初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

1話、悪夢の出来事

「う゛っ……あき、くん」
 一体、何が起きた?
 さっき俺が槍を突き刺したのはでっぷり太り、醜悪な豚顔のオークだった。
 だが今、目の前で俺の槍に貫き刺されて細い命の糸が――。
 今にも切れそうになっているのは、3年間片思いしていた相手、望月岬だった。
「なっ。なんで!なんで岬ちゃんが――。ごめん。本当にごめん。」
 何度も彼女に謝りながらも、彼女に突き刺さった槍を引き抜く。
 胸に手を置き、止血を試みるが流れ出た温かく、真っ赤で鮮やかな血は――。
 とどまる事無く流れ続けた。


 彼女を抱き締めると、彼女が俺を見て微かに微笑んだ気がした。
 次の瞬間、小さな命の火は容赦なく俺の腕の中でプツリと消えた……。
 入っていた力が抜け屑折れる岬を抱き締めて俺は叫ぶ――。
「あぁ゛ー!あ゛ぁー!」
 彼女を殺すつもりは無かった。3年も思い続けた相手だったのだ。
 その彼女を俺が刺した。
 刺し貫いてしまった。
「なんでこんな事に、こんな筈じゃ、なんだよこれ。なんなんだよ!」
「あ゛ぁーあ゛ぁーっ!」




 この春、高校に進学した秋人は今年初めて3年間ずっと待ち望んだ相手――。
 望月岬と一緒のクラスになる事が出来た。
 中学1年の春からずっと遠くから見つめる事しか出来なかった存在。
 秋人の、初恋の相手だ。


 彼女と初めて出合ったのは、中学1年の春。生徒は部活を始めた時期だった。
 秋人は小学から中学に上がって浮かれていた。浮かれすぎていた。


 そんな俺を叱り付ける様に事件はおこった。
 階段でふざけていたら足を滑らせ下まで転落したのだ。
 俺は脚と腕を怪我し、意識を完全に失って保健室に運ばれる事になった――。


 その時に俺は運命の出会いを体験したのだ。
 たまたま彼女は、保健の先生が不在だった為に保健室で留守番をしていた。
 そこに俺が運ばれ、慣れない手つきで、必死に俺の手当てをしてくれた。
 頭を打った俺がベッドで寝ている間も付き添って看病してくれた。
 その時から俺の心は彼女に夢中になった。


 だが、秋人はどちらかと言えば目立つ存在では無く、文科系で地味だった。
 一方で、岬はバスケ部と保健委員を掛け持つ行動派だった。
 そんな俺が岬に告白したりする事は自分の夢を早々に壊す事になる。
 それ故に、心の中を3年間ずっとひた隠しにしていた。


 そんな俺の初恋で片思いの岬が同じクラスになったのだ。
 席替えでは視力の順で席が決っていった。
 秋人は視力がとてもいい!よって席は当然後ろから2番目になる。
 一方で、岬の視力は左程良くは無く、席が前の方になった。
 俺の席からは前の岬の後姿が良く見る事が出来た。


 毎日が楽しかった。授業中、嫌いな授業でも前を向けば彼女が見れる。
 自分の心を隠してきた俺が、堂々と岬の後姿を見ることが出来たのだから。


 そうして短い春も終わり、全校生徒の制服も薄い夏服に衣替えし――。
 俺も、一層学校に来るのが楽しみになっていた。


 それは突然、幸せな日常は終わりを告げた。


 授業中に突然校舎全体が光り輝いた。次の瞬間には外の景色は一変した。
 いつもなら外にはグラウンド、花壇があったのだが、
 今、そこにあるのは赤茶けた土の荒野であった。


 当然、教師も生徒も皆が騒ぎ出した。先生が外を見てくると出て行った――。
 外を眺めると、グラウンドのあった場所に立つ10人の人間の姿があった。
 その人達は、両手を胸の前で握り、まるで祈りを捧げている様だった。


 次の瞬間には校舎の中に、でっぷり太った醜悪な豚顔のゲームでお馴染み。
 まるでオークと表現して差し支えないモンスターが教室中に沸いた。
 今まで居なかったのだから、文字通り沸いたのだった。
 それは廊下にも居て教室中、校舎中に大量に蠢いていた。


