初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

3話、事件の真相

 なんで岬ちゃんだけ、彼女だけ砂になったんだ?
校舎の廊下を走りながら繰り返し秋人はそればかりを考えていた――。
 そもそも、何故オークに皆が変化していたのか?
それすら分ってないのだ。
 少女一人が砂になったとて異世界の出来事。
普通はこの現状でそこまで気にかけないだろう。
 他の生徒からすれば自分の命を守るので精一杯で――。
秋人の様に血の色で本物のオークか?生徒か?を見分ける事すら出来ずに居たのだから。
 秋人が横目に他の教室を見る。
そこも秋人のクラスと同じ悲劇が起きていた。
 なんだよ!なんなんだよ!
うちのクラスだけじゃなく、学校全体で起きているのか――?
 1年の教室は3階でようやく階段が見えてきた。
 その階段でもオスのオークがメスのオークを犯していた……。
秋人の胸がムカムカと熱くなり、通り抜ける途中で襲っている方のオークの頭部に槍を突き刺し殺していく。
 階段で3体のオークを殺し、2階を素通りし1階へ。
秋人のクラスが使用している下駄箱は直ぐ近くにあった。
 これで外に出れば何か分るかも?
――そう思っていた秋人だが昇降口には夥しいオークがいた。
 1階から恐らく逃げてきた生徒、職員を鉈で斬りつけて殺していた――。
恐らくとつけたのは姿がオークだった為なのだが。


「くそっ!ここもかよ」


  秋人は切り殺されているオークの脇から槍を通し、
その奥で鉈を振り翳しているオークを刺し貫いた――。


「ブモォー」


 オークが泣き叫ぶが秋人の知ったことではない。
岬の死の責任から逃れ、全てのオークがその元凶だとでも言うように――。
 秋人自身、どこにこんな力があったのか!?と驚く位あっけなく、
オークは絶命していった。
 教室で、廊下で、階段で……。
そしてこの昇降口で既に60体はオークを殺しているにも関わらず――。
 まるで体力が無尽蔵にでもあるみたいに力が湧いて来る。


「これで最後だ!」


 最後に襲い掛かってきたオークを殺した時には……。
1階から逃げて来たと思われたオークは皆死んでいて――。
 真っ赤な血溜まりの中に生徒と教師の死体があった。
教室の時には集中していた為か、気分が悪くなる事は無かったが、
 流石に連戦の疲れも出ているのか?それとも余裕が出てきたのか……。
じっくり死体を見てしまった秋人はその場で吐いた。


 胃液しか出なくなった頃に口を拭くものを探して、
ふとポケットに手をいれると半分血で染まった白いハンカチを見つけた――。
 あれ?こんなハンカチ持ってなかったけど?
疑問に思いながらよく見れば……。


水色の糸でMISAKIと刺繍されていた。


プツリと切れていた感情の糸が元に戻るように秋人の心に岬の最後が呼び起こされる。


「う゛ぁーーーん、岬ちゃん、岬ちゃん、岬ちゃぁぁぁん」


 3年間ずっと好きだった、この人しか居ないと自分の中で決めていた――。
――岬の死から逃げていた秋人は緑と赤の入り混じった液体の中で崩れ落ちた。
 ふと誰も居ないはずの校庭から複数の人の足音が近づいてくるのに気付く。
それまで一心不乱に感情をさらけ出していた秋人が、
その足音を察知出来たのは偶然か……。それともオークを大量に殺してレベルが上がったからか――。
 恐らく後者だろう。
秋人は昇降口の脇のドアから外に出て足音の主の様子をうかがった。




 「魔導師長、建物の中もだいぶ静かになってきましたね」


「もう少し様子見だな、数ばかり多く残っても意味が無い」


 「そうですね、勇者候補なんて数ばかり多くてもやれ、殺傷は嫌だ、ハーレムを作れるならやる、一生遊んで暮らせる金をくれ、装備は伝説級じゃなければ嫌だとか我侭し放題ですからね」


「うむ、10年前の黒髪の勇者なんぞ最悪もいい所だったわ。王都に屋敷が欲しい、女も用意しろ、装備は伝説級じゃないと戦わないと大口叩いていざ、戦争になったら他国の勇者に5分も持たずにあっけなく殺されおった。我が国、始まって以来の汚点じゃわい」


