!」


  兵士が乗ってきた馬に跨ろうとしたが、馬が暴れた為に断念。
 仕方なく、シルバーを肩に乗せ川から離れる様に――。
 北東の方角へと走って逃げた。
 1時間位は走っただろうか?
 そこまで走らなくても良かった気もするが、ワニが追って来ないとは――。
 言い切れなかった為に、とにかく走った。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」
「しっかし、まさかあの川にあんな大きなワニが居たとはね――」
「クウゥーン」
「さすが、異世界?あ……日本には居ないだけで外国にはいたか」
「しかし大きかったな、4mはあったんじゃないのか?」
「クウゥーン」


  心なしか、シルバーも怯えてしまったようだ。
 それも納得出来る。
 死んだ親の倍も大きなワニだったのだから。


  さっきの兵士さんには悪い事をしたな。
 後で、面倒な事にならなければいいけど……。
 フラグであった。


 後でかなり面倒な事になるのだが、それはまた後のお話。












 岬はエレンと共に半日歩いて漸く石の壁で囲われている街に到着した。


「お金は持っているかい?」


 エレンが聞いてきたので岬は首を横に振った。


「今回はあんたの分も支払っておくけど、後で返しなよ」


  岬が倒した狼から取り出した魔石を売れば銀貨2枚になるらしい。
 エレンと岬が大きな門を潜ると――。
 目の前には大きな噴水があり、その奥には街が広がっていた。
 噴水の前まで来てエレンを呼ぶ声がした。


 「おーい!エレン!こっちだ!」
「あんたらも5匹倒してきたのかい?」
「あたり前だろ!こっちには勇者がいるんだぜ?」


  勇者?
 岬が勇者に反応したのは、男子が良く遊んでいたゲームに登場したから、
 では無く、秋人が他の男子と話していた会話で聞いたからだった。
 勇者の装備がどうとか、そんな話だったけど……。
 この世界にも勇者が居るんだ。
 そう思って、その勇者の顔を見ると――そこに居たのは。
 どう見ても、黒髪で黒い瞳。の――日本人だった。


 「エレン、そっちの子どうしたんだ?」
「そーいえばソロのお前が珍しいな」


 勇者と呼ばれていた黒髪の男とその隣には輝く金髪に緑の瞳の青年がいた。


「あぁ、この子は討伐中に会ったんだけど、狼の巣の中に一人で居たんで声かけて連れてきたって訳さ――」


 岬は狼の巣?と不思議に思っていると。


「そりゃ、どんな冗談だよ!普通の人間は立ち入らない場所だぜ?」
「本当に人間か?」


 酷い言い草である。


「それがさ、口が利けない子でね、話せば頷いたりはするけど……」


 声に出さないから意思の疎通がしづらくてね。と説明していた。


 「そんな子が、なんで狼の巣に居たのか謎だね」
「狼が変身したから声が出ないとか?」
「そりゃ、どんな冗談だよ!マサト」
「いやぁ、俺の居た世界のアニメではそういう狼が居たんだよ」
「またアニメか。空想の話じゃ無かったか?」
「そうだよ。でもこうして異世界が実際にあった位だからさ――」
「空想の世界では竜も魔王も居たんだっけ?」
 「そうだぜ!勇者もな」
「あながち、馬鹿にしたものでも無いのか……」
「あぁ、俺の魔法は実際にその知識の応用から来ているからな」
「それにはこっちも助けられているよ」
 「だろう?」


 どうやら本当に日本人だったみたいだが――初めて見た顔であった。
  学校の先輩なのかな?
 そう岬が思ったのだが、次の自己紹介で判明した。


「俺は、日本って国の勇者でマサト・カトウだ。静岡一校の2年だ。もっとも、日本も静岡もこっちの人には分らないと思うけどさ」


「相変わらずだね、マサトは。住んでいた場所が懐かしいのはわかるよ。でも悪いけど、召還された勇者が帰還した例は無いんだ」


  諦めてくれ。
 そんな風に金髪の青年が言っていた。
 えっ、この人――うちの学校じゃないの?
 まったく知らない学校の生徒だった事への驚きと――。
 自分の居た学校の生徒がどうなったのか?急に気になりだした。


 「で、何て呼んだらいいんだい?」
「口が利けない上に、文字も知らない様なんだよね」


 だからエレンも困っているんだ。と二人に語っていた。


 「ふーん。そうなんだ?でも育ちは悪く無い子だと思うよ」
「あぁ、それはあたしも思ったよ――。なんせ、あたしの作った鍋を最初は気持悪がって食わなかったからね。そんな人は、マサト以来だね」


  意外と同郷だったりしてな……。
 マサトがボソっと呟いたが、岬以外には分らなかった様だ。
 なんせ日本語で言ったのだから。


「こんな場所で突っ立って喋っていると往来の邪魔になる。さっさと移動してギルドで換金を済ませたら、飯でも食いに行こうぜ!」


 マサトがそういってエレンを促した。



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