 最初はなんの撮影だ?それにしては随分手の込んだコスチュームだな。
 そんな風に楽観視していた。
『Guwaaaaaaaaaaa!』
 大音声で叫びながら教室に入ってきた数匹のオークが教室の中に最初からいた
 雌と思われるオークに襲いかかり――。
 雄のオークには持っていた鉈を振りかざし切り殺し始めた。


 異常だと思ったのは雌のオークと襲い掛かったオークが交尾を始めてからだ。
 鉈を持ったオークは俺にも襲い掛かってきた。
 俺は取り敢えず、教室の端に逃げて様子を見ていたのだが、
 2匹のオークが俺の方へ駆けてきていた。


 もしかして俺も狙われている!?そう思った俺はなぜか手に槍を握っていた。
 躊躇したりしている時間は無い。
 向ってくる雌のオークは追われている様にも見えるが……。
 周りを見渡せば、無抵抗だと殺されるだけだ。
 もう悠長に眺めては居られない。俺は襲い来る雌のオークの胸目掛け、
 手に握っていた槍を目一杯の力で突き刺した。




 私の名前は望月岬。この度3年間初恋で片思いし続けた相手とクラスが同じに
 成れて、小さな幸福を日々感じている16歳です。
 彼と初めて出合ったのは、入学まもない中学校1年生の頃――。
 私が保健委員になって始めての仕事の時の事でした。


 彼が階段から足を踏み外し、保健室に運ばれてきた時に先生は外出中――。
 慣れていない私は無我夢中で消毒をして、シップや、包帯、を彼の足、腕に
 巻いてあげていました。
 私にとって初めての仕事です、上手く出来ずにモタモタしている私に彼は……
 頬を少し紅潮させながら、
「ごめんね、ごめんね。一生懸命手当てしてくれてありがとう!」
 何度もお礼を言ってくれました。
 お礼を言われる程、大して役には立っていなかったのに・・・。


 その後、彼を校舎内で見かける度にその姿を視線で追っている自分に――。
 彼の姿をいつも探している自分に気づいたのです。
 それを自覚した時からです!


 小学校の時、友達との恋愛話はどこか自分とは別世界の様に感じていました。
 でも、彼に視線を向ける度に胸がドキドキして、
 私の頬が紅葉している事にはっきりと気づきました。


 中学の3年間、一緒のクラスになる事は一度もありませんでした。
 3年生、中学最後の大晦日の日に来年の高校では一緒になれますように……。
 私は一縷の望みを神様にお願いしました。


 うちの中学、高校は一貫性なので特に優秀でなければ6年同じ学校です。
 私も彼も構内の学力テストでは名前が貼られるほど優秀ではなかったので。
 多分、高校も一緒になると確信していました。


 そしてこの春、私の願いは見事に成就し彼と同じクラスになれました。
 何も変わらない教室からの風景も彼と一緒だと思うだけで、
 色鮮やかな景色に変わりました。
 普通の授業なのに、彼と一緒に聞いていると思うだけで心が躍りました。
 この感情も16年で初めて味わった私だけの小さな幸せでした。


 そんな私の幸せな時間が唐突に終わりを告げました。


 毎日の気温も温かくなり、長袖から半袖に衣替えをし、彼も新しい夏用の
 制服で通学する様になったあの日、教室、校舎中が真っ白に光ったあの時に。


 私達生徒は皆、醜悪な豚にされていました。
 何故分ったのか?
 私は様子がおかしいと気づいた時に彼の方を見ていました。
 彼の姿が、醜悪な豚に変わるその瞬間を……。


 それからは滅茶苦茶でした。
 教室に入ってきた醜悪な顔の豚は男子を襲って殺し――。
 女子は犯されていました……。
 その手は私にも伸びてきました。
「たすけて!たすけて!秋人くん」
 私は彼に助けを求め、彼の元へ駆け寄りました。が、しかし……。
 私の姿もまた、みんなと同じ醜悪な豚なのです。
 彼が素直に助けてくれる訳がありませんでした。
 何処から出したのか、彼は手に槍を握っており、私に突き刺しました。
 な、なんで?どうして……。
 私に槍を突き刺した後、彼はあの時の様に……。


「なっ。なんで!なんで岬ちゃんが――。岬ちゃん、ごめん。本当にごめん」


 何度も、何度も、私に謝っていて……。


 私は彼と出合ったあの時を思い出し、自分はこんな状態なのに。
 思わず笑ってしまいました。


 大好きな彼に抱き締められ、あー幸せだなぁ。って思いながら……。
 私の意識は永遠に切れました。



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