 「あーその話、隊長からも聞きましたよ。その屋敷と女はその後どうしたんです?」


「屋敷は国で没収、女は元々奴隷や娼館からかき集めた女だったからな。奴隷として高く売捌いたわ。それでも大赤字は埋められなかったがな」


 「所で、魔導師長が手にお持ちの魔道具はひょっとして?」


「うむ、我等が救助に駆けつけた振りをして最後まで残っている強き勇者達に隷属の腕輪を防御の腕輪と偽って渡す。これで我等の言いなり勇者が数人は誕生するだろう。今までの勇者は問題が多すぎたからな」


 「それを使うから今回の作戦になったんですね!」


「うむ。魔法師30人を生贄に大勢の異世界人を召還し、それぞれを競わせ、殺し合いをさせて本当に強き者のみを採用する。アヴューレ王女がこの作戦立案を陛下に出した時には、なんと恐ろしい事を!と思ったものだが、いざ考えてみると、これ程に効率のいい勇者探しは他に見当たらなかった」


 「確かに魔法師30人で強い勇者が揃えられるなら安いものですね。しかも我々は召還された異世界人を偽装魔法でオークと誤認させればいいだけですから。さすがに建物の外の景色が変わり、周囲に居た人がオークに変身した中に、本物のオークを放り込めば、パニックになり、自分だけ助かりたいが為に同士討ちを行いますからね」


「これで戦いたくない勇者、弱い勇者、口だけ達者な勇者は一層出来、本当に実力のある勇者だけが残る」


 「さすがは我が国、いや周辺各国一優秀と詠われるアヴューレ王女の作戦でありますね」


「うむ、将来が楽しみよ」


「そうこうしている間にかなり静かになったな、そろそろ勇者たちを救助に行くぞ!」


 「畏まりました」




……………………。
 秋人がドアの後ろで聞き耳を立てているとも知らずに――。
全てを語ってくれた今回の実行犯であった。
 なに?全てがこの世界の国の為に仕組まれていた……戦争の為?
そんな事の為に岬ちゃんが死んだのか!
 平和な日本で普通に暮らしていた俺達をそんな事の為に……作戦を考えたのがアヴューレ王女?なんだ、その残虐姫は!


俺の姫を返せよ!俺の岬を……


ぐっ。敵に気取られないように声を殺して泣いた。


 こいつら殺してやる!必ず殺してやる!だが……今の俺でやれるのか?
既に俺も槍もボロボロだ。さすがにあれだけのオーク相手に槍1本では――。
 ここは生き残った奴らに任せて俺は奴等を殺す準備をする。
そう決めてからの秋人の動きは速かった。
 敵にばれない様に……。
赤茶けた土の中に点在する岩陰に隠れながら校舎から離れて行った。












 えっと、ここはどこでしょう?
神様に見送られて意識を失った私は気づいたら木で囲われた檻の中に居た。
 ちょっと、神様。話が違うよ!
あれ?どこと言う場所の話はしてなかったか――。
 岬は大声を上げて助けを求めようとしたが……??? ……???……???
えぇぇぇー声出ないんですけど!声でなかったら魔法使えないんじゃ?
 岬の顔から一気に熱が失われた……。
あ、これ顔色悪くなっている時の感じだ――。
 さすがに髪と瞳がどうたらと言っていたのは、うろ覚えだけど覚えている。
でも声が出ないなんて聞いてないよ!
 そういえば召還された人のステータスがどうとかも言っていた様な。
この木、壊れないかな?
 岬は、か細い腕で木の檻を掴み左右に目一杯の力で引っ張った!


『ばがぁーん』


 見事に檻は壊れたのだが、その音に気づいた馬車の御者席に座っていた、3人の厳つい男達が慌てて馬車を止め檻の方へ駆け寄って来た。


「な、なにがあった!」


 岬は両手に折れた木を掴んだままだ。まずい……何か言わないと
……???……???……???


 声出て無いじゃん!




 3人と目が合った岬は苦笑いをする事しか出来なかった。



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