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初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

5話、逃走2

 秋人が目を覚ましたのは、高い木々の隙間から泉に降り注ぐ命の源――。
暖かな陽射しが秋人の瞼にかかり、いわゆる眩しく感じたからだった。
 周りを見渡せば、寝る前に羽を休めていた小動物も消えていた……。
ここに居るのは、秋人と共に横になっていた子狐だけだった。
 秋人が目を覚ました事に気づいた子狐が――。
彼の肩に乗り上げペロペロと頬を舐めだした。




「おいおい、朝から甘えてどうしたんだ?」
「クウゥーン」


 他の小動物が皆餌を探しに行く中――。
秋人を守って残ってくれていたのだが……。
 熟睡していた秋人にそんな事は分らないだろう。


「さて、今日はどうするかな?取り敢えず、奴らの情報とここで生活する為の
路銀とかとにかくお金が無いと何も出来ないからな。その手段を探すか!」
「クウゥーン」


 この子狐、本当に分っているのか?
的確に俺の問いかけに答えてくれるな。
 それにしても、何時までも子狐とかおい!とかじゃ、可哀想か……。




「お前、名前は何がいい?」
「クウゥーン?」


 名前とか自分で答えられる位なら俺と普通に会話できるよな。
何を馬鹿な事を・・・当然である。


「じゃ、今日からお前の名前はシルバーだ!」
「クウゥーン!」


 名前を付けて貰ったのが嬉しかったのか――。
シルバーは、また秋人の頬を舐め回した。


「それじゃぁ、行こうか!」
「クウゥーン!」


 取り敢えず人が、それも普通の兵士じゃない人を探して秋人は更に西へ――。
さすがに森林の中だけあって、襲ってくるモンスターの数も多い。
 それらを通りがけの駄賃程度に倒していく。
半日はそうやって、歩いただろうか?ふと前方に開けた場所を発見した。
 少し用心しながら開けた場所を窺うと――。
そこには周囲一帯に鮮やかな緑色の稲穂をつけた畑が広がっていた。
 畑がここにあるって事はこの近くに街か、村があるという事だ。
秋人は畑の畦を注意して歩きながら人の気配を探った――。


 そうして1時間は歩いただろうか?
長かった畑も切れ目が見え、その先には秋人が待ち望んだ村が存在した。


「これで、この世界の事が少しでも分ればいいんだけどな!」
「クウゥーン」


 流石に意味は分っていないと思うが、シルバーが返事を返してくれた――。
そうして村の木で出来た柵まで辿り着いた秋人は入り口を探した。
 目の前には村を囲う様な木の防壁が――。
それこそ犬一匹たりともは入れない様に張り巡らされており、
この村がモンスターに対して防御を重視しているのが良くわかった。


「凄く頑丈な作りだな?これ戦国時代の城の柵より頑丈じゃないのか?」


 昔、何かの資料で読んだ本に書いてあった図なので確かではないが――。
取り敢えず、柵に沿って歩いた。
 すると――。
そこだけ高い見張り台も兼ね備えた巨大な門らしき建築物が見えてきた。


「やっと人と会えそうだな!」
「クウゥーン」


 秋人の格好は日本の制服のままで、しかもあれだけの乱戦の後だ――。
モンスターや同じ召還された生徒達の血で汚れたままだった事に気づいた。


「この格好で平気かな?」
「クウゥーン?」


 さすがにこんな怪しい格好で近づいたら怪しまれるんじゃ?
そう考えたが、近くに服を洗ったり出来る水場は見当たらない――。
諦めて、そのままの格好で門の上で見張りをしている人に声をかけた。




「すみません?道に迷ってここまで歩いてきたのですが……」
「こんな辺境の村まで歩いて来たって?そりゃどんな冗談だい!」
「いや、本当なんですよ。仲間と逸れてもう大変だったのですから」
「その格好を見ればそりゃ、大変だったのは一目瞭然だがよ?」


 見張りの男は秋人の格好があまりに汚らしいので、それだけモンスターと交戦してきたのだろうと判断してくれた様だ。




 「しっかし、随分と汚い格好だな!がはははは」
「仕方なかったのですよ、何せこの先の森に迷い込んだと思ったら、ゴブリンの集団に襲い掛かられてしまったので……」
 「ゴブリンの集団だって!そりゃ、災難だったな。だが、それを掻い潜れる力があるってのはもっと驚きだがな!」
「そりゃ、こっちも必死でしたからね」
 「あぁ、その槍の欠け方といい、修羅場を潜ってきたのは俺でも分るさ」
「はい。お陰で槍もこの有様ですけどね」
「それで、こんな格好ですけど中には入れて貰えるんですか?」
 「んー駄目だな。まず汚れをあっちの小川で落としてから出直してくれ」


