天才科学者の異世界生活~だからヒモだっていったじゃん!~

石の森は近所です

第13話、魔法を覚えたのはいいけれど……。

今日で、この世界に来て8日目……。


朝から、チビ伯爵の来訪で気分も害された俺は――エルミューラに早く支度をさせて街へと出かけた。
何でって?
家を借りる為ですよ。
この際。ばれたら空飛んで逃げればいいし――。


ギルドに行くとミリーがカウンターに座っていた。


「おはよう御座います。キラ君」
「ミリーさんもおはよう。もしかしてシフト変わったの?」
「はい。1週間交代なので、エリッサさんが今は遅番ですね」
「そうなんだ――冒険者ギルドって借家の物件紹介とかはやってないの?」
「借家ですか?それは……不動産屋に行かないと分らないですね」
「だよね――うん。分った。スライムの討伐をしたらまた来るから」
「はい!頑張って下さいね」


だよな~冒険者ギルドが物件紹介なんてしている訳が無いもん。
余程、朝のチビ伯爵に頭に来ていて、取り乱していた様である。


あ……不動産屋が何処にあるのか聞き忘れた!
肝心な事を――。
今日は何をやっても上手くいく気がしねぇ。


「エルミューラはどんな家に住みたい?」
「私は温かく眠れて、ご飯が食べられてお風呂とトイレがあればいいですわ」
「それ普通の家だよね?」
「普通ですわ、今住んでいる所は普通ではないですわ」
「そうだよね――」


そういえば――魔法のスクロールを買って無いじゃん!
それがあれば、家を借りる必要無いじゃないですか!
はぁ~すっかりこの世界に来てから落ち着きが無くなっているな。俺。


道を聞くならあそこだな――。
俺は以前に奴隷商の道を尋ねた、鍛冶屋に向かった。


「こんちわぁ」
「あぁ、この前の……」
「今日は、魔法のスクロールを売っている場所が知りたいんだけど」
「えっと、ここは鍛冶屋なんだけれども……」
「うん。知ってるよ」
「なら何故?」
「道を尋ねやすいから」


鍛冶屋のお兄さんは、こめかみに青筋を立てながら教えてくれた。


「魔道具屋なら、その細い路地を大通りに向かって歩くとキツイ臭いがするお店があるからすぐ分るよ」
「あぁ、あの硫黄の臭いのする店がそうだったんだ――ありがとうね」
「今度来るときは、せめて仕事を持ってきてもらいたいね」
「あ~それなら、銅をこんな風に筒状に出来る?それとここの炉の温度って何度まで上げられるの?」
「銅を熱して引き伸ばせば良いだけだから簡単だけど、それ細工師の仕事じゃ……。後、ここの炉の温度って何だい?炎の色なら青だけど……」
「銅の加工は細工師ね――温度は大体1600度って所か……有難う。所でこの前のギアはもう作ったの?」
「あぁ、でも壊れるかどうかは1ヶ月経たないと分らないからね」
「それもそうだね。それじゃ。仕事中にお邪魔したね」


「お兄ちゃん、今度は何をするのかな?」
「う~ん、ただの気まぐれだよ。気が向いたら作るし、向かなかったら何もしないから」
「何か、面白い事をしてくれそうだわ」
「この前のと大差ないけどね」