 そうじゃないと、ここの村人が怯えてしまうかららしい。
聞いた所によれば、この村は元々はこんなに強固な作りでは無かった――。


 だが、5年前にモンスターの襲来があって村人が大量に死んだ為に、ここまで強固な村壁を領主が築いてくれたそうだ。


 随分、村人思いの領主だな、と思っていたら……。
何でもここはこの国で一番の小麦畑で――。
 この国の食糧庫と言ってもおかしくない程、生産している様だ。
国の重要な場所って事ね――。


 門番の男に指示された方向へしばらく歩く。
すると、聞いていた通りの小川があった。
 上着の半袖シャツを脱ぎ――。
試しに小川の水で洗ってみるがなかなか落ちない。
 さすがに、返り血を浴びてから半日以上は経過している。当然だろう……。
しばらく漬けて置くか。秋人は小川にシャツを沈めて次にズボンを洗った。
 ズボンの色が黒っぽいブルーなので意外と目立たないのだが――。
それでも何度か擦って洗っていると付着していた返り血が少しは落ちた。


「しっかし異世界に来てパンツ一丁って・・・こんな姿見せられないな!」
「クウゥーン」


 誰も秋人の裸など見たくはないのである!岬ならまだ……。
ズボンを一通り洗った秋人は重大な事に気が付いた――。
 昨日から一切、体も顔も洗って居ない。門番だって入門を断わった筈だ。


「綺麗にしろってもしかしてこっちの事か?」
「クウゥーン」


 秋人は両腕を見て、更に小川を鏡代わりにして自身の姿を確認した。
すると……。


「うわぁ、これは酷い!いつの間にこんなに体中に返り血浴びていたんだ!」


 そうである。顔には赤と緑の血がべったりと。当然それは頭にも及び――。
両腕も同様であった。
服で隠れていた場所以外に付着していたのである。
 小川の水は少し冷たかったが、秋人は小川に全身で飛び込んだ。
頭から順に、顔、首、両腕。ついでにあそこも……。
 食事すら満足に食べていなかったので下の方はまだ登校時のままだが――。


 一応、体中を隈なく洗っていると秋人を見て自分も!と真似するように……。
シルバーも小川に入ってきた。


「おい、シルバーは綺麗だろう?戦ったりしていないんだから」
「クウゥーン!」




 まるでいいんだ!真似したかったんだ!
――とでも言うように頭を振っていた。
 秋人とシルバーは小川から出て、洗ったズボンを履く――。
先程絞って置いたのだが、それでも乾いた訳では無いので……。
 湿っていて、気持悪かった。だがそれも言っては居られない。
次に最初に小川に漬けたシャツを再度洗ってみたが、洗剤もないのである。
 当然、血の色はこびりついていて落ちていない。


「仕方ない。このまま搾って着るか」
「クウゥーン」


 自分でも気持が悪いがこれも仕方ない。
シャツを搾ってそのまま着た。


「じゃ、門まで戻るぞ!」
「クウゥーン!」


秋人達が門に着いたのはすでに陽が沈みかかっている夕方の事だった。


 「よう!少しはまともになったじゃないか!」
「ええ、お陰さまで。だいぶ汚かったですね」
 「がははは、自分でそれに気が付かないでここまで来たって事だ」


 それだけ必死だったのだろう!と門番の男は言ってくれた。
学校での事件の後、本当に秋人は必死だった。とにかく生きて、必ず――。
 岬ちゃん達、死んだ生徒の敵を俺が討つ!そう心に決めて……。
ひたすら歩いてきたのだ。日本で満足に運動もしていなかった自分が!


 「じゃ!入ってもいいぜ!もう夕方だしな。金はあるのか?」
「すみません、実は無一文なんです」
 「なんだって?それは困ったな。一応、村人以外からは徴収する決まりだが」
「そうだ!ゴブリンを倒した時に魔石を抜いて来なかったのか?」


なんだ?それ!魔石だって・・・まるでゲームやアニメの様だな。


「それが必死すぎてそれすら忘れていました」


 取り敢えず魔石がある事を知らなかった事実を誤魔化した――。


 「まぁさっきの格好を見ればそうだとは思ったけどよ。どうすっかな?」
「入れてやったらいいじゃないか!」


門番の後ろから恰幅の良い、上司と思われる男がやってきてそう言った。


 「でも入村料を持っていないのを入れたら後で村長に叱られませんか?」
「俺が何とでも取り成そう」
 「 ガーナッシュ隊長がそう言うなら俺に文句はありませんぜ!」
「小僧、今晩は俺の所に泊まれ!飯くらいなら食わせてやれるぞ」
「有難う御座います!助かります」