そんな話をしていると、キツイ硫黄の臭いがするお店に着いた。


「ここで、魔法のスクロールが売っている筈なんだけど――」


入り口の扉を開くと……。


「いらっしゃ~い。お客さん今日は何が欲しいんだい?」
「魔法のスクロールが欲しいんだけど――あるかな?」
「勿論、何でもとは言わないけどあるよ。それでどんな物が欲しいんだい?」
「火と水が出せる魔法と、他は話を聞かないと分らないんだけど……」
「火は攻撃用かい?それとも生活用かい?」
「金額次第だけど――両方でいくらですか?」
「そうだね~スクロールに使っている魔石の価格が高騰しているから生活用で銀貨5枚。攻撃用で金貨1枚だね」
「なら両方下さい。生活魔法は2枚ずつで――他には何がありますか?」
「そうさねぇ~他だと、水の生活魔法と攻撃魔法。土魔法に風魔法。攻撃用はどれも金貨1枚だよ。ちゃんと金は持っているんだろうね?」
「はい。その心配は無いです」
「へぇ~どっかのお貴族様なのかい?そうは見えないけど――」
「いえ、俺は冒険者です」
「そうかい。若いのにたいしたものだ」
「ほら、これがスクロールだ。火、水、風、土で金貨4枚。生活用の水と火で金貨2枚。他に何が欲しい?」
「ここには鉄にくっ付く石なんて無いですよね?」
「何だいそれは?そんなもの聞いた事が無いよ」
「そうですか……ならいいです」


俺は、4大属性の攻撃魔法のスクロールと生活用のスクロールを購入した。


「使い方は、そのスクロールを開けば勝手に使えるようになっているよ。ただし1度覚えるとスクロールは消えちまうけどね」
「分りました、色々有難う御座います」


魔道具屋というよりも、錬金術士って感じだったな。
さて、スクロールも買ったし――スライム討伐のついでに試してみるか。


「エルミューラの分も生活魔法は買ったから、後で使ってみて」
「うん、わかったのだわ」


いつもの様に門を出て、林に向かった。


林の手前で、さっき購入したスクロールを開いていく。


スクロールは別に開いても効果音がする訳でもなく――体が光ったりもしなかった。


4属性と生活魔法を覚えた俺とエルミューラのステータスはこれだ!




●鷺宮 煌


年齢 ――16
レベル―― 32(0)
生命力――1630/1630
魔力 ――2580/2580


力  ――200
敏捷 ――155


ユニーク――『神足通』『他心通』『観察眼』『虚空倉庫』『……』


取得魔法――『サラマンダー』『ウンディーネ』『ノーム』『シルフィード』
      『生活の炎』『生活の水』








●エルミューラ


年齢――120歳
レベル―― 21(110)
 生命 ――905/905
 魔力 ――1220/1220


 力  ――25
 敏捷 ――55


ユニーク――『魔物使役』『自然治癒』『……』


 取得魔法――『催眠』『飛行』『生活の炎』『生活の水』『なし』




この妖精名のオンパレードは……。
どんな魔法が使えるのか、わからねぇ~。


突っ込み所と言うか――いい加減過ぎて困るレベルだな。


ちなみにエルミューラの分も購入してあるんで、これがあれば何処で生活しても不自由はしないだろう。


「エルミューラ、自分のステータスとか見られるの?」
「はい。見られますよ」
「じゃ~ポイントが、110ポイント余っているから割り振ってみて」
「やってみるのだわ」


再度、エルミューラのステータスを見て――驚いた。


●エルミューラ


年齢――120歳
レベル―― 21(0)
 生命 ――905/905
 魔力 ――1220/1220


 力  ――135
 敏捷 ――55


ユニーク――『魔物使役』『自然治癒』『……』


 取得魔法――『催眠』『飛行』『生活の炎』『生活の水』『なし』








「ちょ、力全振りってどういう事だよ!」
「これからレベルが上がったら、敏捷にあげるのだわ」
「そう言う問題?」
「問題ないのだわ、それよりも力が漲ってくるのだわ」
「そりゃ~25から一気に135に成れば……もう別人だろうに」


あ……俺も人の事言えなかったわ。




さて早速、魔法を使ってみましょうかね。


「まずは生活魔法の炎から――」


目の前の草に『ボゥッ』火が点いた。


「生活の水魔法を――」


目の前の燃えていた草が『ジュッ』と言う音と共に出てきた水で消火された。


――――――――――。


すげー地味なんだね。


でもこれで、小屋での生活が楽になるな……。


俺の横では、エルミューラも練習を始めた。
どうやら、俺よりも扱いは上手いみたいだ。


「魔法の制御とかどうやっているんだ?」
「制御ですか?特には――これだけの水が欲しいとか、こんな火が欲しいと考えているだけですわ」
「へぇ~そんな事で制御出来ちゃうんだ……」


次は、サラマンダーの魔法だ。


「サラマンダー!」


――――――――。


何も起こらなかった。


どう見てもお約束だよね!


気を取り直して――。


「サラマンダー」


……………………。


すみません。魔法覚えたのに使い方わかりません。


「お兄ちゃん、何で妖精の名前を叫んでいるの?」
「えっ、だって取得魔法サラマンダーって書いてあるし――」
「それ、その精霊に魔力を捧げるって意味でしょ?名前呼んでも何も成らないよ」
「そうだったのか!じゃ~俺の魔力を食らえサラマンダー!炎よ出でよ!とか?」
『ボウッ』俺の目の前の草が一瞬で燃え上がった。


うわっち。あぶねぇ~から。
急に発動したら火事になるから止めてください。


「ウンディーネさん魔力を捧げますから火を消して!」


『ジョワァー』という音と共に、何も無い所から滝の様に水が出た。


面白いけど……こんな台詞を言うのって恥ずかしいね。


これ中二病って言うんでしょ?
昔の漫画に書いてあったよ。


「お兄ちゃんが魔法を使うと――みたいだわ」
「その――は何かな?凄く気になるんだけど」
「だから――なのだわ」


「――――――」


「さてそれじゃ、魔法も覚えたし……」
「スライムだわ」
「うん。そうだね――」


相変わらず綺麗な剣筋で、エルミューラはスライムを倒していく。
勿論、俺も負けては居ない。
ガルムが出るような特別なイベントも無く――。


今日も、一日が平和に終わった。






「またこんなにスライムを倒してきたんですか!本当に、他の冒険者さんに狙われますよ?」
「狙われるって大げさな――」
「じゃ、目立たない様にさっさと終わらせましょう」


此処から極端に小声になる――。


「魔石75個ですね、金貨と銀貨どちらが良いですか?」
「はい、全部金貨でお願いします」
「はい、わかりました。ではこの袋に入っていますので……」
「はい。確認しました」
「では、お疲れ様です」


元の大きさの声に戻った。


「じゃ。明日もその依頼を受けますんで宜しくです」
「はい。こちらで判を押しておきますね」




そんな茶番を終え、ギルドを後にする。


「今日は何が食いたい?」
「う~ん。お肉がいいですわ」
「ならあそこだな――」


俺達は大衆食堂でステーキ400gの定食をそれぞれ頼み食べた後で、帰りにも弁当を購入して小屋に戻った。


俺とエルミューラは、小屋の風呂場に来ていた。


「いよいよ、この小屋で風呂に入れる日がやってきた!」


1人で手を叩いて拍手する!
エルミューラは――呆気にとられている。


「まずは、ウンディーネさんこの風呂いっぱいに水を下さい!」


『ザァー』という音と共にあっという間に浴槽に水が溜まった。


「おぉぉーきたよ!きちゃったよ!」
「お兄ちゃん、感動している所悪いのだけれど――眠いから早くするのだわ」
「――――すまん。サラマンダーよ、この水が熱くなり過ぎないように火を出してくれ!」


俺の願いが通じたのか、浴槽の底から泡がいくつか立ち――。
湯気が出た所で、魔力の消費が止った。


今の過程で消費した魔力は10程度だった。


「うん。湯船の温度は適温だね。じゃ、エルミューラから先に入って、エルミューラがあがったら俺が入るから」
「うん、分ったのだわ」


エルミューラが風呂から上がるのは早かった。
もしかしたら、俺のカラスの行水よりも早いかも知れない。


その晩は、体も綺麗さっぱりして久しぶりに普通の生活が出来た。


あれ?


生活魔法いらなかったんじゃ?

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