 秋人は、門番の隊長に融通を利かせてもらい村の中へと入った。










 岬はと言うと……。
前からは2mもの大きさの狼――。
後ろからは追手の男達に挟まれ――。
 岬は途方に暮れていた。
何か武器をと考え足元から掌位の石を拾う。
男達より狼の方が速い!狼が岬を獲物として認識し襲い掛かってきた……。
 狼がジャンプした所へ先程拾った石を投げつけた!
『ガッ』
「キャイン」
 岬の放った石は見事に狼の頭に辺り、当った場所からは夥しい血が噴出した。
狼は流石に自分には勝ち目が無い所か、このままでは逆に殺される。
 そう思ったのかは定かでないが――。
岬の横を通り過ぎ後ろから岬を追ってきた男の一人へと対象を変えた。


「う、うわぁぁぁぁー。く、くるなぁぁぁ」


 狼に狙われた男は叫びながらも、腰に差していた剣を抜くが一歩遅い。
大口を空け男の足に噛み付いた狼はそのまま男の足を食いちぎる。
 岬はその光景を横目にひたすら逃げた――。
――冗談じゃない!
 あんな凶暴な狼に狙われたら今度こそ自分がやられる。
死にたくない!
そんな岬の願いが叶うかのように、狼の狙いは完全に岬から離れていた。
 どの位、走っただろう?
岬は秋人と比べて運動能力は高い方だ。
中学ではバスケ部と掛け持ちで保健委員をしていた事からもわかる。
高校に入ってからは掛け持ちはしなくなったが――。
 それでもまた、バスケ部に入っていた。
そんな岬が異世界でチート能力を持ったのだからその強さは計り知れない。
毎日のバスケ部の始まりはランニングからだ。
 走る事には慣れている――。
とにかくあの場所から離れないと。
 必死に20分は走っただろうか……。
すでに岬を追っていた男達も狼も一切の姿は見えなくなっていた。


 はぁ、はぁ、はぁ・・・どうやら逃げ切ったようね!
そう独り言をいっているのは秋人と同じである。
でもここどこなのよ!
神様が異世界に戻してくれたのはいい――。
岬が望んだ事だから……。
 だが、今自分が居る場所が、秋人の居る学校では無く見知らぬ荒野だ。
太陽は東から昇るから私は今、西に逃げている訳だけど……。
 これは神の采配か?それとも作者の悪戯か?
奇しくも秋人が逃げた方向と岬が逃げている方向が同じだった。
状況的に考えたら、秋人の方が位置状況がわかっているだけマシだった。


 異世界に来た時に太陽の方向を教室から確認出来なかったのは痛いわね
立ち止まっていても仕方が無いと岬は西へ歩き出した。














「おおー!これはこれは。異世界から、ようこそおいで下さいました」


 オーク事件で生き延びた、
18人の女子生徒と2名の男子生徒はというと――。
 胡散臭い格好の男達に囲まれ挨拶を受けていた。


 「私達は、この国で治安維持を任されております。この度、我が国の魔力計に反応があり調査でこの荒野へ出向いておりました所、見た事も無い建物から人の悲鳴が上がっておった為に、助けに参った次第であります」
「ここはいったい何処なんですか?」


オークに襲われていた所を、秋人に救われ生き延びた女子が尋ねた。


「ここは大陸西にあります。エルドラン王国の西方の荒野で御座います」


 さっきのオーク達が居た事といい、おそらく日本では無いと思っていたが、
まさか異世界だとは、この少女も予想してなかった。


 「では、ここは日本では無いのですね?」
「日本というのがどこかは存じませんが、ここはエルドラン国です」


 男の言葉を聞き、意気消沈する一同。
そこへ男の手から腕輪が差し出された――。


 「これは貴方達がこの地でモンスターに襲われない為の魔道具です。
数が少ないので全員に配布は出来ませんが、どうぞお使い下さい」


 明らかに胡散臭いが生き残った男子は魔道具だってよ!ヒャッホー!。
そんな調子で、喜んで男の差し出した腕輪を受け取り腕に嵌めた。
 男の頬が、悪事の成功で歪むのにも気づかずに……。


 尚、女子生徒の生存者が多かったのは皆さんご存知の通り。
秋人が助けたクラスメイトと、階段で助けた生徒だからであった。


「では。皆様、馬車を呼んでありますので一度王城へご招待致しますね」


 生徒達は皆、知らない土地で成す術も無くこの男達の指示に従った。







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